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黒閾のダークブレイズ  Re.FIRE  作者: 星住宙希
第十三章
18/31

王宮の騎士

「反対反対はんたぁ~い!! なんでそうなるかな? 意味分かんないかな」


不機嫌なカナンの声が部屋中に響き渡った。


ティリティース邸の何時もの居間である。


座っているのはガルン、カナン、ヒュペリアの三人だ。


ティリティースは仕事に、白き銀嶺は辺境区の種族に預言を伝えに行っている為、留守にしていていない。


ガルンは旅仕度並の装備をしていた。


「約束でさ。ちょっと姫さんの護衛をやってくる」


「だ・か・ら! それで何で王宮近衛騎士団の入団試験に行く事になるのかな? なんでかな?」


「だから、免罪符の礼に姫さんの護衛をちょいとやってくるだけだよ」


「御礼が護衛って、何でそうなるのかな? 意味分からないよ!」


ガルンは疲れた顔でヒュペリアを見たが、ココアをチビチビ飲んでいるエルフは助け船を出す気配は無い。


「王宮近衛騎士団に入るのは、色んな意味で価値がある」


「価値~?」


膨れっ面のカナンはまるで子供のようだ。

自称お姉さんの影も形も無い。


「第一に姫さんの希望に添える。それで俺は借りを返せる。第二に白き銀嶺の訴えている預言を、上層部に伝えるチャンスが作れるかもしれない。第三に天翼騎士団の動向が探れる」




最後の一つにヒュペリアは眉を寄せた。


「天翼騎士団の動向って何で?」


当然の疑問だ。

この国の人間ならば天翼騎士団の偉大さと強さは熟知している。


神誓王国メルテシオンは数多くの戦力を有するが、取り分け有名なのが天翼騎士団である。


宗教国家なだけあって、天使を従える姿に信奉者も多い。


隣国でも戦場にやたらめったら現れる、黒鍵騎士団と天翼騎士団は有名だ。


「まあ……ほら、白き銀嶺の預言を、お偉いさんよりは伝え易い位置にいるかなと」


「確かに、頭の固そうな権力者や貴族連中よりはマシかもね」


フムフムと唸りながらココアを啜る姿は、かなり愛らしい。


しかし、カナンはあからさまに嘘だなと、見破った顔をしていた。


「それなら私も王宮近衛騎士団になっちゃおうかな? 」


「そいつは無理だ」


カナンの提案を、ガルンは直ぐさま否定した。


「王宮近衛騎士団の試験自体を、一般人は簡単に受けられない。面倒くさいんだよ」


ガルンは嫌そうな顔で、手でストップをかけた。昨日、王宮近衛騎士団の吸血鬼、アズマリアのもとに訪れた時の事を思い出す 。




「本当に来るとはな。厚かましい奴だ」


やたら豪奢な待合室。

城壁区分の第一と第二で、ここまで造りが違うと詐欺に近く感じる。


そこで、言葉の内容とは裏腹にアズマリアは愉しそうに待合室に入室してきた。





「あんたに会うのに半日近く待たされたんだが……」


ガルンは半眼でアズマリアを睨み付けた。


そんな視線はどこ吹く風で、アズマリアは長椅子に腰掛ける。


「これでも副団長なのでな。多忙で仕方が無い」


「副団長? あんた吸血鬼だろ。結構、長生きなはずだ。団長じゃないのか?」


ガルンは訝し気にアズマリアを眺める。


長生きと言っても、外見は少女なのだから普通は違和感を覚える所だ。


しかし、感性のズレたガルンはものの本質を存在の光で判断する。


ガルンにして見れば、逆に団長では無い方が胡散臭いのだ。


「団長ではいろいろと動きづらい。かと言って、ある程度の箔が無いと他国では動きづらい。副団長と言うのが一番融通が利くのだよ。まあ、実質団長は我だがな」


しれっと言うが、傲岸不遜な態度は既にトップの貫禄がある。


団長では姫強奪事件のような不足な時に、直ぐに前線には出づらい。


かと言って他国に国賓として出掛けるときに、随伴で制限を受けない立場で無くてはならない。


そこで副団長と言う立場が一番都合が良いのだ。


(年の功と言うやつだな)


