隠し部屋
いつの間にかじわじわブクマが増えて、100件突破していました。
ありがとうございます!
柚華達のパーティーの活躍で、俺達はあっさり四階層を突破した。五階層からは俺とルフィナも戦闘に加わる話になっているのだが、正直言って俺は不安だった。
と言っても、別に魔物との戦闘に不安があるのではない。
この岩場の洞窟では五階層毎に魔物の強さが上がる。つまり、次の五階層も四階層と同じ位の強さの魔物しか出てこない。このレベルの魔物なら、俺とルフィナは洞窟の外で何度も戦ってきた。今更ビビる敵ではない。
では、何が不安なのか。
ぶっちゃけて言おう、他のクラスメイト達の視線だ。
四階層の戦いでは、クラスメイト達の実力を見ることができた。と言うより、見せつけられた。俺とクラスメイト達の実力には雲泥の差があることが嫌と言うほど理解できた。そんなクラスメイト達が俺の戦いを見て、俺の実力を見て、嘲笑うのではないかと不安だった。
この期に及んでクラスメイトの視線を気にするなんて我ながら呆れるほどの小心さだとは思うけど、こればっかりは仕方がない。性格ってのは中々思うように変わってはくれないものだ。まぁ、中学三年間いじめられ続け現在進行形で一部の男子から嫌がらせを受けているので、卑屈さにも磨きがかかっているのかもしれない。どうせならもっと有意義な部分がブラッシュアップされてほしかったが……。
それに、視線を気にする理由はもう一つあった。それは―――。
「五階層に来たことだし、今度は片桐のパーティーの戦いを見せてくれよ」
「了解」
野口に促され、俺とルフィナが混合パーティーの先頭に立つ。
「じゃあ、私が【解析】で魔物を補足するから、見つけたら片桐兄に言うね」
城井さんは俺とルフィナの側に歩み寄ると、そう言った。
【解析】スキルで魔物を探すと聞くと妙な話に聞こえるが、それは城井さんだから出来る芸当らしい。城井さんの【解析】はLv6。この世界で【解析】スキルを持っている人のスキルLvは大体1~2であり、いかに城井さんの【解析】のLvが飛び抜けているかが分かる。
普通、【解析】というと道具の特性や罠の有無を調べるスキルではあるが、城井さんの【解析】の用途はその範囲に留まらない。その有効範囲が200メートルとケタ違いに広く、【解析】スキルなのに魔物の索敵まで出来てしまうそうだ。まるで擬似的な【探索】だ。
「いたよ、通路を曲がった先。ゴブリンチーフが二体」
ダンジョンを歩くこと数分、早くも城井さんが魔物を発見した。
「分かった」
「はい」
俺とルフィナが臨戦態勢に入る。間もなく城井さんの言葉通り二体のゴブリンチーフが姿を現した。
まず俺がゴブリンチーフに向かって駆け出す。ゴブリンチーフもこちらの存在に気付き、手にした弓を構えた。ゴブリンチーフ達との距離はおよそ100メートル。奴らが矢を放つ方が早いだろう。
ゴブリンチーフが矢を放った瞬間、後の方から「きゃっ!」と小さな悲鳴が聞こえた。声の主は、柚華かな? たぶん、丸腰の俺に向けて矢が放たれたことが怖かったとかそんなとこだろう。
俺は飛んできた矢を【縮地】で躱す。
ゴブリンチーフは矢が当たるものと確信していたのだろう。矢を躱され、心なし奴らが動揺している事が伝わってきた。
俺は連続で【縮地】を使い一気にゴブリンチーフとの距離を詰める。ルフィナの様に一瞬で魔物の傍まで移動するなんて高度な技は使えないが、このぐらいの事なら俺にだって可能だ。
だけど、王宮にいた頃の俺しか知らないクラスメイト達には意外だったようで、後方から、
「はや……」
という声が聞こえてきた。
今度は男の声……たぶん野口あたりだ。
俺はゴブリンチーフの目の前に移動すると、すかさずその弓を奪う。俺に掴まれた弓は忽ちボロボロと崩れ落ちた。
「―――ギッ!?」
ゴブリンチーフ達が目を見開く。
その驚きは、俺が瞬く間に距離を詰めた事に対してか、あるいは弓が突然崩れ落ちた事に対してか、はたまたその両方か。
いずれにせよ、隙は作った。
驚き固るゴブリンチーフの背後、そこに突然小柄な銀髪の少女が姿を表した。
新たな敵の出現。ゴブリンチーフは身構えようとするのだが、その反応はあまりに遅すぎた。ゴブリンチーフ達が腰の剣を抜く前に、ルフィナのショートソードがその二体の首を掻き切っていた。
「兄さん、お疲れ様です!」
戦闘が終わるとすぐ柚華が駆け寄ってきた。
