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クラスごと異世界召喚されました

なろう初作品です。

よろしくお願いします。

「なんだ、ここ……?」


 そこは、ただただ真っ白な空間だった。


 周囲を見回しても白。

 上を見ても白。

 下を見ても白。

 地平線もなければ天井も見えない。

 果てしない白。


 自分の身体に視線を落とす。

 両手を握ったり閉じたり。

 服をペタペタと触る。

 見慣れた俺の手と着慣れた高校の制服が視界に映った。

 数瞬前と変わりない姿だ。


 俺はついさっきまで教室にいて、クラスメイトといつものようにアニメや漫画の話で盛り上がっていたはずだ。

 はずなのだが……。

 

 そのクラスメイト達はおろか、教室の影も形も見えなかった。

 目の前には、何もない景色がひたすら広がっているだけだった。


「夢、なのか……?」


 思わず独り言が漏れる。

 不安と混乱で戸惑っていると、またもや事態が変化した。




 ―――ぐにゃり。




「―――ッ!!?」



 真っ白と感じていた空間が、突然、渦が生じたかのように歪んだ。それと同時に、俺の身体にも異変が生じる。

 まるで全身がバラバラになりそうな痛み。激しい頭痛。宙に放り出されたような浮遊感。

 胃がキリキリと締め付けられ、嘔吐感まで込み上げてきた。



「!!?―――ッ! うッ、あっああぁぁッ……!」



 頭痛、眩暈、嘔吐感……。今まで経験したことがないような苦痛が全身に走る。あまりの苦しさに正常な思考が働くなくなる。目の前がチカチカし、今にも意識を手放しかけた瞬間だった―――。





「―――絶対に、させない……!」





 男か女か分からない、でもどこかで聞いたことある様なそんな声が俺の耳に届く。

 

 それを境に、先ほどまでの痛みや気持ち悪さが嘘のようになくなった。


「あれ?」


 恐る恐る瞼を開けると、そこには馴染みのクラスメイト達が立っていた。さっきまで俺と談笑していた二人のクラスメイトもいる。

 全員が一様にポカンとしたアホ面を浮かべていた。


 何この状況?

 さっきまでの真っ白空間は何だったんだ?

 俺は白昼夢でも見て、一人で大声をあげてしまってたのか?

 だったら恥ずかし過ぎる。


 だが、周囲を見渡して、すぐに俺もみんなのアホ面の理由を悟った。と言うより、この時、俺もこいつらと同じような間抜けなアホ面を晒していたんだと思う。




 ―――そこは、見慣れた教室ではなく、西洋風の、まるで城のような豪華な建築物の中だった。




 大きさにして学校の体育館ぐらいだろうか。建物の壁面は豪華な装飾がなされており、バロック式だかゴシック式だか分からないが、前に世界史の教科書で見た西洋の大聖堂を連想させた。

 床に目を落とすと、複雑な幾何学模様の図――まるでゲームや漫画に登場する魔法陣の様なものが描かれていて、その周囲にはローブを纏った人間やゲームに出てくる騎士っぽい格好した男が何人も立っていた。


 ―――って、騎士!?

 何だあれは!? コスプレか?

 何でコスプレ―ヤーがこんな所に……。

 しかも完成度が高い。


 いやいや、良く見るとコスプレと言うより、顔が思いっきり西洋人だ。

 あんな人達、確実に学校にいなかっただろ。

 一体どこから忍び込んだんだ?

 何なんだよ、この状況は。


「お、お、おおお……」


 俺が周囲の様子を窺っていると、急に横から奇妙は声が聞こえてきた。声の主はさっきまで教室で雑談していたクラスメイトの一人である大野(おおの)だ。彼は手をワキワキさせ、額から油汗を垂らしながら身を震わせていた。


 尋常じゃない大野の様子をみて、俺は一瞬前に体験した白い空間での激痛を思い出す。もしかしたらコイツも同じ目に遭い、何かしら身体にダメージを受けてしまったのかもしれない。


