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冒険の準備

 冒険者ギルドを出て、次に向かったのは柚華のいる王宮だ。柚華にはルフィナの尻尾や顔の傷の治療で世話になったからな。ルフィナが無事だったことを報告しようと思ったのだ。

 それに柚華には個人的にお礼もしないといけない。何がいいかな……。


 柚華に会いに行くと聞いたルフィナは非常に張り切っている。実は柚華に治療されるまで、ルフィナ自身が尻尾や顔の傷が治ることを諦めていた。その傷を柚華に完全に治療してもらった訳だが、その時ルフィナは意識が朦朧としていてちゃんとお礼が言えていなかった。だから、柚華には改めてしっかりお礼を言いたいと思っていたらしい。ちなみに、柚華は俺の妹であり、だから治療費はいらなかったと言うと心底驚いている様子だった。


 王宮に行くのなら、ついでに大野や高山にも一言声をかけるか。

 でも、高山はともかく大野の獣人に対する執着心は異常だ。大野にルフィナを会わせたらおかしな事になりそう気が……。

 いや、奴隷購入についてアドバイスをくれたのは大野だ。やはり挨拶しておこう。


 そんなことを考えつつ王宮を訪れたのだが、生憎と柚華たち勇者は探索に出て外出中だった。ルフィナは少しガッカリしていたが、こればかりは仕方がない。また次の機会にルフィナを紹介することにしよう。


 次に向かったのは武器屋だ。


 武器が装備出来ない俺の分まで、ルフィナには魔物と戦ってもらう必要がある。自分より年下の、しかも女の子に頼むのは申し訳ないとしか言えないが、その分、それなりの物を準備してあげようと思っている。

 幸いなことに、王宮からの支援金が17万ゴルド(日本円にして1700万円)ほど残っている。昨日、宿のおばちゃんにこの世界の武器の相場を尋ねたところ、一般の武器なら1000~2000ゴルド、上級の武器でも1万ゴルドも出せば十分と言われたので、資金的には大丈夫だろう。


「いらっしゃい、今日はどんなご用で?」


 武器屋に入ると、小学生ぐらいの身長をした、筋肉隆々のおっさんが話しかけてきた。


 おお、これはもしかしてドワーフっやつか……。

 ファンタジーの定番だが、生で見ると何かこう、凄く違和感がある……。


 ルフィナによると、ドワーフも獣人ほどではないが人間から差別を受けている種族らしい。街の中にいるのはそう珍しくないが、地位や名誉を持つドワーフもほとんどいないそうだ。もっとも、ドワーフも職人気質で地位などに興味がないのでそれで特に問題ないらしいが。

 それにしても、人間は他種族を差別してばっかりだな。いや、少し違うか。人間は人間以外の全ての種族を侮蔑の目で見ているのだ。


「あ、えっと。この子の武器を探しに……」


 俺は内心の動揺を隠しつつドワーフのおっさんに用件を話す。俺に促され、ルフィナが一歩前に出た。


「この子……? わざわざ獣人の奴隷のために武器を選ぶのか?」


 ドワーフおっさんが訝し気に尋ねてくる。


「はい。彼女は【短剣術】の技能を持っているのでそれに見合ったものを」

「ふむ。予算はどれくらいだ?」


 ドワーフおっさんの問い掛けに、俺は5枚の金貨を取り出して机に並べる。5金貨=5万ゴルドの輝きを見て、ルフィナは尻尾をピンっと立てて固まってしまった。


「取り敢えずはこれで。良い武器があれば追加も出します」

「……ほぉ。酔狂な奴もおるもんだ。ちょっと待っとれ」


 ドワーフおっさんは楽しそうに口元を歪めると、店の奥に消えて行った。

 しばらくすると、固まっていたルフィナが口を開く。


「……あ、あの、ご主人様……。こんな大金……」

「ん? ああ、ルフィナと俺の命を守ってくれる武器だからね、それなりの金額をかけようと思って」

「……ありがとうございます」


 ほどなく、ドワーフおっさんが一振りの短剣を抱えて戻ってきた。


「丁度、嬢ちゃんの体型に合いそうなのがあったぞ」


 そう言うと、ドワーフおっさんは机の上に銀色の鞘に納められた短剣を置く。


「これは……?」

「嬢ちゃん、抜いてみな」


 指名されたルフィナは驚いて俺の表情を覗う。俺が頷くと、恐る恐る銀の短剣を鞘から引き抜いた。


「……おお……」

「きれい……」


 露わになった銀の刀身を見て、俺とルフィナは思わず感嘆の声を漏らす。


「魔法金属のミスリル銀を使ったショートソードだ。高価で貴重なミスリル製の武器の中でもコイツはちょっと特別性でな、刀身に使われているミスリル銀の量が通常より格段に多い。その分、魔法伝導が高く、使い手によっては相手の魔法を切り裂くことだってできる」


