表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/8

Dreamf-6.1 ファーストオペレーション(B)

       5




 それから、テーマパークで子供たちを見つけることが出来た友里。

 予定通り、日没頃まで子供たちと遊び倒すことになり、ようやく広場へ集合。バスに送られ近くに温泉があるホテルへ。

 ホテルについてからはしばらくの間班ごとにわかれて部屋へと入り、遊んだあと夜はお節料理等を食べ、時間が経ってからは一人で二つの班を受け持ち二班ずつ温泉に入っていった。

 そんな時でも、一人取り残されていた少年――西原翔馬は、やはり独りぼっちであった。

 周りが翔馬を疎外しているのではなく、翔馬自身が集団のなかに入り込もうとしていないように見える。どうも見た感じ、なじめずにいるようだ。

 シャワーの湯が髪の毛の毛並みに沿うように流れ、、シャンプーを洗い落としていく。

「はぁ……」

 友里のため息が浴場内に響く。

 そんな様子を察してか、隣でシャワーを浴びている里桜が友里の顔を覗き込んでくる。

「なにどうしたのさ友里」

「ん? ううん、ちょっと気になる子がいて……」

「え、友里、子供に恋したの?」

「そういうのじゃなくってさ。孤立してるのよ、私の班の一人がさ。なんだかなぁ……」

「なんだかなぁって? 感じ悪いなって?」

「いや、そうじゃないんだけど」

 なんと口にすればいいか分からない。

 ただ、放って起きたくない気がしていた。何故か翔馬を見ていると、家族を失ったばかりの円を思い出す。

 さすがに他の皆に気付かれないように何とか取り繕っていた円とは対照的に翔馬の場合は前面に出てきているので、違うのは違う。はずなのだが、友里の気持ちは、円の事情を知ったときと同じようになっていた。


 ――放っておけない。


 その一言では理由にはならない事を知って、口から出せない。

 友里が答えに迷っているその時、浴場のドアが開き 茶色の短髪ボブの髪型をしている女性――玲奈がバスタオルで胸から下を隠す形で入ってきた。それでも尚、グラマスな体型は存在感を隠せない。

「玲奈さん」

「あら、友里ちゃんに鈴樹さん。今入ったところなの?」

「ええ、さっきまで子供たちもいたんですけど、皆私達が入るときに先に上がっちゃって」

「ああ、そう?」

 玲奈は入り口前にてかけ湯し、友里と里桜の隣に座って体を洗い始めた。

 その時、友里はそうだと思いつき、

「玲奈さん、聞きたいことがあるんですけど」

「んん、なに? 聞きたい事って」

「翔馬君なんですけど」

「ふむ」

「あの子今日一日中孤立してて、なんかなじめてないのかなって思ったんですけどあの子って?」

「二ヵ月ぐらい前かなぁ? 翔馬君がウチに入ってきたのは」

「二ヵ月前?」

「うん、ご家族が亡くなったの、友里ちゃんと一緒で」

「ふーん」

「で、たぶんその亡くなっちゃった日が大きいのよね」

「大きいって?」

「翔馬君の誕生日の前日なの」

「誕生日の前日?」

 その時、そういえばと頭の中の思考のパーツがつながり、やはりと思うべきか――


 円と繋がった。


 円もそうだったのだ。円は、誕生日の前日に両親と妹三人そろって失踪してしまっていた。

 警察には失踪届が出されているものの、未だ見つかっていない。円自身でさえ、もう見つかることは無いと諦めている。

「そのときのショックがおおきいのかもね。友里ちゃんは、施設になじむの早かったけど、翔馬君はちょっと出来てないかなあって」

「…………」

 円がそうであったように、やはり翔馬もそうだったようだ。

 あの時はどうしたのだろうと、シャワーを浴びながら考え込む友里。

「ふぅ……友里?」

「ん、なに?」

 隣で体を洗い終わった里桜が仕切りから

「露天風呂行こうよ」

「え、うん。いいけど?」

 友里も丁度体を洗い終わったのでタオルと腕で胸と秘部を隠すように立ち上がる。

「じゃあ私達先に行ってますね?」

「秋庭さんも早く来てくださいよ」

「うん、じゃあ先に行ってて二人とも」

 怜奈は髪の毛に付けていたコンディショナーを洗い流しながら里桜の呼びかけに応える。

 そしてふたり、屋内浴場から露天風呂へ出る廊下に出た。道中、サウナや岩盤浴の入り口があるが、さすがにそれは早い。せめて露天風呂に浸かってからにしたい。

 露天風呂へでるドアが開けるとヒヤッとした冷気が一瞬身を打つ。

 それだけに、向こうにある露天風呂から白く立つ湯気が魅力的に見えた。

 風呂の水面にうっすらと自分の裸体が映った水面を見下げながら、

 足先から膝へ、そして下半身から上半身へと湯に浸かっていく。

「「ふぅ……」」

 肩まで浸かると、冷えた身体が暖まる、だけでなく今日中に歩き回ったりしていた分の疲れが抜けていく。湯に浸かったとき一瞬全身に鳥肌が立ち、それが引っ込んでいく感じが、じわじわと全身の隅々ににわたって気持ちがいい。