ガルンは小さく皮肉に笑う。


しかし、アズマリアはそれを見逃さなかった。


「何だ、今の笑いは」




「深い意味はないよ」


ガルンは手を振って否定する。


アズマリアは一瞬眉間に皺を寄せたが、気にせずにガルンに一枚の洋皮紙を手渡した。

植物皮だ。珍しい品と言える。


「推薦状だ。それが有れば、どこの馬の骨でも王宮近衛騎士団の入団試験に参加出来る」


「入団試験? 直ぐに入れる訳じゃないのか?」


ガルンは推薦状を食い入るように眺めた。


「王族直属だぞ? 得体の知れない奴がホイホイなれる分けがあるまい? 試験を受けるのにも条件がある。王宮近衛騎士団員の推薦状を貰うか、各騎士団の団長の推薦状がある場合。後は王家ゆかりの者に直に念書を頂くケースのみだ。姫様が掠われた事は非公式だからな。姫様の念書など貰える分けがない。なので我が代わりだ」


「成る程。こいつが無いと試験すら受けられないと」


「推薦状とは、言わば後見人がいる事の証明だ。推薦人に何か非が有れば、後見人も責任に問われる事になる。覚えておけ」


微妙に嫌そうなアズマリアの顔が印象に残った。




「まあ、推薦状が無いからカナンは試験も受けられないってオチさ」


その時のアズマリアの表情を思いだしながら、ガルンは苦笑した。


実績の何も無いカナンでは、城門すら入れない可能性が高い。


それだけ城の警備レベルは高いと言える。



「それに、カナンには白き銀嶺の手伝いをしてやって欲しい。強いと言っても単身だからな。やばい地域や種族もいるはずだ」


「……」


「白き銀嶺に協力するって約束したろ?」


その言葉でカナンはようやく観念した。


相変わらずカナンの過保護ぶりは変わらないと、ガルンは顔をほころばす。


「まあ、ガルンが試験に受かるとも限らないしね」


ヒュペリアが人が悪そうにニヤリと笑う。


「確かに、その可能性も捨て切れないもんね」


何故かカナンも嬉しそうに同意する。


「やれやれ……」


ガルンは呆れつつ、肩を竦めて小さく首を左右に振った。


するとカナンがするりとガルンの顔元に寄ってくると、小声で呟いた。


「天翼騎士団の動向って、親父の敵討ちじゃないよね?」


カナンの言葉に鼓動が跳ね上がる。


「この国を出て、故郷に戻るとしたら障害になる可能性がある。それを見極めるためだよ」


引き攣って答える。


グラハトの怨恨は、心の底で燻っているのは事実だ。


しかし、正面から戦えば、本当に国との戦いに成り兼ねない。


グラハトとの約束を優先するならば、これ以上カナンを巻き込む事態は避けたいのが本音だ。


今は復讐よりグラハトと白き銀嶺、そしてパリキスへの誓いと約束が優先だと判断する。


ガルンは燻る殺意に静に蓋をしたのだ。




神誓王国メルテシオンは巨大な外周壁、そして市民区や貴族区など様々な場所で巨大な壁で括られており、王城も三層の強固な城壁で守られている。


黒鍵騎士団のような罪人や傭兵崩れは、本来、外周壁である第三城壁までしか近寄れず、数々の騎士団や魔法師団も中央の第二城壁までしか入場が許されていない。

最後の第一城壁にはテンプルナイツや、パラディンで構成された神聖騎士団、そして天翼騎士団が入場が許されている。


王城自体には王宮守護隊と呼ばれる僧兵師団と、虎の子の王宮近衛騎士団の二つの戦力だけが駐屯していた。


国としての守備力、戦力は列国でも最大と言われるが、王宮内部は広さに反比例して戦力が少ない。

これは聖職者だらけの多神教国家の妙なジレンマであり、それぞれの信教勢力の部隊を中枢に置け無い為に起こったあしき風習と言える。


王宮守護隊は各十二神教それぞれの選別者などで構成された混成組織であり、そため、足並みが揃いにくく瞬発力に欠ける。実質少数精鋭の王宮近衛騎士団だけで護っているようなものだ。


その為、パリキス強奪時の様に城内にまで手引きされると、王族全ての護衛に付かなければならないデメリットが発生する。城内には十二神教の各神殿が置かれており、それが全て他神教不可侵の聖域になっているのが更に質が悪い。移動による領土侵犯すら気にしなければならないのだ。


