15.消息不明。
***前回のあらすじ***
リクは傷心のまま、生まれ育ったエンドールの森へと戻ってきた。悲しみに暮れながらも、リクは元の生活に戻って行った。救い出す事も出来ないリクは、少しでもその悲しみを抑える為に、フェリを想って決して届かない手紙を書くことにした。季節が冬へと移り変わったある日、街でリクを探している人が居る事を聞いた。
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※文字数2743字です(空白・改行含みません)
僕は薬を売ったお金で干し肉と、かぼちゃと、じゃがいもと、蝋燭に火口、インク瓶を2つ買って、小屋へと戻る。途中、ペニ村に立ち寄った。雪かきをしていた粉屋のおじさんに声を掛ける。
「こんにちは、おじさん」
「おや、リクじゃないか。街へ行ってきたのかい?」
「はい、薬を卸しに。あの、街で聞いたんですけど、村に誰か僕を訪ねて来ませんでしたか?」
「ああ、そういや、3日前に一度来たな。背の高い、がっちりとした栗毛の男だったよ」
……栗毛? 栗毛、栗毛。うーん、誰だろう。全く記憶にない。僕が首を傾げると、粉屋のおじさんはバツが悪そうな顔をした。
「おや、てっきり知り合いだと思ったんだがねぇ。お前さんの事も良く知っている人の様だったんだが」
「何て言ってたんですか? その人」
「ああ、このあたりに孤児の少年はいないかって。年の頃は10歳くらい、黒髪で青と紫の色違いの眼の少年を探しているって。そんな瞳の子供なんてお前さんくらいだろう?」
「あー……。確かにそれは僕の事ですね。ちょっと覚えてないんだけど、何処かで会った人かもしれません」
「この村には住んでないっていうとがっかりしてたみたいでね、ついお前さんの小屋の場所を教えちまったんだよなぁ。勝手をして悪かったね。……ああ、ひょっとするとお前さんの親がお前さんを捜してるのかもしれないな!」
……期待してくれてるみたいで悪いけれど、それは無いと思うな。じいちゃんの話では、僕はへその緒が付いたまま、殆ど裸同然で冬の寒い日に捨てられていたそうだから。普通はとっくに死んでると思うでしょ。流石にそういうの知っていると、殺す気満々で森に捨てるような親に、今更会いたいとも思わないし。僕の親は死んだじいちゃんだけで十分だ。
「兎に角、小屋の場所を知っているなら、その内訪ねて来ると思います。おじさん、ありがとう」
「ああ、どういたしまして」
「わかりました」
僕はおじさんに頭を下げると小屋へと戻った。
***
小屋に戻って10日程が経った。僕を探してたという人は、まだ訪ねて来ない。何だったんだろうと思ったけれど、栗毛の知り合いなんていなかったと思うし、あれから村に行く事もあったけれど、その後その人が村に来たという話は聞かない。気にはなるけれど、深く考えないことにした。雪は漸く止んで、森の雪も解け始めている。僕は11歳になっていた。
***
僕は数日ぶりにまた街に買い出しに向かった。買わなくちゃいけないものを指を折々数えていると、何だか街の中が騒がしい。時々傭兵っぽい人が駆けて行くのが見える。いかつい風貌で剣を下げて胸当てや脛当てを付けた人は、この辺じゃ珍しい。何かあったのかな?僕は横を駆けて行く傭兵を横目で見ながら雑貨屋に向かう。羽ペンが随分短くなってしまったし、今年の冬は風邪が流行って薬が良く売れたから、少し奮発することにしていた。沢山あった紙も随分と減ってしまったから、紙も買っていくつもり。僕は店員のおじさんに声を掛けて、羽ペンと紙を出して貰う。
「今日は何だか人が多いですね」
