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19.隣国の王。

***前回のあらすじ***

デビュタントの当日、フェリは父親のエスコートで夜会へと向かった。その夜会の席で、夜会に国賓として招かれた隣国の王の接待をするからとエスコートを断ったはずのセルジオ王子がアメリアをエスコートしてやってくる。あまりの仕打ちに怒りを抑えきれないフェリは、アメリアと口論になった。

セルジオは、そんなフェリに対し、婚約破棄を言い渡した。

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※文字数1960字です(空白・改行含みません)

 ……ああ、もういいわ。

 私は投げやりな気分になった。もう、どうでも良いわ。セルジオ王子の立場も、王家とエンドールの関係が壊れても、もう私には関係ないわ。国外追放でも何でも好きにすればいい。こんな国、もう知らない。


 ──誰も、言葉を発しなかった。騒めき1つ、起こらない。

 それは、一瞬だったのかもしれない。長い時間に感じただけで。


 ずっと黙していた国王が重々しく立ち上がる。皆息を飲んで国王の発言を見守った。国王が口を開こうとしたその時──



「──それは僥倖」


 水を打ったように静まり返った中で、不意に誰かの声が響いた。涼やかな、凛とした良く通る声。何処か笑いを含んだ様な声。カツン、と靴音が響く。私も、王子も、アメリアも、会場に居た者が全員が、弾かれた様に声のした方を振り返る。国王も、目を見開き、声の主を凝視していた。

 会場の扉が大きく開けられていて、1人の青年がゆっくりと此方に歩み寄ってくる。

 最後の入場者、国賓である隣国の王、エドゥアルド=カーフェルト、の筈だった。


 でも──、まさか。そんなはずは、無い。私は夢でも見ているんだろうか。


「その言葉、二言はありませんね? セルジオ王子」


 美しい銀糸の刺繍の入った、紫紺の礼服に身を包んだその人は、ゆっくり靴音を響かせて、此方に近づいてくる。私の心臓が早鐘となって胸を突き鳴らす。その人から、目が離せない。


 ──…何故…? どうして、あなたが此処に──…?


「手間が省けた。その姫、私が頂こう」


 会場が、騒めいた。


「貴方、は……」


 王子が、息を飲む。私の隣で足を止めた男は、口元に柔らかな微笑を浮かべ、王子を見た。

 艶のある黒髪が、肩の上で踊る。ぞくりとするほどに美しい、青と紫──


「お初にお目にかかる。私はカーフェルト国王、エドゥアルド=リク=ド=カーフェルト。……セルジオ=ド=アルゼール殿。フェリを、返して貰いに来た」


 セルジオが驚いたように私を見る。アメリア様はぽかんと口を開けていた。私は胸が詰まって息が出来ない。

 瞳から涙がぽろぽろ零れ落ちた。私よりもずっと背の高くなった彼は、私へ視線を落とすと、私の手を取った。そのまま跪き、私の指先に口づけを落とす。


「──遅くなってごめん。約束通り、迎えに来たよ。 フェリ」


 にこっと屈託なく笑うその顔は、幼い頃のままの面影を残した、私の初恋の人。リク、だった。


***


 あの後、セルジオ王子とアメリアは退場を命じられた。私は後宮での謹慎を申し渡されたけれど、リクがそれを拒んだ。隣国、カーフェルトは、アルゼールよりも大きな大国だ。静かな笑みを湛えたまま、リクが私と話がしたいと言うと、国王は謹慎を取り消した。私はリクに誘われ、会場から庭園へと連れ出された。


「……びっくり、した……」


 私は驚きすぎて、中々涙が止まらない。


「嫌だった?」


 リクの問いに私はぶんぶんと首を振った。


「嬉しい……。会いたかった」

「うん、僕も」


 へへっと笑うリクの顔は、あの頃のままだった。とても野蛮な国の王様には見えない。離れていたのが嘘みたい。


「でも、どうして……? リクが、カーフェルトの王様だなんて……」


 私が問うと、リクはくすくすと笑って、あの後何があったのかを話してくれた。


***


 ──王都からエンドールに戻って、暫く経った頃、カーフェルトの使者が僕を探しに来たんだ。カーフェルトの前王──僕の本当の父親が、崩御したんだって。重い病気だったそうだよ。

 前王は僕が生まれた時、やっぱりね。この目を気味悪がって、王妃には赤ん坊は死産だったって伝えて、僕を捨てて来るように丁度その時部屋の外で見張りをしていた衛兵に伝えてたらしい。近衛兵は王に命じられるまま、僕を森に捨てたんだって。

 でも、王にはその後子供は生まれなかったんだ。王妃以外にも何人もの側妃を召し抱えたけれど、次の子は生まれて来なかったんだって。王が崩御した時に、宰相が王の崩御を秘密にして、僕を探し始めたんだ。

 ほら、僕前髪を切ったでしょう?暫く旅の一座と一緒に行動してたから、噂がカーフェルトに伝わったみたい。カーフェルトには伝説があって、初代の国王は竜の化身だったって言われてるんだって。その初代の王の瞳が、僕の左目と同じ紫だったんだ。


 僕はそのまま事情を知らない雇われの傭兵に捕まって、カーフェルトに連れていかれた。そこで初めて、自分がカーフェルトの前王の子だって知らされたんだ。即位をしたのは3年前。

 フェリが僕の2つ下なのは知っていたから、調べさせてね。それで、今日がデビュタントだって判ったから、王子からフェリを奪えるのは今日しかないって、急いで来たんだよ。幸せなら、顔は出さずに黙って帰るつもりだった。


 だから、フェリにとっては辛かっただろうけれど、僕にとっては僥倖──



「──フェリ、王子様より偉いのは、王様だったよ」


 リクは悪戯っぽく笑って見せた。


ご閲覧・評価・ブクマ 有難うございます!総合評価690pt超えました!ブクマ270件超えました!ご感想5件目頂きました!感謝感謝です。嬉しいですねーwモチベがめっちゃ上がります。

やっとこリクの登場です。こぎ着けたーっ。早ければ明日、最終話投稿になります。一応目標20話完結だったんで、次のお話か、その次、最終話となります。裏話的なものを2本ほど+で投稿する予定なので、もう少しお付き合い頂けると嬉しいです!次の更新は明日の朝かお昼になります!

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