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異世界に召喚されたのに、武器が装備できませんでした

さっそくタイトル回収です。

あんど説明回です。

 歓迎の宴の翌日。

 朝食を済ませた俺たちは、本日からさっそく戦闘訓練が始まるという事で、王宮の一角にある訓練場に集められた。


 ちなみに、昨晩は王宮に泊めてもらった。と言うより、今後の生活の場としてクラスメイト全員にそれぞれ個室が与えられた。いくら複数ある客室とはいえさすがは王宮、その室内の豪華さにはみんなが驚いていた。室内に配置されている調度品はどれも、いつかテレビで見た一流ホテルに置いてあるような逸品ばかりだし、ベッドなんてまるで現代の高級羽毛布団のように柔らかった。文化レベルはヨーロッパの中世ぐらいだと思っていたけど、この異世界も侮れない。もっとも、中世ヨーロッパの王城のベッドの柔らかさなんかそもそも知らないんだけど。


 もう一つ驚いたのが、部屋に専属のメイドが付けられた事だ。何か飲みたいだの誰かを呼びたいだの、そういう雑用を全てやってくれる。さすがに着替えや入浴を手伝うと言われた時には謹んでお断りしたけど、メイドさんは様々な事に手となり足となり動こうとしてくた。とはいえ、頭のてっぺんから足の先まで一般庶民の俺に使用人の扱い方なんて分かる訳もなく、世話を焼こうとするメイドさんに恐縮しつつも、改めてこの国の人は"勇者"を歓迎しているんだなと実感した。


「昨日は歓迎の宴もありましたし、自分のステータスやスキルを確認出来ていない方もいらっしゃるでしょう。ですので、本日はまず皆さんに自分のステータスやスキルを確認して頂くことから始めようと思います」


 訓練場に集まった俺たちに、リチャードさんが戦闘訓練の流れを説明していく。


「メインスキルはもちろん、使える技能や魔法も一通り確認してください」


 技能というのは、自分の所持するスキルから派生した"技"のことで、サブスキルとも呼ばれる。メインスキルのレベルや熟練度に応じて覚えることができ、例えば【隠蔽】のスキルを持つ大野は熟練度が上がれば【忍び足】や【変わり身】の技能を使う事が出来るという。

 魔法も熟練度に応じて徐々に使える魔法が増えていく。【聖魔法】のスキルを持つ柚華は、今はヒールぐらいしか使えないが、ゆくゆくは全ての聖属性魔法を使いこなせるようになるそうだ。

 ちなみに、スキルを持たなくても技能や魔法を覚えることは出来る。俺だって努力次第ではヒールを覚えることが出来るらしい。だがスキル持ちに比べて習熟スピードや威力が全然違うため、その辺りもスキル所持者が優遇される理由との事だ。


「ステータスの確認用に武器も貸し出しますので、必要な方は近くの騎士にお気軽にお声掛けください」


 防御力強化や属性付与などのスキル所持者もいるらしく、必要に応じて剣や弓、防具などの貸し出しを行うそうだ。


 リチャードさんの話が終わると、さっそく俺達は銘々適当に散らばってスキルの確認を始める。俺も誰かと一緒にスキルの確認をしようと数少ない知り合いの姿を探したのだが、柚華は早くも騎士さん達やクラスの連中に囲まれていた。柚華は元々クラスで人気があったが、異世界でもレアスキル持ちということで大人気のようだ。


 仕方がないので、昨日からニヤケ面が続いている大野や、近くにいた高山の二人と合流する。大野も高山も自分のスキルを試したくてウズウズしていた。ちなみに大野は昨晩も自分の部屋でスキルを試したかったらしいのだが、リチャードさんから事前に「王宮にはスキルの発動や魔力を感知する結界が仕掛けられており間違っても発動しないように」と注意されていたので、泣く泣く断念したそうだ。


「【索敵】! ……ん、んんっ!? うひょー!うひょひょひょひょ!頭の中にみんなの立ち位置が入ってくるでござるっ!」


 スキルを発動させた大野がその性能に狂喜乱舞している。ちなみに大野は全身真っ黒な服装だ。忍者と言えばやはり黒装束、ということらしい。黒い布を準備してくれたメイドさんは訝し気な顔をしていたそうだが、大野は気にしていない。いずれは黒頭巾も自作したいそうだ。一応、王宮ではやめとけと忠告しておいた。


「気持ちの悪い笑い方してないで俺のスキルの練習にも付き合ってくれよ」

「そうだよ。大野くんちょっとウザいよ」

「うひょひょひょ!……っと、拙者としたことが申し訳ない。忍たる者、常に沈着冷静でいなければならないでござった」


 そのまま延々と高笑いを続けていそうな大野を止めると、高山も大野に苦言を浴びせる。こういうとき高山は意外と毒舌だ。


 まぁ、大野は元々オタクだからな。大野にして見れば二次元(ゆめ)三次元(げんじつ)になったようなものなんだろう。多少はしゃいじゃうのも無理ないのかもしれない。


 でもさ、大野が"沈着冷静"な忍になるなんて全く想像できねー。てか無理じゃね?


