王子様と婚約させられたので婚約破棄するために魔王様を倒しに行きます。なお、聖女は不要です。
ほぼタイトルそのままです。気楽に読んでください。
私が王子様と婚約させられたのは、六歳の誕生日でした。
一年で一番楽しい、とても楽しみにしていた日に、私は地獄に落とされたのです。
だってそうでしょう? 六歳ともなればいろいろなことがわかってきます。自分の家が侯爵家であることも、だからこそ厳しい家庭教師に縛られていることも、王家が私ではなく、お母様の血が欲しくて娘の私と王子様を婚約させたことも。
私のお母様は遠い国のお姫様でした。
この大陸に連立する国家の宗主国というらしいです。お母様の国の王様だけは『王』ではなく『帝』と呼ばれています。お母様も皇女様でした。
そんなお母様がなぜ我が国の、宰相とはいえ貴族の一人にすぎないお父様と結婚したのか。それはひとえにお父様が大陸にその名を知られる名君だったからにほかなりません。なんと先帝であられたお爺様が自ら娘を貰ってくれと頭を下げたのだそうです。王様にではなかった時点で私の運命も決まっていたようなものです。
そういった両親から生まれた私ですから、当然王様は自分の息子との婚姻を望みました。宗主国の血を引く娘が王室に入れば箔がつきますからね。お父様はだいぶ渋りましたが、残念ながら娘というものは政略の駒の一つにすぎないのです。結局はうなずいてしまいました。
どうもお父様は王様の息子である王子様があんまりな性格であることから国の将来を危惧し、なんとか私で歯止めをかけようと思ったようです。そこに、私の意志はありませんでした。
王子様は横暴な人でした。まだたったの六歳というのに人が大切にしているものを強引に奪い取り、泣く泣く諦めさせてから壊す。くれたのだから良いだろうと言いますが、そういう問題ではありません。人から奪っておいて大切にしない、むしろ目の前で壊す、そしてこちらが悲しんでいるのを笑って見ている。その根性が問題なのです。
王子様は、王子という身分をこれでもかと笠に着てやりたい放題でした。
とうとう耐えられなくなった私はお父様に言っても無駄だと諦め、王子様に直接聞きました。どうすれば婚約を破棄してくれるかと。
王子様はどうせ婚約破棄などできないと、高を括っていたのでしょう、笑いながら言いました。
『魔王を倒してくれば婚約をなかったことにしてやる』
王子様は日常過ぎて気づかなかったのかもしれませんが、王族の周囲には侍従がいます。侍従は王族の言葉を広め、実行できるように動きます。たとえば王子様が「喉が渇いた」と言えば水係の者が飲み物を用意して持ってきます。そういうものなのです。
かくして王子様がおっしゃった「魔王を倒せば婚約破棄」は公的なものになりました。王様や王子様がやっぱなしでと言っても無駄です。王族の言葉とは絶対であり、一度決めたことを覆すことはできないのです。
「その時私は十歳でした。いっそのこと旅の途中で死ぬかもしれないという悲壮な決意の元、私は家を出ました。好きでもない男に嫁ぐことに比べたら、遥かにましです」
しかし神が私を憐れんでくれたのか、こうして魔王様の御前まで来ることができました。
目の前には私の思い出話に同情したのか呆れているのか、苦虫を噛み潰したようなお顔をした魔王様がいらっしゃいます。
「ですから魔王様、どうぞ私に倒されてください」
「いや待て待て。なぜそれで私が素直に倒れると思うのだ」
額を押さえて待ったをかける魔王様は、婚約破棄とご自分の命が天秤にかけられたことに悩んでおいでのようです。無理もありません。とんだとばっちりですからね。ですが、すぐに私を殺そうとしないところに一縷の望みがあります。
「あー、その、娘」
「レティシア・コルベットと申します」
「そうか、ではレティシアよ。十歳の時に旅に出たと言ったが今は何歳だ?」
「十七になりました」
「では七年も経っているのか。いかな横暴な王子であろうと自分の言葉が原因で宰相の愛娘が魔王退治の旅にたった一人で出たとなれば、周囲にも諭され改心しているのではないか?」
なんと、魔王様ってば命乞いですか? 魔王様ですのに。
「いいえ。私の旅が七年もかかったのは、王子様の横暴がますます酷く、なんとかしてくれと他家の令嬢に泣きつかれたからです。私がいないのをいいことに、あの王子様ときたらご自分の側近たちの婚約者に言い寄って、悦に入っているのですわ」