「お、おい……大野、大丈夫か?」


 具合を確かめようと大野の肩に手をかけた瞬間、大野は目を見開き大声で叫んだ。


「い、異世界召喚、キターーーーーーッ!!」


 大野の絶叫に周囲にいた何人かのクラスメイトが反応する。


「い、異世界召喚……?」


 教室で俺や大野と雑談に興じていたもう一人のクラスメイト、高山(たかやま)が訝しげに尋ねる。


「そうだよ、高山くん! これが僕がいつも話していた異世界召喚だよ!」


 大野は所謂オタクだ。しかも、二次元女子にしか恋愛感情を抱くことができないという極めて重度のオタク。もっとも、クラスの三次元女子達もそんな大野を気持ち悪がって近付いてこないので、結果的に大野とクラス女子はお互い干渉しないというwin-winな関係を築いていた。


 でも俺は、そんな大野とそれなりに仲良くしていた。席が近かったというのもあるが、寂しい話お互い友達が少なかったというのが大きい。まぁ、オタク談義でスイッチが入った時に鬱陶しいことを除けば、大野は基本的に人畜無害だ。コイツの勧めてくるアニメも意外と面白いしな。



「……じゃあ、ここは異世界で、僕たちはこの人達に召喚されちゃったってことなの?」

「然り!」


 然り、じゃねーよ。普通に喋れ。ちらりと高山の様子覗うと、彼も胡散臭げだった。まぁ、普通に考えていきなりそんな荒唐無稽な話を信じろって言う方が無理だ。だけど、高山は大野に何も言い返さなかった。いや、言い返せなかった。

 

 俺も高山も「大野がまたバカなこと言ってる」と内心では思っている。

 でも、だ。

 じゃあ、この状況は何だ? と問われたら、俺達は何も答えることができないのだ。


 西洋の城のような場所にいきなり連れてこられ、コスプレ集団に囲まれている。

 今、目の前で実際に摩訶不思議なことが起こっているのだ。俺達には、大野の言葉を頭ごなしに妄言と切り捨てることが出来なかった。


「……」


 俺達が困惑していると、西洋人の集団から一際身なりの良さそうな少女が一歩前に歩み出てきた。


「お、おい、誰か出て来たぞ」「可愛い……」「お姫様みたい……」


 少女の姿を見たクラスメイト達がざわめき出す。確かに綺麗だ。年は俺達と同じ十代半ばから後半ぐらいだろう。眩い金色の髪を背中まで伸ばし、ヨーロッパの貴婦人のような豪華な服装はファンタジーに登場するお姫様を連想させる。


「ようこそ、異世界からの勇者のみなさん。私はこのパノティア王国の第一王女セシア=パノティアです」


 透き通るような凛とした声が大聖堂に響き渡った。


「はぁっ!?」「い、異世界!?」「何言ってんだ?」「王女って言ったよね?やっぱりお姫様!?」


 王女様の発言を聞いてクラスの連中が一層騒ぎ出す。すると、それを見かねたのか、王女様の後ろに控えていた禿げたオッサンが少し前に歩み出た。


「みなさん、静粛にっ!!!」


 うおっ! 声でかっ!


 おっさんの大声量が大聖堂に響き渡る。ビリビリと空気が震える様な圧力を感じ、さっきまで好き勝手喋っていた連中は途端に静かになった。


「混乱されるのも無理はありませんが、今は事情を説明させてください」


 オッサンはそう言うと、王女様に一礼して元いた位置に下がった。


「コホン、まずは、こちらの世界に突然召喚し、皆様を困惑させてしまったことお詫びさせてください」


 そう言って王女様が丁寧にお辞儀をすると、後ろに控える騎士たちが少しざわめいた。

 そうか、王女様だもんな。

 たぶん王族が頭を下げるってのは異例なことなんだろう。


「ですが、私たちにも止むを得ない事情がありました。実は今、我々人間は非常に危機的な状況にあります。この大陸の果ての地にて、魔族を束ねる邪悪なる者、魔王が500年ぶりに復活したのです。魔王は世界を征服せんと侵攻を開始し、瞬く間にこの大陸にある二つの国を滅ぼしました。この非常事態に我がパノティアを含む世界の国々が一致団結しました。そして、古の召喚魔法によって、異世界から勇者様を召喚することを決めたのです」


 それがあなたたちです、と王女様は言った。


 ……。

 何というか、話しの内容があまりにぶっ飛び過ぎていて、みんなポカーンとしている。俺もポカーンとしている。大野だけやたらニヤつきながら「まずはテンプレ通り」とかほざいていた。


