15話 ユーフィの魔法と要の魔法
二人は広場の中央を陣取り、的になる木を見つける。もちろんその方向に何もいないかは確認済みで、無用な被害を出さないように配慮する。被害を受けるのはこの大木だけだ。
「それじゃあユーフィはまともに使うのは初めてだし、最初はリーナが使っていた魔法をまねてみるか。イメージが大事っていっていたし、一度見ていたら発動しやすいだろう」
「ん、やってみる」
ユーフィはリーナが見せてくれたものを思い出しながら、人差し指の先に火が灯るイメージをする。
――――ファグナ――Ⅰ――指先にともる火――――
まともに使うのは初めてという事もあり、リーナがやっていた通りに魔法を使うユーフィ。すると見せてもらったのと同じように指先小さな火が顕現しゆらゆらと燃えていた。一発で成功したユーフィは内心喜び、要は一発で成功した事がすごいのか分からず判断に困っていた。
実際の所、すぐに使えるかは人それぞれだ。柔軟な人は割とすぐ使え足りするのだが、頭が固い人だとどれだけ見本を見せても使えなかったりする。なので大人になってから魔法を使おうとすると、結構苦戦したりする事もある。
「一発で成功か。さすがなだユーフィ」
「ん、そうでもない」
と言いつつも少し表情をキラキラさせ、内心ガッツポースをしているユーフィ。どうやらほめて伸びるタイプのようだ。本人は隠しているつもりのようだが、要にはバレバレの様でそんなユーフィを優しい目で見守る。
「次、いってみる」
――――ファグナ――Ⅰ――燃え盛る火球――――
今度は魔素数一の限界である頭サイズ火球を発動させる。そして顕現した火球を目の前にある大木に向かって放つと、ボンッという音とともに弾けぶつかった大木の部分を焦がした。
さっきと違い、見た事は無かったがまたまた一発で成功させるユーフィ。イメージしやすいという事もあるが、それでも一発成功は優秀だ。
「今度も成功か。本当に優秀だなユーフィは」
「そ、そんなことない」
そろそろにじみ出る嬉しさを隠しきれなくなってくるユーフィ。まあ、もう要にはばれているのだが、本人はしらず必死に平静を保とうとしていた。。しかし、ユーフィに尻尾が付いていないのが本当に悔やまれる。あればきっと面白いぐらいに振られていただろうに。
「よし、それじゃあこれと同じように一度他の属性も試してみようか」
「了解」
そうして、残りの七属性もそれぞれ同じ球体状で発動させてみたが問題なく顕現出来た。光だけはまぶしくて目が痛くなったが、それもイメージで光を押さえると問題なくなった。
「第一段階は問題ないな。あとはこれを応用していかないといけないが……。今度は球体じゃなくて鋭く尖らせられるか? 例えば氷で作った槍のように」
「ん、やってみる」
さすがに今度はイメージするのに時間がかかるようで、暫く目をつぶり集中する。頭の中で氷の球体を細く尖らせ、槍のように形作る。そしてそれに合う言葉を考える。こうして頭の中でまとまったユーフィは目を開き、的である大木を見据える。
――――アルア――Ⅰ――鋭き氷槍――――
考えた言葉を頭の中で唱えるとイメージ通りの鋭く尖った氷が顕現され、目標とした大木へと突き刺さった。
「でき……た……?」
「ああ、成功だ。しかし大丈夫か? 少し息が荒いが……」
一からのイメージとあって、少し疲れ息が荒くなっていたユーフィ。魔法は一度使えればイメージが定着し難なく使えるようになるのだが、初めて使う魔法の場合はイメージするのに頭を酷使ししてしまう傾向がある。なので疲れるのが普通なのだが、それを知らない要は息を荒くしたユーフィを見て、少し心配になってしまう。
「ん、もう大丈夫」
少し深呼吸をすると、荒くなった息も元に戻ってきた。それを見てほっとする要。
「今日はこのぐらいにしておくか?」
「ううん、まだ大丈夫」
「そうか、だが無理はするなよ」
「分かった、まかせて」
要の心配をよそに、褒められて絶好調なユーフィはまだまだ頑張る気を見せる。
「よし、じゃあ次はさっきの氷槍を同時に複数顕現させてみようか。あれだと五本ぐらいはいけそうか?」
「うん、いけそう」
返事をした後、また目をつぶり集中するユーフィ。一度顕現させているので氷槍を作るのは問題ない。後はそれの数を増やすだけ。今度はそこまで苦労せずに発動させる。
――――アルア――Ⅰ――鋭き氷槍の雨――――
ユーフィの周りに氷槍が顕現し、イメージ通りに次々と大木へ刺さっていく。その数五本。要の予想通り五本が限界だったようだ。
「おお! また成功だぞユーフィ!」
まるで自分の事のように、ユーフィ以上に喜びはしゃぐ要。弟子の成長は師匠に取っては嬉しいものなのだろう。そんな要を見てユーフィは照れくさそうに右手で頬を掻いていた。
「でも、やっぱり決めてには欠ける?」
「そうだなぁ……」
喜んだのもつかの間、ユーフィの言葉にそもそもの目的を思い出した要は少し悩む。たしかに大木には刺さり氷球よりかは威力は大きくなったが、決め手になるかと聞かれれば首を傾げる威力だ。
