表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/8

Dreamf-6.2 忠臣の鬼(D)

       10




「キャップ……ッ!」

「よく持ちこたえてくれた」

 本木から発せられる言葉は少ない。

 だが今日誰一人死んでいないのは円やケイスが足止めしたおかげでもあった。本木からの言葉は最上のものである。

「遅かったじゃないか」

「お前も無事で良かった、東条。後は俺たちに任せてくれ」

「もうすぐ応援が来る」

「そうか、分かった」

 東条と本木は知り合いなのだろうか。そのやり取りはまるで旧知の仲同士のやり取りのように見えた。

「ケイス、武器だ。持ってきたぞ」

 と、ケイスに|サルトライフル型の武器ヴァルティカムガンナーを渡すのは、チーム・エイトの情報通信技術担当の雲川俊樹(くもかわとしき)であった。

「ああ、ありがとよ」

 拳銃ヴァルティカムシューターを仕舞い、アサルトライフルヴァルティカムガンナーを装備する。

「やっぱビーストとやり合うならこっちじゃねえとな」

「ブレードとハンドガンなんて無茶しやがって」

「ファンはどこだ?」

「さあな、空中で散開したのち隠れたからな」

「あ、そう」

 狙撃手であるファン・ハークライの隠蔽能力が高いのは今に始まった事では無い。

「円も下がれ。エネルギー限界ではどうも出来ないだろう」

「本木さん……」

「俺たちがこいつを何とかする」

「…………」

 確かに、エネルギーが限界となっている今では、大したフォローも難しい。

 下手に入り込まれるよりかはいつも通り、フォーマンセルでの戦闘の方が有利と見たのだろう。

 ならば、

「警部さん」

 円は大きく弁慶から避けていくように東条の方に駆け寄る。

「下がっていてください」

「天ヶ瀬君」

 東条を守る。弁慶は斬撃波などの飛び道具がある。流れ弾がうっかり当たるという事だってあり得るのだ。その可能性を摘んでおく。

「掃討開始!」

 弁慶を取り囲む三人の中で一番最初にトリガーを引いたのは本木。その後に続くようにケイスと雲川はトリガーを引き始めた。

 四方からの弾幕――弾丸の雨に身を打たれる弁慶。

 拳銃などとは威力も弾丸の数も違うのだ。

 弁慶は抵抗を見せるがごとく、薙刀を振るって周囲広範囲に突風を発生させる。

「ちッ――」

 さすがにトリガーを引く手も止まり踏ん張る。

「キャップ!!」

 ケイスの張り上げる声。

「――ッ!?」

 弁慶はまず、司令塔の本木を狙う。すでに振り上げられている。

 ハークライのトリガーが先か微妙なところ。

 そして、振り下ろされてしまう。

 一閃――

 だが、それが本木の身をそれた。

 否、本木は振り下ろされる初動の時には斬撃の範囲から逃れていたのだ。

 刹那、

「デアァッ!!」

 懐に潜り込んで弁慶の鳩尾にめがけて拳を穿ち上げる。

 その前に何かを起動させたらしい。

 防護シールドと同じ色の光が散った。

 本木の拳は円の撃つ拳以上のダメージが入ったようだ。

 怯んだその少しの隙、さらに追撃。

 本木は右左とアッパーを弁慶の顎下を二連発、

 顔面を突き上げられ、視線が上を向いたその隙、

 さらに鳩尾に右左とボディを二連発。

 そしてフィニッシュ――

 側頭部を穿つ左フックからの右ので遂に弁慶を地に叩き伏せた。

 だがそのまま馬乗りになればよいが、

 フィニッシュを決めた後、どういう訳か本木は距離を取る。

 地にたたき伏せられた弁慶にケイスと雲川の雨のような弾丸、遠隔からのハークライの狙撃が穿たれる。

 それに続くように本木もアサルトライフルのトリガーを引いて弁慶に連射する。

 確実にダメージを与えている。

 が、今度はその雨を受けてなお立ち上がる弁慶。そして一点暗闇の方を見詰める。

 もしやと思った時、弁慶は黒い瘴気を纏わせ、

 薙いだ。夜闇を斬る黒い斬撃波。

 同時光弾が一閃となって闇を斬る。

 一閃の光弾は斬撃波に切られ、消滅。ハークライの方へ――

「ハッ!」

 すぐさま、その斬撃波に向けて円は手を水平に切って赤と銀の混色の光刃を放つ。

 東条にももちろんその様は見られている。

 だが今一人死ぬよりかはマシである。

 円の放った光刃は斬撃波の速度を優に超え、

 しかし、相殺は出来ない。

 だが確実に軌道をずらすことには成功した。

 この程度ならばエネルギーを使っている内にも入らない。

「フン……ッ、ラアッ!」

 斬撃波を撃ち出した後の瞬間程の隙、

 すでに弁慶の懐にもぐりこんでいた本木は弁慶の腹部にブレードを突き刺す。

 だがそれでは一撃が足りない。反撃される。

 思いっきり振り払って引き抜き、備える本木。

 すぐさま時は来た。

 弁慶は薙刀を持たぬ片手で本木を殴りつけようとしてきた。

