10.アンデルベリー一座。
***前回のあらすじ***
リクは早く王都へ着きたいと道を急ぐ。少しでも先にと急ぐあまり、気づけばあたりは夜の闇に包まれ、一寸先も見えなくなっていた。リクは何とか火を起こし、その日はそこで野宿をする。降って来そうな星を眺め、その星に手を伸ばしたリクは、見えているのに届かない星にフェリの姿を重ね、不安を覚える。リクの旅は続いた。王都まで後3日程の距離まで近づいた時、リクは故障した馬車に出くわす。リクは馬車の修理を手伝った。馬車に乗っていた人たちに誘われ、リクは次の街まで馬車と共に行く事にした。
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※文字数2586字です(空白・改行含みません)
馬車はまだ人が乗るには危ういから、僕たちは歩いて街へと向かった。3人は街から街を移動する楽師だった。口髭のおじさんはアンデルベリ一さんと言って笛吹きで、金髪のリュートさんは竪琴の奏者。日傘のヴィエラさんは歌姫だそうだ。
3人は広場や酒場で演奏し、お金を稼いでいるそう。アンデルベリーさんが団長で、アンデルベリー一座と言うのだそうだ。3人だから一座って名乗るほどじゃないんだけどねとヴィエラさんが笑う。
僕が馬車を引く馬の手綱を持って歩く横で、リュートさんが竪琴を奏でながら、物語を紡いでくれた。リュートさんは元々吟遊詩人で、たまたま店で一緒になった所をアンデルベリーさんがスカウトしたんだそうだ。リュートさんの弾く竪琴の音色はとても綺麗で、紡いでくれた物語は、異国の英雄の話で、僕は夢中になって聞いた。
その後ヴィエラさんがリュートさんの竪琴とアンデルベリーさんの笛に乗せて歌ってくれた歌は、切ない恋の歌で、会えない恋人を思う歌だったから、僕はフェリを思い出して泣きそうになってしまった。ヴィエラさんの歌声はとても透き通っていて、とても綺麗だった。
それからアンデルベリーさんも加わって、3人での演奏はとても陽気で楽しい曲だった。
街には昼過ぎに到着した。鍛冶屋で馬車を直す間、僕達は食堂で少し遅い食事をとる。食事をしながら、僕は持ってきていた宝石をアンデルベリーさんに見せた。お金は底をついてしまったから、石を換金しないといけない。
「ああ、これなら換金できそうだな。飯が済んだらギルドに寄って行こう。あそこなら宝石を換金してくれる。そうだなぁ……」
アンデルベリーさんは宝石を入れた小箱から、幾つか宝石を取り出してテーブルに置いた。
「これくらいあれば十分だろう。残りは仕舞っておきな。お前の様な子供がこんなもん持ってたらあっという間に襲われて身ぐるみ剥がされちまうぞ」
……それは怖い。怖いし困る。判りましたと頷いて、僕は宝石の箱を鞄の底に仕舞った。
「それで? リクは王都に何をしに?」
「えっと……。人を探しに行くんです。」
「一人で?」
「ええ、僕はみなしごなので、家族は居ないんです」
「そうかぁ……。そりゃまた小さいのに大変だったなぁ……」
アンデルベリーさんがしみじみと言う。ヴィエラさんが少し身を乗り出す様に僕を覗き見る。
「ねぇ、リク。あなたさえ良かったら、私達と一緒に王都まで行かない? 私達は此処の他に後1つ、街に寄る事になるけれど、歩いて行くよりは馬車の方が楽だし安全よ。宿は私達と一緒に泊まればいいわ」
「え、でも……」
「ね?そうしましょ? アンディもリュートも良いわよね?」
「ああ、勿論」
「歓迎するよ、リク」
アンデルベリーさんとリュートさんも快く頷いてくれた。
「……はい、有難うございます。ヴィエラさん、アンデルベリーさん、リュートさん。宜しくお願いします」
