2話 猫、猫、も一つおまけに猫
一通りの状況を確認し終えた要は、一先ずこの世界で生き抜くために出来る限りここで戦闘を行って経験を積むことにした。さらに、新しいスキルを覚えればこの先楽になるだろうという考えもある。
この森を探索するとそれなりに魔物がいるようで狼を始め猪や熊、さらには巨大なカマキリも発見し、さすがにその時は要も冷や汗をかいた。幸い速さはかなりあるため、見つかったとしても逃げ切るのはそう難しくなかった。
こうして要はしばらくは木の上から観察し、そしてある程度の動きを見て倒せそうなら次々と挑戦していったのだった。
そうして数日間、戦闘の経験を積んだ要の目の前には巨大カマキリがいる。猪や熊はさほど強くなく、難なく倒せたのでこの森の中でも強いであろうこの巨大カマキリに挑むことにしたのだ。
巨大カマキリはギチギチと歯を鳴らしてじっと要を見つめる。そうしてしばらく睨み合い、先に動いたのは巨大カマキリ。要は自分目がけて振り下ろされる鎌を冷静に確認して、バックステップ避ける。さらにもう片方の鎌での横薙ぎで追撃してくるがこれもジャンプで難なくかわす。どれも最小限の動きで躱していて、ここ数日間の成果が十分出ていた。もともと要は力で押すのではなく技術で戦うタイプだったので、非力なこの猫の体での戦闘に合っていた。まあ狼を一撃で吹き飛ばす猫が非力と言っていいのかは分からないが。
巨大カマキリの攻撃を避けた要はその隙に後ろへ回りこむ。そして機動力を下げるために、背中で広げてあった羽を鋭い爪の一閃で切り落とそうと飛び掛かった。巨大な体のせいですぐに反応できないカマキリに、その攻撃を避けられるはずもないだろう。予想通り成すすべなくその巨大な羽を両方とも切り落とされてしまう。これで空中へと逃げられることはなくなった。
両羽を切り落とされた巨大カマキリはたまらず悲鳴を上げる。その隙を要が見逃すはずもなく次は最大の武器である鎌を切り落としに掛かる。巨大カマキリの背中を駆け上りまずは一本切り落とす。要の一撃を食らった左鎌は切り落とされ空中に投げ出される。要はさらにもう片方の鎌も切り落とすべく空中に投げ出された左鎌を足場にして右鎌めがけて飛び掛りもう一撃食らわす。
こうしてこの僅かな時間の間に巨大カマキリは武器である鎌に機動力のための羽を失ってしまった。
「意外とあっさり終わったな」
巨大カマキリを背にそうつぶやく。結局鎌も羽も失った巨大カマキリは何の抵抗も出来ずに要にやられてしまったのだ。
無事倒し終えた要はスキルをチェックする。面倒だが覚えたときに何かがあるわけではないので毎回チェックしなければならない。今回は大物とあって期待しながら確認する。
「お、また増えてるな」
そう、まただ。実は巨大カマキリを倒す前にも一つ覚えている。それは猫眼である。例のごとくその呼び方に突っ込みを入れた要は、スキルを覚えた嬉しさよりも今後スキルすべてに猫が付くんじゃないだろうかという不安のほうが大きかった。もちろんその不安は的中する。
「今度は猫気か………………もういやだ」
またまたそのスキル名に打ちひしがれる要。スキルを覚えてこんな気持ちになるのは要ぐらいだろう。ちなみに各スキルの内容はこうだ。
『猫眼:相手の弱い部分を見抜く。これは相手との力量差により効果が変わってくる。また夜目が利くようになり普段よりも視界が良くなる』
『猫気:敵を威圧しひるませることが出来る。また感覚が鋭くなり気配に敏感になる』
スキルの効果はどちらも今の要にとってはありがたい。巨大カマキリとの戦闘も猫眼のお陰で鎌と羽の弱い部分を見抜き、どちらも一撃で切り落とすことが出来たのだ。また今回覚えた猫気は見た目など関係なく威圧できるので、この可愛らしい猫の姿であってもそれなりの圧力を相手にかけられる。今の要に取ってはありがたいスキルだ。
「まぁ効果は良かったし、もう諦めるか…………はぁ」
スキルの効果を確認した要は、諦めるかと言いつつもつい溜息が出てしまう。耳と尻尾も気分に合わせたかのようにへんにゃりとしていて、要の心境がよく現れている。
気を取り直して食事にすることにした要は、以前狩って置いていた熊を食べることにする。さっきとは打って変わって耳はぴんと立ち、尻尾もぶんぶん振られている。犬か! という突っ込みはしてはいけない。
なぜこうなっているかというと、食事は最近の要の楽しみなのだ。最初は生肉を食べるのに抵抗があったが、狼の肉を食べてからその美味しさに虜になっている。熊はそれよりも美味しくどうやら魔物の強さに比例して美味しくなっているようだった。
それでもさすがに巨大カマキリを食べる気にはならなかった要は、取り置きしていた熊を食べ始める。
「ふむ…………やはり…………美味しいな…………」
ぶつぶつと独り言をつぶやきながら美味しそうに食べている。猫の体は小さいため、あまり量は必要ないのでまだまだ熊肉の在庫はたっぷりだ。
今日も十分熊の肉を堪能した要はこれからどうしようかと考える。この辺りの魔物は大体倒し、一番強いであろう巨大カマキリも難なく倒すことが出来た。戦闘の経験も大分積んだので、そろそろここから移動してもいい頃だろう。ならこの森を抜けるか、そう思った要は早速行動に出る。といっても猫の身一つで特に準備もないので歩き始めるだけなのだが。
残っていた熊肉を名残惜しそうにしばらく見つめた後、ようやく歩き始めた要であった。
順調に進んでいた要は少し休憩をすることにした。この道中、猫気のお陰で無駄な戦闘を行わずにすんだので、かなりの距離を稼いでいる。
「今の俺にとってこの猫気はかなり助かるな。さすがに毎回戦うのは面倒だったし、かといってこの姿だと狙われやすかったからな」
やはりこの見た目だと狙われやすく、幾度となく襲われそうになったがその度に猫気を発動し退けていた。常時発動したら良いのだろうが、意外と疲れるので必要なとき以外は切ることにしている。
「それにしても一向に出口の気配がないな。道すら見つけられないし……」
まだ探し始めて一日目、それでも結構なスピードで進んでいたのでそろそろ何かしら見つけても言い頃だ。しかし目の前に映るものは、ただひたすら木々が生い茂っている光景だけだった。
そして数日後。
いまだに要は森の中をさまよっていた。
「全然見つからないぞ……」
この森が広すぎるのか、要が方向音痴なのかは分からないが一向に出口を見つけられていない。そろそろ探すのに疲れた要は、もうここで暮らすのも良いんじゃないか? とも思い始めている。
結局今日も出口を見つけられず途方にくれていたその時、要の耳に普段とは違う音が聞こえてきた。
「なんだ……?」
大分遠いが、それでも普段この森にいた要には聞き分けられた。その音の方向へ向かっていくと音もどんどん大きくなり何が起こっているかが分かりだした。
「これは……金属音……? それに足音も聞こえるな。ということは誰かが戦っているのか……!」
普段とは違う出来事、そしてようやく人らしき気配を掴んだ要。その嬉しさから自然と笑みを浮かべ音の方向へと急いで向かう。
そしてついに音の発生源へと着いた要の目に飛び込んできたのは、以前倒したことのある巨大カマキリと戦う少女だった。