 …………ちょっと眠くなりそうだった。


「ねえ友里ー?」

「んんー?」

 気持ちよさを感じてぽけーと、うとうとしていた友里に里桜が話しかけてくる。

「恋バナしようよ」

「ぶふっ……!」

 眠気が飛んだ。

「何でいきなり!?」

「そういえば友里とこうして裸で対面したのって、高校のシャワー室以外ないじゃない?」

「だから何で恋バナなのさ!」

「だって友里かわいいし。そろそろ男作ってもおかしくないし?」

「里桜、何言ってんのか全然分かんないんだけど……。ていうか、里桜だってかわいいし。しかも男の子と仲良くするの、私じゃなくて里桜じゃない」

「ああ、まぁ、別に仲がいいだけで好きって訳じゃないし」

「訳じゃないし?」

「まあ、本命は別って奴?」

「恋バナするんだったら自分からしてよ!」

 どうやら友里が恋バナをするよりも里桜の方がふさわしいらしい。

「いやいや、私の尻って軽いし、聞いてたらいろいろ幻滅するよー?」

「何に?」

「青春に」

「…………」

 里桜が尻軽女だというのは、嘘だと信じたい。ただ、そういった類の話を嘘だと知っていても聞いてしまったらせっかく温泉でいい気持ちになっていたところ、気分が悪くなってしまいそうだった。

「ほら、だからさ、友里の話聞かせてよ」

「いやでも、私恋バナなんて」

「初恋の人とか」

「初恋……かぁ……」

 そういわれて考える。

 初恋と言われて、ピンとは来ない。きっと男との経験が少ない友里だからだろうか。たとえ相手が下心で近づいてきたとしても、友里が気づいていない事が多い上、それが肥大化して襲いかかられた時には病院か警察に送り届けている。

 恋バナにするにしてはロマンが余りにも無さすぎる。

 だがそうした鈍感さと身の堅さの原因を考えると、間違いなく行き着くのは――

「円……」

「……? まどか?」

 ぽろっと口からこぼれた幼なじみの少年の名前。

 その口ずさんだ名前を追って口にする里桜。それで自分が彼の名前を口ずさんでいた事に気づいた。

「もしかして、女の子が初恋?」

「いやそうじゃなくって、っていうか円っていうのは男の名前だから」

「男の子? かわいい名前だね、その人」

「…………」

 円の前でその発言は禁句である。彼自身そう言われる事自体いやがっていた。

「で、その人なの? 初恋って。どんな人?」

「初恋って訳じゃないけどさ……。何って言うか幼なじみで……どんなのかって言うと、優しくて強くて、ちょっと大人っぽい?」

「幼なじみなのにそんなぼんやり?」

「だってそんな感じだったもん」

 どんなのかって聞かれて答えたのだが、さて、思い浮かべた人物をその「どんなの」と当てはめることが出来るだろうか。友里にとっては円は「幼なじみ」というその一つで全て言ってしまったような気がする。好きや嫌いなどそんなもの、すでに無いのだ。いつの間にか自分の中の一つとなっている、絶対に欠けてはいけないもの。

