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猫と少女の師弟関係  作者: 猫野 甚五郎
第二章 水の街ウォーレイン
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14話 魔法の可能性

 朝起きた二人は、部屋で今日の予定を考える。当初の予定ではギルドに登録して、暫くは依頼で生活費を稼ごうと思っていた。しかし登録は出来ず、だがブラッドベアのおかげで生活費には困らなくなったと、色々予定が崩れてしまったのだ。


「今日は、どうする?」

「そうだな、焦ってする事が無くなったし、せっかくだから修行でもするか。せっかくユーフィの師匠になったのに、まだまともに教えてなかったしな」

「修行……やろう……!」


 暫くの生活が保障され、余裕が出たので修行をしようかと提案する要。ユーフィと出会ってからゆっくり出来る時間がなかったので、タイミングとしては丁度いいだろう。ユーフィの自分から言い出していた事だったので、やる気満々だ。


「ということで、俺から見たユーフィの戦い方だが……」

「うん……」


 期待半分、不安半分といった感じで要の言葉を待つユーフィ。


「動きはかなり良かった。特に相手の動きをよく見て行動できているから無駄も少ない。が、如何せん攻めが弱すぎるな。自分でも気がついているだろうが、決定打に欠けている。今の戦い方だと相手を消耗させて決めるやり方になるだろうが、それをするにはユーフィの体力が心もとない。それに魔物相手だと押し切られる可能性が高いしな。それでも対策はとれるし、そもそもユーフィの年でそこまで戦えたら十分だからそう落ち込まなくていい」


 要からの評価を聞き、喜んだりしょんぼりしたりと忙しいユーフィ。きっとユーフィに尻尾があったら面白かっただろう。総合的にはかなり優秀な方で、そもそも魔物相手に恐れず冷静に対処出来るだけでもすごいのだ。しかも魔法を一切使わずに。この戦い方に魔法が加わればどうなるだろうかと、要は期待を膨らませる。


「ということで、まずはギルドにいって魔法の適正を見てもらおうか。旨く行けば決め手が作れるかもしれない」

「さっそく行こう……!」

「ちょ、いきなり掴むな! そんなに慌てなくてもギルドは逃げないから!」


 自分の欠点が補えるかもしれないと聞いて、居ても立ってもいられなくなるユーフィは要をがしっと掴んで部屋を出て行く。こうしてこの日、猫を抱えた少女が猛スピードでかけていくという珍しい光景が見られるのだった。





「ご、ごめんね……?」

「いや……大丈夫だ……。だが次からは……ゆっくりいってもらえると……助かる……うぷっ……」


 ユーフィがギルドに付いて我に返った時には、もう要はシャッフルされてグロッキー状態だった。大丈夫だと言いつつ、必死で口を押さえて何かを我慢している。


 暫く休んで調子を戻した後、早速二人は魔法の適正を調べてもらう為に受付へと向かった。そこで昨日対応してくれた受付嬢を見つけ、せっかくなのでそこへ向かう。向こうも覚えてくれていたのかこちらを見てにっこりと笑顔で迎えてくれた。


「おはようございます、今日はどういった要件でしょうか?」

「魔法の適正を調べてもらいたいんだが、ここで大丈夫か?」

「ええ、大丈夫です。それでは少し準備してきますのでお待ち下さい」


 暫くすると、受付嬢が丸い透明な石を持って戻ってきた。そしてそれをユーフィの前へと置く。


「それでは、この石に手を置いて下さい」


 受付嬢の指示通り、石の上に手を置くユーフィ。すると透明な石が色々な色で光り出す。それをじっと観察する受付嬢は、最初こそ笑顔だったが徐々に険しい表情になっていった。最終的に光った色は八色。その色と受付嬢の表情を見た要は嫌な予感がする。


「ユーフィーさんの適正ですが……八属性すべて一です」


 聞いた当初は良く分かっていなかったユーフィだったが、徐々にその意味を理解しがっくりと肩を落とす。欠点を補えると期待しただけに、ショックは大きいようだ。要も期待させていただけに、気まずそうにしている。

 そんな二人を見た受付嬢は、自分の反応を見て落ち込んだのだと勘違いし慌ててしまう。


「勘違いさせてしまったようで申し訳ありません。全て一だったのですが、決して悪い事ではないのですよ」


 受付嬢のせいで落ち込んでいたわけではなかった二人だが、決して悪い事ではないと聞いて期待するようにその言葉の続きを待つ。


「たとえばですね、ある冒険者は自分の武器に属性を纏わせて威力を上げたり、複数の魔素を組み合わせて使用したりして活躍しています。そもそも魔素数というのは顕現出来る量をさしていて、威力を表している訳ではないのです」

「顕現?」


 聞き慣れない単語に要は首を傾げて訪ねる。


「その辺りは詳しくないようですね。顕現というのは魔素を表に出す事で、魔素数はそれを出来る量を表しているのです。なので火属性であれば、一だと頭サイズの火の玉が基準として言われていますが、それを小さく十個にわけても使えますし、先ほどいったように薄く剣に纏わせる事も可能です」


 それを聞いた要は一つ思いつき、その考えが合っているかを訪ねてみた。


「例えば水であれば水の玉だと頭サイズだが、泡の様に中身がなく表面だけの場合はもっと大きく出来るって言う事か?」

「一回聞いただけでその考えにたどり着くのは素晴らしいですね、まさにその通りです。確かに魔素数が多ければそれだけ顕現できる量が増えて威力が出やすいですが、使い方次第でどの魔素数でも実戦レベルで使えます」

