05.別れの気配。
***前回のあらすじ***
リクはフェリを自分の住む小屋へと案内をした。くるくると表情を変えるフェリに、リクはどんどん惹かれていく。リクが蔓草で籠を編む様子に魔法の様だと喜ぶフェリに、リクは籠の編み方を教えた。いつもの様に空が茜色に染まる頃、2人は「また明日」、と当たり前の様に口にして別れるのだった。
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※文字数2212字です(空白・改行含みません)
僕とフェリは、毎日花畑で待ち合わせた。約束をしたわけでは無かったのだけれど、僕が花畑に行くと、必ずフェリが駆けて来る。僕とフェリは、毎日木登りをしたり、薬草で薬を作ったり、魚を釣ったり、川に沈んでいる宝石を探したり、水遊びをしたり、花を摘んだり、森でかくれんぼをしたり、小屋で本を読んだり、夕方までいっぱい一緒に遊ぶ。
雨が降るとフェリには会えなかったけど、次に晴れた日の朝には必ずフェリは駆けて来た。
毎日が、とっても楽しくて、次の朝が来るのがいつも待ち遠しかった。夜寝る前にはフェリの顔をいっぱい思い出した。気が付いたら、僕にとって、朝にはフェリと会っていっぱい遊び、夕方になるとフェリを見送るのが、当たり前になっていた。
***
「……フェリ、どうしたんだろう?」
いつもならとっくに来ている時間なのに、フェリはまだやってこない。僕は、いつもフェリが駆けて来る森の向こうを眺めた。お日様は肌がちりちりするくらいぺっかぺかに輝いているし、雲だって1つもない。真っ青な空だ。
「具合でも、悪いのかな……」
病気だったらどうしよう。僕は心配で胃がギュゥっとなる。昨日暑いからって水遊びをしたからかな。直ぐに乾いたと思うけれど、暫く濡れたままだったし、風邪をひいてしまったのかも。大丈夫かな。酷くないと良いのだけれど。僕の方がお兄さんなのに、もっと気を付けて上げれば良かった。僕はそわそわと、落ち着きなくうろうろとその場を行ったり来たりした。
じっとしていると不安で居てもたってもいられなくなるから、気を紛らわす様に僕は花畑で薬草を探す。だけどフェリが気になって、薬草はちっとも集まらなかった。
夕日に照らされて、花畑が金色に染まる。
──結局、ずっと待っていたけれど、フェリは来なかった。もうちょっと、後ちょっとだけ。そう思っていたら、すっかり陽が落ちて、あたりは暗くなってしまった。僕はとぼとぼと小屋に帰る。たった1日会えなかっただけなのに、僕の胸にはぽっかり穴が空いてしまったみたいだ。雨で会えない時は、こんな風になったことなんて無かったのに。
具合が悪いのかもしれないのに、フェリが心配じゃないわけじゃないのに、僕は、寂しくて、フェリに会いたくて堪らなかった。ごはんを食べなきゃと思うのに、お腹がちっとも空かない。
僕はベッドの上に上がって、膝を抱えた。
***
ドンドンドンっと激しく扉が叩かれる音に、うとうととしていた僕はびっくりして飛び上がった。僕の小屋に人が訪ねて来るなんて、今まで無かった。僕の頭に浮かんだのは、フェリの姿。僕は大急いで扉に駆け寄り、扉を開ける。こんな夜更けに、どうしたんだろう。
そこに居たのは、やっぱりフェリだった。僕は嬉しくなったけれど、直ぐに異変に気付く。
フェリの水色の瞳には、涙がいっぱい溜まってた。
「……フェリ?」
僕がフェリの顔を覗きこむと、フェリは手に持っていた蝋燭立てを落として、僕の首に抱きついてくる。蝋燭の炎が消えて、カラーンと音がした。僕はフェリに手を回して支えた。
「フェリ? フェリ、ねぇ、どうしたの? 何があったの?」
僕の首に齧りつき、声を上げて泣きだしたフェリに、僕はおろおろとした。こんなフェリは初めてだった。フェリを抱きしめているのに、不安で、何かが怖くて、僕の心臓はドクドクと嫌な音を立てる。手が、震えてしまう。嫌だ、怖い。聞きたくない。きっと、とても悪い事だ。
「ああ、リク! 私…… 私、もうリクに会えない!」
フェリの言葉に、僕は目の前が真っ暗になった。血の気がすぅっと引いて、頭がフェリの言葉の意味を理解するのを拒む。
──今、なんて言ったの? 会えないって、なんで……。どうして……?
「……どう、して……?」
声が、震えてしまう。フェリがこんなに泣いてるのに。僕がしっかりしないといけないのに。会えないって、どういう意味? フェリに会えなくなる? 僕の見る景色から、フェリが居なくなる。 そんなの、想像が出来ない。
「私は、貴族の娘だから……。王子様との婚約が決まったの。大きくなったら家の為に、結婚しなくちゃいけないの。私、明日王都に移るの。お城でお妃さまになる勉強をしなくてはいけないの! 嫌よ、私王都になんて行きたくない! 王子様のお嫁さんになんてなりたくない! お妃さまになんてなりたくないわ! ずっとリクと一緒に居たいのに! リクと離れるなんて嫌!!」
泣きじゃくるフェリの声に、僕はフェリを守らなくちゃって、強く思った。
「じゃ……。じゃあ、行かなければいいよ!!」
──僕は、子供でばかだった。
ぐっとフェリの肩を掴んで、僕はフェリの目を見つめた。フェリの目が、驚いたように見開かれ、大粒の涙がぽろぽろと落ちる。
「行かなければいいよ! ずっと此処に居たらいいよ! 僕のお嫁さんになったらいいよ!!」
──僕は、世間知らずで、貴族の事なんて何一つ判っていなかった。
「リクの、およめさん……?」
フェリが、へにゃりと笑みを浮かべた。ぽろぽろ零れ落ちる涙はそのままに。
「そうだよ! 僕はフェリが大好きだよ? フェリは僕のお嫁さんは嫌?」
「んーん。 わたしも、リクがいい……。 リクの、およめさんがいい……」
少し舌たらずな口調で、甘える様にきゅぅ、と弱弱しく抱きつくフェリを、僕はぎゅっと力いっぱい抱きしめた。 僕とフェリの事は、僕とフェリだけの秘密だ。だから、上手く行くなんて、考えてしまった。
──僕は、世間知らずの、ばかだった。
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