「実は500年前にも魔王と呼ばれる邪悪な存在が襲来しました。その時も、異世界から召喚された勇者様達によってこの世界は守られました。どうか皆さん、危機に瀕する我々を助け、この世界を救って頂けないでしょうか?」


 王女様は、俺達一人一人に語りかけるようにそう言う。

 その清らかな声と圧倒的な存在感に飲み込まれそうになってしまう。


 いや、ちょっと待て。

 ついつい金髪美少女の見た目に意識がいってしまうが、この王女様、さっきサラリととんでもないことを言ったぞ。

 王女様の話によると、どうやら前にも魔王が来て、同じように召喚されちゃった人達がいたようだ。で、前回、その人達がうまくやったもんだから、今回も誰か召喚することにした。そして、俺達が召喚された、ということらしい。

 何と言うか……。

 いや、もう、何と言っていいか本当に分からない。

 こんなことってあるの?

 



「……つまり、俺達に、その魔王の討伐をしろってことですか?」


 いち早く立ち直った委員長の高橋(たかはし)が王女様に質問した。

 凄いな、この雰囲気で質問とか。あいつ肝が据わってんな。


「その通りです」


 王女様はキッパリと答えた。


「はぁっ!?」「ええー!まじかよ!?」「むりっ!絶対むりだって!」「いきなりこんな所に連れてきて何言ってんだ!?」


 それを聞いて、クラスの連中が再び騒ぎはじめる。

 みんな軽くパニックだ。一応、王女様の前だと思うのだが、それを気に掛ける余裕もないのだろう。


「王女様、その、俺達は一介の高校生……、つまり一般人にすぎません。魔王討伐などとても無理な話だと思いますが……」

「ご安心ください。異世界から召喚された皆様には特別な力――スキルや強力な力が身についている筈です。その力を万全に使いこなせば、万の軍にも匹敵する力を発揮できると言われています。かつての召喚された勇者様達もそのお力で見事な活躍をなさったとか……。そうですね、まずは実際に見て頂いた方が話が早いでしょう。リチャード!」

「はっ!」


 王女様が名前を呼ぶと、先ほどの禿げたおっさんが前に歩み出た。


「王女殿下に代わりまして説明させて頂きます。リチャードと申します」


 ハゲおっさんはそう言って丁寧に礼をする。


「実は、この世界にはステータスプレートと呼ばれるものがあり、自分の能力値をその画面で確認することができるのです。実際にやって頂くと分かり易いと思います。先ほどの貴方、お手数ですが、『ステータス・オープン』と唱えて頂けませんか?」


 おっさん――リチャードさんが高橋に向かってそう言う。高橋はおっさんを訝し気に見ていたが、このままでは話が進まないと思ったのか、言われたことに従った。


「『ステータス・オープン』 ……うおっ、何か出た!」


 高橋が目の前の空間を見つめ、何かに驚いている。

 何か出たのか?

 俺達には何も見えないんだけど……。


「これがステータス画面です。内容は本人にしか確認することができません。どうぞ他の皆さんも『ステータス・オープン』と唱えて自分のステータスを確認してください」


 半信半疑のクラスメイト達は、恐る恐る呪文?を唱える。そして、実際にステータス画面を確認した生徒たちから次々に驚きの声があがった。


 「『ステータス・オープン』」


 俺が少しビビりながら言葉を発すると、目の前にA4サイズぐらいの黒い画面が現れた。その黒い画面には白い文字で何やら書いてある。これがステータス画面……。まるでゲームだな。

 隣で大野が「むふふふっ!」と気持ち悪い笑みを浮かべている。


 ステータス画面の内容を確認してみる。



===============


 片桐(かたぎり) 一也(かずや) ヒューマン 剣士

 Lv 2

 HP 14

 MP 3

 体力 5

 腕力 11

 俊敏 6

 魔力 2

 運  4


===============


 レベル2……?

