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一縷の望みをかける

今回は全体的に暗い感じです。

明るくなるのはあと数話先の予定です。

 一日目の訓練が終了し自分の部屋に戻った俺は、着替える事もせずにベッドに突っ伏した。

 室内には部屋付きのメイドさんがいる。彼女の手前だらしないとも思ったが、今はそんなこと構っていられなかった。

 考えることが多すぎて、頭の中がゴチャゴチャする。


 騎士さんに教えてもらった『剣士』の職業は、今の俺には最悪だった。

 剣士職のステータスの上がり方は攻撃特化。つまり腕力や体力が上がりやすく、魔力は上がりずらい。そして、覚える技能も〇〇斬りなどの攻撃主体のものだ。

 武器が装備出来ず、補助系技能の習得に活路を見出そうとしていた俺にとってまさに絶望的な話となった。


「……ステータスオープン」


 ベッドに突っ伏したままの姿で、ステータス画面を開く。


 片桐 一也 ヒューマン 剣士

 Lv 2

 HP 14

 MP 3

 体力 5

 腕力 11

 俊敏 6

 魔力 2

 運  4


 

 全く補助職に向かない自分のステータスを見て、今日何度目になるか分からない溜め息をもらした。


(はぁ……。これは厳しい)


 まず、MP3では回復魔法を一回使えるかどうからしい。もちろん、今後レベルが上がればMPも増えていくだろうけど、後衛専門職に比べると見劣りするのは間違いない。

 問題は他にもある。そもそも剣士職では補助系技能を習得するのが厳しいというのだ。騎士さんによると、補助系技能の大半はMPを使うため、技能を習得する練習の段階でも多少のMP消費が必要らしい。MP総量の少ない俺では十分な練習をこなすことが出来ず、結果的に技能を習得するまでに大変な時間と労力がかかるだろうという話だった。


 そう言えば、スキルが勝手に発動している事が不思議だったが、これはすぐに答えが出た。何てことはない、同じようにLv9スキルを持つ神崎もスキルが常時発動していたのだ。

 普通、スキルは意識しないと発動しないのに常時発動とか……。さすがはLv9だ。500年間現れなかった伝説級の高レベルというだけはあって、性能がぶっとんでいる。そんな所で高性能っぷりを発揮しなくても良かったのに……。

 ちなみに、俺と神崎のスキルでは当たり前だが効果が全然違う。俺のスキルは武器を鉄くずに変えるというどうしようもない効果なのに対し、神崎の【聖光剣】はアンデッド系モンスターからの攻撃を軽減するという実に有用な効果だった。


 俺の屑スキルを聞きつけて、中学時代から俺をイジメている連中がちょっかいを出してきた。絡んできたのは、武藤(むとう)白根(しらね)、それに卑怯者の棚橋の3人だ。奴らは訓練後、ニヤニヤしながら俺に近付いてきた。


「お前、学校にいた時からどうしようもなかったが、異世界に来てもクズのまんまだな」


 武藤がそう切り出すと、棚橋と白根もそれに乗っかる。


「剣士なのに武器が装備できねぇとか、まじで無能すぎ」

「ま、無能なお前にはお似合いのスキルってことだよな」

「……」


 どうやら、見下している俺が期待以上に屑なスキルを授かったことが嬉しいようだ。

 散々な言われようだったが、俺は何も言い返せないでいた。奴らにビビっていることが大きいが、奴らの言っていることも半分事実なのだ。確かに、剣士なのに武器が使えないなんて無能過ぎる。


「あんまり俺らの足を引っ張んじゃねぇぞ」


 武藤が俺の胸倉を掴んで凄む。

 この後一発ぐらい殴られるかと思ったが、ご機嫌な奴らはあと二、三言ほど俺に罵声を浴びせると去って行った。


 ポツンと残された俺は、自然と掌を強く握り締める。

 正直に言うと悔しい。全員がスキルを授かると聞いた時、いいスキルを貰ってコイツ等やクラスの連中を見返したいという思いは僅かにあった。

 だが、その思いは完全に打ち砕かれた。


 部屋に戻り、ベッドに突っ伏した今も、悔しさや絶望感など負の感情が俺の胸の中をぐるぐると渦巻き続けている。

 

(……でも、落ち込んでばかりいても仕方ないな)