前回の王宮近衛騎士団の失態は、戦力の分散を強いられた結果と言えよう。





派閥争いの影響を受けない王宮近衛騎士団は、王城防衛の最大戦力であり、王族を守護する最強戦力である。


本来直ぐさま増強を行いたいが、それには信頼にたる、清廉性と戦闘力、そして人間性が求められるのだ。


その為、試験合格は狭き門であり、王宮近衛騎士団に入団できる数は極めて少ない。


アズマリアにお前はとにかく受かれ、と理不尽な命令をガルンは授かっていた。


王宮近衛騎士選別試験は、王宮内に設えられた訓練場で執り行われる。


本来、それなりの階級の者以外入場も許されないので、この時ばかりは破格の待遇と言えよう。


ガルンは初めての王宮入りに、少しばかり興奮していた。


アズマリアに渡された推薦状を提示すれば、殆どの関門はスルーである。面倒な身分照会の時間も必要としない。


悠々自適に城を闊歩するのは、実に爽快である。


ガルンは正門とはいかないが、西門の第二通路から王宮に招き入れられた。武器の携帯を許された事に少々驚く。


関門の警備隊員に聞いてみると、


「こちらで持てないような巨大な武器や、無手の人もいるので、預かる方がデメリットが多いんですよ」


と、苦笑していた。


関門から、案内人らしき女官に連れられて通路を進む。


王宮は絢爛豪華と言うよりは、質素な教会のような作りだ。




広大な大聖堂にいるようで、ガルンには居心地が悪い。


長い渡り廊下を歩いている時だった、体を突き刺すような殺気を感じたのは。


ガルンは無意識にダークブレイズに手をかけていた。


(知っているぞ。この殺意!)


振り向く先に、見覚えがある二つの影が歩いている。


太陽と月のような強烈な存在の光。


閉じたばかりの心の蓋から、殺意の炎が漏れ出すような高揚感。


「本当にあの時の、闇の残りカスがまだ生きていたとはな」


冷淡な口調で、天翼騎士団の副団長クライハルトはそう呟いた。


無言で横に立つのは天翼騎士団団長アルダークだ。


ガルンの唇が釣り上がる。


憎むべき怨敵が目の前に現れたのだ。

カナンの治療を理由に、閉じ込めていた怒りが沸々と甦る。


「のこのこと、そっちから死にに来るとはな」


「黙れ塵芥。生かされた命を棄てる気か?」


「うるせぇぞ小烏? 自慢の八枚羽根をむしり取ってやるぜ!」


睨み合う二人に緊張が走る。


クライハルトの手が、腰に下げた天獄剣に掛かる。


そこでアルダークが二人の間に割って入った。


「止めろ二人とも。ここは王宮内だ。場所を弁えよ!」


雄々しい声が通路に響き渡る。


しかし、ガルンとクライハルトは剣を手にしたままだ。





「クライハルト。彼は既に免罪符で罪を償っている。これ以上はただの私闘だ。それに、ガルン・ヴァーミリオン、貴様も何しに此処へ来た。そこまで分別のつかないガキではあるまい? それに……」


アルダークはチラリと背後を見た。


後方に白い鎧に白いマントが見える。

首には天秤に籠……王宮近衛騎士団の紋章だ。


「王宮内での抜刀は、それだけで十二神教への武力介入と判断される。王宮近衛騎士団が黙ってはいないぞ」


睨み合う二人も、回りに現れた気配に気がついていた。


ここでの戦闘は、王宮近衛騎士団を敵に回す行為に等しい。


二人は舌打ちして武器から手を離す。


「いつか、きっちりケリをつけるぞ」


「飼い殺されていた方がマシだったと、後で後悔させてくれる」


「あの……」


睨み合う二人に、案内人の女性が怖ず怖ずと声をかける。


「行くぞ!」


ガルンは吐き捨てるように呟くと、案内人を置き去りにして歩き出した。

案内人はアルダーク達に一礼すると、その後を急いで追い掛ける。


クライハルトは射るような瞳で、ガルンを見続けた。


「よもや、あのような痴れ者が王宮近衛騎士になど受かりはしないですよね?」


「……それを決めるのは我々では無い」


アルダークは含みのある視線で、ガルンの背中を見送った。




通路を進みながらガルンは拳を握りしめた。


(落ち着け。今はどのみち無理だ。同時にあれだけの戦力とは流石に戦えない)