「うわ」
魔王様がひと言漏らして絶望したように片手で目を覆いました。
そうなのです。あの王子様ときたら他人が大切にしているものを奪うという悪趣味をさらに拡大させ、側近の婚約者にまで手を出しているのです。貴族令嬢は結婚するまで純潔を守るのがしきたり。王子様に言い寄られた婚約者の皆様はその度に私に救援要請の手紙を出し、私が国に戻ってなんとかするということを繰り返していました。
側室をお持ちになるのはかまわないのです。王族ですから、子を儲けることも義務。私がお相手しなくてすむのなら万々歳ですわ。
ですがそうではないのです。婚約者の令嬢たちはあくまでも王子様がきまぐれに手を出した玩具。側近たちが彼女たちを大切にすればするほど、彼らと結婚する前に純潔を奪ってやったのだと内心で莫迦にし、優越感に浸るのです。
「しかし、どうやって娘らを王子の魔の手から助けたのだ?」
「私の魔法を使いました。この魔王城に来ることができたのも、この魔法あってのことです」
「……それで私の側近たちが、そなたの味方になっているのか」
「その通りでございます」
私の後ろで主である魔王様に申し訳なさそうな顔をしている方々こそ、魔王様の側近です。旅の道中で私を殺そうと襲って来たので、返り討ちにしてあげました。
そのうちの一人、魔王様の最側近にして宰相ゾイサイトが私の隣に立ちました。
「我が主、偉大なる魔王ジェット様。ここまで聞いたからには、どうかレティシアのために倒されてください」
悲壮感たっぷりの懇願に、魔王様は苦虫をおかわりです。不愉快というより困惑しておられます。
「……レティシア、そなたの魔法とはなんだ?」
「エンチャント。すなわち付与魔法ですわ」
宰相ゾイサイトをはじめとする魔族の方々に片っ端からかけましたとも。
同情、憐憫、共感。私の味方になるように、その手の感情を植え付けました。
魔族とまともに戦っても勝てるはずがありませんからね。だったら味方にしてしまおうと思ったのです。おかげでなんら障害なく魔王城まで来ることができました。
「あの王子様対策もこれです。『淫夢』を付与したお酒を飲ませれば、なんということでしょう。あれほど恐ろしかった王子様がぐっすり! 誰もいないベッドで腰振って夢精するまぬけな猿にしか見えません!」
とはいえ毎回上手いことお酒を飲ませるのに成功するとは限りません。そういった場合に備えて帰らざるを得なかったわけです。なんせ相手は貞淑な少女に襲いかかり純潔を奪おうとする盛りのついた猿、暴力で黙らせてから事に及ばれてしまっては手遅れです。
ですのであたかも令嬢が王子様に本気になったと見せかけるのが重要です。だからといって側室にと望むのもいけません。王子様が欲しいのはいつでも壊せる玩具であり、側近が疑心暗鬼に悩むその姿なのです。
「話を聞くにつけその王子とやらはクズなのだが、王は何もしておらぬのか。まさかそやつが王太子などではあるまいな?」
「そのまさかですわ。王様は王子様の横暴を覇者の証だと喜んでおります。王子様が王になり、やがて宗主国を差し置いて大陸に覇を唱えると夢を見ているのです」
荒唐無稽な夢に魔王様も開いた口が塞がらないようです。
魔力持ちが異端とされ、群雄割拠していた時代とは違うことをなぜ理解しないのでしょうか。不思議でなりません。宗主国の帝が魔力持ちを貴族として保護し、魔法を臣民にわけ隔てなく使うことで大陸を支配されました。高祖である帝の最も信じる側近であったお方が我が国の王の始祖だというのに、嘆かわしい限りです。今さら乱世になったら魔法による戦争です。いったい何千何万の命が失われることか、想像力のない方が王であるなどまったく情けないことです。
「王子様が王太子になり王になることは、我が国のみならず大陸のためにもあってはならないことです。そのためにも魔王様、なにとぞ私に倒されてくださいませ」
魔王様の御前でひざまずき、懇願します。
「いやだから待てと言うに。それで私が殺されるのは筋がちがうであろう!?」
焦ったように魔王様が手を振ります。ごもっともですが、私としても引くに引けません。これは未来をかけた、絶対に負けられない戦いなのです!
