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竜王ティアヌース

「貴女が、さっきのドラゴン……? そんなことが……」

「だから人化の術だって。こっちの方が身体が小さい分、少ない魔力で実体化できるみたいなの」

「喋り方も全然違うし……」

「あれは余所行きの喋り方よ。考えてもみて、あんな(いか)ついドラゴンがこんな喋り方だったら嫌でしょ?」


 赤毛の少女はそう言うとコロコロ笑った。

 少女の様子は、先ほどのドラゴンとあまりにもギャップがあり、俺もルフィナも只々呆気にとられていた。

 

「まず、私の名前はティアヌース。気軽にティアって呼んで」

「ティアヌース!?」


 赤毛の少女――ティアヌースさんの名前を聞いたルフィナが瞑目した。


「知ってるのか?」

「えっと……、伝承で伝わっている三大竜王の一体の名前です。500年前に勇者が討伐したとされていますが……」

「三大竜王……」


 なんだその御大層な肩書は……。

 俺が内心冷や汗を垂らしていると、ティアヌースさんがクスリと微笑んだ。


「500年経ってもまだ名前が伝わっているのね。そのドラゴンが私のことよ。私と二人の妹達は始祖竜の直接の子供で他のドラゴンと一線を画す力を持っていたの。確かに、人間達からは三大竜王と呼ばれていたわ」

「……はぁ」


 二人の会話から察するに、ティアヌースさんは伝記や物語なんかに登場するような伝説上の人物のようだ。

 日本でいうとなんだろう? 桃太郎……はちょっと違うか。ティアヌースさんは一応実在の人物みたいだし。

 織田信長とか源義経が近いのかな?

 俺がそんな事を考えている傍ら、いきなり伝承の一端に触れてしまったルフィナは呆けたように頷くのみだった。


「500年前、私達の棲む山にアナタと同じ黒髪をした勇者達が現れた。私の同胞を殺しその素材を得る為に。勇者達は確かに強かったけど、私達三姉妹には及ばなかった。その内に勇者達も諦めるだろうと思ったその時、勇者の一人があるスキルを使ったの。そして、妹の一人が槍に封じ込められたわ……」


 思い出したくない記憶なのだろう、淡々と説明していたティアヌースさんの表情が一瞬陰った。


「そのスキルは強力だった。ほどなくもう一人の妹、そして最後に私も武器に封じられた。封印を解かれ実体化して分かったけど、他の同胞達は殺されたようね。気配を全く感じないわ」

「……」


 俺は何と声を掛けていいか分からなかった。ティアヌースさんの同胞を殺したのは、俺達のように召喚された勇者だ。この人には俺が憎い敵の仲間に見えているに違いない。


「あ、誤解しないでね。アナタには今の所、含む物はないから」


 ところが、俺の心中を察したティアヌースさんが、先回りして俺の懸念を否定してきた。


「憎い敵の同族だからって頭ごなしに敵視するのは愚かな事よ。同種族、同集団と言っても色んな人間がいるのは当たり前。竜族だって犯罪者もいたし、逆に人間にも話の分かる人もいたのだから」

「そう、なんですか……?」


 俺と、ティアヌースさんを封じた者、同じ勇者でも別の人間なのだと暗に告げられる。そう言ってくれるの嬉しいが、その言葉を簡単に鵜呑みにしていいのかどうか分からず、俺は曖昧に頷いた。


「そうよ。それに、その子―――」


 ティアヌースさんがルフィナを指差す。


「その白狼族の子はさっきからアナタを庇うような位置取りをしている。人間に狩られるのが常の白狼族がそんな事するなんてあり得ない光景よ。それだけ見ても、私達を封じた勇者とアナタを同列に扱うべきではない、少なくとも話をする前から敵意を向ける必要はないと思ったの」

「……」


 ルフィナの立ち位置を観察して、即座にそんな判断を降していたとは……。

 俺がティアヌースさんの見識眼に感嘆していると、横ではルフィナが「我が意を得たり」とばかりに首をブンブンと縦に振っていた。


「どうやら合っているようね。じゃあアナタは、どっかの勇者みたいに竜族を殺して素材にするような酷い真似はしないって事でいいかしら?」


 微笑みながら確認してくるティアヌースさんに、俺も苦笑いで応じる。


「そう思ってくださって大丈夫です。俺はティアヌースさんと敵対しません。そもそも出来るとは思えないし。それに、俺には素材が必要ないんです。強い武器を持っても意味がないから……」


