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猫と少女の師弟関係  作者: 猫野 甚五郎
第二章 水の街ウォーレイン
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17話 テオル一家

「やっと着いた……」


 町に戻るだけの体力を回復させたユーフィは、なんとか水鏡亭まで戻り、夕食も食べずにそのままベッドへとダイブした。

 本来なら要はこうなる前に止めなければならない立場だったのだが、久々の魔法に浮かれて調子に乗ってしまった。その結果がこれである。すぅすぅと寝息を立てているユーフィの寝顔を見ながら大いに反省する要であった。


 次の日になってもユーフィの疲れが残ったままだったので、今日は一日ゆっくりする事にした二人。出会ってから今日まで忙しなく動いていたので、たまにはこういう日もいいだろう。

 遅めの朝食を取った後、水鏡亭を出て中央広場に向かう。ユーフィのお気に入りである噴水を眺められるベンチに座り、のんびりと二人で日向ぼっこ。ユーフィはベンチに背を預けて、要はそんなユーフィの膝の上に乗って丸くなり、ユーフィに撫でられながらひたすらぼーっと噴水を眺める。


「お、カナメにユーフィか? こんなところでどうした」


 二人でぽやぽやと平和な時間を過ごしていると、誰かが声をかけてきた。目をつぶり、撫でられ続けていた要はその声の方を見てみるとそこに居たのはテオル一家。


「誰かと思ったらテオル達か。そういえばここへ来た日以降会ってなかったな。こっちは昨日がんばりすぎた反動で今日はまったり日向ぼっこだ」

「日向ぼっことはなんともまあ平和だな。しかし何をしたんだ?」

「ユーフィと魔法の練習をしていたらやりすぎてぶっ倒れた」

「「「あぁ、なるほど」」」


 三人同時に納得するような反応を見せる。さすが親子だ。


「それは誰もが通る道ね。初めて魔法使ったときは特に嬉しくなってやりすぎちゃうからね。それで魔法の練習をしていたってことは、いい適正が出たのかしら?」

「オール一」


 リーナの質問に落ち込んだユーフィの姿が思い浮かび、ちょっとヒヤッとした要だが、特に気にした様子も無くユーフィが一言答えた。どうやらもうふっ切れたようだ。


「あら、そうだったの。でもその様子だと……何か言い方法でも思いついたようね」


 聞いたリーナもオール一と聞いて一瞬しまった! という顔をしていたが、ユーフィの様子を見て何かを悟る。大抵オール一と聞かされた人は、落ち込むのが普通なのだが今のユーフィにはそれが見られなかったからだ。


「ん、要のお陰」

「なるほど、さすが師匠って所かしら」

「まあ、な。剣のほうはこの体だと教えにくいが、魔法の方なら問題ないからな。ここでがんばらないと師匠としては失格だ」

「そこまで自身があるなら一度見てみたいな…………っとここで長話もなんだな。せっかくだからお昼がまだならうちで食わないか?」


 話が長くなりそうだと思ったテオルは二人を家に誘う事にした。


「家ってこの街に家があるのか?」

「ああ、一応ここを拠点にしているからな。ずっと宿屋というわけにもいかん」

「お昼も腕によりをかけるわよ」

「……っ! いってみたい」


 リーナのお昼、言葉を聞いていく気満々になったユーフィ。いつの間にか食いしん坊さんになっている。


「よし、じゃあさっそく行くか」


 こうして二人はテオルたちの家に案内されていった。


「ここか……」

「けっこう大きい……」


 二人の前に現れたのは二階建てのほかより少し大きめの家で、しかも庭が付いていた。


「はっはっは、これでもそれなりに稼ぎはあるからな。それに庭があると素振りぐらいは出来て便利だぞ」

「たまに花壇の花を壊して母さんに起こられてますけどね」

「それは言うな」


 苦笑いしながら突っ込むリオにばつが悪そうな顔をする。リーナは笑顔でそのやり取りを聞いていたがそれが逆に怖い。

 なぜか冷や汗が止まらないテオルは、この話題を逸らそうと早速く二人を家の中へ案内する。それなりに広い廊下を通りリビングに入ると、大きめのテーブルがありちゃんとキッチンも備え付けられていた。思った以上にしっかりとした造りの家に、驚きながらも席に着く二人。


「されじゃあさっそく準備するわね」

「よし、それじゃあ私もたまには…………」

「あなたは座ってて頂戴」

「………………はい」

「弱いな」

「言うな」


 手伝おうとしたテオルを一刀両断するリーナ。悲しい事にこの短いやり取りだけで家庭内の力関係が分かってしまった。


「そういえばカナメちゃんは食べられないものはあるかしら」

「いや、なんでも食べられるから大丈夫だぞ」

「分かったわ、それじゃあ楽しみにしていてね」


 料理が出来るまでテオルと要は他愛の話を、ユーフィは料理の様子を物珍しそうに眺め、リオはテオルと違いリーナの料理を手伝っていた。

 そうして暫く立つと料理が出来上がり、リーナとリオの手によってテーブルへと運ばれてくる。


「おまたせ~」


 そこに置かれた料理は、チャーハンにスープそれにサラダ。チャーハンは白身魚の身がふんだんに盛り込まれており、良い香りが立ち上っている。スープには魚に肉、そして野菜がバランス良く入れられそれぞれの旨みがスープににじみ出ている。そしてサラダにも魚のほぐし身が入っており魚づくしだ。猫である要はそれを見て大興奮し、尻尾をぶんぶん振りまだかまだかと待っていた。


