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冒険者ギルド

 ルフィナとお互いのこれまでの事を話した翌日、ルフィナが体調はもう大丈夫だと言って来た。

 

 嘘だろ? 

 栄養失調でガリガリだったじゃん。

 まぁ、ほっぺの血色は良くなっている気がするが……。


 ルフィナは早く役に立とうと気が(はや)っている節がある。俺に気を遣って無理しているのではないか。俺がそんなことを考えていると、


「獣人の回復は早いのです」


とルフィナは断言した。


「でも、さすがに……」


 尚も引き下がる俺に、彼女は少し顔を赤らめつつ服を捲り、お腹を見せてきた。


「ルフィナ、急に何を―――、えっ?」


 そこには、一昨日までのガリガリではなく、ほどよく括れ、健康的に引き締まったウエストがあった。

 

「まじか、たった二日で……」


 俺は思わずルフィナの白いウエストを凝視する。


「あの、あまりマジマジと見つめられると……」

「あっ! ご、ごめんっ!」


 ルフィナの恥ずかしそうなセリフに、俺はようやく自分のしている事に気付き、慌てて謝罪する。


「……いえ、でもこれで信じて頂けたと思います」


 ルフィナは服を直すと、少し赤くなった顔を俺に向けてきた。


「ま、まぁそうだね。一応聞くけど、本当に無理していないか? 俺の方は別に時間に追われているってわけじゃないから、もう少しゆっくりでもいいんだぞ?」

「いえ、大丈夫です」


 念のために確認したが、ルフィナの答えは変わらない。


「そうか。じゃあ、今日からよろしく」

「はい!」



 というわけで、俺達はついに冒険者として本格スタートすることになった。


 宿での朝食を済ますと、俺達はさっそく動き出した。まずは冒険者ギルドの登録だ。ギルドに登録するとギルドからの依頼が受けられるようになる。俺が強くなるためには実戦あるのみ。ドンドン依頼を受けてドンドン強くなりたい。それに、依頼を達成すれば日銭を稼ぐことができる。王宮からの支度金はまだ残っているが、収入の口は早めに確保しておきたい。


 冒険者ギルドは宿屋から歩いて15分ぐらいの所にあった。入口が豪奢で広く四階建てだ。立派な建物が多い王都の中でも、かなり壮観な外見をしている。まぁ、最近の冒険者商売はかなりの活況で、ギルドもその恩恵に預かって懐が暖かいらしいからな。そして、この建物はこの国にある冒険者ギルドの本部だ。当然、立派な造りになる。


 だけど、実際の冒険者というと、この建物のように立派ではないようだ。


 リチャードさんに事前に聞いた話では、冒険者は命の危険を伴う仕事柄、荒っぽい連中が多いらしい。さすがに王都で積極的に問題を起こそうとする連中は少ないが、下手に絡むと喧嘩沙汰になる可能性もあるので気を付けるようにと忠告された。


 根がビビりな俺がギルドの扉の前で深呼吸をしていると、ルフィナにキョトンとした顔をされた。

 扉の前で何やってんだ? そんな感じだ。


 そうか、ルフィナは奴隷とはいえ二年も冒険者をやってたんだったな。冒険者ギルドなんて慣れたものなのだろう。

 危ない……。もう少しで情けないご主人様を露呈する所だった。

 俺はコホンと咳払いして恥ずかしさを誤魔化すと、ギルドの扉を開いた。


「おお……」


 俺の口から思わず感嘆の声が漏れる。ギルドは中の造りも荘厳で、しかもかなり解放感のある造りになっていた。

 入ってすぐは一階から三階まで吹き抜けになっており、正面には受付カウンターの様なものがズラリと並んでいる。そして、その受付の辺りには多くの人たちが集まっていた。歴戦の勇者みたいな男もいれば、ガラの悪そうな男、結構際どい格好をした女性など、様々な人がいる。あれが冒険者たちなんだろう。