「ああ、何だか朝から走り回っているんだよ。恐らくまた隣国かね。カーフェルト王国にも困ったもんだ。あそこの国は野蛮だからなぁ。また戦争になるのかねぇ。物騒な事だ」
おじさんはいやだいやだと顔を顰めた。
僕が生まれる15年くらい前にも、隣国のカーフェルトとの戦争があったのは、じいちゃんから聞いて知っている。ここエンドールは、アルゼール王国とエンドール王国の国境にあって、国同士の仲があんまり良くないらしい。このあたりはまだ森のお陰で直接戦争に巻き込まれる事は少ないらしいけど、ここより西は何度も小競り合いを起こしてお互いピリピリしているっていうし、そろそろどかんと大きな戦争になるんじゃないかって噂だ。前の戦争では大分森が焼けてしまったとじいちゃんが怒っていたし、森が焼かれるのはとても困る。
戦争になれば、フェリの所にも危険が及ぶかもしれない。それは嫌だ。どうか何事も起こりません様に。僕は不安を覚えながら、荷物を受け取って店を出た。
***
小屋に向かって歩き出すと、誰かの視線を感じた。振り返ると、腰に剣を下げた男がこちらをちらちらと見ている。
……え。何。なんか怖い。僕は慌ててフードを深く被り、早足で歩きだした。ちらっと後ろを振り返ると、3人くらい男が距離を取って付いてくる。あれって僕をつけてるんだよね? 何で? 僕何か付けられるような事した? 心臓がばくばく嫌な音を立てる。
怖くてどんどん早足になる。道の角を曲がると、僕は全速力で駆け出した。後ろの方で男たちが何か言ってるのが聞こえたけれど、僕は怖くて必死に走った。逃げなくちゃ。何だかわからないけれど、捕まっちゃだめだ。何あれ。何で僕を追いかけて来るの? あれか? 王都に行った時フェリに声を掛けたから牢屋に入れられるのかも。フェリに逢えるならそれでも良いけど、死罪は嫌だ。何だか僕は物凄く悪い犯罪者になった気分で街を抜けてそのまま森へと入り、森の中を通って小屋へと逃げ帰った。
***
ずっと走り通しでへとへとだ。小屋が見えて来る。振り返ると、男たちの姿は無かった。僕は漸くほっとして、こわばっていた体から力が抜けた。此処まで来ればもう大丈夫だろう。僕は息を整えながら、小屋の扉を開ける。
「──あッ!?」
──いきなり小屋の中から手が伸びて来て、ぐんっと中へと引きずり込まれた。手に持っていた荷物が床に散らばる。僕を引きずり込んだ男が、あっという間に僕のお腹に手を回し、がっしりと僕を抱え上げる。僕はびっくりしてばたばたと暴れた。怖い、怖い、怖い! 誰? 何で僕の小屋に──そう思った時、直ぐに粉屋のおじさんが僕を訪ねて来た人に、僕の小屋の場所を教えていたと言っていたのを思い出した。僕を訪ねて来た人って言うのは、この男たちの仲間だったのかも。僕は殺されるのかもしれない。サァっと血の気が引いた。
「何するんだ! 此処は僕の家だぞ! 僕が何をしたっていうんだ、離せよ──っ!!」
「うるせぇガキ、静かにしろ!!」
男が僕の口を塞いでくる。男の手は大きくて、口も鼻も塞がれて息が苦しい。
「どうだ?」
「ああ、黒髪に青と紫の金銀妖瞳、10歳くらいの子供、間違いない」
男の一人が僕の目を覗きこむ。僕は男を睨み付けた。金銀妖瞳っていうのは僕の色違いの眼の事らしい。
僕は口に猿轡を噛まされて、手足を布で縛られて男の肩へと担ぎ上げられた。必死に暴れたけれど、屈強な男はびくともしない。
「安心しな、坊主。殺しゃしねぇよ。生きたまま連れて来るようにとの命令なんだから」
「よし、対象確保!! ズラかるぞ!!」
──────その後、街から傭兵の姿は消えて、リクの消息は、ぷっつりと途絶えた。
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