 何か、このステータスあんまり強くなさそうな……。




 そんな風にステータス画面を眺めていると、横から声が掛けられた。


「兄さん、ここにいたんですね!」


 妹――といっても父と再婚した義母の連れ子だが――の柚華(ゆずか)が、安心したような笑顔を浮かべながら、俺の方に走り寄ってきた。


 街ですれ違ったら十人が十人振り返るであろう整った容姿。戸籍上とはいえ、よくこんな可愛い子と兄妹にしてくれたと、親父には感謝してもしきれない。

 だけど、可愛い義妹がもたらしてくれたのは幸せだけではなかった。


「ああ、柚華も無事で良かったよ」


 可憐な笑顔を向けてくる柚華にそう返すと、俺はさり気無く周囲を見回した。


(こんな場面を見られたら、またアイツらから嫌がらせをされるな……)


 実は俺はクラスで軽くイジメにあっている。俺の友達が少ないってのはそれが理由だ。

 「軽く」と言うのは、表立って嫌がらせを受けないという意味だ。中学の時は酷かったのだが、高校にあがって表面上のイジメはピタリと収まった。その理由は単純で、目の前の美少女――柚華の存在が大きい。ストレートの黒髪を肩まで伸ばし整った顔立ちの柚華は、校内でも指折りの美少女と言われている。そんな柚華の手前、義兄である俺を表立ってイジメる奴はいなかったのだ。


 いや、入学当初はいた。同じ中学出身の奴らは、高校でも同じノリで俺をイジメようとしてきた。だけどそいつらは、俺に別の中学に通っていた同学年の義妹がいるなんてことを知らなかった。その義妹が同じ高校に入学してきたってことも。

 

 入学後間もなく始まった俺のイジメに対し、柚華は全力で庇う姿勢を見せた。実は柚華は、中学の頃から俺がイジメに遭っていることを薄々感づいていたらしい。恥ずかしいから必死に隠していたつもりなんだが、バレバレだったようだ。何か力になりたい、私に出来ることはないだろうか、柚華は前々からそう思ってくれていたそうだ。兄としては情けない話だが、柚華にはまじで頭があがらない……。


 柚華が庇ってくれたお陰で表面上のイジメは収まったものの、これに面白くないと思った連中がいた。同じ中学出身で、入学早々俺をイジメようとして柚華に嫌われた連中だ。高校生活が始まって直ぐに校内でもトップクラスの美少女に嫌われるなんてこんな嫌な新生活のスタートはない。連中はしばらくは大人しくしていたが、ほどなくして柚華や他の女子の目の届かないところで俺へのイジメを再開した。雑用を押し付けられたり、体育館裏で殴られたり、柚華のいやらしい画像を撮ってこいなんてのもあった。もちろんそれは拒否した。そしたら、また殴られた。


 イジメがエスカレートするにつれ、クラスの男子の中にはイジメに同調する連中が現れ始めた。どうやら、義兄という立場とはいえ、柚華と親しげに喋っているのが気に食わなかったらしい。そうこうしている内に俺はクラスの男子からハブられ、同じく友達のいなかったオタクの大野や、根暗の高山ぐらいしか喋るやつがいなくなってしまった。まぁ、それでもクラス中からイジメを食らっていた中学時代よりは随分マシだけど……。





 大聖堂の中央ではリチャードさんによるステータスの解説が続いている。引き続き委員長の高橋が例にされ、今はスキルの説明が行われていた。


「ほう、貴方は【火魔法】のスキルをお持ちなんですね」


 高橋の所持スキルを聞いたリチャードさんが、感心したような声をあげた。


「スキルLvは4ですか。ならば初期魔法のファイアは覚えているでしょう。……ふむ、やはりそうですか。では、実際にやってみましょう」

「え? ファイア? 魔法?」

「そうです、手を前に出して、燃え盛る炎をイメージして。よろしいですかな? ……では『ファイア』と唱えてください」


 リチャードさんに言われるがまま、高橋は腕を前に突き出した。


「えっと、……フ、ファイア!」


 高橋がそう叫ぶと、なんと掌からバレーボールぐらいの火の玉が飛び出した。


 すげえ!