「あんなに素早い動き、驚きました! それに、ゴブリチーフの弓に使ったのは兄さんの武器を壊してしまうスキルですよね? あんな風に敵に応用するなんて凄いです!」
「おう、ありがと……」
柚華はまるで我が事のように喜び、満面の笑みを向けてきた。それが気恥ずかしくて少し対応が素っ気なくなる。
柚華は俺に激甘であり、これも相当贔屓された評価であることは分かっているのだが、それでも、異世界に召喚されてからずっと【武器弱化】スキルに悩まされてきた俺にとって、この手放しの賛辞は嬉しかった。他のクラスメイト達を見ると、皆一様に驚いた顔をしていた。少しは鼻を明かすことが出来たようだ。
「片桐兄、結構やるじゃん」
城井さんもそんな風に声を掛けてくれた。ちなみに、城井さんは俺の事を「片桐兄」と呼び、柚華の事を「片桐さん」と呼ぶ。この呼び分けの基準はよく分からないが、俺も呼ばれ方に何か拘りがある訳ではないので、特に突っ込むわけでもなくそのまま会話を続ける。
「他のクラスメイトに比べたら大したことないよ」
「いやいや、他のクラスメイト達でもあんな動き出来る人そういないと思うよ」
「そ、そっか。ありがとう」
「おーし、片桐兄のパーティーも戦力として問題ないことが分かったし、ドンドン進もうか」
城井さんがそう声を掛け、俺たちはダンジョン探索を続行した。
俺とルフィナは前衛という扱いになった。と言っても、柚華のパーティーは俺達がいなくてもこの階層を余裕で攻略できる実力を持っている。非常に楽な前衛だった。むしろ、俺たちのやることはほとんど無かった。単体で魔物が出現したら鳥羽さんが狙撃して一人で片付けてしまうし、複数の魔物が現れても前島と白石が突っ込んでいってアッサリ戦闘を終わらせてしまう。結局、俺とルフィナは二~三体の魔物を狩っただけで、一先ず休憩となった。
ところで、柚華達のパーティーは今回のダンジョン探索で十階層の突破を目標としている。今日一日である程度進んでダンジョン内で一泊し、明日十階層の階層ボスに挑む。そんなスケジュールで動いているそうだ。
その途中で五階層のボスも倒す必要があるので、俺達のパーティーもそこまで一緒に行かないかと誘われた。願ってもない話だった。後日、俺達のパーティーだけでも五階層のボスには挑むつもりだが、どんなボスなのか、どうやって倒すのかを事前に見るチャンスがあるのは有難い。
「じゃあ、話が纏まったところでお昼にしましょう」
「待ってたよ~」
「腹減った~」
城井さんの言葉に、腹を空かせた男子からそんな声が飛ぶ。
「じゃあ、料理当番は私と片桐さんと……、ルフィナちゃんは料理出来る?」
「あ、はい。出来ます」
城井さんに急に話を振られ、ルフィナが慌てて返事をした。ルフィナは故郷の獣人村でよく手伝をしていた上、奴隷時代も食事を作らされる機会があったので、一通りの料理が出来る。
「オッケー。じゃあ片桐兄パーティーからはルフィナちゃんね。よし、他の人は料理が出来るまで見張りしてて。あと奏、ちょっといい?」
城井さんは手招きして鳥羽さんを呼ぶと、何やらコソコソ話していた。その話が終わり、見張り組の俺、鳥羽さん、白石、野口、前島で適当に持ち場を決める。一方、料理組に指名されたルフィナは「勇者様のお食事を私が……」と少し狼狽えていたようだが、まあ大丈夫だろう。以前、ルフィナに料理を作ってもらう機会があったが、とても美味しく日本人の口に十分合うものだった。
――――
「……あ、あの、片桐くん、今大丈夫?」
俺が見張りをしていると、後ろから名前を呼ばれた。
「鳥羽さん……、どうかした?」
鳥羽さんは一メートル以上あるロングボウを肩にかけ、両手を腰の辺りで合わせながら指をクルクルと動かしていた。何となく、その動きが落ち着きがないように見える。
「た、大した用事じゃないんだけどね。魔物と戦う時の片桐くんの動き、すごく早くてビックリした」
「お、おう」
実は、鳥羽さんと会話するのは初めてではない。鳥羽さんとは同じ中学出身で、中学一年の頃は少しは会話をした記憶がある。だけど、しばらくして俺へのイジメが始まった事で、必然的に鳥羽さんと話す機会もなくなった。たぶん、こうやってちゃんと会話するのは二年ぶりぐらいだ。
「王宮ではあんなの見せたことなかったよね?」
そうだったっけ? 確か、【縮地】を覚えたのは王宮にいた頃だったような……?
