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06.奪われたフェリ。

***前回のあらすじ***

その日、フェリはいつまで待っても花畑に現れなかった。リクは仕方がなくとぼとぼと小屋へと帰る。夜遅くに、扉を叩く音にうとうととしていたリクは飛び起きて扉を開いた。そこには涙をいっぱい溜めたフェリが居た。フェリは王子の婚約者として王都に移ることになったのだ。泣きじゃくるフェリに、リクはずっとここに居れば良い、自分のお嫁さんになればいいと告げる。フェリもそれに応えた。それが、叶わない思いだと知りながら。

---

※文字数1516字です(空白・改行含みません)

 僕とフェリは、並んでベッドに腰かけて、2人でぼんやり向かい側の壁を眺めて、手を繋いで話した。

 なんとなく、僕もフェリも判っていた。きっと、直ぐに見つかって、連れ戻されてしまうんだろうって。


「── きっと、私が居ないの、直ぐに気づかれちゃうわね」

「── 此処に居る事まではわかりっこないよ」

「── 見つかったらどうするの?」

「── 僕がやっつけて追い返してあげるよ」

「── 相手は大人よ?」

「── 噛みついてやるさ」

「── 連れ戻されてしまったら?」

「── そうしたら、王都まで追いかけて取り返すよ」

「── 相手は王子様よ?」

「── 王子さまよりも偉くなったら大丈夫さ」


 現実味の無い言葉を交わす。でも、僕はフェリを失ったら、きっとどうにかなってしまうだろう。僕は、ふと思い立ってフェリの手を解いて立ち上がる。


「……リク?」


 フェリはぽてりとベッドに座ったまま僕を見上げた。

 僕は戸棚の引き出しから、小箱にしまった川で採れた綺麗な石の中から、紫色の水晶を1つ手に取った。川で削られた親指の先程の水晶は、ころりと丸い。僕の瞳と同じ色。


「フェリ、これ──」


バンッッ!!!


僕がフェリを振り返った時、突然扉が勢いよく開けられた。僕とフェリはびくっとなった。開け放たれた扉から、揃いの格好をした男たちが僕の小屋へとなだれ込んでくる。僕は急いでフェリに駆け寄り抱きしめたけど、一瞬で男に引きはがされてしまった。そのまま壁に向けて投げ飛ばされる。ぐっと息が詰まった。


「リクッ!! いや! 離して! リク! リク!!」


 男の一人に小脇に抱えられたフェリがばたばたと暴れて、僕に向かって手を伸ばす。僕はフェリのその声に、直ぐに立ち上がると男の足に飛びつき、思いっきり噛みついた。いてぇっと男が悲鳴を上げる。


「フェリを離せッ!!」

「煩い、邪魔だ小僧!!」


 男がぶんっと足を振り、僕は吹き飛ばされて壁に激突した。男の背中の向こうで必死に泣きながら僕の名を呼び手を伸ばすフェリの姿が見えると、僕は体を起こして転がる様にフェリを抱えた男の許へと走った。

 何度も殴られ蹴られふっ飛ばされたけれど、僕はしつこく何度でもフェリに縋った。僕を捕まえようと伸ばす男の手を避けて、フェリへと手を伸ばす。僕の指の先には、さっき取り出した紫の水晶。フェリも僕に手を伸ばす。


「フェリ、これ────!!」


 フェリの手に触れた。石がフェリの手の中にころりと滑り込む。フェリと、目が合った。悲しそうな諦めにも似た色が浮かんだ目だった。僕ははっと息を飲む。

次の瞬間、ガンッ!と頭に衝撃をくらい、僕は、意識を失って、その場に崩れ落ちた。


***


 ───気が付くと、僕は小屋の入口に倒れていた。

 小屋の中は、散乱していた。

 開け放たれたままの扉が、ギィ、と音を立てた。

 フェリの姿は、もうどこにも、見えなかった。


 僕は小屋を飛び出した。走って、走って、走って────。

 月明かりの中、森が開け、花畑が広がる。風が花びらを散らす。足がもつれて、僕は花畑の中に倒れこんだ。

 毎日通った、花畑。フェリが駆けて来るのが当たり前になっていた。だけど、もう、会えない。フェリは遠くへ行ってしまう。

 景色が歪む。僕の目から、涙がぼたぼたと零れ落ちる。嗚咽が漏れる。僕は小さな子供の様に声を上げて泣いた。胸の中で渦巻いて溢れだして止まらない大好きな人の名前が、僕の喉からほとばしる。


 「フェリ────────────ッ!!!」


 僕は、喉が裂けそうな程、フェリの名前を呼んだ。


 「フェリぃぃぃいぃぃ────────ッ!!!」


 何度も何度も、血を吐く様にフェリの名前を叫んだ。

 僕の呼び声に応える者は無く、ただ、ヒュゥヒュゥと木々を揺らす風の音が


───泣いている様に、聞こえた。

ご閲覧・評価・ブクマ 有難うございます!!総合評価170pt超えました!ブクマ65件になりました!今日はもう1個書けるかなー。多分夜9時くらいの更新になるかと思います。

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