「それにしても片桐氏のスキルは【武器弱化】でござるか。たしかに、名前からすると敵の武器の威力を下げる補助系スキルのようでござるな」

「デバッファーか。花形ではないけど、運用次第では結構渋い働きが出来るかもね」


 真性オタクの大野の言葉に、隠れゲーマーの高山が反応する。


「とにかく試してみるでござる、さぁ、拙者にスキルを発動するでござる」


 大野はそう言うと、騎士さんから借りてきた剣を構えた。


「ああ、行くぞ!【武器弱化】!」


 大野を仮想の敵を見立ててスキルを発動する。これで何らかの反応があるハズだが……。

 あれ? 特に変化ない?

 大野に向かって手を突き出す俺を、横で見ていた高山もキョトンとした表情で眺めている。


「……? なんか武器に変化有った?」

「……いや、特にないでござる。剣が重くなったり強度が下がったりするなどの効果がるかと思ったでござるが……」


 大野はそう言いつつ、剣を軽く振り回す。


「そもそもスキルはちゃんと発動してんのかな? 大野、スキルが発動した時ってどんな感覚なんだ?」

「ん~、何と言うか、言葉で表すのは難しいでござる」

「人によるんじゃないの? 僕なんか体感的には何もないよ。でも、明らかに見た目でスキルが発動したってのが分かるからね」


 高山のスキルは【結界】だ。スキルを発動すると半透明の膜が現れて敵の攻撃を防いでくれる。


「そっか……。まぁ、俺のスキルの事は後でリチャードさんや他の騎士さんに聞いてみよう。先に高山のスキルのテストをしようか」

「いいの?」

「昨日ここに来たばかりで知識のない俺たちだけで考えても仕方ないよ。さ、今度は俺が敵役をやるよ。高山の結界の防御力をはかってみよう」


 そう言って、大野から剣を受け取った直後だった。


 柄を握る俺の手が熱を帯び、カチリと手に馴染む感覚がする。

 ―――その瞬間、剣が目の前でボロボロと崩れ落ちた。


 「……え?」


 突然の出来事に三人の動きが固まる。

 俺達は無言のまま、先ほどまで剣だった金属が鉄くずになってカラカラと地面に落ちていくのを眺めていた。


「片桐くん……、何をしたの?」


 高山にそう聞かれるが、俺にもさっぱりわからない。


「いや、俺にも何が何だか……。剣を握った瞬間に、こうボロボロと……」


「これは……、まさか……。ちょっと待ってて!」


 困惑している俺と高野を尻目に、大野は何かを思いついたようだ。ござる口調で話す余裕もなく、どこかに走って行った。


「はぁ、はぁ、はぁ、……片桐くん、今度はこの剣を触ってみて!」


 急いで帰ってきた大野が数本の剣を差し出す。どうやら、新しい剣を騎士さんから調達してきたようだ。


「いや、何なんだよ……」

「いいから早く!」


 大野の剣幕に圧され、俺は取り敢えず一本の剣の柄を握る。すると柄に触れた手が再び熱くなり、その剣もボロボロの鉄くずに変わった。さらに二、三本の剣を握ってみたが結果は同じだ。全ての剣が跡形もなく鉄くずに変わってしまった。


「大野、これは……?」


 驚いて俺が尋ねると、大野は眼鏡をクイッと押し上げた。


「たぶん、君のスキルの力だと思う」

「え……?」

「それって……」

「そう。君のスキルは【武器弱化】。信じられない話だが、装備した武器を弱体化させるスキルのようだ……」


 そう説明する大野の表情はいつものようにドヤ顔ではない。


「装備した武器を、弱体化……?」


 俺は大野のセリフを呟くように繰り返す。

 当たり前の話だが、武器は敵を倒したり、時には敵の攻撃を防いだりする為のもので、戦いにおける命綱とも言える存在だ。当然、強力であればあるほど良い。その武器を弱体化させるって……。

 それはもうスキルじゃなくて呪いじゃねーの?