「まあ、魔王様。私、死んでくれなどと申しておりませんわ」
私は一貫して倒れてくれと言っています。誤解を解くべく口を開きました。
「……倒れろとはそういうことであろう」
「まったく違います。そうですわね、私が肩を押しますから、魔王様は尻餅でもついてくだされば良いのです」
倒れたことに間違いはありません。私が魔王様を『倒した』という、その事実のみが必要なのです。
「それは王子や王家を騙すということか?」
「いやですわ、魔王様」
ころころと笑うと、ゾイサイトもほっとしたようにうなずきました。彼は魔王ジェットの宰相、いくら『同情』したとはいえ、主殺しはとうてい納得しないでしょう。
「できもしないと侮って約束したのは王子様ですわよ」
騙したというのならあちらのほうだ。
魔王様は唖然とした目で私を凝視し、次に大きなため息を吐き、それから側近たちが私の味方であることを悟り、ようやくうなずいてくれたのでした。
***
魔王様を倒して国に戻った私を待っていたのは、謂れなき断罪でした。
「レティシア・コルベット侯爵令嬢! 王太子の婚約者である身分を盾に取り『聖女』たるメイシア・ダンガールを迫害したこと、すでに調べはついている。よって、只今より婚約を破棄し、迷宮牢獄への幽閉を申し付ける!!」
私たち貴族、魔法の使える者たちは六歳になると魔法幼年学校へと入学します。そこで魔法とはなんなのか、貴族とはどうあるべきか学ぶわけです。
幼年学校の高学年になるとそれぞれ得意分野へと進学し、自分の魔法を特化させていきます。満遍なく平均に魔法が使えるよりも、一つの魔法を特化させたほうが結局は強力な魔法になるからです。
ただし、『聖女』は別です。聖女といわれるように女にのみ現れるこの属性は、神の領域とされる聖魔法が使え、それはありとあらゆる魔を払いのける力を持つ者とされています。――ただし、聖女は聖女であるからこそ力が使えるのであって、純潔を失うとたちまち魔法が消えることでも有名でした。
本来ならお父様から王様へ、そして王子様に伝えられるはずだった婚約破棄は、私、レティシア・コルベットが帰還した祝いの夜会で突如として叫ばれることになりました。
「…………」
ちらっとお父様を見ます。お父様はまさか王子様がここまでとは思わなかったのか、蒼白になって首を振っていました。王様は聖女が息子の嫁になることがよほど嬉しいのか、口を挟む様子はありません。
「――レティシア」
「はい」
絞り出すような声でお父様に呼ばれ、前に出ました。
王子様の隣で華奢な体を震わせているのが『聖女』なのでしょう。いかにも庇護欲をくすぐる、か弱い美少女といった印象です。すでに聖女としての力を失っているようですが、どうごまかすつもりなのでしょう。
「婚約破棄、ありがたく受理いたします。ですが我が娘レティシア・コルベットは先に約束した通り、魔王を倒すことに成功しました。王子との婚約破棄は我がコルベット家からということになります」
ざわ、と貴族たちがざわめきました。
落ち着いているのは王子様の側近の婚約者たちです。彼女たちは私に恩義を感じてくれているのか、王子様と聖女を憎々しげに睨んでいます。王子様が王子でなかったら、とっくに罵倒していたでしょう。
「はっ! 魔王を倒しただと? ろくな魔法も使えぬレティシアがどうやって倒したというのだ、嘘を吐くならもっと上手い言い訳を考えるのだな」
「嘘ではありませんわ」
そう言って私はネックレスを外しました。
今夜、身に着けていたのは漆黒をそのまま固めたような黒い宝石です。これこそ、魔王ジェット様の仮の姿。そして、私の背後にずっと付き従っていたゾイサイトが現れます。
「――お初にお目にかかる。我こそは偉大なる魔族の王にして全能なる漆黒の魔王ジェットの宰相、ゾイサイト」
魔族である証明のようにゾイサイトの周囲に黒い炎が円を描いて踊りました。ヤギのようなくるんとした角も人間ではないと物語っています。
