08.旅立ち。
***前回のあらすじ***
フェリは侍女のクレアに促され、王都に向かう馬車へと乗り込んだ。親にも兄にも愛されなかったフェリは、諦めにも似た想いで、遠ざかる森を見つめていた。そんなフェリを彼女が幼い頃から仕えて来た侍女のクレアは、フェリを森に連れて行ったことを、リクに会うのを止めなかったことを後悔するのだった。
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※文字数1926字です(空白・改行含みません)
僕は、花畑に突っ伏したまま、一晩中泣いた。自分の無力が悔しくて、何も出来なかった自分が情けなくて、泣いて、泣いて、そうして涙も枯れた頃、ふっと脳裏にフェリの言葉が蘇ってきた。
『連れ戻されてしまったら?』
連れ戻されて、しまったら──。
『そうしたら、王都まで追いかけて取り返すよ』
……ああ、そうだ。そうだった。僕は、フェリに言ったんだ。王都まで追いかけるって。追いかけて、取り戻すって。此処で泣いてたって、フェリは戻って来ないんだ。それなら、僕は行かなくちゃ。フェリを取り戻しに、王都まで。行って何が出来るかは判らないけれど、いつもは、フェリが僕の待つこの花畑に駆けて来てくれたんだ。今度は僕が、フェリの待つ王都に行かなくちゃ。
僕は漸く顔を上げた。ぐしゃぐしゃになった顔を、腕で拭って立ち上がる。僕は朝靄に包まれる森を、小屋へと全速力で駆け戻った。朝日が、森を金色に染めはじめていた。
***
僕は小屋に戻ると、棚の奥からじいちゃんの昔使っていた布の鞄を引っ張り出した。急いで旅支度をする。旅をするのは初めてだ。何日も小屋をあけることになる。急いで荷物を詰め込んでいく。
服と下着を引っ張り出し、鞄の底に押し込める。それから、水浴びをした時に拭く物。お金はあんまりないけれど、川で拾い集めていた宝石がある。これも持って行こう。売れる石がどれくらいあるか判らないけれど、王都までの旅の資金にはなるだろう。野宿もすることになりそうだから、火を起こす為の火口箱も要る。それから、ナイフは鞄の脇のポケットへ。作った薬草……。要るかな? 一応持って行こう。食事がとれるか判らない。パンはまだ3分の1くらい残ってる。大事に食べれば大丈夫かな? 川があるかもわからないから、水を入れるもの。流石に桶は持っていけないから、じいちゃんの葡萄酒の空き瓶に水を入れて行こう。僕はパンを布でぐるぐると包み、川に行って瓶に水をたっぷり注ぎ、コルクでしっかり蓋をする。それから冷たい水で顔を洗った。泣き腫らした目が重かったから。シャツでごしごし顔を拭きながら小屋に戻って水を鞄に押し込んだ。よし。忘れ物はないな。
僕は荷物の詰まった鞄を肩に担ぐ。鞄はずっしり重い。フード付きのマントを羽織って、フードを目深に被って、僕は小屋の戸を開けた。朝ごはんを強請りに来た小鳥たちに、ああそうだった、と僕はパンを少し千切って撒いて上げた。小鳥が一斉に群がってくる。僕がこの小屋を出て悲しむのは、朝のパンにありつけなくなるこの小鳥達くらいだろう。ちょっとだけ奮発をしておいた。
「行ってくるね」
夢中でパンを啄んでいる小鳥達と、じいちゃんのお墓に声を掛けてから、僕は小屋を出発した。
***
僕は、小屋から一番近い村に向かった。王都の場所なんて、村で生きていた僕には縁の無い事で知る必要も無い事だったもの。まずは王都がどこにあるのかと、王都までの行き方を調べなくちゃ。
村に着いてから、僕は粉屋のおじさんの所へ向かった。粉屋のおじさんはじいちゃんのお墓を作るのを手伝ってくれた人だ。王都に行きたいと言うと、おじさんは素っ頓狂な顔をして僕を見下ろした。
「王都の場所なんて、聞いてどうするんだい?」
「僕、王都に行きたいんです。あの……。王都って遠いんですか?」
「そうさなぁ。馬車でも5日は掛かるぞ? 王都になんて何しに行くんだい?」
「ちょっと、人を探しに。王都までの地図って、どこに行けば手に入るんでしょうか」
「地図なぁ。地図を売っている様な店はこのあたりには無いからなぁ。おーい、お前ー」
粉屋のおじさんは、店の奥のおかみさんへ声を掛けた。
「確かルイーズの使っていた地図があっただろう。アルゼールの全部が載ってるやつだ。ちょっとそれを持ってきてくれ」
店の奥から、あいよーっと元気のいい声が返ってくる。少し待つと、おかみさんが四角くたたんだ地図を持ってきてくれた。おじさんはおかみさんから地図を受け取ると、僕にずいっと差し出した。
「ほれ、持っていきな」
「え、良いんですか?」
「ああ。息子は嫁さんを貰ってもう家を出ているし、使う機会もないからな。お前さんにやろう」
「ありがとうございます!」
僕はおじさんに頭を下げた。
***
村を出た僕は街道で地図を広げ、道を示す線を指で辿る。
「えっと、エンドールが此処で…。村はこれかな? うん、これが僕の居た森だ。 王都に行くには──。此処をまっすぐ、それから左だな!」
僕は街道を指さす。ずっと向こうで道が二手に分かれていた。遠くに立派な馬車が走っていて、その馬車が道を左に曲がるのが見える。あの馬車の曲がった方。あの道の、ずうっと先にフェリが居る。僕は地図を鞄にしまうと、王都を目指し、歩き出した。
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