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Dreamf-6.1 ファーストオペレーション(A)

       1




 目が覚める前、

 夢見るたびに身が震える。

 こんなにも拳を握り、恐怖を押し殺し、目の前にいる異形を殴っている。

 こんな事ならば光の力なんて物、手にしたくはなかった。

 腕には何か武器のような物がはめられているようで、

 それを天に突きあげ円に回す。

 虹色の光が天を覆う輪となり、輝きを増す。

「ハアァッ――」

 その輪に腕の武器を突き上げる、

 と、輪の虹色の光が武器に収束していき、腕の武器は虹色の光を放つ刃の形となった。今にも、解き放たれようとし――

「ゼァアアッ!!」

 刃を異形に向けて振り下ろし、突き出し、

 そして、ため込まれていた光が、放たれた――

 光は放たれ、空を焼く光線となり、異形の身を穿ち喰らう。

 怪獣の身を喰らう一撃は、力の抑止がまともに働かなかったためか衝撃のみで空間が歪ませ、熱線で周囲――星にあるものすべてを灰や泥に還す。

 全て、無と化したその場所に勝利の喝采も、破壊の悲鳴もない。全てが消えたからだった。

「…………」

 もはや何の言葉が自分に向けられるべきなのかすら、知るすべもない。

 星の生命をも焼き尽くした一撃を放ったままの形となってる自分の片手拳を見やり、その拳を強く握り込む。

 いっそ、潰せてしまったらどれほど楽か。だがそう思っても出来ない。痛みを感じ、自然と握りつぶそうとする手の力が弱まってしまう。

「……ッ!」

 その時、自分を光が照らす。

 空から舞い降りるものは光の塊。それは人によって見える形が変わる

 その光の塊に手を伸ばすと、光は手の平の中に納まる。

 まるで、その光は探し当てた選定者を当てたかのように。


 彼は、その光を見詰めたまま――――



        *     *     *     *     *



 目を覚ました。

 ピピピッピピピッピピピッ、と、目覚ましのアラームの音が耳に入り、夢から現実へと意識を引き戻される。

「…………」

 瞼を開け、薄暗い部屋を見渡す。

 そしてアラームが鳴る目覚まし時計を止め、時刻を見る。

「六時か……」

 どうやら最初のアラームで起きれたらしい。

 さっき見た夢を思い返してしまう。夢に何の意味があるのか――予知夢か、それとも前世の記憶か、等、そんな絵空事など考えたところで答えなど見つからない。

 だが、いつもの自分が戦って全てを破壊してしまうものでは無く誰かの夢であった事は大きな違いだった。

 円は頭を押さえ深呼吸し、夢によって震えてしまった心を鎮める。

「よし……」

 十人目の光の超人(スピリット)、天ヶ瀬円の朝は人間と同じように、また迎えられた。




       2





 今日の朝はいつもと感じ方が違う。

 一年に一度必ず来る日。

 だとしても、感じ方が違っていた。

「あぁ……」

 その後に続く言葉が口にもれそうなところを寸でのところで飲み込む。

 園宮友里はもうすぐ鳴るであろう携帯のアラームを止め、ベッドから下りる。寝癖で前髪が顔に掛かっているので、それを分ける。

(六時半……)

 携帯に表示された時刻を見て何だまだそんな時間かとまた寝ようとする。今日から三日間部活は休みなのでもう少し寝ようかと、瞼を閉じて、寝息を立て始める。

――ピンポーン

 と、インターホンがなった。

「…………」

 こんなに朝早くだれが来たのか。新聞の勧誘かもしれない、と、友里は無視しようとする、

――ピンポーン、ピンポーン、ピンポーン

 と、無視すると今度はせわしなく何度もインターホンを押されている。これはもう友里が寝ているかも知れないと思って起こそうとしているのに違いない。

「んん……」

 渋々ベッドから起きあがって床に足を着け、玄関へと向かい、ドアの鍵とチェーンを外し、ドアノブに手をかけてゆっくりと開ける。

「はーい……」

 ドアをゆっくりと開け、隙間から外をのぞき込む。

 と、ガシッと、

「えっ――?」

「ア・ハッピーニューイヤー! 友里ー!」

「あぁ……はぁ……」

 どうも朝からテンションが高いようで、友里はそんな彼女についていけず単調な文字とため息を漏らすのみ。

 友里を起こしにきたのは鈴木里桜。友里の所属する部活の友人であり、次期副部長が決まっている少女。ちなみに、友里は全国レベルの腕と指導力を買われて次期部長兼主将である。

