ユーナ
「では勇者イッキ! 前へ」
「はっ」
俺は神官にそう言われ、姫がいる前まで階段をのぼっていく。
今は俺たちの魔王討伐を讃える式の途中だ。俺は今から姫さまに名誉ある黄金の首飾りを頂くことになる。
「イッキ、よくやりましたね」
「はっ、もったいなきお言葉」
俺はひざまづき、姫の前でかしこまる。そしてお互いの目があった。姫は俺を見てにこりと笑った。俺もそれを見て微笑む。
そして、姫が俺の首に首飾りをつけている時に俺はこっそりと耳打ちをした。
「リーフィア、今日の夜話したいことがある」
そう言うとリーフィア姫はびっくりしたような顔をしたがすぐに平静に戻り、
「わかりました。楽しみに待ってますわ」
顔を少し赤くしてそう言った。どうやら察してくれたようだ。よし、これで俺も気合が入る。
こうして魔王を倒した賞与の儀も終え、俺たちは各自与えられた部屋に戻っていった。
さて、問題はここからだ。パーティのみんなを振らなきゃならない。まずは誰にしようか。
よし、決めた。ユーナにしよう。
ユーナは一年前に俺が魔女がいると噂されていた山で発見した無口少女だ。無口でその上よくわからない魔法の研究をしていた彼女は人々から迫害されていた。
そこに俺が行ってなんやかんやで現れたモンスターとかも倒しつつ彼女をスカウトしてきたわけだが、その過程で徐々に俺たちの中も深まり、気づいたら求婚されてた。
アホみたいな説明だから本当なんだから仕方ない。
「おーいユーナ。いるか? イッキだけど」
俺がユーナの部屋をノックしてそういうとほとんど間をおかずにドアが開いた。
金色の髪に幼さの残るあどけない顔。ユーナは俺を見ると少し恥ずかしそうに口を開いた。
「なに? 夜這い? それなら歓迎。さ、来て、ほら」
「ちょ、ちょちょ。違う違う、今日はそういうんじゃなくて、大切な話だ」
「え?」
俺がそういうとユーナは期待に目を輝かせ始めた。どうやら彼女の中ではもう俺が何を言うか決まっているらしい。
やばいなこれ完全に勘違いしてるよ。これ俺が告白するみたいな流れになってるじゃん。
ああ心苦しい。こんな純粋な目で俺を見てる子を振るだなんて。けど言うしかない、いけ俺。
「あー……そのだな、ユーナ。お前とはこれまでいろいろあったわけだが」
「うん、うん!」
「魔王も倒したしそろそろあの話の答えを出そうと思ってな」
「あれってやっぱり!」
「そう婚約の話」
「やっぱりイッキはユーナのところに来ると思ってただってユーナとイッキは運命で結ばれてるから他のビッチな二人からの誘惑ととかもあっただろうけどこれからはイッキはユーナのことだけを見てればいいからね」
「へ、へーそうなんだー」
や、やべえええ。まだ俺何も結論出してないのになんかもう全てが終わった感出し始めたよ。
だめだこのまま行くとユーナは俺と結婚した気になるしおそらく取り返しがつかなくなる。ここだ、ここではっきりいうしかないぞ俺!
「ま、待ってくれユーナ!」
「なあに?」
ユーナが俺の方を上目遣いで見る。くそ、こんな時だが可愛いなちきしょう。だが俺はもう決めたんだ。
「あのな、落ち着いて聞いてくれよ?」
「うん?」
「俺はお前とは結婚できない」
「は?」
瞬間、ユーナの目が暗く淀みこちらをまるでアンデット族のゾンビのように生気のない目で見つめてきた。
「は? は? は? どういうこと意味がわからないんだけどちゃんと説明して? なんで結婚できないのなんでなんでなんでなんでユーナ何か悪いことした? ユーナはずっとイッキのために行動してきたよねそれなのになんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんで」
「いや、ちょ、落ち着けって。俺はなお前のことだってちゃんと大切に思ってるよ。けどそれは仲間としてであってやっぱり結婚とかそういうことでは……って全然聞いてないね」
俺の弁明も虚しくユーナはボソボソとなんでなんでと繰り返していた。やばい。思っていたよりかなりやばい。どうしようかなこれ逃げた方がいいかな、こっそり部屋から出て行こうかな、よしそうしよう。
そう思って踵を返して部屋を出て行こうとしたらユーナが俺の手首を掴んだ。割と強めに。俺は全身から汗が吹き出る。
「な、何かなユーナ」
「誰?」
「え?」
「イッキは誰と結婚することにしたの?」
ユーナは俯いて下を見たままそう訊いてきた。
「り、リーフィア姫だよ」
「……へぇ。パーティのメンバーじゃないんだ」
「ま、まぁね」
「ふうん。そう……わかった」
わかって、くれたのか? なんだかものすごい不安なんだが大丈夫なんだろうか。
「わ、わかってくれたかーそうかーよかったー」
「うん……イッキがそう望むなら、仕方ないね……」
そう言ってユーナは口元を吊り上げて笑った。だが、目は全く笑っていない。正直言って怖い。真っ黒に淀んだ目が俺を黒く塗りつぶしてしまいそうだ。
「そ、そうか。ごめんな」
「謝らなくて、いい。全然。ユーナに返事くれて、ありがとう。今日は、もう寝るね……」
「お、おう。おやすみ」
「うん……おやすみ」
そう言ってユーナはベッドに潜り込んで背を向けて寝始めた。
これ、いいのかな。俺もう部屋から出てっても大丈夫かな。よし出よう、出るぞ俺。
そう心でビクつきながらも俺はユーナの部屋から出た。これで残るは二人。
次は……セレナだ。
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