【60秒で一気読み! キャラクター小噺】 〜もしも、こんな○○がいたら
【 60秒で一気読み! キャラクター小噺】 〜もしも、こんな話しかけてもらいたくてたまらない釣り師がいたら
【 誰かに話しかけてもらいたくてたまらない釣り師 】
静かな川の流れ。水面のきらめき。
優しげな老人が釣り糸を垂れていた。眠そうなまなこで揺らめくウキを眺めている。
川沿いのあぜ道を子供連れが通りかかった。
だが、そのまま歩いて行った。
小説が好きそうな思春期の少女が通りかかった。
だが、そのまま去っていった。
老人はひとつため息をついた。
なぜ、誰も話しかけてこないんだろう。釣りをしているというのに。
時代劇や小説なんかじゃ、釣りをしている老人がいたら必ず主人公は話し始めるじゃないか。なのになぜ、ワシには誰も話しかけてこない。
「なにが釣れるんですか?」とか、
「ほお〜、やっぱり名人は違いますね」とか、
「わたし、大きくなったら釣り師のお嫁さんになる!」とか、いろいろ言いようはあるだろうに。
老人は静かにウキを眺めていた。
そこへ、河原で落語の稽古をし終わった青年がやってきた。
「あのーーここではなにが」
と話しかけるや否や、川中から鋭い水柱が放たれた。
顔に命中した青年は短いうめき声をあげて倒れた。
しばらくして、ロードワーク中のラグビー部たちが老人に興味を持った。
「それ、仕掛けなんですーーー」
再び、鋭い水柱が飛び次々とラガーマンたちをなぎ倒した。
「ふう‥‥‥」
老人は寂しげな笑みを浮かべつぶやいた。
「仕方あるまい。こんなつまらん老人につきあいたい酔狂もおらん。最後はお前たち魚しかワシにはおらん。この先はずっと、お前たちといるか」
すると突如水中から猛烈なヒキが起き、老人は竿ごと引っ張られ川中に引きづられていった。