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12.さようなら。

***前回のあらすじ***

リクは結局ヴィエラに押し切られ、もさもさだった髪をカットして貰った。長かった前髪もすっきりと切り落とされ、青と紫のオッドアイが見える様になった。ヴィエラはリクを連れて次々に店へ行き、服や靴を買い与えた。次の街で、アンデルベリー一座は興行を行う。見物客から礼を言われたリクは、心が温かくなるのだった。

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※文字数2376字です(空白・改行含みません)

 翌朝、馬車は王都に向けて出発した。ヴィエラさんに買って貰った着替えは、今は僕の鞄の中に入っている。鞄はもうぱんぱんだ。


「もうちょっとで王都なんですね?」


 僕は荷台から身を乗り出す様にして道の向こうを眺める。


「ああ、昼には着くかな。曇ってなけりゃ、このあたりからでも城が見えるんだけどねえ。今日は雨が降りそうだからちょっと見えないな」


 アンデルベリーさんの言葉に、僕は空を見上げた。昨日はとても良い天気だったのに、今日は今にも雨が降りそうな程に曇ってどんよりしている。まるで僕の不安をそのまま移したみたいだ。カラっと晴れていてくれたら、僕の不安も軽くなった気がするのに。


「リクは王都に付いたらどうするの?」

「取りあえず、お城に行ってみたいです」

「城に?ああ、まぁ、滅多に見れるものじゃないからなぁ。アルゼールの城はそれは綺麗なんだよ。真っ白い壁に青い屋根でね、絵本に出て来そうな綺麗な城さ」


 僕が見たいのは、お城なわけじゃないんだけど、こんなことが無かったら、フェリと一緒に見たいと思ったかもしれない。


「アンデルベリーさんたちは? 王都に着いたらどうするんですか?」

「取りあえず広場に向かって興行だね。王都には沢山の人が集まるから」

「そうなんですね。色々、有難うございました。ヴィエラさんには洋服まで買って貰っちゃって……」

「あんたは気にしすぎなのよ。私が買いたくて買ったって言ったでしょ? あんたと居ると楽しかったわ、リク。無事探している人、見つかると良いね」

「はい! ありがとうございます」


 話していると、丘の向こうにやっと王都が見えて来た。高い城門に囲まれた、大きな街だ。どんよりと曇った空の下に、少し霞んでお城が見えた。

 馬車はガラガラと街道を進み、王都の門へと向かう。アンデルベリーさんが門の所で立派な鎧を着た騎士さんに木の札を渡す。


「アンデルベリー一座だ。興行に来たよ」

「男が2人に女が1人、それに子供か。妙なものは持ってないな? いいぞ。入れ」

「どうも。それっ」


 アンデルベリーさんが馬車を走らせる。僕は門が遠ざかってからこっそりとアンデルベリーさんに声を掛けた。


「アンデルベリーさん、さっきの板は?」

「ああ、手形だよ。 ……そういや、お前さん手形は」

「……持ってないです」

「はははっ。それじゃ、俺たちと一緒に来て正解だったな」


 王都に入るにはあの手形が必要らしい。危うく王都まで来たのに中に入れないところだった。王都の建物はどれもびっくりするくらいに大きい。その大きな家がみっちりと詰まる様に並んでいる。地面の土じゃ無くて石畳だ。馬車はそのまま中央通りを進んで、噴水の傍で止まった。広場を挟んで向かい側に伸びる道の先に、凄く大きなお城がそびえたっていた。僕は逸る気持ちを抑え切れず、馬車の荷台から飛び降りる。


 「アンデルベリーさん、リュートさん、ヴィエラさん、有難うございました!」

 「気を付けていきなよ。何かあったら俺たちは北側の銀の仔馬亭に居るから訪ねておいで」

 「何から何まで有難うございました! 僕、行きます」


 アンデルベリー一座の皆に別れを告げると、僕は走ってお城へと向かった。


***


 すぐ近くに見えたのに、お城は結構遠かった。僕は人を縫いながら走った。ぽつぽつと、雨が降ってきた。やがて雨は土砂降りになる。慌てて街を歩く人が軒下に避難をする中、僕はお城に向かって走った。雨なんてどうでもよかった。お城に行けばフェリに会える。僕は、そう思っていた。


 お城の門までは、跳ね橋が掛かっていた。僕は跳ね橋を走って渡る。跳ね橋の向こうの門の所に、鎧を着た騎士が2人、ずぶ濡れになりながら、長い槍を持って立っていた。僕はそのまま走って門を抜けようとすると、騎士が槍で通せんぼをする。


「こら、坊主。この先には入れないぞ」

「あの、僕エンドールのペニ村から来たリクと言います! フェリに会いに来たんです! フェリに会わせてください!」

「……は? 紹介状なり何か持ってるのか? 身分を証明するものは?」

「身分って…。僕は平民です。紹介状はありません、でもフェリにリクが来たって伝えて貰えれば」

「それじゃ入れることは出来んな。いいか、坊主。此処は平民の入れるような場所じゃないんだ。早く家に帰りなさい」

「でも──」

「兎に角、紹介状も無しに城には入れないんだ」


 それでも食い下がろうとした僕の後ろから、ガラガラと馬車を引く音がした。振り返ると、立派な4頭の馬に引かれた馬車がお城に向かって跳ね橋を渡ってきていた。僕は騎士に腕を掴まれ、端へと避ける。僕は、目を見開いた。


 ────フェリ!!


 馬車の中にフェリが居た。あんなにいつも笑っていたのに、まるで人形になったみたいに表情のない、フェリが。


「フェリッ!!!」


 僕は叫んだ。


 僕の声に、フェリが弾かれた様に僕を見た。水色の眼が、大きく見開かれた。フェリは馬車の窓に張り付いて僕を見た。フェリ。フェリだ!

──だけど、フェリの顔はやっと会えたのに、ちっとも嬉しそうじゃ無かった。今にも泣きだしそうな、悲しい顔。諦めが浮かんだ。悲しい顔。フェリの唇が、何かを言う様に動いた。


『さ・よ・う・な・ら』


 ────────!!


 フェリの姿は走り去る馬車に隠されて、あっという間に見えなくなった。──なんで? どうしてそんな事をいうの? 僕はわかりたくなかった。 本当は、わかっているのに、わからないふりをしてた。


 傍へと駆け寄りたいのに、追いかけたいのに、僕はこの先には行かせて貰えない。僕とフェリを切り離す様に、騎士さんの持つ槍が僕を阻んだ。お願い、通して。フェリの所に行かせて。フェリに会う為だけに、僕は王都まで旅をしてきたのに。あんな悲しい顔が見たかったわけじゃないのに。

僕はもう一度フェリの名を叫ぼうとした。


だけど、言葉が声になる前に、誰かが僕を抱きかかえ、僕の口を塞いだ。

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