あ、そうか。【縮地】を覚えた直後に笹井さんの負傷があって、それからすぐに王宮を追放されたから誰にも【縮地】見せる機会がなかったのか。
(鳥羽さんが話し掛けてきたのは、【縮地】のことが聞きたかったからかな?)
「えーと、あれは【縮地】という技能で、まぁ疑似スキルみたいなもんなんだ。練習すれば誰でも習得することが出来るから便利なんだよ」
「誰でも? 私でも使えるようになる?」
「ああ。俺が出来たんだから、鳥羽さんだったらすぐに覚えると思うよ」
「そ、そうかな」
鳥羽さんが照れたように顔を伏せる。
やっぱり、鳥羽さんが聞きたかったのは【縮地】のことみたいだ。もしかして、鳥羽さんも【縮地】を覚えたいのかな?
「でも、私がその……【縮地】?を、覚えても、片桐くんのように魔物と戦うのは無理だと思う」
「? なんで?」
「だって、方桐くん、何も持ってないのに魔物に向かっていってるよね? その、怖くないの?」
「最初のうちはもちろん俺も怖かったよ。でも、このレベルの魔物の攻撃なら躱せるし、パーティーメンバーのルフィナは優秀な攻撃役だから。それに、王宮で有名だったから鳥羽さんも知ってると思うけど、俺は武器が装備できないんだよ。その辺は相変わらずなんだ」
鳥羽さんとそんな会話をしていると、ここで会話に割って入る奴がいた。
「なんだ、片桐は相変わらず武器が使えねーのか」
白石だった。その横には軽薄な笑みを浮かべた野口もいる。
「……」
「多少は成長したかに見えたけど、全然変わってねぇんだな」
俺が黙っていると、白石と野口はニヤニヤ笑いながら近づいてきた。突然現れた二人。そしてこの険悪な空気。隣で鳥羽さんがオロオロとしているのが伝わってくる。
「……何が、言いたい?」
「何が? そんなの分かりきってるだろ? お前は一丁前にパーティーなんて言ってるけど、結局のところあの奴隷―――ルフィナちゃんにおんぶに抱っこなんだよ。お前は奴隷を戦わせ、ただ経験値にあやかる寄生虫ってワケだ」
「寄生虫? ウケる、片桐にピッタリだな!」
白石の言葉に、野口が可笑しそう頷いた。そして、当の俺はと言うと、
「……」
情けない話だが、何も言えないでいた。
俺がクラスメイト達の視線を気にしていたもう一つの理由、それがこれだ。
ルフィナにおんぶに抱っこ―――そう言われると、俺は何も言い返すことは出来なかった。武器が装備出来ないって事は、魔物にダメージを与えることが出来ないって事。端的に言うと、俺のパーティーはルフィナちゃんがいないと成立しないのだ。実際、王宮を出た俺がレベルを4から12まで上げられたのも、ルフィナがいてくれたからだ。ルフィナがいなければ、レベル上げはおろか、魔物討伐に出ることすら出来なかっただろう。
「そ、そんな言い方―――」
「いや、鳥羽さん、いいんだ」
「でも……」
「いいから!」
俺を庇おうとする鳥羽さんを、俺は敢えて止めた。
「そうそう、鳥羽も大人しくしてなって。鳥羽も俺やソイツと同中だから分かんだろ? 下手に首を突っ込まない方がいいって事が」
「……っ!」
白石が言葉を続けると、鳥羽さんが押し黙った。
そうだ。
これでいい。
鳥羽さんはこれ以上喋らない方がいい。
鳥羽さんも俺や白石と同じ中学出身だ。
だから、鳥羽さんも知っている筈だ。
俺が中学時代にどんな扱いを受けてきたかを。
そして、それを庇った人間がどんな目に遭ってきたかを―――。
「それにしても片桐ィ。柚華ちゃんの次は鳥羽か。お前はいつも女に庇われてばっかりだな」
「いつも女に庇われてんの? くくっ、話には聞いてたけど本当に情けねぇヤツだな」
「……」
白石と野口が俺を嘲笑う。
「でも、安心しな。他のクラスメイトには俺達がちゃーんとお前の噂を広めといてやるから」
「そうそう。お前がどんな情けなくて卑怯な奴かってな!」
「……」
「風評被害って言いたそうな顔してっけど、案外そうでもねぇんだな。小さなことからコツコツと。昔の人は良いこと言うよな? 以前から暇潰しにお前の噂を広めていたお陰で、クラスメイトも段々お前の事嫌いになってるみたいだぜ? いつまでも柚華ちゃんに守られていると思うなよ?」
「……」
「クラスに戻る為に力付けてるみたいだけど、お前が力を付けて戻ってきても、その頃にはお前の居場所なんてないからな? 無駄な努力ごくろーさん」
