表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/20

02.二人だけの秘密。

***前回のあらすじ***

リクは生まれて直ぐに森に捨てられた孤児だった。リクを拾い育ててくれた老人も、5か月前に他界し、リクは一人で森の中の小屋で暮らしていた。ある日薬草を採取しに向かった花畑で、妖精の様な女の子、フェリに出会う。夕方になり、迎えが来てフェリが帰ってしまうと、リクは無性に寂しい気持ちになるのだった。

---

※文字数1949字です(空白・改行含みません)

 僕は、一人で小屋へと戻っていった。ほんの少しの時間、一緒に話をしただけなのに、何故僕はこんなに寂しいんだろう。いつもと同じ食事も、何だか美味しく感じられなかった。


 翌日、いつもは夢中になれる蔓草の籠を作るのも、薬草を作るのも、僕はちっともやる気が出なかった。無性に昨日フェリに会った花畑に行きたくて、昨日のスープの残りを少し口にして、お昼のお弁当用のパンを持って、早足で花畑へと向かった。もう、会えないと分かっているのに。


 花畑の、昨日の場所。


 フェリは、居なかった。判っていたはずなのに、妙にがっかりした。僕は薬草を探す気持ちにもなれなくて、昨日フェリが座っていたあたりに腰を下ろした。


 ──これは、ヨモギ。こっちは、ハコベ。これはたんぽぽ。こっちのはオウレン。ハハコグサ。それから──。


 考えるだけで、涙が出そうになった。何故こんなに悲しいんだろう。昨日、フェリに教えた花や薬草の名前を、1つ1つ、思い浮かべてみる。浮かべているのは花の名前なのに、浮かんでくるのはフェリの顔ばかりだった。涙をいっぱいためた顔。つんっとそっぽを向いて拗ねた顔。ぷぅっと頬を膨らませたふくれっ面に、きらきらの笑顔。


 僕にとっては、普通の事なのに、楽しそうに笑って、驚いたように目を輝かせて、フェリの周りだけ、景色がキラキラ鮮やかに見えた。


 ──逢いたいな。もう一度だけでも、良いから。フェリの、顔が見たかった。


 ぼんやりしていて気づかなかった。どんっと誰かが僕の背中に抱きついた。僕は飛び上がりそうな程驚いて、慌てて後ろを振り向いた。だって、僕に抱きつく人なんて、今まで誰も居なかったから。


 ふわっと甘い香りがした。僕のすぐ目の前に、あんなに会いたかったフェリの顔があった。少し息を切らせ、頬を上気させて、悪戯っ子の様な顔で笑っている。


「うふふふふっ。御機嫌よう、リク。やっと見つけたわ! 探しちゃったじゃないの! ああ、疲れたわ!」


 してやったりという顔で、ふふんと澄ましてフェリは僕の隣にふわりと腰を下ろした。淡い黄色のドレスワンピースが、たんぽぽみたいだ。僕は夢でも見ているんじゃないかととても驚いていた。


「え、フェリ?! なんで?!」

「……あら。リクは私に会いたくは無かったの?」


 フェリが怒ったように唇を尖らせる。赤い小さな唇はぷくっとしていて、さくらんぼみたい。なんて可愛いんだろう。


「まさか!!会いたかったよ、会いたかったけど、でもどうして?」

「決まっているではないの。リクに会いに来たのよ」


 ふふりと誇らしげに笑うフェリに、僕は胸がどきどきした。フェリが、僕に会いに来てくれた。フェリも僕に会いたいと思ってくれていた? 僕を探しに来てくれた? 森はとても広くて、村の人でも迷うのに。僕は、泣きたいくらいに嬉しかった。


***


 それから、僕はフェリを色々なところへ連れて行った。綺麗な泉や、お魚が沢山いる川や、可愛いリスや野ウサギを見に行った。一緒にお弁当のパンを食べた。昨日見つけた木苺が沢山なっている繁みにも、案内をした。僕だけが知っている秘密の場所を、フェリだけには教えたくなった。


 フェリは、泉を見れば靴を放り投げて足を水に浸してははしゃぎ、お魚の居る川でお魚を見つければ落ちそうな程に身を乗り出し、リスやうさぎを見つけては、脅かさない様にと小さくひゃぁー、っと声を上げた。木苺の実を摘んでは、とても気に入ったみたいで、幾つも口に放り込んでは、美味しい美味しいとはしゃぐ。今度ジャムを作ってあげると約束すると、飛び跳ねて喜んでくれた。


 やっぱり、フェリとの時間はあっという間に過ぎてしまった。空が茜色に染まりだすと、僕達はお花畑に戻ってきた。またフェリを呼ぶ声が聞こえて来る。


「いいこと?リク。私の事は誰にも言ってはいけないわ。私とリクの秘密にするのよ」

「何故?」

「あら!だってその方が素敵でしょう? リクは秘密のお友達だもの。 だから2人だけの秘密よ。 2人だけの時間は大事な宝物だから、秘密にするの」


 2人だけの秘密。それは本当にとても素敵な事に思えた。フェリがとても嬉しそうに、楽しそうに、ワクワクとした顔で言うから、僕も胸がどきどきと高鳴った。


 それに、僕にとってもフェリは、とても大事な宝物だと思ったから。フェリがそうしたいというのなら、僕は誰にも言わないと約束をした。


「うふふっ。約束よ」


 フェリの差し出した小指に、僕も自分の小指を絡ませる。フェリの指は、透き通りそうな程に白くて、小さくて、とても柔らかかった。


 駆け出していくフェリを見送ったけれど、僕の胸は痛まなかった。早く、明日が来ればいいのに。きっとフェリは明日も会いに来てくれるだろう。そう思うと、明日がとっても待ち遠しかった。


 一人きりの小屋も、もうちっとも寂しくは無かった。

ご閲覧・評価・ブクマ有難うございます! ちょっと予定よりも早く目が覚めちゃったので、少し早めの更新です。 はわー!ブクマが25件も…! 嬉しい…! 楽しんで頂けるよう頑張ります! 次の更新は午後になります。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