Dreamf-6.1 ファーストオペレーション(C)
7
――人は死んだらお星さまになる。
祖父が死んだとき、翔馬は母親にそう教わった。
ホテルの部屋の窓から夜空を見ると、三日月に沿うように在り、光を放つ明けの明星を見たとき外に飛び出してしまった。
もっとその星の光の近くに行きたいと――両親が死んでしまったのなら、星になって会いに来てくれたのだと、ホテルを飛び出し、公道を抜け、いつの間にか人気のない所へと出ていた。
街灯はついてはいるが薄暗く、そこならば、星が良く見えていた。
それを掴もう。
として、手を伸ばす。だが夜空に光る星は近いようで遠い。
「くっそー」
もっと近くへもっと近くへと、歩みを進め、どんどん先ほどいたホテルよりも遠い所まで来てしまう。
分かってはいる。星の光はつかめるようでつかめないものであると。目に見えるのに決して触れられない。
「…………ッ」
分かっているのに、翔馬は背伸びをしたりぴょんぴょんと飛び跳ねたりして、その星を掴もうとする。
そうすると、自然と眼から涙が瞼へと溜まり、つーと零れ落ちる。
「う、ぐっ……」
ハッと気づきその涙をふく――
その時、
「――ッ!?」
見られていた。そこにいる異形――怪獣に。
丈は二メートル半強程の巨体。イタチを思わせる顔づくりに、両手は月光に照らされて光る巨大な鎌となっている。全身は灰色の鱗に、白い毛が生えており――
それはまるで妖怪本などで出てくるカマイタチの様な姿。
だが本にあった絵のしなやかな体つきとは違い、ずっしりとした体躯であった。
それに気付いた時、驚きのあまり悲鳴すら吐くことも出来ず、翔馬は凍っていた。
小さく唸り声を出し続ける怪獣。すると突然、哮った。
「うあっ! ――」
ただの咆哮のはずなのに身が震わされ、尻餅を突く形で腰を崩してしまう。
その時、怪獣は片腕の鎌で空を薙ぎ切る、
(あ――)
時には、空を斬り、走る刃が翔馬の首は一閃に断たれる――
「――ッ!?」
刹那の時さえあればそれが出来た。だが、その間は訪れることなく空を裂いて飛ぶ刃は爆散した。
それは割って入るように走る銀色の光と激突した――
「なに――?」
瞬間だった。
もう一撃、空から撃たれた銀色の光弾が怪獣を穿ち、吹っ飛ばした。
怪獣の悲鳴と共にその身から火花を散らす。
そして異変三度目。
今度は先ほどよりも大きな光弾――
否、大きな光弾ではなく人が光を纏って空から降りて来た。
それが地に足を着ける直前、身に纏われている銀色の光は光輪となって払い飛ばされ周囲に一発の強風を起こす。
身に纏われる銀色の光が払われ地に降り立ったのは、今日自分の班の担当だった園宮友里と同い年ぐらいの男の人――
茶色が少しかかった黒い短髪に、細身のスポーツ体系、顔立ちは穏やかそうな風貌を持つものの、強さをもったその眼は怪獣を一点に見据えていたる。
グレーのパーカーの下には黒めのシャツを着こみ、ジーパンを履いているという服装。見た目は普通の年上の男の人なのに、まるで現れたのはテレビの向こうのヒーローであるようだった。
奇襲に体勢を崩され、立て直せずにいる怪獣。
その隙、降り立った男の人は翔馬の方へと振り返り、その安堵を見せる笑顔もまた、かっこよかった。
8
そしてすぐさま、円は怪獣――〝ビゼイクル〟を見据え腰を低く落とす。その頃には怪獣は立ち上がり奇襲者に向けてのみ、殺意を向け吠える。
先制――
「ハッ!」
取ったのは円であった。
片手でシュッと地面と水平に切り、光弾を放つ。
放たれた光弾は体勢を崩させるほど。だがそれは決定的な一撃とはなりえない。
もとい、そのつもりもない――
「――ッ!
