市民の心得
俺は早く帝国を出たい気持ちを抑えながら筋肉の塊のような男のところに挨拶に行く、
もう数年も共に働いて何も言わずに出て行くのは不義理だと思ったからだ。
俺が男の製鉄所の扉を開けると男がこっちを見て声をかけてきた
「四百六十二番!…いやシロツっつうんだったな。何の様だ?」
男は少し身構えながら俺を見つめる
「礼を言いにきた、俺はこれから帝国を出る、約3年間、世話になった」
俺はそういうとつい頭を45°下げた。
男は目を丸くしながら言葉を出す
「そうか…寂しくなるな、まっ食うのに困ったら帝国に来い、オメェなら仕事は山ほどあるぜ?」
そういうと「ちょっと待ってろ」と言うと仕事道具の予備などを入れている物置の扉を開いて中に入ると何かを引きずる音が聞こえる。
「オメェ、これ待てるか?」
男が引きずってきたのは全体が金属で出来た俺の胸の辺りまで持ち手の伸びた巨大なハンマーだった。
俺はそれを持つと体に力を入れて持ち上げる、
体の重心がハンマーに持っていかれるが下半身を意識して力を入れれば普通に持ち上げることが出来た。
「おいおい…前から思ってたがオメェ…どんな体してんだよ…」
男が呟くがこの行動の意味を聞く
「持ったが…どうすれば良い?」
俺がそう言うと顔面まで筋肉が浮き出ている顔で獰猛に笑みを浮かべて俺に言う。
「持ってけ、元々は俺がまだ若い頃に強く叩けば早く仕事が終わるかと思って作って貰ったアダマンタイト製のハンマーなんだが、魔力が少なすぎる俺には持ち上げて叩くことが出来なかったんだ、俺が持ってても仕方ないからオメェが使え」
俺はハンマーを両手で持ち何度か素振りをする。
「助かる、旅路の魔物やアンデットを纏めて潰せそうだ」
そう言うと男は
「オメェ…ハンターだったのか!?」
と言ってくる俺が「ハンター?」と聞き返すと
「元々帝国は王国のだったんだが王国の奴隷が反乱を起こして出来た国が帝国だ、奴隷の中には凶悪な犯罪者も居たからなぁ…そう言ったのを依頼を受けて殺しに来るから狩人、ハンターって訳だ」
男は大抵に俺に教えてくれる、
仕事の時もそうだったが、
この男は奴隷相手でも安全管理や物の使い方、
細かいコツなどを大抵に教えてくれた。
「ギルドで依頼を受ける人を意味するなら俺はハンターだな、そう言えばドッグタグは返してもらえてないな…」
そういうと男は頭を掻きながら言ってくる
「あー多分管理の人間が気を回したんだろう、
帝国市民はハンターが嫌いだからな、
仕事仲間を殺されるんだ、
確かに奴隷だから道具扱いしてる奴もいるが勝手に壊されたら困るからな、
それにオメェはミスリルの採取から精製まで出来る貴重な奴隷で今じゃ、
帝国市民だ、俺たちは出来る奴には敬意を払う、
他の国では魔力が多い奴が評価される様だが帝国は違う、
勿論魔力が多い奴はアダマンタイトの採取が出来るから貴重なんだがな?
ミスリルは魔力無しで己の身体能力のみでやる必要がある。
要するに他と比べてキツイわ痛いわ、でやる奴がほぼいねぇ。
オメェが他の国に行こうと戻ってくる可能性を考えると少し気を回すくらい安い物だからな、
帝国市民に殴られねぇ様にドッグタグを処分したんだろうよ」
男の話を聞いて俺は納得すると帝国市民は確かに厳しいが全体的に己にも苛烈だ、
そして出来る奴には立場などは気にせず評価するらしい、
俺は知らない間に帝国市民に認められていた様だ。
「本当に世話になった、ありがとう、俺はもう行く」頬が濡れるのを感じながら俺はハンマーの頭を肩に乗せる様にして立ち去る。
「オメェはもう誇り高き帝国市民だ!いつでも帰って来い!」
後ろから男の声が聞こえる、俺は左手を軽く上げて歩き続ける。
『よかったね♪シロツ』
アカツはとても嬉しそうに笑っていた。
俺は寝ずに遠くに見える城壁に向かって5日は歩いただろうか、
やっと城壁についたので門番に言う
「帝国と帝国市民には世話になった、俺はこれから旅に出るが構わないか?」
そう言うと武装した男は目を見開いて俺に敬礼をしてくる。
「はっ!良い旅を!」
俺はそうしてアカツと安心して暮らせる場所を探す旅を再開した、
見つからなかったら帝国で過ごすのも良いかもしれない、
だがここは人が多すぎる、だから2人きりでいられる場所に。
人が多いと誰がアカツを奪おうとするか気が知らないからだ。