僕はヴィエラさんの申し出に、笑って頭を下げた。
***
「わ───っ!待って待って待ってほんと駄目前髪は駄目やめてぇぇ!」
「何でそんなに拒むのよ!? 傷があるわけでもないんでしょ?!」
「傷じゃないけど駄目なんです!」
「そこまで嫌がられると意地でも見たくなるのよ!」
一緒に行動する、と決まった途端、部屋に入るなり、ヴィエラさんが僕の髪を切ると言い出した。じいちゃんが亡くなる少し前から一度も切っていない僕の髪はもっさもさだ。後ろは良いけど前髪を切られたら目が丸見えになっちゃうじゃないか。フェリは綺麗と言ってくれたけど、普通の人は気味悪がるんだ。じいちゃんからも目の事を知られたら珍しくて見世物小屋に売られるって散々脅されている。見世物小屋なんて絶対やだ。
逃げ回る僕をヴィエラさんがハサミをチョッキンチョッキンして追いかけて来る。目が怖い。髪の毛の事が無くても怖い。
「おい、ヴィエラ、その辺にしてやりなよ。本気でびびってるだろ?」
お茶を飲んでいたリュートさんが苦笑を浮かべてヴィエラさんを止めてくれる。僕はリュートさんの後ろに逃げ込んだ。ヴィエラさんは腰に手を当て、ぷぅっと膨れてじとっと僕を睨み付ける。
「もう。せめて理由くらい聞かせなさいよ。じゃないと寝込み襲うわよ?」
ひ───っ。この人本当にやりそうだ。綺麗なのに執念深そう。見せるまでずっとこれが続く予感しかしない。
「じゃぁ、見せますけど……。見世物小屋に売るとか無しですからね……?」
僕は念を押してから、渋々前髪を上げて見せる。このまま目を閉じて居ようかと思ったけれど、それだときっと寝込み襲われる。僕は恐る恐る、ぎゅぅっと閉じていた目を開けた。反応が怖い。ヴィエラさんもアンデルベリーさんもリュートさんも僕を覗きこんでいた。目を丸くはしたけれど、そのままじっと凝視される。反応が無いのが逆に怖い。
「わぁお。これはまた……。うん、リク、やっぱり切ろう、前髪!」
……物凄く良い笑顔で宣言された。ええ───っ?!僕は慌てて前髪を下ろしておでこをはっしと抑えた。
「なんでですかっ!」
「だって勿体ないじゃないの! 私があんたなら自慢にするわよその瞳! ああ見せびらかしたい! 連れ歩きたい!!」
「意味判んないですよぅっ!」
「ふぅむ、ヴィエラじゃないけど、こりゃ綺麗だ。隠す事ないと思うぞ?」
「うん、空を写した鮮やかなコバルトブルーの瞳に聖なる竜のアメジストの瞳。神の遣わした奇跡だね」
「……聖なる竜?」
僕が聞き返すと、リュートさんは徐に竪琴を手に取り歌い出した。リュートさんの紡ぐ歌は、人に憧れた竜のお話だった。竜は人に化けて街に行き、人間のふりをして暮らしている。けれど、疫病が流行った時に竜は大好きな人間の為に、万病の薬になる自分の血を国中の人に分け与えて、最後の一人に血を上げると、そのまま眠る様に息絶えてしまうのだ。人々の為に命を捧げた竜の死を嘆き悲しんだ人々の想いは神様に伝わって、竜は息を吹き返す。竜の体から鱗が剥がれ落ちていき、竜は大好きな人間になれました、というお話。
僕は歌を聞き終えて、ほぅっとため息をついた。リュートさんのお話は面白い。
「この物語に謳われている竜、グランデュエがね、紫色の瞳だったと言われているんだよ。美しいアメジストの瞳を持つ竜なんだ。リクはその瞳を誇っていいと思うよ」
にっこりと優しく笑うリュートさんの言葉に、僕はほんの少しだけ、この目が好きになれた。
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