ゼアッ!」
円がビゼイクルとの間合い――約一〇メートル以上を体勢を立て直すまでに詰め、
体重を乗せた掌底をビゼイクルの一番柔らかい部位であろう腹部へと穿つ。
その一撃、
骨と肉を同時に砕く様な音が響き、大きくビゼイクルを突き飛ばす。
さらに、一歩踏み出し体勢が崩れる所で大きく一歩踏み込んで掌底を一撃加える。
その時、ビゼイクルの体から銀色の光が飛び出し、
先ほどよりも大きく体勢を崩す。
違うのは、その一撃を受けて体勢を崩されてなお立ち上がれない事だった。
大きく隙を見せた――
「――――ッ」
円が左手を空に手を掲げると、空を駆けるコロナリングが空に描かれる。それは遠いようで、実は近い。
「ハッ!」
左手を下ろすと同時、
右手を空に掲げる。
掲げた右手でコロナリングに触れると、赤い光が円の体を縁取るように纏われ、手を下ろすとコロナリングも円の体に纏われ、縁取るようにあった赤い光は円の体へと取り込まれる。
力の姿というべきか――確かに、円の中のある種スイッチのような物が入った。
両目の瞳は太陽のプロミネンスのように赤く染まり時々体から漏れ出す光の色も赤色へと変化していた。
〝モードチェンジ〟。円が所属する防衛隊SSC――その防衛隊の大元であるIA(International Agent)に認知された、円の固有能力。見たまんまだが、確かにその名前が合うだろう。
そうしてモードチェンジをしている間に、ビゼイクルは立ち上がりまた体勢が整えられてしまう。だがそれがどうした、と、
「――ッ!」
ビゼイクルは吠え、腕の鎌で空を斬る――
同時、円もビゼイクルの方に駆け寄る。
金属を両断するような甲高い音と共に空を走る飛ぶ斬撃。
人の目には捉えられない速度で迫るそれが、円の目前へ――
「ハッ!」
だが、円は人間ではない。刹那の間に首を断つ斬撃波も、円の目には見える。
飛び襲ってくる斬撃を手で払い飛ばし、そのままビゼイクルにせまる。
その初撃をはじかれて出鼻をくじかれたのか、驚いたように口を開けて嘆声を上げるビゼイクル。
「オリャアッ!」
その隙、
円はビゼイクルの懐にまで入り込み、
ビゼイクルに詰め寄る際のスピードをパワーに変換し正拳を腹部に穿った。
瞬間、赤い光が飛び散りそれがビゼイクルの体に大きなダメージを与える。
そして、怯む――
「セアッ!」
さらに一撃。
左足を軸足に回し蹴りでビゼイクルの顎を撃った。
先ほどの様に赤い光が散るようなことは無かったが、体勢を立て直す隙を潰せた。
が、崩されて尚一撃を入れようとしてくる。
蹴りを入れた方の足を地に足付けた瞬間、ビゼイクルは体ごと振り回すように鎌を薙ぐ。
「……ッ!?」
その鎌には触れてはいけない。
だが腕を伸ばしてもビゼイクルの肘に触れる事は出来なさそうだ。
「――デアッ!」
向こうが体ごと来るならば円も体ごと、
身を屈めてタックルするような形でビゼイクルに体当たりする。
攻撃をかわしつつ、一撃を与える。
だがそれでは後退させることは出来てもビゼイクルの二波を止めることは出来ない。
もう一方の鎌で円の体を断とうとしてくる。
「シッ――」
だが、タックルしたおかげで円自身も体勢を立て直せていた。
距離も十分詰めている。
ビゼイクルの鎌――肘を押さえて攻撃を止める円、
「ハッ!」
もう一方の手の拳でビゼイクルの顎を打ち上げた。
だがその中でもまた一撃を入れようとしてくる。
押さえられている腕とはまた違う方の腕で円を斬る――
「――クッ」
その鎌を押さえていた腕を離し、
斬撃を放つ腕の下をくぐって躱し、ビゼイクルの背後に立つ。
そしてすぐさま反撃――
「うわっと!」
出来ない。ビゼイクルが身を咄嗟にひるがえしつつ鎌を薙いだからだ。
意識を咄嗟に攻撃から切り替え、バック転回避。
