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パーティー解散

ブクマや評価ありがとうございます!

 一回目の森林探索を終えて王宮に帰ってくると、次回の森林探索は三日後に行うと通知された。さらに、今後は森林探索は三日に一度行う予定なので、中二日で探索の反省をしつつ次回に生かすようにと連絡があった。


 おかげでこの二日間、クラスのみんなの動きが慌ただしい。初めて実戦を経験したことでみんな様々なことに気付いたのだろう。自分の欠点を重点的に特訓する者、分からない所や疑問に思ったことを騎士に教示を乞う者などで、休憩時間も訓練場は賑わっている。


 パーティー編成の動きも出始めた。一回目の森林探索は基本的に仲良しグループでパーティーを組んだのだが、アタッカーばかりなど明らかに火力偏重なパーティーだったり、支援系ばかりで決定打にかけるパーティーになっていたりで、現状はかなりバランスの悪いパーティー編成になっていると気付いたようだ。生徒たちの間で引き抜きやトレードの動きが活発化する中、柚華にも勧誘話が殺到した。


 一回目の森林探索ではその絶大な火力ばかりに目がいってしまったが、柚華の回復魔法の威力もクラスで群を抜いている。なんでも、本来かすり傷を治す程度の効果しかないヒールも、柚華が使うと骨折や指の欠損程度なら治してしまうそうだ。しかも【聖魔法】Lv8の恩恵で聖魔法の使用に限っては消費MPも格段に少なくて済むとか。……強力な魔法を打ち放題ってどんなチートだよ。

 攻撃も回復も一人で、しかも誰も追随できないレベルでこなす柚華は、どのパーティーから見ても喉から手が出るほど欲しい存在らしい。


 とはいえ、柚華は一回目の森林探索の前も同じように勧誘されたけどそれを断って俺のパーティーに入ってくれた経緯がある。今回も大丈夫だろうと心のどこかで高を括っていたのだが……。


「すみません、兄さん。リチャードさんが出来れば神崎くんのパーティーに入るようにと……」


 二回目の森林探索を明後日に控え、柚華が申し訳なさそうにそう言ってきた。


「リチャードさんが……」

「はい。【聖魔法】と【聖光剣】のスキルは魔王討伐の要になるだろうから、早い段階でパーティーを組んで連携を深めておいて欲しいと……」


 これは後で聞いた話だが、このパーティーの斡旋にはこの国の貴族が裏で関わっていたらしい。


 この世界の人たちにとって俺たち召喚された勇者は現人神(あらひとがみ)のような存在だ。勇者の多くは魔王討伐後は元いた世界に戻ると予想されるが、もしかしたら異世界に留まることを望む勇者もいるかもしれない。そして、その勇者が自分の派閥に入ったり、あるいは自分の家と婚姻関係を結んでくれればこれほど強力な政治的カードはない。そんな計算の下、貴族たちは早い段階から勇者たちに媚びを売るように接触していたそうだ。屑スキル持ちの俺に接触してくるような貴族はおらず、そんな貴族がいるなんて俺は全く気付かなかったが……。


 そんな貴族の動きがこのパーティー編成にも影響した。貴族達は、自分が目を付けた勇者の成績が良くなるように陰で働きかけていた。高成績の助けになったとなれば勇者からも好意的に見られるだろうし、貴族側にしても、取り込んだ勇者が優秀な方が後々貴族の評価も高まる。そんな思惑が働いたようだ。


 そんなことも露知らず、リチャードさんの指示なら仕方ないと、俺は柚華に神崎のパーティーで頑張るように勧める。俺は俺で頑張るから、と。まぁ、リチャードさんの言い分ももっともだしな。騎士たちの話を聞く分には、現時点で魔王討伐の主力になりそうなのは間違いなく神崎と柚華だ。

 それに、ここで俺が我儘を言えば柚華は俺のパーティーに残ってくれると思うが、それでは柚華が俺とリチャードさんの間で板挟みになってしまう。ただでさえ柚華には世話になっているのに、これ以上迷惑をかけるわけにはいかない。


