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魔族との初戦闘①

今回は残酷描写があります。

 目の前の男は魔族で、そのLvは97……。


 城井さんから齎された情報は、驚くべきものだった。

 現在の俺のLvは12。他のクラスメイト達も、確認はしていないながせいぜいLv20前後だろう。力の差があり過ぎる……。




「―――ほう、俺のステータスをこうも容易く看破するとは」


 城井さんの言葉に一番早く反応したのは、意外なことにその魔族自身だった。


「俺のステータスに掛かっている【隠蔽】はそう簡単に看破できるレベルではない。それほど優秀な【解析】スキル保持者を抱える黒髪の集団……。やはりお前らは勇者で間違いないようだな」


 魔族の男は愉しそうに口元を歪めた。


「ゆ、勇者だったら何だって言うんだ!?」

「そもそも魔族がこんな所で何してんのよ、アナタの目的は何!?」


 野口と城井さんが次々に叫ぶ。だが、当の男は、


「大きな声で喚くな。動揺が透けて見えるぞ」


 と、涼しい顔で応じるのみだった。


 くそ、余裕な態度だな。

 こっちは実力差を感じて気が気じゃないってのに。


 魔族の男が指摘した通り、俺達はみな動揺し浮き足立っていた。

 野口と城井さんが威勢よく喋っているのもその動揺を隠すためだろう。他のクラスメイト――柚華と鳥羽さんは不安そうに状況を見守り、野口とルフィナは剣の柄に手を添え魔族の男を油断なく睨みつけている。一方、先ほどまで威勢のよかった白石は、相手のLvを聞いた途端大人しくなっていた。こいつはそういうタイプの人間か……。




「俺の目的か、お前らに言う必要は全くないのだが……。まぁ、冥土の土産話としてなら語ってやってもいいかもな」




 魔族の男がスラリと腰の剣を引き抜く。


「っ! いきなりかよ!?」

「待って、こっちにはアナタと争う理由なんてない!」


「魔族と勇者が出会ったのだ、戦わない理由はないだろう?」


 魔族の男が足を一歩前に進める。


「そんなムチャクチャな!?」


 野口が悲鳴に近い声で非難するが、魔族の男の歩みは止まらない。


「どうした? "勇者"とは勇ましい者と書くのではなかったのか? その名を冠する者がまさか臆したか?」


「……」


 前島やルフィナ達前衛組が無言で剣を抜き、鳥羽さんも弓を構える。柚華も詠唱を始めた。魔族の男の安い挑発に乗ったというより、戦いは避けられないと観念した形だろう。

 魔族の男は、ようやく戦闘態勢に入った俺達を見て満足そうに頷いた。


「そうだ、それでいい。それに、お前らに戦う理由がなくとも、俺にはある」


 魔族の男は悠然と歩きながら言葉を続ける。


「一つ目は、この場所を知られたこと」


 やっぱりそれか。

 てか、それが一番の理由だろな。

 こんな場所に隠し部屋まで作って、しかもそこには怪し気な魔法陣を設置している。良からぬ事を画策しているのは一目瞭然だ。だから秘密保持の為に俺達を殺す。典型的なパターンだな。


「二つ目は、俺の上司が"もし勇者に会うような事があれば連れてこい"と言っていたこと」


 これは意外な理由だった。

 こいつの上司ってことは魔王か?

 魔王が勇者を連れてこいと言っていた? 

 会えば殺せではなくて、会えば連れてこい?

 どういうことだ?

 一体何が目的だ?