ゆっくりと深呼吸をすると、ガルンは真横をチラリと見る。


「あのまま戦っていたら、“あんたも”介入して来るよな?」


ガルンの言葉を、案内人の女性は不思議そうに聞いた。


回りには誰もいない。


ガルンは真横を見据えたままだ。


「マジかよ。やっぱりお前、見えているようだな? 意味わかんねぇーな」


何も無い空間から声がする。


ガルンが一度瞬きをすると、そこには白い騎士が立っていた。襟首には天秤と籠の紋章がある。


紫色の短髪の下に、ニヒルな笑顔が張り付いている。年は三十頭辺りだろうか。


「お前、半年前、城壁の上でも俺の能力に気がついていたよな? パリキス姫と会っていた時だ」


「あんたが妙なカモフラージュ術を使っていたのか? あの時、あの場に六人は別の人間がいたよな?」


紫髪は目を丸くしてガルンを見つめた。


ガルンは身じろぎもしない。


逆に案内人が挙動不審になり始めた。


「あの……、えっと、誰とお話になっているんでしょうか?」


女性は気味が悪そうに辺りを見直した。“ガルン以外誰もいない”。


ガルンは案内人を無視する事に決めた。




「俺の“虚偽認識”は相手の五感全ての知覚能力を奪う。そこのレディが良い例さ。彼女は俺を認識出来ない」


「彼女にはお前が見えない?」


「違うな。見えているが認識出来ないが正解さ。現に彼女は声も認識出来ていない。しかし、今までこの能力を一発で完全に破った奴はいなかったんだがな……何なんだお前は?」


「さぁ……ね」


ガルンは微妙に視線を逸らした。


実際、紫髪の能力『ディスガイズド・レコグニション』は王宮近衛騎士なだけあって完璧なレベルだ。ガルンの五感では何も察知出来ない。匂いも気配も認識出来ないのだ。


だが、ガルンには精霊の眼がある。


精霊界側の存在の光を知覚する行為は、この世界の認識法則とは異なるのだ。


別世界の視覚が無い人間には理解出来ない知覚手段と言えよう。


見破る事が出来たのは、精霊の眼での索敵癖のなせる技であった。


そのやり取りを、怪訝な目で見つめる案内人。

彼女には、ガルンの独り言にしか見えないのだから仕方が無い。


「俺は気にしないで案内してくれ」


ガルンは案内人を促すと歩みを再開した。


「あんたは見張りか?」


「いや、お守りさ。副団長に言われてね。お前はこの国の人間じゃないから、試験の仕組みがわからないだろうからってな」




「確かに……全く分からないな」


ガルンは素直に認めた。


この国に入ってから学んだ事は、実はかなり少ない。


殆ど黒鍵騎士団としてしか活動していなかったので、当然言えば当然である。


「武道派にしてみれば、王宮近衛騎士は天翼騎士に並ぶ、この国1番の憧れの職さ。騎士になった奴は皆そこを目指す。どちらもなるには狭き門で、年に一回ある試験に受かった奴だけが入団出来る」


「今日はその年に一度の日だったって事か?」


ガルンはいきなりアズマリアに明日来いと、言われて驚いたのを思い出す。

年に一度しかないタイミングに合ったと言うならば、それはかなりの幸運と言える。


しかし……。


「いんや、違うぜ? 今日は予備日扱いだ。それも昨日いきなり決まった。まあ、副団長の横暴だな」


紫髪はニカッと笑いながら、サラリと告げる。


ガルンは軽く当惑した。


「予備日?」


「試験には各騎士団団長の推薦を貰った、騎士在籍者が多いからな。任務中でタイミングが合わない奴もいる。そんな奴の為の救済処置だ。だけど、いきなり開催される事になったのはそいつらもビックリだろうぜ」


ガルンは半眼でアズマリアの顔を思い出した。


パリキスの為なら道理も強引に引っ込めるタイプである。




(あの吸血鬼……。姫さんに俺が試験を受けるのを報告したいが為だけに、無理矢理試験日にした感があるな)