 それは、円がいない二年半でなお変わらなかった。

「もうほら、そんなんだったら相手が悲しむって」

「んん……」

 円が悲しむと聞いてつい考え込んでしまう――

「円君は、友里ちゃんとずっと一緒だった男の子」

 というところに、露天風呂の出入り口から突然怜奈の声が聞こえ、会話に割り込んできた。

「怜奈さん!」

「鈴樹さん、友里ちゃんに意地悪しちゃだめよ?」

 そういい、怜奈も露天風呂へ浸かる友里と里桜の隣で自身も湯の中に浸かる。そして里桜と友里と同様に気持ちよさを感じ深く息つく。

「秋庭さんもその、円君っていう人のこと知ってるんですか?」

「うん、知ってるよ? 小学生の頃毎日友里ちゃんの送り迎えしてたからねぇ」

「送り迎え?」

「友里ちゃんとおなじ施設育ちなんだから自然と一緒になっちゃうの」

「ああ、幼なじみってそういう……」

「だから、好きとかそんなじゃないと思うの、ね? 友里ちゃん?」

「あ……はぁ」

 否定できない友里。そもそも先ほど思っていたことなのでする気もない。

「友里ちゃんが恋バナするってなると、円君以外いないでしょ?」

「まあ、友里は男の子とはあんまり関わらないし? で、どんな感じだったんですか? 友里と、その円君って」

「本当にずっと一緒だったよー? もう夫婦みたいだったし」

「「夫婦!?」」

 友里と里桜、両者同じ言葉を口にし、違う表情を浮かべた。当然、友里は恥ずかしさと焦りに顔を赤くし、里桜は予想を遙かに上回る言葉に興味がそそられた好奇心を表に出した表情を浮かべた。

「夫婦なんですか!?」

「里桜――ッ」

「友里ちゃんが空手始めたのだって円君だしねー。円君も空手……っていうか武道武術全部出来たし。その中で円君が空手強かったからそれに影響されたんでしょうねー」

「怜奈さん――っ」

「へえ、それはよからぬ才能を生み出してしまいましたねー、その人」

「ちょっと――ッ!」

「円君もそんな事言ってたわよ? やっちまったって」

 やめて欲しくて話に割り込もうとする友里。だが、そんな友里の様子に目もくれず、里桜と怜奈は勝手に円と友里の話を進めていってしまう。話に割り込む隙がない。

「ぶくぶくぶく…………」

 もはや手に負えない状況。

 友里は余りに辱めに徐々に湯に深く浸かっていき、ついには鼻元まで浸かった。

 早くこの時間が終わらないかと、

「で、その円君って今は?」

 思ったとき、そんな事を聞く里桜。

 怜奈はその問いにしばらく沈黙。俯くように目をつぶって二呼吸置く。

 その様子に里桜も聞いてはいけないことを聞いてしまったのかと、「あっ」と表情を凍らせる。

「二年半前、円君は亡くなったの。交通事故でね?」

「あぁ……」

「女の子をかばったんだって」

 不意に、そのときの光景が脳裏に浮かぶ。

 車体に肉も骨も砕かれ、かつての幼なじみの少年は原型をとどめるも臓器を体の中から道路にぶちまける肉塊と化し、身体の上と下はかろうじて腸一本でつながっていた。

「…………」

 もう思い出したくない、と思っていても今更記憶から消し去ることが出来ないほどに刻み込まれている。

 友里自身、そのときどんな表情を浮かべていたのかは分からない。が、里桜がこちらを見て、まさかと察したのか

「なんか、すいません……変なこと聞いちゃって」

「ううん。友里ちゃんじゃ自分で言わないだろうし、そういう事情なら、知ってあげて。あなたが、本当に友里ちゃんの親友なら」

「…………」

 せっかくの温泉でいい気分になりそうだったのに、思わぬ暗い話のせいで体だけでなく心まで水に浸かってしまうような気分に陥ってしまいそうだった。

 そんな空気にしたのは間違いなく怜奈なのだがその空気に嫌気がさしたかのように大きなため息を吐き、

「じゃあ、私の恋バナ聞く?」

「怜奈さんの?」

「うん。私の彼氏の話」

「――――ッ!?」

 温泉での思い出が、怜奈の惚気話になる瞬間の始まりであった。




       6




 風呂上がりのおかげで体が暖か――

 否、怜奈の思わぬ惚気話に体の芯まで熱くなった。

(あれが、大人……)

 怜奈はもうしばらくお風呂に浸かっているようなので、今ホテルと温泉までの直通通路を歩いているのは、里桜と友里の二人。

「いいなぁ、彼氏がいるのって」

 これを何回聞いたのだろうか。

 里桜には本命がいるらしいが、ならば待たずにそのまま告白すればいいのに、里桜に限ってそういうことはためらうことはないだろうと思っていたがどうやら違ったらしい。友里自身も、そういった恋人関係に憧れはあるが、なにぶんそうなりたい男がいない、

「あぁ……」

 と、思っていたところに、ふと、彼ーー天ヶ瀬円の顔が思い浮かんだ。

 あえて、そういう関係になりたいと思うならば、幼なじみ彼以外はないだろう――

「友里おねーさーん!!」

 ホテル入り口の方から友里の名前を呼んで走ってきたのは友里が担当していた班の子供達のウチの一人であった少女。

 だが、様子は明らかに焦りを見せているようで、近寄ってきた少女は泣きそうな顔を浮かべてふるえる声で何かを伝えられる事を訴えようとし大泣きはこらえ涙で目を真っ赤にして友里をまっすぐと見つめていた。

「どうしたの?」

「翔馬君がいなくなった!」

「え?」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