 超至近距離である今切るよりも殴る方が速いと見たのだろう。

 敵の初動を見逃さない。それが例えコンマ数秒のモーションであっても。

 ビーストとの戦いでは基本中の基本。

 スピリットである円とは違って、人間の目にはビーストの攻撃は捉えられない。

 動きだしたと思ったその時、大体は既に死んでいる。

 自分よりも身の丈が小さい本木を潰すには鉄槌打ちが得策であると見たのだろう。

 拳を振り上げる初動が入った。

 本木はまず振り下ろされるコースをブレードで抑制。

 わざわざブレードを構えている方向に拳を振り下ろしては来まい。

 残されるコースは初動から予測できる。

 振り上げた刹那、

 本木は攻撃範囲外へとかわす――

 だけではなく、

「ハッ……」

 振り下ろされた拳の運動力を利用する。

 拳を掴み、そのまま逆らうことなく――

「ラアッ!!」

 背負い投げた。

 地に仰向けに倒された弁慶。

 立ち上がる前、本木は馬乗りとなって弁慶の行動を抑えつける。

 いくらパワーが高くとも、本木の抑えをほどくことは出来ない。

「ハッ――

 ゼアッ! ――」

 馬乗りになったまま、何度も拳を振り下ろす本木。

 拳で殴りつけられるたび、また防護シールドと同じ色の光が散り、

 被弾部からはファントムヘッダーの色と同じ色の光が大量に飛び散っていた。

「ハァッ――、デアァッ!」

 最後には弁慶の胸ぐらを掴んで立ち上がらせ、

 拳を振り下ろし、

 弁慶の頭を地面に叩きつけた。

 地面に叩きつけられ、止めどなく光を体内から溢れ散らせる。すぐに下がり、アサルトライフルの銃口を弁慶に向ける。

 しばらくして、弁慶は地に足を付け立ち上がり――

「…………」

 体中から血を噴き出させるように多量の光を噴き出した。

 初めて聞く弁慶の悲鳴にも似たうめき声。

 身を反らせて苦しむ様子を見せる。

 しばらくして、光の噴出も収まると弁慶は電池切れのロボットのようにゆっくりと身をだらけさせ突っ立つ。

「効果抜群だな」

 やはり、本木は何かを使用していたらしい。

 何か仕掛けてこないかと、慎重な足取りで本木は弁慶に近づいて行く。

「キャップ!」

 呼び止めようとするケイスだが、本木の歩みは止まらない。

 そして、本木は弁慶の攻撃範囲にまで入り込む。

 そのまま殺されてしまいそうであるが、弁慶は手を振り上げる事も薙刀を構えることも無い。

 立つことがようやくであるらしい。

 本木は弁慶の顔をじっくりと伺う。

 すると、弁慶は本木に自らの顔を見せるように上げた。

 鬼の面は人によって見え方が変わる。

 円には、本木が弁慶の顔をどんな表情で見えているのかは分からない。

 だが本木の表情を見るようには、円の思っている様な見え方ではないのだろう。

 しばらくして弁慶と本木は表情を伺い合う。

 そして弁慶が腰に下げている黄金づくりの刀をとり、本木に差し出す。

 差し出された刀を受け取った本木は鞘から刀を抜いた。綺麗な波紋を描く刀身。それは、弁慶が狙い、そして奪い損ねた一〇〇〇本目の義経の刀。主の為に憎み、その主の刀を下げて今の人間に復讐を始めた。決して忘れはしていないという事を知らせるために。

 その刀を、今手放した。

 復讐の鬼を、鬼の主の刀で斬る。

 それは弁慶の最期の意志。人を大量殺戮しておいて今更その意志を尊重する必要もないだろうが――

「――ッ」

 本木は彼の刀で弁慶の胸――心臓を突き刺した。

 体重をかけ、貫くまで力を加える。

「もう眠れ。これ以上の血は誰も望まない」

 先ほどの様な悲鳴を思わせる声を上げない。

 自らに突き立てられた刀を受け入れるかのように静かに声を漏らし、

 ファントムヘッダーとは違う光の粒子となって弁慶の姿は夜闇の中に溶けて消えて行った。




       11




 その後、警察の特殊部隊の増援が来た。

 だが全ては終わった後でその場にいた者達によって全ての事情が説明され、事件の収束と見られた。犠牲になった人たちの頭も回収され、のちに遺体の修復で元の体に返されることとなった。

 どうやら、遺族にも今まで遺体の引き渡しが行われていなかったらしく、修復されたのち、ようやく遺体は遺族の下へと返されることとなる。


そして数日後――


「くそ……」

 利き腕である右手をギプスを着けて三角巾で吊るし、左腕はギプスで固定している本木は昼飯を食べずらそうに舌打ちを打った。

 両腕単純骨折。

 右腕に関しては骨折のほかにヒビと超過負荷による上腕二頭筋腱断裂も引き起こしていた。当然、しばらくの間戦線は離脱。

 当然の事だ。弁慶との戦闘の際に使用した新装備。

 あれはまだ実用段階に入る前の新装備。沙希が開発し、本来はUCAにて実用試験を行われるはずであったのだが、あの日の戦闘の際、本木の希望もあってSSCの実用試験を兼ねて使用された。