 そのうちの何人かが俺達の方に訝し気な目線を向けてきた。

 見慣れない奴が来たと警戒しているんだろうか。俺の黒髪は珍しいようだし目立つのかもしれない。


 ちなみに、ルフィナも白狼族で珍しい種族なのだが、対策はバッチリしてある。

 ルフィナの尻尾には幻惑魔法が掛かっていて、俺以外の人には違う色に見えているらしい。古くから奴隷狩りの危険に晒されてきた白狼族にとって、正体を隠すことは死活問題であった。白狼族のシンボルとも言うべき白い尻尾を隠すために、白狼族では幼子にまず幻惑魔法を教えるのが習わしになっているそうだ。


「ご主人様、あちらの受付で登録をするようです」

「あ、うん」


 ルフィナに先導され、銀行窓口のようなカウンターに向かう。


「ようこそ冒険者ギルドへ。本日はどのようなご用件で?」


 二十歳ぐらいの美人のお姉さんが、ビシッとした営業スマイルで話しかけてきた。


「あ、えっと、冒険者に登録したいんですが……」

「登録ですね、畏まりました。登録料は一人100ゴルドになります」

「あ、はい」


 皮袋を漁り200ゴルド分の銀貨を取り出す。と、ここでふと気が付いた。ルフィナは奴隷とはいえ冒険者だったんだよな。もしかしてもう登録済みなんだろうか?

 ルフィナに確認すると、奴隷は所有物の扱いになるから登録は不要なのだという。でも、登録後に発行されるギルドカードは身分証代わりになるので、任意で登録することも出来るそうだ。

 俺は少し考え、ルフィナもギルドカードを発行してもらう事にした。お姉さんに200ゴルドを支払うと、代わりに二枚の紙を差し出された。


「登録に際し、こちらの用紙に必要事項を記載して頂きます。失礼ですが、代筆は必要でしょうか?」

「あ、大丈夫です、書けます」

「畏まりました。職業やスキル・技能の欄は指名依頼の際に重要になりますので、なるべく正確にお願いします」

「は、はい」


 少し赤くなり、シドロモドロになる俺をお姉さんは慣れた感じで丁寧に対応してくれた。なんかルフィナからの視線が痛いが気付かなかったことにしよう。


 それより用紙への記入だ。えーと……

 受付から少し離れ、記入用紙に目を通す。


 名前、年齢、レベル、種族……。この辺は問題ないな。

 ルフィナはざっくり獣人にしておこう。

 問題はスキルだが……、お姉さんは「なるべく(・・・・)正確に」って言っていたからボヤかす感じでも大丈夫だろう。揚足取りのような気もするが、俺のスキルを説明するのは面倒だ。

 というわけで、俺のスキルは無し。職業は、リチャードさんの案を借りて剣闘士で。


 ルフィナは……、そういえばルフィナって何かスキル持ってたのかな? ルフィナが奴隷になった直後からバタバタが続いていたのでちゃんとステータスを確認していなかった。


(ステータスオープン)


===============


 片桐 一也 ヒューマン 剣士

 Lv 4

 HP 32

 MP 4

 体力 9

 腕力 17

 俊敏 11

 魔力 2

 運  4


===============


 ルフィナ・ラディ 獣人(眷属)

 Lv 7

 HP 52(+10)

 MP 22(+10)

 体力 15(+5)

 腕力 18(+5)

 俊敏 32(+5)

 魔力 13(+5)

 運  15


===============




 ……。

 ……えっと?

 なんか、ルフィナのスタータスが軒並み上がってるんだけど……。

 前に見た時一際低かったHPは毒が治ったから回復したのだとしても、他のステータスが大幅に上昇しているのはなんなんだ?


 あれ?

 良く見ると、ルフィナの奴隷の文字が眷属になっている。

 

「ルフィナ。何かルフィナのステータスが上がってるみたいなんだけど、何か心当たりある?」

「ステータスが? ちょっと待ってください。……えっ? 何ですかこれ!?」


 ルフィナにも意味が分からないようだ。クリクリした目を大きく見開いて驚いている。


「あと眷属って何かわかる? ルフィナの扱いが奴隷から眷属に変わっているんだけど」

「すみません。奴隷(わたし)のステータス画面ではその辺りは確認できないようです。でも、眷属というのは私も聞いたことがありません」

「そうか……」


(……何なんだ、これは?)