「こっちの事は気にしなくていいよ。神崎達のパーティーの方が強いから大丈夫だとは思うけど、柚華も怪我だけは気を付けてね」

「兄さん……。あちらのパーティーでの連携訓練が一段落すれば、必ず帰ってきますから!」


 柚華は涙目でそう言ってから神崎のパーティーの元に向かって言った。ボソっと「あのハゲが……」とか言ってた気がするけど、聞き間違いだろう。


 さて、柚華には俺の事は気にしなくていいと言ったものの、俺の方のパーティーはちょっと厳しくなった。

 一度実戦を経験したからわかるのだが、俺のパーティーは柚華のチート頼みだったと言っても過言ではない。大野と高山も攻撃系の職業ではないので火力はほぼ柚華に依存していたし、柚華がいないと安全マージンも一気に心許なくなってしまう。


「まぁ、ゆっくりいくでござるよ」

「そうだね、探索速度は落ちるかもしれないけど、慎重に進めば僕たちだけでも森林は攻略できると思うしね」


 大野と高山がそんな暖かい言葉をかけてくれた。


 先ほど、俺のパーティーは柚華頼みだったと言った。

 そんな風に言うと柚華以外は大したことないように聞こえてしまうが、それは柚華の性能がぶっ飛んでいるだけで、大野も高山も適正に使いこなせば渋い働きをするスキルを持っている。ただ、うちのパーティーではその性能が十分に生かせられないだけなのだ。大野の【探索】・【隠蔽】に高山の【結界】、どちらもパーティーの安全確保に大きく貢献するし、戦闘においてもアタッカーと組ませると高い相乗効果を発揮するだろう。問題はアタッカーなのだ。俺が武器が装備できて無能でなければ……。


 一度、他のパーティーへの加入を打診したこともあった。【探索】持ちの大野に他のパーティーから勧誘が来たので、その時、大野は俺のスキルの事情を相手に話した上で、良かったら俺も寄生させてもらえないかと頼んでくれたのだ。結果はやはり「ノー」。相手が最初からいい顔はしていなかったのは、武藤達の噂の効果も多少あったんだと思う。

 だが、それ以上に相手の言い分も納得のいくものだった。


 魔物を倒した時に入る経験値はパーティー内で等分なので、メンバーが一人増えるとその分のレベルアップが遅れてしまう。もちろん、その分探索スピードが上がれば稼げる経験値もトータルでプラスに持っていくことは出来るのだが、加入したのが無能な俺の場合、ただ他のメンバーへの負担が増えるだけになってしまう。しかも今は竜王剣を懸けたレベルアップ競争の真っ最中だ。俺に経験値を割く余裕はないと、相手側のアタッカーがかなり強硬に反発したようだ。


 相手の言い分はよく分かる。大野としても寄生の話はダメ元でしたようだが、俺としては頼んでくれたこと自体が嬉しかった。だから尚更、このままでは良くないと思った。大野と高山のレベリングを俺のせいで遅らせてはいけないと。


「俺のことは気にしなくていいよ。大野も高山もパーティーで役に立つスキルを持っている。今からでも頼めばどこかのパーティーに加入させてもらえるはずだよ。……だから、このパーティーは一旦解散しよう」


 二回目の森林探索がいよいよ明日に迫り、俺は大野と高山にそう話を切り出した。二人とも暗い表情をしていたが、俺が思い詰めていたのも知っていたので、そこまで驚いた顔はしていなかった。