「意味がない? そういえばその剣の封印を解いたのは状況的に考えてアナタよね? この500年一度も封印は解けなかったのに。どうやって封印を解いたのか詳しく聞かせて欲しいんだけど……」


 ティアヌースさんが前のめりになって質問してきた。

 俺が竜王剣を装備した途端、ティアヌースさんが姿を現した。詳しいメカニズムは分からないが、俺の【武器弱化】スキルが竜王剣に施された封印に何かしら作用した可能性が大きい。

 俺が【武器弱化】の事も含めて自分の推論を説明すると、ティアヌースさんは深く考えるこんでいた。


「……なるほどね。おそらくだけど、依代の剣がアナタの【武器弱化】の影響を受けたことで私への封印が弱まったのね」

「弱まった? 封印が解けたわけではないんですか?」

「封印はまだ残っているわ。完全に復活することが出来ないのがその証拠よ。たぶん、アナタが剣を手放すと、人化してようやく実体化できているこの身も消えちゃうんじゃないかしら? ちゃんと復活してドラゴンの身体を維持できるならもう少し戦えるんだけどねぇ」


 そう言うと、ティアヌースさんは肩をすくめた。

 簡単に言っているが俺達からすると驚愕だった。

 本調子じゃない状態であの戦闘力……。恐ろしい……。


「それにしてもアイツの【封印】もかなり高Lvだったと思うけど、その【封印】を弱めるなんてね。その【武器弱化】のLvはいくつなの?」

「Lv9です」

「Lv9!? ……さすがは勇者ね」


 ティアヌースさんは思わず大きな声をあげる。その顔は呆れているようでもあった。

 スキルLvの最高はLv10と言われているが、Lv9以上のスキル保持者ですらこの500年間現れたことがない。今回の勇者召喚でもスキルLvの最高はLv9、しかも俺と神崎の二人だけだ。ティアヌースさんが俺のスキルLvを聞いて驚いているのも納得できる。


「その、500年前の勇者が使った【封印】はLv何だったんですか?」

「正確な所は分からないけど、アナタの【武器弱化】のLvを考慮すると、それに準ずる高いLvだと思うわ」

「なるほど……」


 一つ気になるのが、パノティア王の説明とティアヌースさんの話す内容が少し異なっていることだ。パノティア王からは、倒したドラゴンの素材で竜王剣を作ったと説明を受けた。だが、ティアヌースさんは500年前の勇者パーティーの一人が【封印】を使ってティアヌースさんを竜王剣に封じ込めたと言う。

 だが、逸話や伝承なんてのは後々改ざんされたり付け足されたりするのは良くある事だ。現代に残っている戦国時代の話も、結構な部分が江戸時代に作られた創作だなんて話も耳にしたことがある。今回の竜王剣だって500年も前の話なのだ。多少脚色されていてもおかしくないのかもしれない。


「しかし、ご主人様の【武器弱化】でも完全に封印が解けないとなると……。現状では、ティアヌース様の封印を今以上に緩めたり、あるいは封印自体を解くことは難しそうですね」


 ルフィナが眉間に皺を寄せてそう言う。


「ティアでいいわよ。それより、そのことで話があるんだけど、アナタ……カズヤくんと言ったわよね? これからどうするつもりなの? 召喚された勇者として、やっぱり魔王を倒しに行くの?」


 ティアヌースさんにそう問われ、俺は自分の事情を話すことにした。

 武器が全く装備出来ずお荷物扱いされている事。それが原因で王宮を追い出された事。そして、今は必死に修行して他の勇者達に追いつこうとしている事。だから、とてもではないが現状で魔王を倒しにいくなど不可能な事。

 そこまで説明する必要はなかったかもしれないが、ティアヌースさんには俺が武器を装備出来ない事を既に伝えてしまっている。それを言ってしまった時点で、後はある程度は想像出来てしまう話だった。それにティアヌースさんは命の恩人でもある。あまり隠し事をするのは憚られた。


「なるほど、なるほど」


 俺の話を聞いたティアヌースさんはウンウンと何度も頷いていた。そしてそれは、俺を蔑んでいたり同情している風ではなかった。


「カズヤくん、物は相談なんだけど、アナタの修行を手伝ってあげる代わりに私の願い事を聞いてくれないかしら?」


 上品な微笑みを浮かべながら、ティアヌースさんはそんなことを言ったのだった。

少し更新が遅れてすみません。

これで一章が完結し、プロローグに繋がります。


次回から二章です。

章タイトルは未定ですが、魔族領中心の話になる予定です。

ここまでお読みいただき、ありがとうございました。

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