「相手の魔法を、切り裂く……」


 何それ。超カッコいいんですが。


 ルフィナはゴクリと喉を鳴らし、手に持つ銀の短剣を眩しげに眺めている。


「ま、本来ならこのショートソードは5万じゃきかねぇんだが、最近じゃショートソードに金をかける奴も少ねぇ。これで良いってんなら5万で売るが、どうする?」


 ルフィナをチラリと見る。ルフィナは緊張で言葉を発せないようだったが、その尻尾が僅かに揺れているのが目に入った。


「買います」

「まいどあり」


 俺が即答すると、ドワーフおっさんは濃い髭に覆われた口元を歪め、ニヤッと笑った。


 ルフィナの剣も無事に決まったので、ついでにドワーフおっさんの所で防具も揃えることにする。ドワーフおっさんは俺とルフィナの戦闘スタイルを聞くと、適当に数点見繕ってくれた。

 俺もルフィナもスピード重視の戦闘スタイルなので、革製品中心の軽めの装備。ただ、タンクが見込まれる俺は少し防御力を重視し、胸当てなどは鉄製にした。


「嬢ちゃんにはこのカエンウシの皮を使ったローブはどうだ? 軽いのに耐熱性に優れていてかなり優秀だぞ」


 カエンウシとは、大陸南部に生息する、灼熱の炎を吐き空を自在に飛び回る強力な牛の魔物のことらしい。牛が空を飛び更に火を吐くとか想像もできん。さすがは異世界だ。


 なかなか高そうな装備だが、買うことにした。俺やルフィナの命には代えられない。俺は他の勇者みたいにチートを持っているわけじゃないからな。こういう所で惜しむ訳にはいかない。

 結局、防具は俺とルフィナの装備を合わせて三万ゴルドぐらいだった。

 

(これで、俺の防具もルフィナの防具も揃った。あと数本予備の武器が欲しいんだが、そうするとさすがに嵩張るな)


 そう考えた所で、ふとある考えが浮かんだ。ここはファンタジーの世界だ、もしかしたらあれがあるかもしれない。


「おじさん、物をドンドン収納できるような袋って売ってませんか? 俺達はアイテムボックスって呼んだりもするんですが……」


「魔法袋のことか? それなら魔法道具屋で取り扱っていると思うが……」

「あるんですか!? 良かった。後で魔法道具屋に寄ってみます」


 アイテムボックス――この世界では魔法袋か。やはりあったか。それがあればかなり移動が楽になる。


「兄ちゃん、冒険者だろ? 魔法袋のことなんて常識中の常識じゃねぇのか?」

「あ、えっと、実は最近遥か東の国からこの王都に出て来たばかりでして……。冒険者も今日登録したばかりなんです」


 うっかりドワーフおっさんに変な目で見られてしまったので、俺は慌てて誤魔化す。苦しい言い訳かなと思ったが、ドワーフおっさんは特に気にした風でもなかった。


「ふーん。だが結構値が張るぞ」

「え? ……ちなみにどのくらいですか」

「そうだな、安い物でも三万は下らんだろうな」


 三万か、確かに安くない。武器防具で八万ゴルド掛かったので、魔法袋も購入すれば手持ち資金の半分を使ってしまう計算になる。だけど、利便性を考えれば買わない手は無い。


「取り敢えず、魔法道具屋でモノを見てみます」

「そうか。魔法道具屋の場所は、店を出て右にある交差点を渡った所だ」

「ありがとうございます」


 あと三本安物の短剣を購入すると、俺達は武器屋を後にした。


 その足でそのまま魔法道具屋に向かう。武器は俺が持てないので、ルフィナに持ってもらった。短剣とはいえ四本の武器は流石に持ち難そうだ。やはり魔法袋は必要だな。


 魔法袋は一番安い物で三万五千ゴルドだった。これ一つで部屋一つ分ぐらいの物を収納できるそうだ。もう少し高いものだと屋敷一つ分の収納力があるそうだが、価格が十万ゴルドを超えていたので断念した。それにしても、剣が五万、防具一式が三万、魔法袋が三万五千。どれもルフィナの二万五千を超えていて、少し寂しい気持ちになった。


 残り残金は五万五千ゴルドほど。今日一日で一気に減ってしまったが、この世界で庶民の一年の生活費は三万~四万ゴルドらしいので、カツカツという訳ではない。それに、必要なものは大方揃った。今日の出費は先行投資だ。明日からの冒険者生活でガッツリ取り返そう。……取り返すことが出来たらいいな。

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