そこで要は頭をフル回転させ、少ない魔素数で威力を上げる方法を考える。
(鋭いだけだと駄目だ……なら小さく圧縮させるか……でもそれだとさっきと同じ……ならそれを破裂させたら……それも内部でやればさらに……)
ここで要は一つ思いつく。あの球体を鉄砲の弾のサイズまで圧縮させ、それを敵の内側で破裂させたらどうなるのかと。たしかに外側の防御は固くても、中からの攻撃なら効果的な場合もあるだろう。可愛い姿をして考えているが、その実中身は結構えげつないものとなっている。
早速そのイメージをユーフィに伝えてみる。が、やはり鉄砲などの知識がないユーフィには今一ピンと来ず、首を傾げてしまう。なんとかユーフィにも分かるような説明をして、試してもらったのだが、ただ小さな玉が出来上がるだけで威力は全然なかった。
「失敗……した……」
「おおい、そんなに落ち込むな! これは俺が悪かったんだから!」
初めての失敗だけに目に見えてへこみ、がっくりと膝をついてしまったユーフィ。もちろん今回は日本の知識で考えてしまった要が悪いのだが、ユーフィはそんな事を知らない。こうしてユーフィ以上に失敗を犯してしまった要は暫く励ますのに奔走するのだった。
「ということで、俺が悪かったんだ。ユーフィが悪いんじゃないからそんなに気にするな!」
「……うん、分かった」
ぷにぷにと要の肉球を触りながら、立ち直るユーフィ。なんとか身を犠牲にして立ち直らせる事に成功した要は、一仕事を終えたと言わんばかりに前足で額を拭う仕草をする。しかし肝心の問題はまだ解決していない。
「でもどうしよう?」
「それなら大丈夫だ、俺が手本を見せてやろう!」
「カナメが……?」
どうやって? と言わんばかりの顔をするユーフィ。要が魔法を使う所を見た事がないし、使えるとも聞いていなかったからだ。実際目を覚ました頃の要は魔法が使えなかった。
「実はな…………俺も魔法が使えるようになったんだ!」
「お、おぉー」
ぱちぱちぱち、とわざわざ仁王立ちして言い放った要に拍手してあげるユーフィ。なんて出来た子なのだろうか。逆に最近の行動が子供っぽくなっている要は、体に精神年齢が引っ張られているのではないかと思ってしまう。
それはまあ一旦置いておいて、実は以前ブラッドベアを倒した時に魔法を使えるようになるスキルを覚えていた要。もちろん例のごとくスキル名は猫法となっていた。
猫気や猫訳はまだ字から何となく意味が分かるが、猫法だともう何がなんだか分からない。もちろん要も覚えた時はそんな突っ込みが頭の中をよぎったが、そんな突っ込みが吹き飛ぶほど魔法が使える様になったのは要に取って嬉しい事だった。
本当ならすぐ試してみたかったのだが、その時はテオル達が一緒で街についてからも試せる場所が無く、今日まで伸びてしまっていたのだ。なので今日の予定を決めた時から今日こそは使おうと意気込んでいた。
「自信満々に言ったものの、俺もこの世界で使うのは初めてなんだがな。ということで、せっかくだから何か見たい魔法はあるか?」
「見たい魔法……」
記念すべき一回目としてユーフィに聞いてみたが、魔法になじみがないユーフィにしてみるとどんな魔法があるか分からなく、必死で考え込む。軽い気持ちで聞いただけで、そこまで深く考えてしまうとは思っていなかった要。しかし言ってしまったからには取り消しにくく、ユーフィの答えが出るまでじっと待つ事にした。
「なら……リーナさんが使ったような雷の魔法」
最終的に行き着いた答えは、ブラッドベアとの戦闘の時に見たリーナの魔法だった。威力が大きく見た目も派手で、ユーフィからすると初めて見る攻撃用魔法で印象に残っていたのだ。
ユーフィの答えを聞き早速始めるのかと思いきや、なぜかさっきまでの勢いが要から消え、口の端をひくつかせている。要の中ではさっき使っていた火や氷辺りを言ってくるかと思っていたので、まさか雷だとは予想していなかった。
(俺から聞いておいて何だが、まさかよりによって雷ときたか……。いや使うのには問題ないんだが、なぁ……)
ユーフィも様子がおかしい事に気が付き、どうしたの? という感じで不安そうに首を傾げる。それを見て要はぶんぶんと顔を振り、何かを吹っ切ったような顔をした。
「いや、何でもない。それじゃあ使うからよく見ていてくれ」
「うん、楽しみ」
ユーフィの期待を裏切らないよう、覚悟を決めた要は魔法を使うため集中し、そして口を開く。
「にゃ……」
「……にゃ?」
「にゃんだー!」
そんな気が抜けそうなかけ声とともに、この世界で初めて使う要の魔法が発動した。
それは轟音と閃光を発しながら、的にしていた大木目がけて空から振り落ちてくる。そしてその衝撃で起こった風が二人に襲いかかる。そしてそれらが止むと、そこには煙を立ち上らせる黒こげになった大木と、少しえぐれた地面が残っていた。そのあまりの威力にユーフィは呆然とし、要も自分で使っておきながらその威力に口を開けて固まっていた。