 仕組みとしては至極単純なもので、本来自らの体の身を守るために展開される防護シールドを近接戦闘用に転用するという物であった。

 当然のことながら、それだけでは威力が足りない。拳銃ヴァルティカムシューターアサルトライフルヴァルティカムガンナーなどの装備に使用されるありとあらゆる全てのエネルギーをその装備に供給することによって爆発的なパワーとなった。

 ビーストを倒す原理としては、円のモードチェンジ前(テンダーモード)とよく似ている。

 モードチェンジ前の円の攻撃がビーストに大きなダメージを与えると、ビーストの体内から光を散らせスタミナを大きく削る。

 本木の使用した装備はスタミナだけでなくそのエネルギーを大きく削り、ビーストを消滅させるものである。

 だが欠点がいくつか――

 一つはこの装備を使用すると防護シールドがダウンして使用できなくなってしまうということ。

 ビーストの攻撃の流れ弾でさえ人間にとっては一撃必殺であるというのに、その一撃必殺を防ぐ手立てがない。あまりにもリスクが大きい。

 もう一つは今の本木のようにまず、人間の身では体が耐えられないというところだろう。

 もちろん、防護シールドがあればその衝撃に耐えられるだろうが、使用するとシールドがダウンして使用できない。現時点では、この欠点を押さえる手立てはまだない。

 沙希もこれについては相当堪えたようで、申し訳ないと何度も本木に謝罪し、しばらくの間研究室に閉じこもっていた。どうも防護シールドに使用されるエネルギーをもう少し少なくできないかと思っていたらしい。

 円も当然付きあうこととなり、毎朝早く呼び出されていた。

「本木さん、手伝いましょうか?」

 満足にご飯を食べられない本木を見かねた円。

 そんな円の気づかいに本木は口元で小さく笑みを浮かべて首を横に振った。

「いや、助けはいらん。これにも慣れないといつまでたっても人の手を借りないといけない」

 本木はそう言い、ギプスで固定されて動かしずらい左腕でスプーンを握って、今度は動かしたかを探るようにゆっくりと皿の中入れられたピラフをすくい、自分から顔を近づけて口の中に運んだ。

 そしてどうだと見せるように本木はまた円に笑みを向けてくる。

 本木のそんな様子を見て、円は小さく溜め息を吐く。

「そういえば、本木さん」

「ん?」

「あの時の警部さんとはお知り合いなんですか?」

「警部って、東条の事か?」

「ええ……」

「あいつは自衛隊学校の頃の友人だ。卒業後しばらく自衛隊に居たが除隊して、警察に入ったやつだ」

「卒業後に別々に?」

「ああ。俺はその後アメリカ国籍を取得してSFにいたからな」

「|Special Force《SF》……。アメリカ陸軍特殊部隊(グリーンベレー)

「ああ。それっきり、東条とは音信不通だったが、思わぬ再会だ」

「東条さんは、本木さんがいまビーストと戦っているってことは?」

「知らなかったはずだ。だが、これからだってあいつがやって行く事は変わらないはずだ」

「何で?」

「弁慶が、今の人間に憎しみを持つ程に、主君に忠を持つようにアイツは、市民に忠を持っているからだ。だから、あの時逃げなかった。それは、今自分が逃げればお前や、ケイスが殺される。殺されたら、今度は大勢の市民が殺される。あの時お前たちを助けに入ったのは、市民を守るためでもあったからだ」

「忠を持つ……」

「人は自分の為でも、誰かの為でも、ましてや国の為に戦うんじゃない。自分の忠の為に戦う。俺達の教官が教えてくれたことだ。俺は人間の命に忠を尽くしている。だから俺は、ビーストを倒し、人間を救う。それ以上のことは戦いに望んじゃいない」

「ビーストを倒す…………」

 そういえば、と、円は思い出す。

 弁慶の言葉だ。


――恨めしいものだ。忌まわしき彼の者によるものなれど、この身、この心は既に憎しみの獣に堕とされた身。我が主の為、貴様らの首、我が冥土に持っていこう。


 忌まわしき彼の者。

 憎しみの獣。

 それはまるで、ファントムヘッダーによってビーストに変えられたかのような言い様である。もしそうだとするならば、今まで倒してきたビーストとは即ち――。


「武器を捨てて、人の命が救われるなら、俺は喜んで捨ててやる」

 だがそう上手くはいかない。

 トリガーに指をかけている者と相対するときは自分もトリガーに指をかけていなければならない。それが例え、必ず引かれるものであるとしても。

「武器を捨てるには、安心できないな」

「そうだな。まずは、ビーストを――」

「いや……ビーストじゃない」

「何?」

「僕たちが本当に相手にしないといけないのは、ビーストを作り出す……あいつ(ファントムヘッダー)だ。アイツを倒さないと、また同じような悲劇が起きる」

「そうだな、いつか……いや、明日にでも終わらせよう。誰も報われない、こんなクソッたれな戦いをな」


To be continued...

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