「……ッ」
「あ、でもやっぱ俺はお前に戻ってきて欲しいわ」
唐突に、白石はそう言った。
「……?」
俺が訝しんでいると、白石が満面の笑みで言葉を続ける。
「だって、そうなったら中学の時みてぇにお前と仲良くできるだろ? また一緒に遊ぼうぜぇ?」
「……ッ!」
その言葉に、俺はハラワタが煮えくり返りそうになった。
何が遊びだ。
遊びなんて良く言う。
いじめっ子によるいじめっ子の為のいじめっ子を楽しませるだけの遊び。
コイツが言っていることは、そういうことだ。
俺は、爆発しそうになる感情を必死で堪える。
そうしているうちに、
「なんだ、何も言い返さねーのか、情けねぇ」
「つまんね」
そんな言葉を吐いて、白石と野口は去って行った。
しばらくして、項垂れている俺に鳥羽さんが言葉をかけてきた。
「……ごめんね、何も言えなくて」
「いや、気にしなくていいよ」
実際、何も言わなくて正解だった。
これはあいつ等と俺の問題なのだ。鳥羽さんが巻き込まれる必要はない。
「でも……」
「本当に、気にしなくていいから」
尚も食い下がる鳥羽さんを、俺は出来るだけ優しい口調で宥める。
鳥羽さんが俺を思いやってくれる気持ちは嬉しい。だけど、本当にこれは俺が何とかすべき話だ。あれだけ一方的に暴言を吐かれて、あいつ等に何も言い返さなかったこと――いや、言い返せなかったことは、俺自身が解決すべき問題なのだ。
あいつ等に言葉は通じない。力で、俺の実力で負けたと思わせるしかない。俺には敵わないと、そう思わせるしかあいつ等を黙らせる方法はない。俺はそう思っている。
では、何故そうしないのか? 簡単だ、俺にその実力がないからだ。仮に、さっき感情のままに爆発していたとしても、俺は返り討ちに遭っていただろう。それだけあいつ等と俺には実力差がある。
あいつ等は俺の悪い噂を広めると言った。でも、それは今に始まったことではない。王宮にいた頃からその手の噂は広まっていた。
―――片桐は武器を装備できないので探索には出れない。だが、探索は命を落とす可能性もある大変危険なものだ。結果的に、その危険な探索に出なくてもいいことになった片桐は、探索に出るクラスメイトを嘲笑している。
こんな感じだ。
あいつ等の性質が悪いところが、事実も随所に織り交ぜ、噂を否定するのを難しくしている所だ。
だからこそ、必要なのは言葉ではなく、力。
あいつらが、もはやどうこう言えない程の力をつける必要があるのだ。
俺が心中を吐露すると、鳥羽さんはしばらく無言だった。
そして、躊躇いがちに口を開いた。
「片桐くんの気持ちは、分かったよ」
「……でも、覚えていてください。今後、変な噂が広まったとしても、私は信じないから。私は片桐くんの味方だから」
「鳥羽さん……」
俺はその言葉を聞けただけで胸が震えていた。
鳥羽さんは、一つ息を吸い込むと、言葉を続ける。
「……だから、その、力を付けて、戻ってきてね」
「ああ、必ず」
俺がしっかりと頷くと、ようやく鳥羽さんも微笑んで優しい笑顔をくれた。
――――
昼食を食べ終えると、俺たちはダンジョン探索を再開した。
ちなみに、昼食は俺も含めて全員が完食した。
料理は普通に美味しかったからな。
ルフィナは最初、心配そうに俺たちの食事風景を見ていたが、俺達がおかわりするのを見てホッとした表情をしていた。
その後のダンジョン探索も順調に進んだ。
休憩時間に白石と野口に絡まれたのであまりいい気分ではなかったが、鳥羽さんに慰められていたこともあり、何かを失敗したりクラスメイト達の足を引っ張ることもなかった。もっとも、まだ低階層だ。出てくる魔物は強くはない。多少メンタル面が荒れていても、そもそも苦戦するような場面が訪れなかっただけだが。
程なく、俺たちは五階層のボス部屋の前に到達した。
「階層ボスはどんな奴なんだ?」
「魔法を使うゴブリン――ゴブリンメイジが三体出てきます」
ボス戦前の打ち合わせで俺が尋ねると、柚華が答えてくれた。
「ゴブリンが魔法を使うのか……、しかも三対も」
「はい。それぞれ火、水、雷の魔法を使ってきます。水魔法を使うゴブリンメイジは早めに倒した方がいいです。回復魔法も使ってきますから」
攻撃魔法だけじゃなくて回復魔法まで……。俺達は大丈夫だろうか?
