16話 魔剣
「すごい威力……」
「そうだろう、凄いだろう」
目の前の惨状を見て目の前の惨状を見て思わず呟いたユーフィに、何かを誤摩化すように胸を張って言う要。
「で、にゃんだーって何?」
「うぐっ!」
このまま誤摩化せるかと思っていたようだが、早々旨くいかないようだ。ちゃんと突っ込まれた。言いたくなさそうだった要だが、言わないと先に進まないので渋々説明し始めた。
猫法は魔法が使えるようになるスキルなのだが、使うにはそれぞれの属性ごとにあるちょっと特殊な言葉を言わなければ使用出来ないのだ。この時点でもの凄く嫌な予感がすると思うのだが、まさにその通りでその特殊な言葉というのが――――
火はにゃいあ
水はにゃーたー
土はにゃると
風はにゃいんど
氷はにゃいす
雷はにゃんだー
光はにゃいと
闇はにゃーく
――――となっている。これは要専用のスキルという事で、特殊な言葉も要基準で作られているようなのだ。なので、ベースの言葉はそれぞれの属性を表す英語でその頭文字がにゃ、に変換されている。
どこまで行っても猫を押してくるこのスキル達に頭を抱えたくなる要。特に氷と雷は偶々だとはいえ、酷すぎるだろう。真面目な戦闘中にこんな事を言っていたら気が抜けてしまう。スキル自体は強力な分、使わないという選択肢がとれないからたちが悪い。
「じゃあこの世界の魔法とはちょっと違う?」
「いや、発動させる為の言葉がちょっとおかしいだけで、それ以外は同じだと思うぞ。イメージ通り発動出来たし」
そう、言葉がおかしいだけで魔法自体は説明を受けたように使えるので、この世界基準になっているのだろう。ならその言葉も無くせと言いたくなる要だが、きっと無駄だろうとこれ以上考えるのをやめた。
説明も終わりユーフィが納得した所で、さっそく要がイメージする魔法を実践する。
「にゃいんど」
ユーフィが分かりやすいように、まずは風の球を顕現させる。そしてその状態から徐々に圧縮していき、最終的には鉄砲の弾サイズまで小さくした。
「これが圧縮だな。最初からこのサイズではなく、あの大きさのものをこのサイズにぎゅっと詰めるんだ」
ユーフィはようやく要が言っていた意味が分かり、なるほどと頷いた。そして要は小さくした風の弾を大木に向けて発射。そのまま貫通し、大木の中心部分に来た所で圧縮していた風を一気に解放する。すると、圧縮していた反動も相まって威力が高まり、破裂した音とともに大木が内側から弾け、大きな空洞が出来上がった。
「すごい……」
「これならただぶつけるよりも威力があるだろう?」
考えた通りの威力になった要は一安心する。自信満々に言ったものの予想通りに行くかは確証がなかったからだ。要の魔法が起こした結果を見たユーフィはその威力に目を見開き、そして期待を膨らませるように興奮する。
こんなものを見せられたからには、と早速ユーフィも挑戦する事に。手本も見たお陰でイメージもしやすく、何度か失敗したものの最後には成功した。
「できた……!」
慣れてないせいもあり要ほどの威力は出なかったが、それでも普通に使うよりも断然威力がある。自分でも使えた事、そしてこれほどの威力が出せた事に希望を見いだしたユーフィ。
たとえ魔素数が一であろうと工夫次第ではこれだけの威力が出せるのだ。他の属性とも組み合わせればもっと応用が効き、さらに威力を高める事も出来るだろう。
「よし、これはもう問題なさそうだな」。なら次は複数の属性の組み合わせだ」
そう言った要はまた手本を見せるように魔法を発動する。
「にゃ、にゃーたーにゃんだー」
まだ慣れていないのか、ちょっと言いよどんでしまう要。使い度にゴリゴリと精神力を削られている。要が次に発動したのは水の泡だった。要の周りにふよふよと複数の泡が浮かんでいる。
「泡……?」
また凄い魔法なのかと思っていたユーフィは、ちょっと残念そうにしながらその泡に手を伸ばす。するともう少しで指先が触れるという所で球に泡がびりびりっと電気を帯びる。
「なに……これ?」
「これぞ雷泡。ってまあそのままだな。泡に電気を纏わせて、触れた物を痺れさせるんだ。これはどちらかというと攻撃用ではなく、防御用だな。複数の敵に襲われたときなんかは、これを使って一旦痺れさせて隙を作る事も出来るだろう」
「そういう使い方もあるんだ」
決め手の事ばかり考え、防御用に使うという発想が全くなかったユーフィは素直に感心する。これも要がユーフィの戦い方見て、複数相手だと苦戦するだろう思い考案した魔法だ。これを使えば、他を痺れさせている間に一対一に持ち込む事も出来るし、逃げの一手にも使える。また防御用とは言っているが、あの泡を敵に向けて弾けさせれば攻撃にも使えるという割と万能な魔法だ。
「こう……かな?」
見よう見まねで泡を顕現させてみたが、ぱっと見電気を帯びているか分からなかったので、要にぶつけてみるユーフィ。するとバチッといって弾け、要の毛がぼわっと逆立った。
「成功」
