03.魔性の目。
***前回のあらすじ***
もう会えないと思っていたのに、フェリは翌日も花畑にやってきた。リクに会いに来たというフェリに、リクは嬉しくて堪らない。リクはフェリを森のとっておきの場所へ案内する。フェリは帰り際、リクに2人の事は2人だけの秘密にしようと提案した。
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※文字数2303字です(空白・改行含みません)
僕はいつもよりも早く目が覚めた。いつもの様に顔を洗って、小鳥にパン屑を上げて、急いで支度をする。パンに野菜や焼いたベーコンを挟んでお弁当を作る。二人分。それから籠を作る為の蔓草を切るナイフも籠に入れて、僕は走って小屋を飛び出した。
早すぎだとは思うけれど、きっと今日もフェリに会えると思ったら、待ち遠しくて気持ちがそわそわして落ち着かなくて、とてもゆっくりはしていられない。楽しみで仕方が無かった。早く、早くフェリに会いたい。
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花畑に、フェリはまだ来ていなかった。でも良いんだ。だってきっと来てくれる。僕は花畑の中に腰を下ろした。綺麗な花を探しては、花を編み込んでいく。花かんむりを作るんだ。きっとフェリは喜んでくれると思う。
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「リク!早いのね!」
フェリが息を切らして駆けて来る。フェリの姿が見えると、僕の心臓はまるで嬉しくて飛び回るみたいにどきどきと騒いで、堪えようとしてるのに、ほっぺたが痛いくらいに顔が笑っちゃう。僕は立ち上がって大きくフェリに手を振った。勢い余ってちょっとぴょんぴょん跳ねてしまった。
「お早う、フェリ!」
「御機嫌よう、リク。あら? 花かんむりを作ってたの? リク、花かんむり作るの上手ね。とっても綺麗!」
僕の手の中の花かんむりを見て、フェリがぱぁっと笑みを浮かべる。僕はその花かんむりを、フェリの頭に乗せてあげた。
「私にくれるの?リク、ありがとう!大好きよ!」
フェリはそういうと、僕にぎゅっと抱きついて来た。僕は顔が真っ赤になってしまった。わああ、心臓がばっくんばっくんいってる。僕も、フェリが大好きだ。ああ、嬉しくてどうにかなってしまいそう。
フェリは僕の首に手を回したまま、僕の顔をじっと見る。それから徐に手を伸ばして、僕の前髪をひょいっと手で上げた。僕は慌ててぎゅぅっと目を瞑り、急いで前髪を押さえた。
「わぁぁ、駄目だよフェリ! 前髪上げちゃ駄目!」
「あら、どうして? ねぇ、リク。貴方何故前髪をそんなに長く伸ばしているの? それでは顔が半分も見えないではないの。貴方がどこを見てるのかちっとも判らないわ」
「だって……」
僕は泣きたくなった。だって、きっとフェリは僕の目を見たら、僕を嫌いになってしまう。僕の前髪は、鼻の頭に届くくらい長い。前髪で目を隠しているんだ。僕の目は、普通の人と違うから。僕が森に捨てられたのも、きっとこの気味の悪い目のせいなんだ。それでなくても僕の髪は真っ黒で、ぼさぼさしていて、薄汚い鴉の様だと陰口を言われているのに。
僕はフェリに会えなくなるのも、嫌われてしまうのも、どうしても嫌だった。僕がそういうと、フェリは呆れた様な顔をした。
「あら、リクはおばかさんね。リクがどんな目をしていたって、私がリクを嫌うはずがないじゃないの。そんな事考えるまでも無い事だわ。たんぽぽの花が黄色いのと同じくらいに当然のことよ。だから、ほら。見せなさい!」
「わっ」
つんっと澄まして言うフェリの言葉に思わず泣いてしまいそうな程感動してしまって、うっかりフェリが伸ばした手から逃げそこなった。ばっちりとフェリと目が合ってしまう。フェリの瞳には、しっかり丸見えになってしまった僕の両目が映っていた。僕は怖くて嫌な汗が出て来た。
「まあ!」
僕の目を見て、フェリが綺麗な水色の瞳を見開いた。嫌われた! そう思った僕の耳に、フェリの次の言葉が飛び込んでくる。
「嫌だわリク、あなた私に嘘をついたわね? ちっとも気味悪くなんてないじゃないの。 それどころかとっても綺麗だわ! まるで宝石の様。 隠してしまうなんて勿体ないではないの! ……ああ、でもこんなに綺麗なんだもの。私だけの秘密というのも素敵ね」
ぱぁっと花が開く様にフェリが笑った。僕はびっくりしてしまった。びっくりしすぎて、目を閉じるのも忘れてしまった。だって、僕の目は、右と左で色が違うんだ。まるで猫みたいに。しかも、右目は普通の青なのに、左目は紫色。紫色の目は魔物の目だとじいちゃんは言っていた。こんな気味の悪い目を、フェリは綺麗だっていうの? とても信じられない。
「……フェリは、怖くないの? だって、猫みたいでしょう? 右と左の目の色が違うだなんて。それに僕の左目は紫色なんだよ? 紫の目は魔物の目だってじいちゃんが言ってた。僕は魔物の子かもしれないんだよ?」
嫌われたくないのに、何で僕はこんな嫌われてしまいそうな事をフェリに話してしまっているんだろう。自分で言ってて悲しくなってくる。
「もう。リクったら本当におばかさんね。こんなに綺麗なのに何を一体怖がる必要があるの? リクは私に意地悪をするの? それとも私を頭からむしゃむしゃ食べてしまうの?」
「し……しないよそんな事!」
僕が慌ててそういうと、フェリはそうでしょう?と自信満々に胸を張り、教えてあげると言う様に腰に手を当て胸を張った。
「勿論私はそのくらい判っているわ。そんなリクを何故私が怖がらなくてはいけないの? リクを知りもしないで勝手なことを言う人は、言わせておけばいいのだわ。だってそんなことを言う人は、おつむの弱いおばかさんだと吹聴するようなものでしょう。私はそんなおばかさんとは違うのよ。だから当然リクを怖いなどと思うはずが無いの。判った?」
つん、と澄ましてフェリが言う。ちょっぴり偉そうに、立てた人差し指を揺らして見せて。
──僕は胸がぎゅっと詰まった。鼻の奥がつんっとする。……ああ、フェリ。ねぇ、僕が今、どれだけ嬉しいか、判る? 世界中の言葉をかき集めて、君にこの気持ちを伝えたいのに、僕は言葉が出て来ないんだ。
だから、僕はフェリに抱きついた。この気持ちが、フェリに少しでも伝わる様に。
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