「カナメちゃんのはどこに置こうかしら……」

「ああ、下で良いぞ。テーブルの上でってのもあれだし」

「膝の上であーん?」

「やめろ」


 ユーフィの提案を即座に却下する要。さすがに人目があるところだと恥ずかしすぎるだろう。しかし要にあーんするのが楽しみなユーフィは不満そうだった。


「カナメ、おまえ…………」

「言うな」


 何かを悟ったテオルからの哀れみの目を向けられ、要は泣きそうになった。

 そんな要をよそに、みな席に着きそれぞれ食べ始める。ユーフィは湯気が立ち上るチャーハンをはふはふと一口、口に入れると目を輝かせた。


「おいしい……!」

「そう、ならよかったわ」


 ユーフィの素直な感想に笑顔になるリーナ。そしてユーフィはその美味しさに釘付けになり黙々と食べ続ける。


「そういえば、あの後どうしてたんだ? 全然見かけなかったが」


 ここ数日まったく見かけなかったことに疑問を持っていた要は、食事の合間に問いかける。


「ああ、あの後ギルドに報告しに言ったんだが、そのときに急な依頼があってな。他に受けられるランクのパーティがいなかったから急遽受ける事が決まり、すぐこの街を出てたんだよ。で今日帰ってきて二人に出会ったってわけだ」

「なるほどな、高ランクは大変だな」

「それで生活してるからな。で、そっちはどうだったんだ? 登録は出来たのか?」

「いや、ダメだったよ」


 受付嬢からの説明を三人にもする要。最初に特例の話をしたリオは、申し訳なさそうな顔をする。


「そうだったんですね、確かに噂だけで実際なったって人を見たこと無かったですからね」


 他の二人も詳しいことは知らなかったようでそうだったのか、という顔だ。


「ま、魔物の買取はしてもらえるし、この前のブラッドベアがかなり高額だったから暫くは大丈夫さ」

「それならいいんだが……まあ、せっかく出会ったんだ、何か困った事があったらいってくれ」

「ああ、そのときは頼むよ」


 そんな男の友情が芽生え始めている頃、ユーフィは出てきた食事を平らげ満足そうに余韻に浸っていた。


「それにしてもオール一ねえ……ある意味珍しいわよね」


 ふと思い出したようにリーナが話し始める。


「そうなのか? まあ、初めて結果を聞いたときは俺たちもどうしようかと思ったが……その時計ってくれた受付嬢の説明を聞いたら意外と何とかなりそうだったからな」

「聞いたばかりで、なんとかなりそうって考えるのもすごいわよ。大抵の人は二までならすぐ魔法の使用を諦めるわよ」

「もったいない。使い方次第で色々出来るというのに」

「どうしてもイメージが先行しちゃってるからね。五以上ないやつは魔法使いを名乗るなっていう人も居るし」

「馬鹿だな」

「ええ、馬鹿よ。そういう馬鹿のせいで才能があっても諦めてしまう子が居るの」


 なにかを思い出したように溜息をつくリーナ。どうやら以前そういう現場に立ち会ったようで、同じ魔法使いとして思う所があったのだろう。


「そういう意味では期待しているわ。オール一でも使えるという事を証明してくれるのを。なんとなくだけど……二人なら出来そうな気がするのよね」

「ん、任せて」

「今はまだ練習中だが、これが出来るようになれば度肝を抜いてやる」


 なかなか悪い笑顔で自身たっぷりに言い放つ要。


「えらい自身だな」

「当たり前だ、俺が考えに考え抜いた魔法だからな」


 ここまで自身があるなら近いうちに何かしでかしそうだな、とユーフィの今後に期待することにした。


「そういえば、二人はこれからどうするつもりなんだ?」


 ご飯を食べ終え一服しながら、たずねるテオル


「そうだな、暫くはここに滞在してユーフィの修行かな。お金の面は心配なくなったことだし」

「ならいっそ俺たちみたいに家でも買ってみたらどうだ」


 なかなかえらい事を軽く提案してきたテオルにさすがに驚いてしまった要。


「買ってみたらって、そうポンポン買える物でもないだろう……。まあ確かに欲しいとは思うが……」


 そう言いながら今居る部屋をぐるっと見渡す。やはり実際見てみると欲しくなってしまうのは仕方が無い事だろう。もし買うとするなら、二人だとこの家ほど大きくなくても問題ないが、それでも家を買うとなるとそれなりの金額は要るだろう。稼ぎの目処が立っていない二人にとっては危ない橋だ。


「家……カナメと二人だけの……カナメを抱いて庭で日向ぼっこ……いい……」


 意外な事に家を買うという話を聞いて一番乗り気になったのはユーフィだった。動機はやや不純であるが。


「家、欲しい。あったら便利。買おう、カナメ」

「おいまてユーフィ。絶対住む以外の目的で欲しいんだろ。ぶつぶつといっていたの聞こえてたぞ」

「…………日向ぼっこしたい。買おう、カナメ」

「開き直りやがったよ、こいつ!」


 ちょっとした夫婦漫才を繰り広げる二人。会話だけ聞けば家をせびる妻に、それを渋る夫といった所か。見た目が少女と猫なのがあれだが。

 そんな二人の様子を見て、一つ疑問になったリーナが問いかける。


「カナメちゃんとユーフィちゃんって師弟関係なのよね。べつに付き合っているわけじゃないんだよね?」

「「もちろん」」


 二人そろって、何を言っているんだといわんばかりの顔で答える二人。あまりの息の合いように、余計に付き合っているんじゃないかという思いが出る。何度も言うが見た目は少女と猫なのだが。


「端から見てたらただの主人とペットだがな」


 空気の読めないテオルは笑いながらそんな事を言い、要の引っ掻きを食らい床を転げ回った。

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