「コルベット家令嬢レティシア・コルベットは過日我が主たる魔王ジェットと対峙し、見事に倒されました。私は魔王様の宰相として、それを見届けたものなり」
いきなり現れた魔王の宰相に恐慌状態に陥らなかったのは、ひとえにゾイサイトの落ち着いた声と人を遥かに超越した美貌にあるでしょう。王様も王子様も、ぽかんと口を開けて、何を言ったらいいのかわからないようです。
「……ゾイ? ゾイなの!?」
痛いほどの静寂を破ったのは聖女でした。メイシアという少女は頬を染めて涙ぐみ、ゾイサイトに一歩近づきました。
「メイシア、危ない」
「王子様、彼はゾイですわ、私の幼馴染……。ああ、あなたが魔王の宰相だなんて! ゾイ、あなたは魔王とレティシア・コルベットに操られているのよ!」
いきなり何を言い出すかと思えば、幼馴染とは。ゾイサイトを見ればメイシアが誰だかわからなかったようで、首をかしげています。
悲痛に泣き叫び私の罪状を言い募る聖女と、彼女を庇う王子様。というか、王子様が誰かを庇って前に出るなんて、少しは成長したのでしょうか。それなら聖女に少しは感謝してもいい……と思いましたが、私がいない間にずいぶん好き勝手していたようですね。
成績が悪いのをごまかすためお父様の権力を使ったとか、魔法の力で周囲を洗脳などは、こういってはなんですが、権力者の子供にはよくあることです。ですがメイシアが友人を作れないように根回しし、王子様の側近に圧力をかけるために婚約者に手を回し、メイシアから聖女の力を奪い取るべく呪いをかけたとは。とんだ言いがかりです。今世紀最大のおまいうを込めて二人を見ました。
案の定、ゾイサイトが激怒しました。
「そのような卑怯な者に、我が魔王様が倒されたと……? 侮辱するつもりか! 痴れ者がっ!!」
「ひっ!?」
メイシアは同情を引くためにそんなことを言ったのでしょうが、逆効果です。それでは魔王様が悪女を見抜けなかったお馬鹿にしかなりません。
そもそも私はこの七年間、ほとんど国にはいませんでしたし、幼年学校はとうに卒業していますから、そんなことができるはずないのです。
(そなたも大変だな、レティシア)
宝石になった魔王様が語りかけてきます。おわかりいただけますか? 酷いでしょう、これが国を預かる国王と王太子、聖女なのですから。我が国の程度が知れるというものです。
「さて、なんのことだかわかりかねますわ。私とそこの聖女という娘はこれが初対面。そもそも私は七年前に学校を飛び級で卒業しております。今さら幼年学校で嫌がらせをする理由がございません」
「なっ!?」
「嘘よ!?」
ようやくゾイサイトをはじめとする周囲の目が白いことに気づいたのか、王子様と聖女が狼狽えています。ですが反論は認めませんよ。一気に畳みかけさせていただきます。
「魔王を倒した証はこの首飾りですわ。これは魔王を石化したもの。私の付与魔法にて魔王を倒し、その後に石化を付与したのです」
私が魔王様にかけた付与魔法は『理解』だった。
魔王様の歴史は人間よりずっと古い。
人間は、混沌から男神と女神が生まれ、二人の交わりによって生まれたとされている。
しかしその混沌を生み出したのが魔王だというのだ。
私はそこに勝機を見出した。
混沌を生み出した魔王様。で、あるならば私は魔王様の子の一人でもある。魔王様は人間が生まれて数を増やしていくのを見て羨ましくなり、似姿の魔族を作ったというが、大元は同じなのである。
『理解』さえしてくれれば味方になってくれる――そしてそれは、成功した。
(レティシアよ。そなたの戦術は見事であるな)
ありがとうございます、魔王様。
「レティシア・コルベットこそは魔王様を倒した御方であり、我が主ジェット様をお持ちになるにふさわしい方である。これは私のみならず全魔族の総意である!!」