 ふと、柚華の顔が脳裏に浮かぶ。

 武藤達に絡まれる少し前、気落ちした顔で訓練場を後にする俺に、柚華が話しかけてきた。柚華は俺を一生懸命励ました後、最後に明るい声で俺に言った。


 ―――兄さん、大丈夫です。私が兄さんの分も強くなりますから。


 人によっては突き放しているように聞こえるかもしれないが、柚華が言うと違う。柚華は本気で俺の事を案じている。その上で、俺が戦えない分も戦い、俺が活躍できない分も活躍して埋め合わせするつもりでいるのだ。


(ここで落ち込んでいたら、情けなさの上塗りだよな)


 本当は引き籠りたいぐらい俺の気持ちは沈んでいる。だが、中学時代を含めて、そんな気持ちになった俺をいつも留まらせたのは、柚華の存在だった。柚華に情けない姿を見せたくない、そんな思いがあったから、繰り返されるイジメにも関わらず毎日学校に通えていたのだ。


(高山や大野が出した案に真剣に取り組むしかないか……)


 武器が装備出来ない俺でも何か戦闘に役立てないか聞いたところ、二人は深く考え込んだ後にアドバイスをくれた。結論から言うと、ステータスの俊敏を鍛えるというものだ。


 高山はまず、武器が使えないのなら仲間の盾になることを提案してくれた。敵の攻撃を一手に引き受け、仲間が攻撃をする隙を作る盾役を担ってはどうかと。これは日本のゲームにも存在しており、パーティーにおいてタンクとも呼ばれる役割だそうだ。タンクは敵の敵意ヘイトを集め、「殴られ役」になることで仲間を守る。剣士職で体力が高めの俺には割と現実的な話らしい。


 だが、どうやって敵のヘイトを集めるかに話題が移った時に問題が生じた。

 ゲームならばヘイトを集めるスキルを使ったり、最前線に出てわざと攻撃を加えることで敵の注意を引くことができる。だが、俺にはその両方が無理だった。異世界にはヘイトを集めるようなスキルはないし(少なくとも俺は持っていない)、俺は敵を攻撃をすることが出来ない。


「では、回避系タンクはどうでござるか?」


 俺が、何だそれは?という顔をしていると、大野が眼鏡をクイっと持ち上げて説明を始めた。

 普通のタンクと同じように最前線に出るのだが、そこからは攻撃を繰り出すのではなく、チョコチョコと敵の眼前を動き回る。そして、俺が敵の注意を引いている間に仲間のアタッカーに倒してもらう。


 最初それを聞いた時、まるで囮のようだと思い気がすすまなかった。隠れゲーマーの高山が、優秀なタンクがいれば戦闘が安定する、そうしきりにタンクの重要性を論じていたが、それでも気乗りしなかった。そもそも敵の攻撃を見切るほど俊敏を高めるのにどれほどの労力がいるか分からない。自信がないのだ。俺がいつも殴られてばかりというのもあるのだろう。まるで現実味の湧かない提案に聞こえた。


 だが、今はその考えが変わりつつある。もちろん、自信はないという気持ちは変わってない。だけど、補助系技能を覚えるよりは実現性が高そうに思えた。そして何より、スキルの悪さに絶望して、諦めて、腐ってしまうよりは、例え僅かな可能性でも足掻いた方がマシなような気がした。


 俺のスキルがどうしようもないという事は訓練の最高責任者であるリチャードさんにも既に伝わっている。リチャードさんによると、明日からの訓練には実技、つまり武器の扱い方なども加わってくるそうだ。武器が装備出来ない俺には別メニューを考えると言われたのだが、もしも俺に意見があるなら遠慮なく言って欲しいとも言われた。きっとリチャードさんも問題児を抱えて扱いに困っているのだろう。だけどこれは、俺だけ特別メニューを提案しやすい環境とも言える。本気で回避タンクを目指すなら、その時間は俊敏を上げる特訓に費やすべきなのだ。


 みんなと明らかに異なる訓練を行う。

 クラスメイトからは奇異の視線で見られるだろう。想像するだけで中学時代のイジメのトラウマを思い出し、胃がキリキリする。

 俺は軋むように痛む胃をギュッと抑え込むと、明日に向けて決意を固めるのだった。

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