「なるほど、それなら全属性が使えるのは使い方次第で一つの武器になるな」

「そうですね、ただやはり使いこなすのが難しいので、実践で使う人は少ないのが現状です」


 確かにこの世界の人であれば難しいだろう。しかし要は別だ。以前の世界でもさまざまな魔法を見て使い、さらに日本での空想の知識がある。であれな、むしろ全属性が使える方が応用の幅が広がっていくだろう。特にユーフィは剣がメインで、魔法がそれを補う補助になる。ならば魔素数が一でも十分戦術の幅が広がっていく。

 その考えに要も行き着き、さっきまでの落ち込みは吹っ飛んでいた。むしろどんな魔法を使おうかと想像が膨らんでいる。ユーフィはまだピンと来ていないようだったが、要の俺に任せろと言わんばかりの自信満々の顔を見て、不安は吹き飛んでいた。

 そんな二人の様子を見て、誤解させてしまった受付嬢はほっと胸をなでおろした。


「その様子だといいアイデアが浮かんだようですね」

「ああ! これならこっちの問題も解決しそうだ。それで早速色々試そうと思うんだが、どこか練習できる場所はあるか?」

「街中だとちょっと厳しいですね。基本的に何かを試す場合は、街に一番近い人気の無い森などで皆さんやっていますよ。街に近ければそこまで魔物も出ないので」

「そうか、なら早速行ってみるよ。ありがとう」

「いえ、頑張って下さい」


 疑問が解決した二人は、受付嬢に見送られながらギルドを後にする。


「カナメ、大丈夫そう?」

「ああ、やってみないと分からないが、今の段階でも色々アイデアが浮かんでいるし、何とかなりそうだ」

「なら安心。私はまだピンと来なかったから」

「そうだな…………」


 せっかくなのでユーフィにも分かるようなたとえを考える要。


「例えば同じ大きさの石でも、丸いものをぶつけてもあまり痛くは無いが、細く尖ったものをぶつけると痛いだろ? ようは魔素数が一だと効果範囲は狭くなるが、一点に集中させれば威力は出せるんだ。面で力押しするか、点で貫くかの差だな」


「なるほど、そういうこと。なら私向き」

「そうなるな」


 要の説明を聞いてようやく理解し、自分の戦い方にあっていると考えるユーフィ。剣の戦い方も力押しではなく、技術で補っているので魔法も使いこなせばかなり戦術も広がるはずだ。


 まだお昼前だった事もあり、すぐに試したい二人は早速待ちの外へ出て森へと向かうことにする。時間が掛かりそうだったので、昼食用に昨日食べたサンドイッチなどを露天で買い、アイテムボックスへと仕舞う。昼食の準備も整ったところで門を出て、一番近くに見える森へと足を運んでいった。





 二人が向かった森は魔物が少なく、居るとしても弱い魔物なので駆け出しの冒険者がお世話になる所だ。他にも薬草や果物などもあり、採取地としても人気がある。

 森へと足を踏み入れた二人は、生い茂る草木や木々で作られた自然の道を通って奥へと進む。頭上を覆う葉っぱの隙間から差し込む日の光がキラキラと輝き、よりこの空間を幻想的なものに仕上げていた。

 また、時折小鳥やリスなどの小動物の姿を見かけこの森の平和さがうかがえた。今のところ魔物の気配を感じていない要は、この空間を楽しいでいた。目が覚めた頃の要は周りを見る余裕が無かったので、こうしてゆっくりと楽しむのは初めてだろう。


「これはこれで、なかなか綺麗だな。魔物が多いのかと思ったが、ここは違うみたいだな」

「うん、可愛い動物がいっぱい。それに風も気持ち良い」


 ユーフィは目をつぶり、草木の間を通ってやってくる澄んだ風を肌で感じていた。こうして二人は当初の目的を忘れて、暫くこの森を楽しむのであった。


 探索を再会した二人は自然の道を奥へと進み、その先で大きく開けた場所を見つけた。ここなら問題なさそうだと感じた要は早速魔物の気配を探る。がどうやらこの辺りには居ないようで気配は感じられなかった。居るのは無害な小動物ばかりだ。

 せっかくなので先にここでお昼にする事にした二人。腰を下ろせる場所を探して座ると、街で買ったサンドイッチをアイテムボックスから取り出して食べ始める。


「カナメ、あーん」

「いや、置いてくれたら一人で食べられるぞ?」

「あーん」

「いやあの、ユーフィさん?」

「あーん」

「…………………………あーん」


 どうやらこの前のあーんが楽しかったようで、頑なにあーんをやめようとしないユーフィに要は最終的に折れてしまう。サンドイッチの味を堪能しつつも、今後これが定着したらどうしようと要は不安になってしまう。


 お腹も膨れたところで特訓の準備に移る二人。少し可哀想だが魔法の練習に巻き込んでしまってはあれなので、要は猫気にゃきを発動させ周りに居た小動物たちを遠ざける。こうしてこの辺りには要とユーフィだけになった。


「よし、これで安心して練習出来るな。よし、早速はじめるとしようか!」

「うん、頑張る」


 準備も整えたところで、早速魔法の特訓が始まった。

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