04.蔓籠。
***前回のあらすじ***
前髪を、鼻の頭の当たりまで伸ばし、目を隠していたリクに、フェリは前髪を上げる様に詰め寄る。リクの瞳はオッドアイだった。それも片方の目は魔物の目と言われる紫色。リクはフェリに嫌われる事を恐れたが、フェリはその目を綺麗だと言った。そしてその目に怯える者は愚か者だと言ってのける。リクはフェリに激しく惹かれていく。気持ちを伝える術を持たないリクは、フェリをぎゅっと抱きしめるのだった。
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※文字数1980字です(空白・改行含みません)
「リクってば、私よりもお兄さんなのに、小さな子の様ね。甘えん坊さんなのだから」
フェリが笑って僕の頭をぽんぽんと撫でた。うわぁん。違う。そうじゃない。どれだけ嬉しかったのか伝えたかったのに、全然伝わって無いみたいだ。うう、と僕はフェリの肩に顔を埋める。……違うと思ったけれど、違わないかもしれない。フェリに抱きつくと、何だか凄く安心する。ずっとこうしてぎゅってしていたくなる。僕って抱きつくの好きだったのか。初めて知った。
「……そう言えば、フェリっていくつ?」
「8歳よ? リクは?」
「僕は10歳。僕の方が2つお兄さんだ」
「あら。それならリクお兄様とお呼びする方が良いかしら?」
「……リクで良いです」
僕たちは顔を見合わせて笑った。
「リク、今日は何をするの?」
「籠を作るんだよ。フェリもやってみるでしょ? 作り方教えてあげるよ」
「ええ、やりたいわ!」
フェリがぱっと顔を輝かせる。僕はフェリのこの顔が一番好きだ。フェリがこんな風に笑うと、フェリの周りだけぱぁっと明るくなったみたいに見える。僕はフェリに手を差し出した。フェリはきゅぅっと僕の手を握る。ちっちゃくて柔らかい。僕はドキドキしながら、フェリの手を引いて歩き出した。
***
僕は木にくるくると巻き付いている蔓草をナイフで切ってくるくる丸め、籠に入れる。フェリはそれを面白そうに手を後ろで組んで眺めて居る。
「それが籠になるのね?」
「そうだよ。フェリもやってみる?」
「ええ! やるわ!」
僕はフェリにナイフの使い方を教える。
「刃物だから気を付けてね」
「うん!」
フェリは僕を真似て蔓草を切る。
「うー。結構硬いのね。中々切れないわ」
フェリはぎこぎことナイフを滑らせ、やっと1本蔓を切って、樹にくるくる巻かれた蔓草を樹から剥がし、それを僕がしていた様にくるくると丸めた。
「できたわ!」
「うん、上手」
僕が笑って蔓草を受け取ると、フェリは「当然よ」と言う様につん、っと顔を上げて見せる。ふふっ。可愛い。ああ、僕、フェリのこんな顔も好きだ。ちょっと小生意気そうなのが凄く可愛い。
僕とフェリは森を進みながら、蔓草を集めた。途中でクワの実や木苺を見つけては、つまみ食いをしながら。籠の中は蔓草でいっぱいになった。
***
僕はフェリを僕の小屋に案内した。フェリは物珍しそうに僕の小屋をキラキラした目で眺めている。フェリはお嬢様だから、きっと大きくて立派なお屋敷に住んでいるんだろう。フェリは僕を馬鹿になんてしないのは、もう判っていたけれど、それでも少し恥ずかしくなった。
「此処がリクのおうち?」
「そうだよ。さ、入って?」
僕が扉を開けると、フェリはきょろきょろしながら小屋へと入ってきた。
「誰かと一緒に住んでるの?」
「ううん。此処には僕だけだよ」
「リクは一人で住んでいるの?」
フェリはびっくりしたように目を丸くした。僕はその顔が可笑しくて笑いながら頷いた。
「うん、そうだよ。少し前までじいちゃんと一緒に住んでいたんだけど、じいちゃんは死んじゃったから、今は僕が一人で住んでるんだ」
僕がそういうと、フェリははっとした様な顔をして、直ぐにしゅん、と項垂れた。
「そうだったの。嫌なことを聞いたわ。ごめんなさい」
ああ、僕はフェリのこういう所も大好きだ。フェリはお嬢様なのに、こんな僕の事をちゃんと気遣ってくれる。僕はふんわり心の中が温かくなる。大丈夫だよと笑うと、フェリもほっとしたように小さく笑みを浮かべた。
僕は床に草で編んだ敷物を広げて、その上に籠から出した蔓草を広げた。フェリが僕の傍にちょこんと座る。僕は蔓草を3本ずつ束ねて長さを揃え、麻紐で真ん中をぎゅっと縛った。ぎゅっぎゅと蔓草を何度もまげて少し柔らかくしてから、3本ずつ束ねた蔓草を十字にして結び、束ねた蔓草を広げて、蔓草同士を縫う様に長い蔓草を巻いて編んでいく。ぱぁぁ、っとフェリは目をキラキラさせて、僕の編んでいく蔓草をじっと見ている。口がぽかんって空いちゃってる。可愛い。
「凄いわ! どんどん籠になっていくわ! まるで魔法の様ね!」
頬を薔薇色に染めて、フェリは興奮気味に僕を見る。フェリの方こそ、魔法が使えるみたいだ。だって僕は、フェリがこうして褒めてくれると、どんどん自信が沸いて来て、何でも出来そうな気がしてきちゃうんだから。
僕はフェリに籠の編み方も教えてあげた。フェリが編む籠は隙間だらけでがたがただったけれど、ちゃんと形にはなっていた。フェリはとっても嬉しそうだ。僕が上手だよって褒めると、当然よ、とフェリはつん、っとしてみせた。
***
僕はフェリと手を繋いで、花畑に戻った。花畑に着く頃には、あたりは夕焼けで染まっていた。お嬢様、と呼ぶ声が聞こえる。
「それじゃあね、リク。また明日!」
「うん、また明日!」
手を振って駆け出していくフェリを、僕はいつもの様に見えなくなるまで見送った。
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