「って、何でパジャマなの?」

「何でだと思う?」

「起きた?」

「うん……」

「って、何で!? 約束したでしょ!? 年末休み前に!」

「なんかしたっけ?」

「今日は施設の子供たちに会いに行くんでしょ? お正月旅行に行くって。誘ったのアンタでしょうが」




       3




 友里には、家族や身よりが一人もいない。

 小学校一年の頃に父親を、

 小学校三年の頃に母親を、

 一〇も歳を重ねないウチに、友里は、一人になった――

 否、本当に心に寄り添ってくれる者が円一人になった。円しかいないからイヤだという訳でもなかった。だが、心の中にいてくれていた両親がいなくなって、そこにぽっかりと穴が空いてしまった。

 それからその空いてしまった穴を塞ぐのに何年も必要になっていた。その期間が辛かったというわけではなかったが――

 それでも、その期間が今の友里を形作り、変えてくれたのが、中央仁舞児童施設。

 つい一週間少し前、友里は訳があってここにまた訪れる事があった。

 その時に施設の職員となっていた秋庭怜奈(あきばれいな)と児童施設の低学年のお正月遠足に付き添うことになったのだ。

 高学年たちが職員たちの手伝いや、低学年の子供たちの引率をしたりするので、人手自体は既に多いはずなのだが、どうやら中学生以上が当たる高学年たちは部活や受験勉強、忘年会などでほとんどがいないらしい。という事なので、卒園した友里にどうかその役割をやってくれないかと頼まれ、友里も喜んで引き受けた。

 



 と、今いるのは関東から離れたところにある四大ジェットコースターがあるテーマパーク。さすが新年正月というだけでただでさえ人が多いテーマパークにさらに

 ここで日没前まで遊び、温泉宿泊施設で一泊した後に周辺の観光を行った後に帰る予定となっている。

 全員広場に集まり、

「じゃあ班に分かれて、担当のお兄さんお姉さんのところに集まってくださーい」

 怜奈のその号令とともに、それぞれ一二の班八人ずつに分かれる子供たち。男女比率は5:3であったり4:4であったりとバラバラ。友里の場合は男子が三人と女子が五人。元々子供に好かれやすい性質故、

「友里おねーさん、ジェットコースター乗ろ!」「いやお化け屋敷!」「何でもいいけど次は天空ブランコな!」

「…………」

 何故絶叫系とホラー系ばかりなのだろうか。

 絶叫系はまだしも、ホラー系は一番ダメだった。どれだけ悪人がナイフ振りかざしこようが、銃口を向けてこようが動きを注視すれば友里なら躱せるうえ撃退する事だってできる。が、お化けには通用しない。全部すり抜けてしまいそうだ。

 何て理屈などではなく――ダメなのだ。

「よーしいっくぞー!」

「あ、ちょっと待って!」

 一人、元気な少年がそのままホラーアトラクションの方に先走っていく、その騒ぎに釣られるように追いかける六人の子供たち。

 そんな元気な子供たちの身勝手さに、友里は「もう……」と声をこぼす。

「ホントに子供だよね」

「……?」

 と、独り、取り残されたかのように友里の傍で言葉を漏らす少年が一人。確かに、走って行ったのは六人だったので一人足りていなかった。

「君はついて行かないの?」

「嫌だよ、ガキだし」

 子供が子供にガキと言っている。

 つい君も子供だろうと言いそうになったがその言葉を飲み込み、少し溜め息を吐くだけに留まった友里。

 しかし、こういった子供に対してどんな言葉をかければいいのか、友里にはその言葉が分からない。

 だから、

「そんな事言わないでさ。きっと遊んでみたらおもしろいよ?」

 などとそれはまるで、その少年の気持ちに逆撫でしかねないような言葉を口にしてしまう。

「おねーちゃんもそんな事言うんだ」

 少年の言い返しが友里の心に刺さる。

 いじけるような怒った顔を浮かべ、友里の顔を睨んだ後、最悪はぐれるのだけはダメだと分かっていたためか少年は走っていった子供たちの方へと歩いて行った。

 睨んでくる少年の顔が頭から離れなくなり、しばらくその場で立ち尽くす友里。

「あれ?」

 ようやく立ち直った所で気づく。

 友里がはぐれた。




       4




 円がSSCに入って、もうすぐ一週間が経とうとしている。

 今日は一月一日。

 地に降りればきっとお正月だ。SSCでは交代性にしており今日はチーム・エイトとSSCの隊員五分の一ほどが二日間のお正月休みに入っており、個室で寝正月を過ごそうとしている者もいれば、地上に降りて実家へ帰ったり友人たちとパーティーをしたりしている。