両脚を地に着けた刹那――
ビゼイクルが円に覆いかぶさるように体当たりしてきた。
「クッ――!」
体当たりを受け止め、ビゼイクルが倒れ込まないように支える。
倒れ込まれたら馬乗りになられて一転して不利になりかねないからだ。
だが時間は長くはいらない、円が倒れなければいいのだ。
どうもビゼイクルの体勢を崩すことは出来なさそうだが、それがむしろ攻撃をかわされる要因となる事もある。
「――ッ」
サッと身をひるがえすと思いの外と言うべきか、ビゼイクルの攻撃を躱せた。
「ハッ!」
と、ひるがえしたその拍子に後ろ回し蹴りで背面を撃った。
前のめりになっていたためにその一撃で大きく怯むビゼイクル。
「ゼアッ!!」
さらに一撃、後ろ蹴りを放つ。
二発の連続蹴りを受けて前転するような形で体勢を崩すビゼイクル。
地に体を伏せ、立ち上がれず――
それが、止めの一撃を入れる最強の一撃を加えられる程の隙であった。
「ハァァアア……ッ」
円は両手を大きく広げ、太陽の様な光をため込む。
その光は渦を巻きながら円の両手に集約されていく。
その光をため込んだ両手を前に突き出すと両掌の間に小さな太陽を生み出す。形は揺らいでおりその力はまだ不安定。だが円が両手で楕円を描くように位置を逆にすると、小さな太陽が白いコロナを纏い、球を形どった。
夜闇に包まれるその空間に、朝光が訪れるようにも思えた。
球の中心で、プロミネンスが渦を巻いてその中にとどまっている。
円は大きく身を引いて力をため込んで、
「ハァアアッ!!!」
大きく踏み出し両手を広げるように突き出し、球体を爆発させた。
瞬間、
内にたまっていたプロミネンスが太陽フレアのように噴き出し、ビゼイクルの方へと一直線に向かう。
光と同等の速度で行くその光線をかわす事。もはや、今ようやく立ち上がれたビゼイクルに出来る事では無かった。
円の打ち放った光線〝ストレンジブレイズウェーブ〟はビゼイクルに直撃すると同時に周囲に空間の歪みを生みながら大きく押し出していく。
地に足を着くとそのまま地面を滑走し、それも止まるとビゼイクルはうめき声を上げてしばらくその場でばたつく。
と、爆発した。
――体が頭から尾へと向かうように、ビゼイクルは砕け散り、塵となって空へ消えた。
ビーストの姿――基、魂さえも消えたと分かった時一息つき、気が抜け赤い光が円の体から離れていき、円の瞳も元の色へと戻った。
そして背後を振り返る。
まだいた。てっきり逃げていくものだと思っていたが、少年は円とビーストの戦いをただずっと見ていた。…………腰は、砕けたままのようだが。
確かに、目の前で突然現実離れすることが起きてしまえばそうなる筈だ。逃げられない理由としてはそれ以外考えられない。
「全く……」
円はその少年の方に駆け寄る。
「大丈夫? 怪我はしてないよね?」
「……うん」
受け応えは出来るようだ。
目前に来た円は「それならよかった」と口から漏らしながら、片膝を地面に着く形で屈む。
「他の人たちは?」
円の問いに、少年は首を横に振る。
「君一人?」
「うん」
「お家は?」
「今旅行してるから……」
「そっか。じゃあ、お母さんとお父さん探さないと」
「いるよ」
「え?」
少年の言葉に呆気を取られる円。すると少年は空を指さす。その指された方を見るとその先には明けの明星が光っていた。
「ああ……」
星を指したことでなんとなく察した。
この少年は両親、もしくは家族を失ってしまったのだと。だとしたらどこかの児童施設か親戚と旅行しに来たという事だろうか。
「じゃあ、皆と一緒に居ないと」
「なんだよ、皆と一緒に居ろって……」
「……?」
「皆おんなじこと言うんだ」
「おんなじ事?」
「パパやママが居なくなったのに何でみんな一緒に笑ってるんだよ。もう忘れちゃったんだ、あいつらは」
