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Rainy Day...  作者: Van
1/2

帰り道に出会ったモノ1 2015.6.11.18.22.15

この物語の登場人物は、無制限に増えていきますし、名前もほとんど出てこないと思います。ですが、彼らにはそれぞれの日々を過ごしてきた歴史があり、これからも続いていくと思います。この物語たちは誰にでも体験できるある雨の日の一幕を切り取っただけにすぎません。もしよかったら、彼らの体験した同じ雨の日の出来事を、親しい友人から話を聞くような、そんな感じでお読みいただけると感情移入も想像もしやすいと思います。

長いシリーズになるとは思いますが、どうかお付き合いいただけると幸いです。

では、長い長いたくさんの人たちの同じ日の出来事を、お楽しみください。


今日は最悪な一日だ。


朝から降っている雨のせいで、制服はビショビショ。ローファーだって水たまりと車のせいで奥までじっとりとしていて気持ち悪い。

授業中だって濡れたままの靴下のせいで上履きも半乾きみたいで全然集中できなかった。そんな時に限って苦手な古文の先生は一番難しいところで私をいの一番に指名して、教室の晒し者にするんだ。

ああ、やだ。

雨の日はきまっていやなことばっかり考えちゃうんだよね。

通りのサラリーマンもスマホを見ながら傘をさして歩いているから、ぶつかりそうになるし。…いや、実際ぶつかったと言えばぶつかったか。わざとらしく傘を傾けてやったら気づかずに傘をぶつけてきて、そこからようやく注意をこっちに向けてきた。やなやつだったかもだけど、前も見ないで歩いてたんだし、自業自得だよね。でも、そのせいかカバンが若干濡れてるのに気がつかなかったし。ホント、最悪。

いつも通り、この時間はやっぱりこの道に人通りはないの。安全な道ではあるんだけど、ふっと人が消えてしまう瞬間がこの道にはあって、その時間を私は密かに楽しみにしているところもあるんだ。でも私は一人ぼっちでいることを悲しんだりなんかしない。だって、ふとしたタイミングで異世界に迷い込んだような錯覚に陥ることができるのがこの道のいいところなんだ。最初にあの曲がり角から曲がってくるのが知らないおじさんや買い物帰りの主婦だったとしても、この一瞬だけは不思議な高揚感と期待感に包まれていられるんだ。

そうして、2年も高校に通い続けていれば友達にも自慢したくなるのだけれども、私がこの道の異世界感を満喫して楽しむことは私だけの特権なのだ。

だが、今日のこの雨の日はいつもとは違ったんだ。

本当に異世界に迷い込んでしまったようだった。


そこに、ちいさなびしょ濡れの段ボール箱を見つけてしまったから。


普段は絶対に気にも留めないであろう段ボール箱。でも、今日はなんだかとっても気になったんだ。

今日の朝から続くこの雨が、異世界から本当に不思議な何かを運んできてくれたのかもしれない、なんて淡い期待とちょっとした好奇心でもあった。

でも、今日の雨が運んできたのは期待と好奇心に万全に答えてくれるようなものじゃなかった。これが、今日が最悪な一日だって思った理由。

だって、思わないじゃん?

『拾ってください』なんて描いてあるありきたりな段ボール箱に入ってたのがさ。


もうどうしようもないくらいにね、冷たくなってるであろうことがわかるような仔犬の死体だったなんてさ。


最初はね、私も思ったの。「あ、雨に濡れてて寒いのかな?」って。

でもさ、分かっちゃうよね。びちゃびちゃの、そこらの水たまりがまだマシに見えるくらい汚れたタオルの上で、ほんの少し薄汚れた水たまりみたいなのの上で丸まろうともしないでさ、お腹を見せながらへたってしてるの。口も開きっぱなしだし、目も閉じてるの。でね、何よりさ。お腹が動いてないんだよね。上下にすら動いてないし、そのまま私の傘の音に耳をピクリとも動かさないの。

びっくりするよね。傘から落ちてきた塊みたいな水が顔にかかっても微動だにしないんだもん。

でもね、その子だけさ、まるで時間が止まってるみたいに見えたんだ。私の傘が雨を弾き始めてさ、段ボールの中から音がなくなったんだよ。それで、中で何にも動くものがなくなってさ。水たまりも、仔犬も、もはや何の役にも立ってないタオルだってみんな動かなくなっちゃったんだ。当たり前だよね?そこに、もう『生物』なんていないんだもん。でもさ、周りはずっと時間が動いてるんだ。雨が地面を叩く音、遠くで水たまりを車が走る音、一本表の道でのセールの呼び込みの声、それに、私の鼓動と、息の音。

でもね、私にはそれがすっごく素敵なものに思えたんだ。もう動くことも、息をすることも、お母さんを探して小さく鳴くこともない。そんな目の前の仔犬がさ。

すっごく、すっごくね?

変に思われるかもしれないけどさ。

あの時目の前にいたあの仔犬がさ。

なんでだか、わからなかったんだけど。


すっごくさ、羨ましかったんだよね。


(続く)

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