「そして最後の三つ目……、この俺自身が勇者という存在と戦ってみたかったからだ!」



 魔族の男の動きが爆発的に加速する。

 残像を残すほどの勢いで俺達に迫る。

 最初の標的にされたのは、―――野口だった。


 魔族の男の剣が、凄まじいスピードで野口に向かって振り下ろされる。

 野口も持っていた剣で応戦しようとするのだが、魔力の篭ったその一斬を防ぐことは敵わなかった。

 魔族の男の剣は、剣や鎧ごと野口の身体をあっさり分断した。




「……え?」




 呆けたような、野口の声。

 それが彼の最期の言葉だった。


 左肩から右の腰にかけて赤い亀裂が入り、血飛沫を上げながら野口は地面に崩れ落ちる。

 攻撃を終えた魔族の男は、十メートルほど進んだ地面に着地した。






 一瞬、何が起こったのか分からなかった。

 俺達はそれを、ポカーンとした表情で見つめていた。


 真っ先に我に返ったの柚華だった。

 柚華は慌てて野口の傍に駆け寄ると、回復魔法を施そうと手をかざす。

 だが、やがてゆっくり首を横に振った。


 柚華のその仕草を見て、他のクラスメイト達も事態を認識し始めた。


「いやぁぁぁっ!!」

「うわああぁぁっ!」


 誰かの悲鳴が聞こえる。悲鳴をあげているのは、城井さん、それに白石だ。



「脆い。脆すぎる。これが勇者の実力だと言うのか?」



 魔族の男は俺達に鋭い視線を向けつつ、そう言った。

 その言葉に応じたのはルフィナだった。


「どういうこと? 勇者様を殺すなんて。連れてこいと言われているのではなかったの?」


 最大限の警戒が籠められているのであろう。ルフィナの声は、普段からは全く想像出来ないほど硬くて低いものだった。


「別に生死は問わないと言われている。それに優先順位がある。ここを見られ、万が一にでも逃げられるようなことがあった場合、そちらの方が重大だ。その為には生きて捕縛することに拘るより、全員死体になってもらった方がいい」


「……降伏すると言ったら?」


「構わんが、面倒だから連れて行くのは一人か二人に限られるぞ」


「他の人は?」


「無論、死んでもらう」


 ルフィナの質問に、魔族の男は膠も無く答える。

 だが、この問答の意味を別の意味で捉えている者達がいた。


 ルフィナが時間稼ぎをしてくれている間に、俺と前島、それに柚華は落ち着きを取り戻すことが出来た。




「柚華、大丈夫か?」

「……はい、何とか」

「前島は?」

「ああ、少し落ち着いた。他の奴らは……ダメだな」

「……」


 他のクラスメイト達を横目で見ると、白石は頭を地面に付けて身体を震わせ、城井さんは泣き叫び、鳥羽さんは呆然としていた。

 

 野口が死んだ。

 クラスメイトから、初めて死人が出た。


 ここは日本ほど安全ではない。常に危険が付き纏い死が身近な異世界だ。

 そんな事は分かっている。

 ……はずだった。

 

 過去にはクラスメイトの笹井さんも片手を失うほどの負傷をしている。

 だけど、彼女は魔法の力で事無きを得た。

 だから、みんな理解していなかった。

 実際に誰かが死ぬまで理解することができなかった。

 頭では認識していても、心から理解できていなかった。


 ―――自分も死ぬ(・・・・・)可能性があるということを。


 そして彼らは今、その現実を突き付けられている。


 そう考えると、彼らのあのパニック的な反応も理解できなくもなく、逆に、何とか落ち着きを取り戻した俺達の方がひょっとすると異質なのかもしれない。





「前島、Lvはいくつだ?」

「21だ。ちなみに、ここにいる連中で俺が一番Lvが高い」


 まずはこちらの戦力を把握しようと思って聞いたのだが、むしろ絶望感が深まる答えが返ってきた。一番Lvが高い前島ですら魔族の男とのLv差は5倍近くある。野口を一撃で仕留めた攻撃力といい、俺達と魔族の男のステータスには歴然とした差があるようだ。

 前島もその事は理解しているようで、その額にはビッシリと脂汗が浮かんでいる。

 ふと隣の柚華に視線を向けると、その顔は蒼白だった。せめて柚華だけでも逃がしたい所だが、あの魔族がそれを容易く許すとも思えない。


「……」


 黙り込んでしまった俺に、今度は前島が話し掛けてきた。


「……片桐の、あの武器を破壊するスキル。あれは相手の武器に直に触れないと作動しないのか?」

「? ああ、そうだ」


 前島の質問の真意が分からなくて、取り敢えず聞かれた事にだけ答える。前島は少し考え込んでいるようだったが、やがてその口を開いた。




「……少し考えがある。分の悪い作戦だが、乗らないか?」

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