「何か使い所ありそうか?」

「……」

「……」


 オタク(おおの)隠れゲーマー(たかやま)はこの手のことで俺より知識が豊富だ。一縷の望みをかけて二人に質問してみたが、返ってきた答えは無言だった。

 

「と、とにかく、中には装備できるものもあるかもしれない!色々試してみよう!」

「そ、そうでござるな!」


 落ち込みかけた俺を励ますように二人に声をかけられ、取り敢えず、武器を借りに騎士さんの元へと向かう。

 壊してしまう可能性があるのに武器を拝借するのもどうなんだろうと思い、念の為、「武器を壊してしまうかもしれません」と言うと、騎士さんからは構わないという答えが返ってきた。何でも、スキルのテストである程度武器が破損することも想定しているそうで、準備してある武器に高価なものはないらしい。それならばと訓練所にある武器を一通り貸して貰った。


 結果は全てダメ。

 剣や槍はおろか、ナイフ、斧、ハンマー、弓、チェーンクロスなど全てダメだった。

 一つだけ、果物ナイフみたいな短刀は触ることができた。ただ、誰かに向けると武器として認識されるようで、その時点で鉄くずになってしまった。武器と道具に何か違いがあるのかな?もしかしたら攻撃するぞという俺の意識がスイッチになっているのかもしれない。

 細かいところでまだ分からない部分はあるけど、テストの結論は、俺に装備できる武器はないという事だった。


 俺が絶望感に打ちひしがれていると、騒ぎをみて騎士団の方々が集まってきた。どうやら次から次に武器を鉄くずに変える俺の行動は目立っていたらしい。


「なんと不思議な……」「斧まで一瞬でボロボロに……」「【武器弱化】など見たことも聞いたこともない」

 

 騎士の方々が驚いている。このスキル誰も知らないのかよ。まぁ、武器を鉄くずに変えるスキルなんて有用性ゼロだからな。


「しかし、弱化と言う割にはいささか威力が強い気が……。勇者様、失礼ながらそのスキルのレベルはいくつですか?」

「Lv9です」

「Lv9!?」「なんと!!」


 騎士の一人に問われて応じると、騎士団の方々がどよめいた。

 騎士さんによると、500年前に当時の勇者が確認したスキルレベルの最高はLv10。しかし、この500年、Lv9はおろかLv8ですらほとんど現れなかったらしい。今回の召喚でもLv9のスキルを所持しているのは神崎と俺だけだ。あれほど騒がれている柚華ですらLv8でしかない。まさに伝説級だな、屑スキルだけど。


「となると、スキルが強力すぎてここにある武器では弱化どころかボロボロになってしまうという事かもしれませんな」


 年配の騎士さんがそんな分析をしてくれた。でも、待てよ。という事は、もう少し強力な武器ならば俺のスキルにも耐えられるのかな?

 何気なくそう口にすると、騎士団の人達の顔が青褪めた。


 なんでだろうと思ったけど、俺は直ぐにその理由に思い至る。

 ここは王宮だからそれなりに高価な武器はある筈だ。それこそ国宝級の武器があってもおかしくない。彼らも、そういった装備がそう簡単に壊れるとは思っていないだろう。だが、対する俺のスキルも500年ぶりという伝説級のものだ。スキルのテスト程度に使うにはリスクが高すぎる。万が一、鉄くずに変えてしまったら目も当てられない。


「まぁ、武器が装備できなくとも、勇者様なら様々な活躍方法があると思いますよ」


 騎士の一人が強引に話題を変えてきた。助かったと思った俺は、その話題に乗っかる。


「なるほど、例えばどのような?」


 俺が問い掛けると、年配の騎士は一つ頷いて説明してくれた。


「勇者様のレベルの上がるスピードやステータスの増加幅は我々より大きいと聞いております。技能の習得スピードが早いとも。技能習得までは苦労するかもしれませんが、後方支援の技能を覚えれば、武器がなくとも活躍することは出来るでしょう」


 なるほど。こっちの人よりも技能習得のスピードが早いのならそういう選択肢もできるわけか。多少無理やりな気はするが、他に手が思い付かないのも事実だ。

 それにしても、初っ端からこんな強力な縛りを付けられるとは……。何なんだよこのスキルは。


「ちなみに勇者様のご職業は?」

「職業?ステータスの名前の辺りに書いてある物ですか?」

「そう、それです。スキルがなくとも、その職業に関連する技能はある程度覚えやすくなるんですよ」

「剣士って書いてありますけど……」


 俺がそう答えると、騎士さん達は今度こそ固まったのだった。

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