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忘れられた竜歌  作者: 浅瀬
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1話 リアンと狩り

自己満足作品になります。

至らない点は多々、あると思いますが、ご了承ください。


風が吹くたびに、耳元でカサカサと葉が擦れる音がする。朝の冷たい風が頬を撫でる度に、私は弓を持つ手が震えそうになるのをぎゅっと抑える。


冷たい風を我慢しながら、私は習った通り、瞬きもせずに、獲物を見つめ続ける。

冬が近い森は、地面に枯葉が敷き詰められているため、小さな動きでも音が出るため、細心の注意が必要だ。


私は朝の冷たい風をゆっくりと肺に流し込み、全身を自然と一体化させる。

弓を構え、矢を引く。


カサカサと葉が擦れる音が私の耳を刺激する。音は、次第に遠くなって行き、止まる瞬間、私は矢を持つ手を離した。


獲物である雌鹿が、枯葉の上に倒れる音が聞こえた。


倒れた雌鹿に、ゆっくりと枯葉を踏み倒して、近づく者がいた。日が次第に上り、近づく者の顔を照らしだす。照らし出されたのは、先程倒れた雌鹿とさほど、大きさが変わらない、10歳程の少女だった。


少女は弓を持った左手とは逆の右手で、首まで切り揃えられた真っ赤な髪を耳にかけながら、倒れた雌鹿に近づく。


少女の緑眼が、雌鹿の頭部に向けられる。

頭部には、少女が放った矢がしっかりと刺さっていた。


「まさか、本当に狩ってしまうとはなぁ。」


少女の背後から、枯葉を踏む音と共に、野太い男の声が響く。木々を掻き分けて、少女と同じ赤い髪をした中年の男が現れた。


「…父さん!これで、私も鷹匠になっていいんでしょ?」


少女の嬉しそうな声に、父親と呼ばれた男は苦笑する。

父親としては、鷹匠になりたがるまだ幼い娘に、『一人での鹿狩り』という無理難題を押し付けることで、黙らせたつもりであったため、まさか成功するとは思っていなかった。


しかし、約束は約束である。


「…そうだなぁ、春にリアンに合いそうな、イヌワシの子を探してみようか。」


父の言葉にリアンと呼ばれた少女は目を輝かす。


「約束だからね‼︎」


まだ幼いリアンに狩りのパートナーとしてのイヌワシを預けることに父親は不安があったが、リアンの幸せそうな笑顔が父親の不安を吹き飛ばした。


「…まずはこの雌鹿をなんとかしないとな!」


父親は自分の弓と矢筒をリアンに持たせ、雌鹿を担ぎ、帰路へと歩き出す。

リアンも父親の背を追いながら、歩き出した。




父の背を追いながら、下山しているリアンは生まれて1番の幸せを感じていた。


元々、リアンが鷹匠に憧れたのは父であるデュークが最初である。

デュークも鷹匠であり、鷹狩の際にはダトラと名付けた雌のイヌワシを共にする。

父親が放ったダトラは真っ直ぐに飛んでいき、帰ってきた時には必ず獲物を鋭い爪に挟み、持ち帰る。

そんなダトラを当然の如く、迎える父親。

リアンは種を超えた絆を持つ、ダトラと父に憧れていた。

リアンは何度も気持ちを父に伝えていたが、事あるごとに理由をつけられて、鷹匠の技術を教えてはもらえなかった。


そんな日々が続き、冬籠のためにいつもの家から下山し、村での別家で、村の男数人と父とで、小さな宴会をしている時だった。


酒の飲み過ぎで、ふらふらになった、村の男の1人が大きな声を上げた。


「…デュークはあ!…いつ、リアンちゃんに…鷹狩をさせぇるんだぁい?リアンちゃんも、もう10歳だろう?」


同じく、顔を真っ赤に染めた父は、虚な目をして、男を見る。


「…ああ?…うぅ…まぁ、1人で鹿でも狩れたらじゃねぇの?」


冬籠のために、部屋の隅で食料を下処理していたリアンの手が止まり、父親であるデュークの顔を見上げた。


デュークはリアンと目が合い、一瞬で酔いが覚めた。


「本当に⁈鹿狩りできたら、私も鷹持ってもいい?」


「え?あ、いやぁ…」


デュークは自分の不用意な発言であった事を反省した。だが、言ってしまった言葉は取り消すことはできない。


「…ただの鹿狩りじゃあ、だめだ。1人で狩ること、1本の矢で仕留めなきゃぁ、一人前とは認められねぇなぁ。」


言葉を取り消すことはできないが、付け足すことならできる。

デュークの言葉を聞いた村の男が一斉に笑い出す。


「おいおい!デューク?それは無理難題ってやつだろ?」

「嬢ちゃんに鷹狩させる気ねぇじゃねぇか!」

「そんなに、娘が大事かぁ?おい!」


デュークはちらりと、娘であるリアンを見る。予想した通り、リアンは村の男たちに笑われて、ご立腹の様子であった。

これで、鷹匠にする気はないとリアンに伝わっただろうとデュークは手にした酒を口に含む。


ご立腹のリアンは部屋の隅から立ち上がり、デュークの元へと近づく。

デュークは鷹匠になれない腹いせに拳でも奮いに来たのだと思い、身構えるもいつになっても痛みはこない。身構えを解き、顔を上げると、泣きそうな顔をした娘がいた。


「…じゃあ!明日、鹿狩りに行く‼︎」


涙を流しながらの娘パンチを受けたデュークは左頬を押さえながら、悶絶していた。



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