俺が不安そうな顔をしているのが伝わったのだろう、柚華は「大丈夫です」と微笑む。
「連携されると厄介ですが、個々のHPはそれほど高くありません。分断して各個撃破すれば苦戦することはないですよ」
「おーい、城井さん。ちょっと来てくれ」
打ち合わせをしている俺たちに、遠くから野口が声をかけてきた。
何かを見つけたみたいで、城井さんの【解析】スキルで調べて貰いたいという話だった。
「なんか、ここの壁がおかしいんだ。違和感があるというか……」
「ふーん、どれどれ? ……あ、【隠蔽】が掛かってる! これ、隠し部屋みたいだよ」
「やっぱり! 隠し部屋ってことは、この先に宝箱があるんじゃねぇか!?」
思わぬ隠し部屋の発見に、クラスメイト――特に男子達が色めき立つ。
「こんな所に隠し部屋が……。前に来た時は気付かなかったなぁ」
「おい、早く行こうぜ! 絶対お宝だよ! 超強力な武器とかじゃねぇか?」
隠し部屋の中にレアアイテムの詰まった宝箱があるのはゲームの定番だ。ただ、その先にあるのは別の可能性もある。
「ま、仮にモンスターハウスだったとしてもここはまだ低階層だ。出てくる魔物もそんなに強くないはず。俺達の戦力なら大丈夫だろう」
隠し部屋には宝箱ではなくモンスターの集団が待ち構えている。ダンジョンにはそういう罠も存在するらしいのだが、前島はこのパーティーなら問題ないと言う。その強気な意見に同意した俺達は、【隠蔽】を解除して隠し部屋の中に入ることにした。
そこは、高校の教室を二、三個足したような広さだった。
部屋の中央には複雑な魔方陣が描かれており、その中央には一人の壮年の男が立っていた。
「ん? お前らどっから入ってきた? まさか俺の【隠蔽】を解除したのか?」
俺達の存在に気付き男は驚いた表情を見せる。男の肌は病的なまでに色白く、その瞳は紫の不気味な色を宿していた。
「何だ、あのオッサン?」
「やめとけ、聞こえるぞ」
「すみませーん、ここって隠し部屋ですよね? 宝箱とかないんすかー?」
明らかに怪しい男に対し、恐れを知らない白石はそんな口調で話し掛ける。男は白石の問いには答えなかったが、俺達を見て呟くように声を発した。
「……俺の【隠蔽】を破った上、その黒髪……。そうか、お前ら勇者か?」
その瞬間、男の紫の瞳が爛々と輝き、男の全身から濃密な殺気が溢れ出した。
「……なんだオッサン、殺ろーてのか?」
「待って!」
男の殺気にあてられ思わず剣を抜いた白石を止めたのは城井さんだった。
城井さの目には余裕がなく、いつもの明るさが嘘だったかのようにその表情は強張っていた。
「何だよ、城井!」
「【解析】で視えたの……。あの人は魔族よ」
「!!」
城井さんの言葉に、全員が凍り付いた。
魔族。あれが……。
俺達が召喚されたのは、魔族を統べる王、魔王を倒す為。つまり、アイツはその倒すべき敵の部下だ。
「……種族は上級悪魔。Lvは……97よ……」
そう告げる城井さんの声は、明らかに震えていた。