「……片桐氏」

「解散って……。じゃあ、片桐くんはどうするの?」


 心配そうな高山に、俺は努めて明るい表情を作って答える。


「俺は、もう少し俊敏強化の訓練を続けるよ」

「……」

「そんな……」


 大野も高山も何か言いたそうにしていたが、俺の表情を見てその内面を感じ取ったのだろう。二人は無言で続きを促した。


「正直言うとね、今の寄生させてもらっている環境はすごく心苦しいんだ。もちろん、みんなの厚意には感謝しているよ。感謝しているからこそ、尚更ね。だから俺は、回避系タンクの特訓を積んで、ちゃんとパーティーの役に立つようになりたいんだ。そして、パーティーにちゃんと貢献して、その上で堂々と経験値をもらいたい」

「……」


 俺の話を聞いて、大野と高山の二人は黙り込む。しばらくして、大野がござるではない普通の口調で話し始めた。


「……そんなこと気にしなくてもいい、個人的にはそう言いたい所だけど、片桐くんの気持ちは理解したよ」

「大野……」

「僕は、待ってるから。また片桐くんと一緒にパーティーを組める日が来るのを」

「僕もだよ」


 大野と高山は少し微笑みながらそう言ってくれた。


「二人とも、ありがとう……。二人がいなかったら回避系タンクなんて思いつきもしなかった。二人には本当に感謝しているよ」

「そんな気にしなくていいよ。ゲーマーなら誰でも知っている事だしね。それにまだモノになると決まったワケじゃないから」


 正直、回避系タンクがこの世界で通じるかどうかはまだ分からない。ゲームならそういう存在もあるよという話だ。


「確かにね。でも、今の俺にはこれしかない。死ぬ気で頑張るつもりだ。だから、申し訳ないけどまた力を貸して欲しい」

「もちろんだよ。分からない事があったら何でも聞いてね」


 俺が気合を入れると、大野が眼鏡をクイッと上げて請け負った。こうして俺のパーティーは森林探索を一回こなしただけで早くも解散となってしまった。




――――




 翌日から、みんなが森林探索に出かけている間、俺は王宮に一人残って俊敏強化の特訓を行った。王宮の騎士には怪訝な顔をされたが、事情を知っているリチャードさんから俺のことは放っておくように指示が出ているようで、特に何も言われなかった。


 そうこうしているうちに一週間が経過した。

 俺は反復横飛びモドキを少しずつ早いスピードでこなせるようになっていた。ステータスを見ると俊敏が僅かに上がっている。どうやらレベルアップしなくてもステータスは多少変動するようだ。だけど、レベルアップ時のスタータスの上昇に比べると雀の涙ほどしかなく、やはり森林探索に出られない事が悔しかった。


 大野や高山、それに柚華は新しいパーティーでそれなりにやっているようで、探索終わりには、今日はどんな魔物が出たとか、レベルがいくつ上がったなんて話を聞かせてくれる。その話に感心しつつも、俺も早くみんなに追いつきたいと闘志を燃やしつつ、翌日の俊敏強化の特訓に励んだ。


 森林探索をサボっている俺を武藤たちは相変わらずバカにしてきたが、俺が柚華とパーティーを解散したことは彼らにとって愉快な事だったようで、大した嫌がらせはなかった。問題だったのは、奴らが広めていた「俺は無能でタダ飯食らい」という噂の方だった。彼らは俺が王宮に一人残って特訓している間もその噂を暇潰しがてら広めていたようで、それが思わぬ余波を生むことになった。


 それは、森林探索が始まって三週間ほど経ち、俺がようやく【縮地】の技能を習得した頃に起きた。




 その日、クラスのみんなは朝から森林探索に出かけており、俺は相変わらず王宮に一人残り、この三週間毎日続けている俊敏強化の訓練に励んでいた。

 休憩時間になり、何気なくステータス画面を開くと、スキルの下に新たな技能が加わっていることに気が付いた。


「……っ! これは……」



 ―――【縮地】。



 空っぽの技能欄に記されたその二文字を、思わず何度も見る。

 感動はあるのだが、苦労した割にあまりの味気のない習得の仕方に思わず脱力してしまった。


(嬉しいけど、何かあっさりだな。「取得しました」みたいなメッセージがあってもいいような気がするけど)