「…………」
もしやと、考える。
この少年はまだ家族を失って間もないのかもしれない。もしくは、よっぽどその時期が悪かったのか。どちらにしても、その心傷がいえていないのだろう。
なんとなくだが、それが他人の物だと考えられない円。
それは、まるで鏡を見ている様。
だから、
「分かるさ、僕にだって」
「え?」
「僕も君と同じさ」
「パパとママを?」
「ああ。ずっと前にね、今ちょうど君と同じ気持ちだったよ、僕だって」
自分の気持ちを分かってくれる人にようやく巡り合えたと、少年の表情がほんの少し明るくなる。
「やっぱり、皆おかしいよね。何で――」
「おかしくなんてないさ」
「え?」
「君がどこかの施設にいるって言うなら、きっと、その施設にいる子たちも一緒さ。痛いぐらい知ってるよ、きっと」
「何を?」
「君の気持をさ」
と、円は少年の胸をこつんと人差し指で小突く。
円だけじゃない。友里だって同じだった。母親が死んでから施設に預けられた友里に会いに行ったとき、心傷のあまりしばらく円と口すら聞いてくれなかった。
円は…………それよりも状況が悪かった。
「そんな、家族を失ったなんて傷は、大人になってもきついもんだよ。だから、皆と一緒に居て、自分を助けてあげないと」
「自分を助ける?」
「君がもし、その傷のせいで……お父さんやお母さんがいない所で幸せになる事が怖いなら、その怖い気持ちから皆が引っ張り上げてくれるはずさ」
「…………」
「まだ小さいのに君は色々考えれて偉いなって思うよ、僕は。だから……」
「だから?」
「君はもう、楽しい思い出を作ってもいいんだ。お父さんやお母さんを亡くした心の傷も一緒に、君は自分を助けてあげないと」
「どうやって?」
「そうだなぁ……」
と、自分に置き換えて考える。
「まずは、笑ってみること、かな?」
「え?」
「ごめん、それは分かんないや」
円、「はは……」苦笑いを浮かべる。
確かに、妙に説教臭い。後で自分が行ったことを頭の中で反芻して身もだえる所まで想像できてしまった。
「まあ、どうしても幸せっていうものが分からないならってことだし、別に無理して笑う必要だってないよ」
「……??」
最後に来てはっきりしていないためか、少年の頭に?マークがいくつも見える。
「まあ、僕がそんな感じだった――、
――ッ!」
その時、世界が反転した。
突然襲ってきた普段感じる事はない感覚に小さな嘆声が口から洩れ、息が詰まる。少年にはその感覚が無かったようで一瞬様子が変った円にきょとんと首を傾げる。
「どうしたの?」
「……? いや、なんでもないよ」
なんでもない。むしろようやくかと思えた。
ビーストが出現する際、その莫大すぎるエネルギーが地表の空間軸にまで影響しあやふやな状態になってしまう。
『そこに在り、そこに無い』空間――〝境域〟。
その境域の出現消滅する感覚は世界が裏返るような感覚なのだが、人間にはどうもそれが分からないらしい。円の知る範囲ではその感覚を知覚できるのはスピリットのみ。
ビーストは倒されてる。なので、この感覚は消滅したという報せと同じなのだ。
「そろそろ誰かが探しに来るはずさ」
「え?」
その時、
「翔馬くーん! 翔馬くーん!!」
遠くのほうで少年の名前であろう、翔馬を呼ぶ声が聞こえた。
声は、円と同い年ぐらいの少女の声。
「あ……」
「…………」
よく耳に聞き馴染んだ声だった。
会いたい、
という衝動を抑え。
「ほら、君の名前だろ? 翔馬君?」
「あ……うん」
円は立ち上がり、翔馬に手を差し伸べる。
その伸ばされた手を掴む翔馬を引っ張り上げて立ち上がらせる。もしまだ緊張していて腰が砕けてしまうなら支えてやらないとと気持ちだけ準備するも、そんな事は無かった。
