Dreamf-6.2 忠臣の鬼
会社勤めからようやく解放された。
日をもうすぐ跨ぐようだ。ずいぶんな使い潰しぶりである。歳二八にして、彼氏は出来たことが無い。人生良いことも無いのでせめて憧れに会社に入れたのは良い物の、現実は理想よりもかけ離れている。
かつて過労やパワハラなどの問題があって、それに際して法改正や各会社が対策等が為されているが、結局それらの網をかいくぐって一切現状は変わっていない。
「はあ……」
彼女が入社している会社もそれにもれず企業体制は黒に近いグレー。残業代がしっかり支給されるだけマシだと言う親だが、貰っても使う事も無いのでただただ貯まっていくばかり。お金は貯めて使って初めて効果があると思うのだが使えないのでは宝の持ち腐れだ。
もっとも、転職先も決まり、今の会社とのつきあいもあと一週間だ。六年も働けたのだから一週間など何の苦痛にもならない。
今は新しい生活に胸を馳せていた――
「ん?」
そのとき背後に気配を感じた。
時間もそうだが、こうも暗闇であるとありえない事はない。
女なら誰だっていいという類のストーカーだ。
ふと、振り返る――
――太刀は要らぬ……
「え……?」
――その首を寄越せ……ッ
その声が向いている方向とは真逆の方から聞こえ、振り返る。
「あ……」
――せめて苦しまずに逝け
僧兵がいた。身の竹を優に超える程の薙刀と、その様では似合わない黄金づくりの立派な刀を持っている。
――と、視界がかくんっと、真横に傾いた。