 俺がそんな事を考えていると、王宮がにわかに騒がしくなったことに気付く。


(どうしたんだろう、みんなが森林から帰ってきたのかな?それにしてはいつもより早いような……)


 と、そこでひどく慌てた騎士の声が耳に飛び込んできた。


「もうすぐ怪我人がくる!スペースを空けろ!」


 多くの騎士たちがドタバタと動き回り、急に喧騒にまみれた王宮の中、俺は見知った顔を見付け声をかける。


「ラムドさん、何かあったんですか?」

「おお、カズヤか。実は、森林でレッドウルフが出現して、勇者様の中に怪我人が出たようなんだ」

「え、怪我人っ!?」


 ラムドさんによると、レッドウルフというのは大きな赤毛の狼で、この辺りではまず見かけない魔物らしい。鋼のように固い毛皮と火のブレスを吐く手強い魔物で、騎士団でも討伐する時は数人がかりで行うという。幸い、そのレッドウルフは森の入口に待機していた騎士団によって討伐されたのだが、最初に遭遇したクラスメイトの一人が重傷を負ってしまったようだ。


 ラムドさんに詳しい話を聞いていると、怪我をしたクラスメイトとそれに付き添う女子の姿が視界に入ってきた。


梨子(りこ)ちゃん、しっかり!」

「もうすぐだから!」


 半泣きのクラスメイトに付き添われのは確か……笹本(ささもと)梨子(りこ)だ。

 重々しく担架に乗せられた笹本さんを見て、俺はゾッとした。


 ―――彼女の左腕がゴッソリなくなっていたのだ。


 急いでここまで運んできたのだろう。担架にも左腕に巻かれた包帯にも(おびただ)しい血液が付着していた。そしてその当の笹本さんは、意識があるのかないのか、真っ青な表情をして虚空を見つめているだけだった。


「大司教様に連絡はついたか!?」

「はい!間もなくお見えになるかと!」


 それから程なく、聖職者のような格好をした立派な白い髭のお爺さんが現れた。


「大司教様、お願い致します」

「―――うむ」


 大司教様は10分ほど詠唱したのち、笹本さんに向けて呪文を発動した。


「エクスヒール!」


 大司教様の掌から眩い光が溢れ、その光を浴びた笹本さんの腕がみるみる回復していく。


(すごい……)


 俺は目の前で起こる奇跡の御業に思わず目を奪われた。周囲にいる騎士たちも神々しい大司教様の姿に跪いて祈りを捧げ始める。


 いや、これは祈りを捧げたくもなるよ。現代医学なんて目じゃない、異世界魔法ハンパないな。柚華もこれが出来るようになるんだろうか……。なるんだろうな。なんせ、伝説の聖魔法使いだからな。


 大司教様の力で笹本さんの腕は完全に回復した。俺と笹本さんはほとんど面識がないが、それでも同郷であり、クラスメイトだ。彼女が無事だったことを俺は内心で喜んでいた。


 だけど当の笹本さんは、失った腕は回復したけれど、失った精神まで回復することは出来なかった。

 翌日から自室に引き籠ってしまったのだ。


 多くのクラスメイトや教育係のように親しくしていた女性騎士が笹本さんの部屋を訪れたが、彼女が部屋の扉を開けることはなかった。王宮側もレッドウルフの出現を許してしまったことを謝罪し、別の探索場所を用意すると申し出てきたのだが、笹本さんはそれらの全てを拒否した。


「―――もう絶対行きたくない!何で私ばかり怖い目に遭わないといけないの!?探索に行かなくても何も文句言われない人だっているじゃない!私のことも放っておいてよ!」


 説得をしに部屋の前を訪れた女性騎士に笹本さんが浴びせたのは、そんな言葉だった。


 


 その二日後、俺はリチャードさんに呼び出された。

 話の内容は、この王宮から俺を追放するというものだった。

ようやく前置きの終わりが見えてきました。

次回か次々回で物語が動き始めます。

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