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忘れられた竜歌  作者: 浅瀬
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2話 冬籠り


リアンとデュークが普段、狩りをする山は実りが多く、村の人からは『恵の山』と呼ばれていた。


しかし、『恵の山』は常に恵をもたらすわけではない、更に北の山脈から冷たい風が吹き始める季節になると、一面白く染まり、眠りにつくのである。


眠りの時期は、実りもなく、山で生きる動物も多くが眠りにつく。当然、普段『恵の山』の中腹の家で狩りをしながら、生活するリアンとデュークの親子は、その時期は生活が困難になる。そのため、片道1時間もかかるが、わざわざ、村の別家に移り住むことになるのである。


今年は、冬籠のための肉も取り終え、後は内職でもしながら、冬を越す予定であった。


しかし、先日のデュークの不用意な言葉で、リアンとデュークは眠りの時期間近である『恵の山』に鹿狩りに赴くことになったのである。


結果は、デュークの予想を外れ、見事にリアンは雌鹿を狩ってみせ、デュークはリアンに鷹匠を教えることになってしまった。


デュークは、にまにまと笑みを浮かべながら、後ろを歩く娘を見る。


「…雌鹿の血抜きしている間に、運動するぞ。」


デュークの言葉の意味がわかったのか、途端にリアンはげんなりした顔をする。娘のわかりやすすぎる表情に父親は笑いを堪えきれなかった。



山の中腹にある家は村の別家よりも一回り、大きく、隣に物置小屋があるのが特徴である。血抜きをするために雌鹿を木にぶら下げる父を見ながら、「運動」のためにリアンは物置から2つの木造の剣を出した。


父は時々、「運動」と称して、リアンに剣を教える。教える理由も話してくれないし、「運動」のことは誰にも話してはいけないらしい。

正直な所、リアンは最近、剣術への興味が薄れつつあった。

昔は、子供の憧れである童話の騎士のようで、剣を教える父も教わる自身も素晴らしいと感じていた。


しかし、最近、村で同世代の友達は、かわいい髪留め、町で流行りの洋服などが話題の中心であり、リアンは友達の会話に乗ることができなくなっていた。


(…剣なんか、習っている女の子、1人もいないよ。)


そう思いつつも習慣である、剣の練習を今更、辞めたいなんて言い出すことが出来ずにいた。


雌鹿を吊し終えた父に、リアンは1本の木剣を投げ渡す。リアンと父は一定の距離を取り、相対するように立つ。父はいつものように片手で木剣を持ち、リアンは両手でしっかりと握り、姿勢を整える。


リアンは駆け出し、父に向かって思いっきり、木剣を振るう。

父の木剣とリアンの木剣がぶつかる音がしばらく、森に響き渡っていた。


1時間ほどだろうか、「運動」に満足した父が息も切れ切れなリアンに声をかける。


「…もう、いいだろう。前と比べて、上達はしてるんじゃないか?」


「運動」を終えた後の父は、必ずリアンのことを褒めてくれるが、煩いのはこの後である。


「…だが、スタミナも足らんし、力もない。俺に勝つには、もっと技術を高める必要があるなぁ。そのためには…」


その後は、足を踏み出すのが遅い、よく相手を見ろなど、小言が続く。リアンは地面に尻餅をついて、父の小言を風のように聞き流しながら、乱れた息を整えていた。


雌鹿の処理を終えて、リアンと父が村に帰って来たのは、日が沈みはじめた頃だった。

村のみんなは、リアンが一人前になったのを喜び、冬籠前の忙しい時期にも関わらず、ご馳走を用意してくれた。


リアンは酒を飲んで気分が良いまま、就寝についた父の隣で、その日の夜を過ごした。

目を閉じると、自分とその腕にイヌワシがいる憧れの姿が目蓋の奥から離れなかった。


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