09.立ち往生の馬車。
***前回のあらすじ***
フェリと引き離されたリクは、花畑で号泣する。やがて涙も枯れ果てた頃、フェリと交わした会話を思い出した。リクは急いで小屋へと戻り、旅支度を始める。リクはフェリを追って王都に向かう決心をした。
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※文字数2280字です(空白・改行含みません)
「ま……真っ暗になっちゃった……」
歩けど歩けど、街はおろか民家さえ見えなくなって、ひたすら伸びる街道の真ん中で、リクはオロリと途方に暮れていた。慣れた森なら、僅かな月明かりだけでも歩けたけれど、見知らぬ土地でどっちを見渡してもがらんと広い草原と道しか見えなかったりすると、まるで世界中に自分しかいない様な気分になって、物凄く心細くなってしまう。
「しまった……。カンテラ持って来れば良かった……」
後悔したところで今更どうしようもない。リクは腰を屈め、地面に顔を寄せて、のろのろと歩き出した。時折見つける木の枝を、手探りの様に探して拾い集める。つい、真っ暗になる前に少しでも進もうと、後先を考えなさすぎた。何とか数本の枝を集めると、リクは街道の隅っこに枝を置いて、手探りで鞄を漁って火口箱を取り出す。幸い、枯れ草は周囲の草原の地面に近いところに幾らでもある。
箱の中から麻の繊維を解いた火口を少し裂いて取り出す。僕は火打石を火打金に数回擦る様に打ち合わせて、ぱちんと散った火花を急いで火口に落っことし、そっと息を吹きかけた。ぽぅっとオレンジ色の光が息に合わせて光る。よし。上手く火種が付いた。
僕は火種を枯れ草に落として、ふぅっとまた息を吹きかける。ちりちりと、枯れ草が燃え始めて、やがて集めた木の枝に炎が移った。僕はほっと息を付いた。
***
星が、振って来そうだった。僕は草むらに寝転んで、空を眺めた。まるで宙に浮いているみたいだ。
──フェリ。ねぇ、フェリ。今、何をしてる? 何を、考えてる? 泣いていない? 酷い事は、されていない? 待っていてね。必ず行くから。君の居る王都へ。迎えに行くよ。一緒に帰ろう? また、あの森で、一緒に花を摘んだり、木の実を摘んだりしよう?
手を、空に伸ばす。掴めそうな程に近い気がするのに、星に手は届かない。……手を、伸ばしても、届かない。見えているのに、届かない。
何だか、手を伸ばしても届かない星が、フェリの様に思えた。僕はぶるっと身震いした。
──違う。フェリは星とは違う。王都に行けば、きっと会える。この道は、ちゃんとフェリの居る王都に続いている。大丈夫。きっと王都まで行けば何とかなる。必ずフェリを見つけ出して、そうして一緒に帰るんだ。
僕は頭に浮かんだ嫌な考えを振り払う様に、マントに包まって目を閉じた。
翌日、やっとお昼前に次の村に到着した。村には1軒だけ宿屋があって、食事も出してくれるらしい。宿屋でお水を分けて貰い、パンとチーズを買って、早めの食事を宿屋で食べてから、直ぐに出発をした。急がないと。
今から出れば、夕方には街に着くだろうって教えて貰えたから。宿屋のおばさんの話だと、王都まで歩こうと思ったら、1週間は掛かるらしい。僕は時間が惜しかった。フェリがどんどん遠くに行く気がして、怖くて堪らなかった。
***
それは、小屋を出て5日目の事だった。道の端に、何かがぽつんと見えて来た。何だろうと思いながら、僕がどんどん道を進んでいくと、それは道の端に止まった馬車。男の人が2人、馬車の横でしゃがみ込んで車輪を覗いている。馬車は少し傾いていた。少し離れた所に、女の人が1人日傘を差して、ふくれっ面で草の上に座り込んでいる。
なんとなくそのまま通り過ぎるのも憚られた。
「──あの。どうかしたんですか?」
男の人が僕を振り返る。一人は綺麗な長い金髪を一つに束ねた、とても綺麗な顔立ちの人。もう一人は、灰色の髪を後ろに撫でつけて口髭を生やしていた。2人とも泥で汚れて汗だくだった。
「ああ、馬車が壊れてしまってね」
口髭を生やした男の人がげんなりとした顔で眉を下げ、大げさに肩を竦めて見せた。
「ちょっといいですか?」
男の人たちが場所を開けてくれたから、僕は車輪の具合を確かめた。車輪を少し揺すってみると、留め具が斜めに避けて車輪がガタガタになっていた。ああ、確かにこれじゃ馬車は走らせられないや。でも、応急処置で何とか行けるかも。僕はあたりを見渡して、少し太めの枝を拾って来る。
「坊や、何をしてるんだい?」
金髪の男の人が僕を覗きこむ。僕は木の枝をナイフで削り始めた。小屋に居た時は、何か壊れたら何でも修理をしていたから、こういうのは得意なんだ。僕は何度も車輪の留め具に枝を合わせ、太さを調節した。うん。このくらいかな。
僕は折れた留め具に少し切り込みを入れて、そこにマントを止める紐を外して括りつけ、反対側に削った木の枝の残りを括りつけて思いっきり引っ張った。ぎりぎりと少しずつ、留め具が抜ける。
「此処、押さえて貰えますか?」
「あ、ああ」
口髭の男の人が車輪を押さえた。僕は削りだした木の枝を、留め具の代わりに押し込んで、近くにあった石でしっかり打ちつけて固定する。試しに車輪を回してみると、少し歪んでしまっているけれど、ちゃんとガラガラと回った。
「おーーーーー!!」
男の人達が歓声を上げる。離れて座っていた女の人も立ち上がり駆け寄ってきた。
「ゆっくり引いて行けば、多分次の街まで持つと思うけど……」
僕がそういうと、口髭の男の人が僕の手を握り、ぶんぶんと振った。
「いやぁ、ありがとうありがとう!助かったよ坊や。ところで坊やは一人かい? 良かったら次の街まで一緒に行かないか? お礼に食事でもご馳走させてくれ」
金髪の男の人も、日傘の女の人も、口々に良かった、ありがとうと声を掛けてくれる。僕はちょっと照れ臭い。独りは慣れていたけれど、見知らぬ土地で独りは正直心細かった。食事は出来るだけ切り詰めたかったからこの申し出はとてもうれしい。僕は有り難く受けることにした。
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