 おそらく残りの五分の四もそんな感じだろう。

 そこで、当の円本人といえば、

「よっこいしょっと。

 これそっちでいいんですか?」

「うん、ゆっくり置いてよ? 精密機械なんだから」

 ラボの模様替えと大掃除に付きあわされていた。ラボといえば研究者だが、もちろん、円といま一緒にいるのはその研究者だ。

 歳は円よりも少々年上ほどだろうか。翠色の瞳に何故か似合うピンク色の髪の毛。ウェーブのかかったようなくせ毛のあるセミロングの髪の毛を後ろで束ねている少女だ。

 円が両手に抱え、

「ゆっくり……ゆっくり…―ッ

 てってっ!?」

「円君!?」

 足元に何かがあった。

 小指を打ち且つ、体勢が崩れて両腕で抱えて視界を塞いでしまう程のスーパーコンピューターをうっかり落としてしまいそうだった。落としたら間違いなく壊れる。

「あ、っとと……」

 その危機感が円の潜在的な能力を引き出し、何とか体勢を取り戻させた。「ふぅ」と安堵に一息つき、指定されたところに設置する。

「あっぶねぇ……」

「もう、気を付けてよ?」

「ごめんなさい」

 その円の口だけかと見えるような言葉に、沙希(さき)・エマーソンはため息を吐き自分は自分に出来る作業をすすめている。沙希は小物の設置を行っているようだ。

 両親と映っている写真。

 ボトルシップ。

 造花。

 自作ロボット――等々。

 沙希は研究者だが、円がイメージしていた「研究者の部屋」というものとは違って、家族的というべきか、それこそ心健やかに育った平凡な女子高生の部屋であった。もちろん、円は女子高生の部屋に入ったことがないので、あくまでイメージしか無いのだが。

 正月休みでなくとも円がSSCの任務で出動したことは一度もない為休み同然の円は、SSCのブラウニーとして使いっパシリにされていた。

 毎日が日曜日の者にふさわしい、正月の過ごし方である。

「えっと、次はどれです?」

 と、模様替えが少しずつ進んでいく。


――――


――――


――――


 そうして、沙希の部屋の大掃除が終わる頃には昼過ぎであった。

「ああ、もうやっと終わったぁ」

 と、円は体の節々をストレッチし筋肉の緊張を解いて、床に座り込む。

「そんな重い物多かった?」

「別にそんなことないですよ。持ち運ぶものが多かっただけでしたから」

「そっかぁ。やっぱり力とか強くなってるの? スピリットって」

「まぁ、そうですね。あの運んだスパコンとか移動させたベッドとか、人間だった頃よりも大分軽く感じましたし」

「大分って、二〇(キロ)位あるものも軽々と持ち上げてるクセに?」

「へえ、二〇㎏もあったんですか? あのスパコン」

「すごいなぁ、ホント。ちょっと羨ましい……」

 確かに重い物を軽々と持ち上げられるようになったという点は、スピリットになって便利になったと思った点の一つだった。

 後は空を飛べたり、

 空腹に悩まされることが無かったり、

 病気にならなかったり――。

 一度死んで蘇った副産物に、人間ならば欲しがりそうなものはほとんど手に入った。パッと思い浮かべてまだ手に入ってないものがあると並べるならば、金と権力と地位ぐらいだろうか。だが、円にとってはそれが欲しいとは言えない物なので問題はない。だがお金は別だが。

「よし、手伝ってくれたから、お昼ご飯奢ってあげるよ!」

「はは……」

 沙希のはつらつとした笑顔を見ると自然と力の抜けた笑いが漏れる円。

 そんな円と歳が近い沙希だが、IAの防衛部隊がビーストに対抗するために装備しているヴァルティカムユニットや、このSSCの拠点となっている空中要塞スカイベースやビーストの掃討任務に赴く隊員らを地上へと輸送する高速大型輸送機EXキャリーの浮遊機構であるヴァルティカムリフトの基本構造の開発等、IAがビーストに立ち向かうための技術を開発した少女なのだ。開発されてきたものあらゆるものがオーバーテクノロジー。ビーストやスピリットなどの戦いなど無ければ生まれる事さえ無かった。

 ビーストに対抗できる以外に良い事といえば核兵器を軒並み無価値に変えてしまったというぐらいだろうか。その代わりそれ以上の大量破壊兵器が生まれてしまったのは言うまでもない。

 その際の心情など、聞きたくない。

 口にすれば沙希に思い出させる上、聞いても面白い話にはならなさそうだ。正月から胸糞悪い気分にはなりたくない。

 もっとも、自分が作った兵器が人間に向けて放たれない限り悪い気はしてないだろう。それを含めて、どうも考えるだけで胸糞悪い。

 なので考えないようにする。

「今日って確かお正月だから、おせち料理出てるはず」

「へえ」

「手作りだって」

「それは豪勢ですね」

「ほら、早く行かないと売り切れちゃう!」

 床に座り込む円の手をつかみ引っ張って立ち上がらせる。

「あぁ、はいはい」

 昔、妹や友里にもこんな風に手を引かれて連れ回されたことがある。これは、そんな感覚に似ていた。

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