「お母さんやお父さんの事を忘れろなんて誰も言わないさ。けど、それが理由で君が思い出を作っちゃいけない理由にはならない。死んじゃったお母さんとお父さんの代わりに君はもっといろんな思い出を作るんだよ」
「思い出?」
「ああ。今日がそういう日だろ」
「うん……」
それは、円ではできなかった事。円はそんな思い出を作る時間すらなく死んでしまった。『いつ死ぬか分からないから、それまでにたくさんの思い出を作らないといけない』等と、さすがにこれは言っても分からないだろうと、言葉を飲み込む円。
「翔馬くーん!! どこー! 返事してよー!」
どんどん近づいている。
「じゃあ、翔馬君。まっすぐお姉さんの所へ帰るんだ」
「うん」
「あ、それと」
「ん?」
「さっきのは、皆にはないしょだよ?」
人差し指を立てて口に当てる円。
それを返すように、翔馬もシーッとしながら円と同じようにする。歳に合わない茶目っ気が見える円を見て、ほんの少し、一瞬笑顔が戻っていた。
円はトンと少女の――友里の声がした方へと背中を押してやる。
そのまま翔馬は走り去り――
「ばいばーい!」
少し距離が開けたところで振り向き、円に手を振ってきた。
もし自分が人間だったらあんなに飲み込みが良いことは無かっただろう。スピリットになってよかったことが、また一つ見つかった。
円はこちらに手を振ってくる翔馬に向けて親指を立てて相手に向ける、所謂、サムズアップをした。
円の返しを見た後、翔馬はまた友里の声がする方へと走って行った。
翔馬が背中を向けると、円は耳に着けているインカム越しに無線をつなぐ。
「作戦完了しました、コマンダー」
『おお、お疲れさん。これがお前のファーストオペレーションやったわけやけど』
「正月出動とは」
『まあそんな言うなや。初っ端から光のウイルスとかやったらいややろ。
「まあ……そうですね」
『やろ? 迎えいるか?』
「いえ、自分で飛んで帰りますよ」
『そうか。ならはよ帰ってこいや。お雑煮作ってくれよったで』
「はい」
そうして無線先にいるコマンダーと呼ばれた老人、吉宗正嗣との通信が切れる。翔馬の背中はまだ見えているが、もうお別れの挨拶も済ませた。思い残すことは、何もない。
9
「翔馬君! どこにいるの!!」
夜道で暗い中、友里は翔馬を呼び続ける。
ホテルの中にはいなかった。もしかしたらと思って、すぐに着替えて外に飛び出してきた。だが、どれだけ探し回っても見つからない。
「そんな……」
もはや諦めかけた――
「えいっ」
「ひゃっ――!」
そんな悪意が無い声と共に不意に腰を突かれつい変な声が漏れた。
誰だと振り向くが誰もいない。だが見下ろすと。
「はぁ……。翔馬君……やっと見つけたぁ」
安堵の溜め息を吐きながら翔馬と目線を合わせるように屈む友里。
「もう、何で一人で出て行ったのよ」
「あれ」
と、翔馬が指を指す先――そこには明けの明星が。
「星を見に行ってたの?」
「うん」
「それだったら言ってよ。一人で夜歩くの危ないでしょ?」
「ごめんなさい……」
「もう……」
と、絶対に逃がさないと翔馬の手を掴んで立ち上がる。
「ホテルで餅つき大会やるんだって。だから、早く帰ろ?」
「お餅……」
その単語に興味をひかれたようで、例えるならば眠っている子がぴくりっと動いた様と似ている。
「そうだよお? 皆で食べよ!」
「うんっ」
気持ちだけか、翔馬が返した一番元気な返事だ。
翔馬の手を引き、皆が居る所へと帰っていく友里。当然、彼女は知るわけも無かった、翔馬のちょっとした超常体験を。律儀にも、翔馬は〝ヒーローのお兄ちゃん〟の言う通りにしていた。
to be continued...
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