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第13節 美々面が突然襲ってきた眠りから目覚めると……

 美々面が突然襲ってきた眠りから目覚めると、すぐ傍に自分を連れ去った男がいるのが目に入った。

 驚いて後ずさりした美々面だったがすぐに男の注意がこちらに向いていないことに気付く。

 男は身を屈めて美々面とは反対側の方に注意を向けていた。

 男からは先ほどまでの落ち着き――無力で無抵抗な相手を前にした余裕――は消え去り、小さくなって息を潜める様子は怯えているようにすら見えた。

 美々面が困惑していると風の音に混じってどこかから人の声が聞こえてきた。


「美々面ー。いないのかー」


「美々面ちゃーん」


 聞き覚えのある声、圭太と委員長の声だった。

 美々面は男の態度が変化した理由が分かった。

 男は自分を探しに来た圭太たちに見つかるのを恐れていたのだ。

 美々面は声を上げて圭太たちに自分の位置を知らせたかった。

 しかしガムテープで何重にも口を塞がれていて声を出すことができない。

 手足の拘束を解くことができないかと身をよじったが、大人であっても外すことのできない拘束バンドを非力な美々面が外せるはずも無いのだった。

 それでも美々面は拘束バンドと手の間に隙間でもできないかともがいた。

 バンドはきつく縛られており僅かの隙間を作ることもできなかったが、身をよじった拍子に服のポケットに入っていた何かがコンクリートの上に転げ落ちた。

 自分でポケットに入れたことも忘れていたその機械を視界の端に捕らえた美々面、咄嗟にある考えが頭をよぎる。

 美々面は男に気付かれぬよう、ゆっくりとその機械の方ににじり寄って行った。




 圭太が初めて足を踏み入れた屋上の景色はひどく殺風景なものだった。

 身を隠すような物陰も無く先生が振り回す懐中電灯の光も空しく虚空を切るばかりだった。

 とても屋上に誰かがいるとは思えなかったが圭太と委員長は美々面の名前を呼んでみた。

 しかし何度呼んでも返事は無かった。

 

「先生、ここには美々面はいないんでしょうか」


 先生は圭太の問いには答えず、何かが気になっているのかしきりに周囲の景色を見回していた。


「いや、しかしこの風景は……。

 ここで間違いないはずだが……」


 先生はひとりごちると考え込んでしまった。

 そのとき、突然どこからか大きな音が沸きあがった。


「な、何!?」


 驚く委員長。

 その音はアラームのような機械音だった。

 屋上の強い風にもかき消されることの無い大きな音で、なにか危険でも知らせるようにいつまでも止まることなく鳴り続けている。

 三人は互いの顔を見合わせた。

 皆、申し合わせたように自分の持っている携帯電話などを確認したが誰も音の発生源を持っていないのだった。


「いったいどこから聞こえて来るんだろう」


 圭太はその場で回転して360度を見渡してみた。

 音の発生源が近くにあるのは分かるのだがどの方角から聞こえているのか判然としない。

 ちょうどサイレンは聞こえるのに救急車がどこにいるのか分からないのと同じ感覚だった。


「屋上のどこかから聞こえているのは間違いない。

 あの子に関係があるかもしれん。

 探すんだ」


 先生の呼びかけで皆で手分けして探し始めた。

 しかしさほど広くもない屋上、すぐに探す場所がなくなり圭太は屋上の縁に来てしまった。

 音の発生源は見当たらない。


「いったいどこから……」


 その時、何の前触れも無く急にアラーム音が消えた。

 先生と委員長は驚いてその場で棒立ちになっていた。

 そして圭太は、一人だけ屋上の縁の方にいたからだろう、目撃してしまった。

 さきほど三人がそこから屋上に出てきた入口のある塔屋の上、そこに何者かが立っていたのだ。

 圭太はその男が何者なのかすぐに分かった。

 少し前に職員室の前ですれ違った隣のクラスの「浮いてる」加藤だった。


「塔屋の上だ!」


 圭太は叫ぶと同時に走り出した。

 見つかった加藤は明らかに浮き足立っていた。

 彼は慌てて圭太に向けて何かを投げつけた。

 投げつけられたのは丸っこい小さな機械で、狙いが外れて圭太の大きく手前に落ちた。

 見ればそれは以前、委員長が美々面に手渡していた防犯ブザーだった。

 音を止めるために踏み潰されたのだろう、ブザーは壊れてしまっていた。

 圭太はようやく先ほどまでの異音の正体が防犯ブザーだったことに気付く。


「く、来るな!」


 加藤は震える声で叫ぶと身を屈めて圭太の視界から一時姿を消した。

 再び姿を現したとき、加藤は美々面を脇に抱えていた。

 彼は美々面を連れてどこかへ逃れようとしているようだった。


「待てよ!」


 圭太は塔屋の壁面に掛けられたはしごに飛びつくと急いで登った。

 塔屋の上に到達すると圭太は3メートルほどの距離で加藤と対峙した。


「美々面、大丈夫か!?」


 美々面は手足を縛られ口を塞がれていたが怪我などはしていないようだった。

 美々面はこんなときでも表情に乏しかったが、こちらを見てその顔の筋肉のわずかに緩んだのを見て圭太は彼女が安堵しているのだと感じた。


「今助けるからな!

 加藤、なんで美々面にこんなことをするんだ」


「お、お前には関係無い。

 俺はこの子に用があるんだ」


 加藤はじりじりと後に下がっていく。

 しかし塔屋の上の狭い空間だ。

 逃げ場など無い。


「下には先生たちもいるんだ。

 もう逃げられないぞ」


 加藤は後ずさりを続けついに塔屋の端に達する。

 これで観念するかと思いきや、圭太は加藤の口の端が微かに上がったのに気付いた。

 加藤はにわかに身を翻して塔屋の縁に足を掛けると、宙空に向けて勢いよく跳んだ。


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