 

 ステータスが上がること自体は有難い事だが、理由が分からないってのが気持ち悪い。()が付いているのはどういう事だ? 何かの補正なのか? それにルフィナに職業がないのはどういうことだ? 獣人だからかな? それとも奴隷だから?


(あー、ダメだ! さっぱり分からん!)


 俺は内心で頭を抱える。


 そもそも、このステータス画面不親切なんだよな。【武器弱化】の事だってそうだ。用語説明とかあればもっと早くルフィナの毒を治療できていたのに。それともアレか、ファンタジーで特有の【解析】とか【分析】とかそんなスキルがないとダメなのかな?


(……まぁ、無い物ねだりしても仕方ないか。原因究明しようにもヒントがほとんどないしな。……仕方ない、後で検証するとして今は登録用紙を完成させよう)


 俺は気持ちを切り替えると、ルフィナのステータス画面に再び目を向ける。


 ルフィナのスキルは……無しか。

 お、技能は持っているみたいだ【短剣術】と【縮地】と【駿足】。

 ルフィナも【縮地】を持ってるのか、俺とお揃いだな。この【駿足】って【縮地】と似たような技能っぽいけど、何か違うのかな? 後で聞いてみよう。


 魔法も結構覚えている。初級魔法のヒールに、ファイアやウォーターなどの攻撃魔法、それに幻惑魔法をいくつか。

 その種類の多さに驚く。

 もしかして、ルフィナって死にかけていなければ結構優秀でお高い奴隷だったんじゃないのか……?


 沢山あり過ぎて登録用紙には書ききれないので、取り敢えず【短剣術】と回復魔法のヒールを記載しておいた。


「書けました」


 必要事項が埋まったのでお姉さんに提出する。


「ありがとうございます。では登録いたしますので少々お待ちください」


 そういうと、お姉さんは奥に引っ込んで行った。

 15分ほどして再びお姉さんから声が掛かる。


「お待たせしました。では、最後に認証の術式を発動させますので、こちらに血を数滴垂らしてください」


 会員カードのようなプレートに血を垂らすと、そのプレートが発行し小さな魔法陣が浮かび上がった。


「はい、ありがとうございます。これで登録は完了です。そちらがギルドカードになります。なくすと再発行に500ゴルドかかりますので注意してください」


 俺は手渡されたギルドカードを繁々と見つめる。カードには名前の他、Eの文字が刻んであった。


「冒険者にはランクが付けられており、みなさん最初はEランクからスタートします。その後、依頼の達成数などに応じて、D、C、B、A、Sとランクが上がり、最上位はSSランクになります。SSランクの冒険者はこの大陸でも数えるほどしかおりません」


 お姉さんの話では、SSランクともなれば小国の王族などよりよっぽど地位も名誉も高いという話だ。

 へぇーと思ったが、正直、俺には全く縁のない話だ。何せ、まともに武器を装備する事すらできないのだから。


 そういえば、柚華や神崎などの伝説のスキル持ちならどれぐらいのランクになるんだろう。まだ戦闘経験など(つたな)い部分があることを引いても、もしも冒険者になったら相当高ランクになりそうだ。いや、そもそもアイツらにランクなんて必要ないか。少なくとも、地位や名誉ならば既に小国の王族よりはありそうだ。


 まぁ、それはともかく、俺の目標は全然別だ。もっと低く現実的。何とか王宮の騎士に勝てるぐらいの実力を得て、早く柚華達のところに戻りたい。


「ちなみに、もしも王宮の騎士団が冒険者になったとしたら、どれくらいのランク付けになりそうですか?」

「へ?」


 予想外の質問だったのか、お姉さんに変な顔をされた。


「ん~、一概には言えませんが、この前、強力な魔物を倒して騎士団に推選された冒険者の方がいらっしゃいましたが、その方はCランクでした」


 Cランク……。最低でもあと二つランクを上げないといけないのか。


 俺は具体的な目標が出来たことに対して気合を入れ直すと、ギルドカードを大切に鞄の中にしまった。

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