「それはいいんだが、なぜ俺にぶつけたんだ?」
「仕返し」
ユーフィが泡を触ろうとした時、何も言ってくれなかった要に対しての仕返しだったようだ。
まだ要のように複数の泡を出す事は出来ないが、初めてで一個でも成功させたのだから中々のものだろう。というか、普通の人ならここまで応用出来るのにはかなり時間がかかる。技術面で言えば意外と高度な部類だったりするのだが、そんな基準を知らない二人はこれぐらいは普通かな、と思ってたりする。
「まだ大丈夫か?」
「うん、もっと色々やってみたい」
「よし、よく言った。まだアイデアはあるから色々試してみようか!」
「うん」
こうして立て続けにうまくいった事に気を良くした二人は、要が思いつく限りひたすら色々な魔法を試していった。
「ユーフィ、ちょっといいか」
大分魔法になれ他の属性でも色々応用に成功したことで、使える幅がかなり広がっていった。そこで要は一つユーフィに目標を与える事にする。
「にゃーたー」
その言葉とともに要の目の前に細長い水が顕現された。そしてそこからどんどん圧縮され、最後に現れたのは青く透き通った一本の剣。それは先ほどまで使っていた魔法とは明らかに違っていた。
「これは……?」
「これは前の世界で俺が使っていた属性を凝縮して形取る魔剣魔法だ」
「魔剣……」
要は以前の世界でこの魔剣魔法を愛用していた。これを使えば武器を持ち歩く必要も無く、敵に合わせてすぐ属性を変えられる。さらには同時に複数の魔剣を呼び出せ、自動的に動かす事も出来る。両手に一本ずつ持ち、そして残りの六本を自動で操って攻撃する。敵からしたら堪ったものではない。このように普通の武器を使うより手数も威力も段違いで、非力だった要が自分の欠点を補う為に考え生み出された。そう、要オリジナルの魔法なのだ。
この世界でも出来るか分からなかったがどうやら問題なく使えるようだ。だが、今の要だと一本が限界でこれを作るのにもかなり集中力が必要だ。
「カナメのオリジナル……すごい……」
「ただ剣になったってだけじゃないぞ」
そういうとカナメは宙に浮かんだままの水の魔剣を動かした。そして大木目がけてその剣を振る。もちろんカナメが居る所から大木までは距離があり、ただ空振りしたように見えるだろう。が、当たっていないはずの大木は、その振った軌跡通りに切断され大きな音とともに切り倒された。
「なんで?」
これにはさすがに驚きよりも先に疑問が来たユーフィ。端から見ている分には大木が勝手に切り倒されたように見える。
「この剣は、限界まで薄くした水の刃を飛ばせるんだよ。だから切れ味抜群で遠くの敵にも当てられる。もちろん剣自体も普通の剣よりも鋭く切れ味は良いから、そのまま切っても問題ない」
この剣はウォーターカッターをヒントに造り出された物だ。詳しい原理を知らないカナメだったが、とにかく薄くした水を高速で飛ばしたらいけるんじゃね? という軽い乗りでやったら出来てしまったという何とも締まりのない誕生秘話があるが、もちろんユーフィには内緒だ。せっかく素直に驚いてくれているのだから水を差すような事はしない。
「今回は水の魔剣だったが、もちろん残りの七属性の魔剣もある。最終的にユーフィにはこれを覚えてもらおうと思っている」
「私に……? でもこれはカナメのオリジナル……」
「だからだよ。せっかく俺が苦労して作った魔法だ、どうせなら俺だけでなく他の人に受け継いでもらえたらという気持ちはある。そこで丁度弟子になったユーフィに教えようと思った訳だ。正直使いこなすのは難しいかもしれないが…………やってくれるか?」
「うん、やる。やらせて」
カナメの思いを知り、弟子として頑張って期待に応えようと決意するユーフィはまっすぐ要の目を見て肯定する。ここまで言われたら引き下がるわけにはいかない。
「まずはユーフィの剣を媒介にして、表面を魔素で覆うのが目標だな。最初から全て魔素で作るのは難しいだろうし。だがこれなら魔素数一でも出来る範囲だと思う」
こういう使い方は受付嬢の話を聞く限り既にあるようなので、使ったとしてもそこまで騒ぎにはならない。なのでまずはその方法を完璧にしてから、要が創った魔剣魔法に移るのが良いだろう。
「その剣に名前はある?」
ユーフィは今顕現されている水の魔剣を指差し、聞いてみる。
「これか? これは水剣ドラグヴァンディルだ」
「ドラグヴァンディル……。ん、まずはこれを目標にする」
ユーフィはそのきらきらと日の光で輝いている、青く透き通った剣に心を奪われたようで、最初の目標はこれにすると決めた。最初こそすべて魔素数一と聞いて落ち込んでいたユーフィだったが、要のお陰で希望が見え、そして新しい目標が出来た。
こうしてその新たな目標に向け、その後も気合いを入れて特訓するユーフィだったが――――
「ユーフィ! しっかりしろユーフィ!」
「きゅう…………」
――――頑張り過ぎて倒れてしまったのは言うまでもないだろう。