 火の玉はそのまま大聖堂の壁に激突し、周囲に火の粉を巻き上げる。リチャードさんの指示で(あらかじ)め人払いを済ませていて正解だ。あれは当たったら大惨事になる。


 火の玉を放った高橋は、放心したように自分の掌を見つめている。

 クラスの連中も驚いているようで「すげぇ」「何、魔法!?」「まじでファンタジーじゃん」なんて声があちらこちらから聞こえてくる。


「うひょーー! ふぁいあっ!!」


 大野のテンションはもはやおかしい。どうやら歓喜のリミッターが外れてしまったようで、両手をあげながら小躍りしていた。


「……凄いですね、兄さん」

「……ああ……」


 呆然と呟く柚華に、俺も呆けたような言葉を返す。


 大野ほどではないが、俺や柚華、それに他のクラスメイト達も明らかに表情が変わっていた。

そりゃそうだ。

 こんな物まで見せられたら、信じざるを得ない。

 


 


 大野の言った通り、俺達はマジで剣と魔法のファンタジー世界に来てしまったようだ―――。






「それでは、皆さんもスキルやステータスの確認を行ってください。分からない事があれば近くの騎士に何なりとお尋ねください」


 リチャードさんがそう言うと、クラスメイト達もみんなも自分の能力を確認し始めた。


 どうやら火魔法以外にも風や水など色々な魔法があるらしい。スキルも様々な種類があり、例えば【腕力上昇】のスキルがある奴はスマホを素手で押し曲げていた。


「このスキルは、従来のステータスに大幅なプラス補正を与えてくれたり、魔法を覚えやすくするなど様々な恩恵があります」


 ステータスやスキルを確認する俺達の様子を窺いつ、リチャードさんは説明を続ける。リチャードさんによると、このスキルというのは全ての人が持っているものではないらしい。大体50人に1人ぐらいの割合でしか持って産まれてこないそうだ。なかには後天的に授かるケースもあるのだが、それには多大な努力が必要という話だ。


しかし、例外はある。それが異世界人だ。召喚された段階で、異世界人は何故か必ず何かしらのスキルを所持している。しかも強力でレアなスキルを持っている場合が多いと言う。


「それが異世界人の皆さんが"勇者"と呼ばれる理由の一つなのです」


 その話に、俺はなるほどと思った。

 スキルを持っていれば能力的に他者より優位に立てる。きっと、スキル所持者というだけでかなり優遇されるのだろう。そんな強力な人材を一度に、しかも大量にゲットできる。少しだけだが、この世界の人が異世界召喚に懸ける気持ちが理解できたような気がした。




「兄さん、私は【聖魔法】というスキルがあるみたいです。兄さんはどうですか?」


 俺の横でステータス画面をスクロールしていた柚華が顔を上げ、そう聞いてきた。


「ああ、俺は―――」


 俺が自分のスキルを言おうとした時、近くで俺達の会話を聞いていた騎士が割って入ってきた。


「ちょっと待って下さい! 貴女のスキルは【聖魔法】と言いましたか!?」


「え? あ、はい。……えっと、【聖魔法】で、間違いないみたいです」


 ひどく慌てた様子の騎士に気圧されつつ、柚華は自分のスキルを再確認した。


「……なんと」


 柚華の言葉を聞いて騎士が絶句してしまった。


「……あの、【聖魔法】っていうのは?」

「……【聖魔法】は、500年前に当時の魔王を打倒した勇者様の一人が使われていた、今では伝説と言われるスキルなのです」


「……へぇ」


 いまいち意味が掴みかねている柚華は、そんな変な声を出した。そして、俺に「どいうこと?」とでも言いたげな視線を向けてきた。

 いや、そんな目をされても俺も困る。俺だって意味が分からない。何か凄そうってのは分かるけど。


「これは急いで隊長に報告しなくては。 隊長! リチャード近衛隊長っ!」


 そう言って、騎士さんはリチャードさんの元に駆けて行った。

 リチャードさんって近衛隊長だったんだ。




「なんと……、【聖魔法】ですか。先ほど、別の勇者様で【聖光剣】のスキル保持者がいたというのに……」


 柚華から所持スキルを聞いたリチャードさんが目を見開いてそんなことを呟くと、周りの騎士たちがどよめいた。


「【聖魔法】に【聖光剣】!」「まるで伝説の再来ではないか!」「素晴らしい、これで魔王討伐は成功したも当然ですな!」


「え、えっと……」


 興奮して盛り上がる騎士たちに囲まれる柚華だが、当の本人は状況が全く飲み込めずに困惑した表情を浮かべていた。

 

(何か、凄いことになったな)


 俺はそんな柚華を遠巻きに眺めつつ、そう言えば自分のスキルをまだ確認していなかったことを思い出す。


(えっと、どれどれ……。ん?【武器弱化】?)


 そこには、俺にピッタリというか、貧弱そうなスキル名が記されていた。

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