ゾイサイトが宣言した。
「七年前、王子様がおっしゃった魔王を倒したら婚約をなかったことにするという約束。今こそ果たしていただきます。私はそのために行動し、結果を出しました」
王子の言葉は公的文書に残されている。知らなかったとは言わせない。顔色を変えた王様がそれなら魔王様の宝石を寄こせと言うが、魔王様は私が身に着けているから宝石でいてくれるのだ。何を言われても拒否します。
そこに、とどめとばかりに側近に支えられた、王子様の玩具だった令嬢たちが飛び出してきた。口々に王子様に言い寄られたことを告発し、それを私の力で防いだことを暴露していく。魔王様を倒した私を敵に回す愚と、国への忠誠心を天秤にかけたのだろう。そして彼らは私をとった。
なにより、側近たちとその婚約者は相思相愛なのだ。ここで言っておかないと、後でどんな難癖をつけて王子様の味方をせよと脅されるかわからないのだろう。驚愕から怒りに変貌していく王子様の顔がそれを物語っていた。
「王よ。我がコルベット家は王家に忠誠を誓って仕えてまいりました。しかしそれを裏切ったのは王家であります。……我がコルベット家は今夜をもちまして宗主国へ亡命いたします。長い間、お世話になりました」
お父様が悲しそうに別れを告げました。
お父様は、おそらく王子様が正しい方法で覇を唱えるのであれば認めていたでしょう。横暴と暴力による支配ではなく、徳によって周辺諸国を統率する。それならば宗主国も覇の国としてこの国を第一の臣下よと褒め称えてくれたはずです。君を敬い民を安んじる。そういう君主であれば。
だが、王と王子は宗主国を倒そうとした、それが見限るきっかけになったのです。
「レティシア、ゾイサイト殿も。宗主国が我らを受け入れてくださる。母様は今頃あちらの王宮に行って兄君である帝に直訴していよう。……国境に兵を展開させてある。さあ、行こう」
「お父様……」
「済まなかった、レティシア」
「お父様!!」
堪らなくなってお父様に抱き付いた。おそらくお父様は、私が魔王様を倒す旅に出た時から亡命を考えていたのです。亡命となれば一族郎党を引き連れての大規模なもので、とても一朝一夕で決行できるものではありません。……お父様にとって、私は政略の駒だと思っていました。
けれど、魔王様と同じように、私を愛してくれているのです。
大いなる愛情を確信し、私は生まれて初めてお父様の胸で泣きました。
――その後、先行していたお母様の注進によって帝である伯父様は激怒し、諸国を集めてかの国を討伐しました。王子様が調子に乗ってあちこちに吹聴していた打倒宗主国が、聖女の登場で洒落にならなくなったのです。
戦のきっかけになったメイシア・ダンガールは聖女でありながら王子様と通じ、純潔を喪失しており、神の力を使うことはできなかったそうです。どさくさに紛れていずこかへ逃亡したと聞きます。
王様と王子様は宗主国との戦の末に惨敗し、王族は全員が首を斬られました。国には宗主国から公子が王として送り込まれ、国を立て直すことなりました。
私が魔王様とゾイサイトたちの付与魔法を解いたのは、王と王子様が斬首された後になります。これでもう、後顧の憂いがなくなったと確信できてからのことでした。
宝石になっていた魔王様ですが、私の『理解』を通して人間の世界を見聞きし、大変に興味を持たれたようです。なんと、ゾイサイトと私の結婚を認めてくれました。
魔族にとって、人間の命など瞬きのようなものです。私はゾイサイトの妻になり、ゾイサイトは人間の世界で暮らしてくれました。
きっとこれが、めでたしめでたし、というものなのでしょう。――そういえばゾイサイトに言い寄ってくる女が聖女だと言い張っているようですが、聖女はもはや不要です。
以前こちらに書いたことでご不快になられた方、申し訳ありません。
運営様にも注意され、削除しました。気づかずにご迷惑おかけしました。