額を手で押さえて溜息をつく。


「試験内容は単純だ。現役の王宮近衛騎士と戦う。それだけだ」


「へぇー。分かりやすくていいな。ぶっ倒せばオッケーって事だろ?」


「まあ……。そんなものだ」


ふてぶてしいガルンの態度に、紫髪は少々驚いた。


試験は戦いの姿勢と能力を見せる事がメインであり、勝敗は関係ない。


そもそも現役フル装備の王宮近衛騎士と戦って、勝てる者などそうそう存在する訳がないのだ。


「合格の是非は単純だ。それを判定する王宮近衛騎士十名の内、七名が認めるか、王が認めた場合のみ合格となる」


今度はガルンが驚く番だった。


メルテシオンの現王を今まで一度も見たことが無い。


それが観覧に来るのだ。


「何だか仰々しいな」


「それだけ選別は重要って事だな。十二神教徒の権威も受けない数少ない行事だ。それに、この機に王暗殺を狙う無謀なアホとか釣れた事もある。面白いイベントだぜ?」


「楽しませて貰うよ」


ガルンは不敵に笑う。

特に虚勢を張った様にも見えない。


自然体は自信の現れか、無謀な楽観主義か。


紫髪は面白い奴が来たと、隠しもせずに心底ほくそ笑んだ。





案内人に通された控室はやたら豪華なモノだった。


控室と言うより簡素な客間に近い。


そこには二人の騎士らしき者がいた。


赤い騎士甲冑を身につけた壮年の男と、銀の騎士甲冑の青年だ。


メルテシオンには十五の騎士団が存在する。

天翼騎士団や黒鍵騎士団もその一つだ。


目の前の赤騎士は紅蓮騎士団。銀騎士は白金騎士団の人間であろう。


二人はガルンを一瞥しただけで身じろぎもしなかった。


ガルンは観察するように二人を見ていたが、直ぐに近場の椅子に腰掛けた。


「こいつらは駄目だな。今回のチャレンジャーと大差ない」


紫髪はつまらなそうに呟いた。


ガルンの後方の壁に背を預けているが、分かっているのはガルンだけだ。


「今回? 受かった奴はいるのか?」


ガルンの呟きに二人の騎士は訝し気に視線を向けるが、面倒なので無視する。


静まり返った室内では、独り言は目立ってしょうがない。


「今回は残念ながらゼロだな。黒鍵騎士団から来た赤い服の奴は惜しかったがな。あいつは四票止まりだった。同じ騎士団だ、知ってるか?」


「……該当する奴に覚えがある」


ガルンは赤い服からアカイを連想した。


アズマリアがアカイを顎で使っていたのは、試験で面識があったからだろう。




(アカイ・クラスが受からない……。少なくとも黒鍵騎士団よりはレベルがワンランク上だな)


ガルンが思案していると扉が開いた。


小綺麗な服装の、禿げ頭の老人が立っている。


「ガルン・ヴァーミリオン殿。貴方が一番手だ。試験会場に御足労願おう」


その言葉でガルンは立ち上がった。


「それじゃ、俺は此処までだな。もうちょい会話を楽しみたかったが、一番手とは思わなかった。会場でまってるぜ?」


手を上げて紫髪はドアを抜けていく。


ガルンはそれを追うように部屋を退室した。




試験会場は屋外訓練場だった。


ぱっと見、巨大なコロッセオにしか見えない。


開けた空間の端々に柱が並んでいる。

ガルンは故郷の闘技場を思い出した。あれと同じならば防衛結界が構築されているのだろう。


中心奥の観覧席の頂上に、人影が四人見えた。


中央の玉座らしき椅子に、豪華絢爛な装飾を施した服装に、きらびやかな王冠をかぶった人物が座している。


白髪と髭からかなりの高齢に見えるが、精悍な顔と肉体は武道派上がりと一目で見て取れた。


神誓王国、国王デフォン・クライズ・メルテシオンの名前をガルンは知らない。だが、その人物が王だとは直ぐに理解出来た。


その横には見知った少女の姿が見える。


(姫さん?!)


驚くガルンを見て、第四王女はニツコリと微笑した。





その二人の横に、司祭らしき人物と恐持てのごつい鎧の老騎士が仕えている。


それを囲むように白い騎士が五人、そのまた、前方に五人騎士が立っていた。


先程の紫髪も見える事から、王宮近衛騎士なのは間違いないだろう。


「あれがパリキス様のお気に入り?」


「副団長のお墨付きだろ? 決まったようなもんじゃねぇーの」


「これは選別試験だ。権威は意味を持たない」


「グライドの能力が破られたらしいな。どうやって?」


「分からんね。さっぱりだ」


「……」


最上級騎士団と思えない統制の無さに、ガルンは少々呆れ気味に騎士達を見上げた。


「誰がやる?」


「副団長がてこずった、魔人もどきを倒しているのだろ? 本気の勝負になりそうだが」


各々自分勝手に話す騎士の中から、いきなり一人が練習場に飛び降りた。


銀髪赤眼の少女だ。


流れる長髪と、手にした巨大な黒い鎌が目を引く。


(こいつが相手か? 女はやりづらいな……)


ガルンは年端の変わらない、目の前の少女に難色を示す。


「うお! 抜け駆けかよ」 

「アルシェリット! お前対軍能力だろうが、何出てんだ!」


叫び声を無視して、アルシェリットと呼ばれた少女はゆっくりと鎌を構える。




「ぐだぐた五月蝿い外野は無視さ! あたいが相手をしてやる。かかって来な」


強気な表情に不敵な笑みが浮かぶ。


向けられた鎌を、ガルンは微妙に冷めた目で眺めた。


黒い鎌の光沢は、ダークブレイズに似ているが、放たれる気配はやけに清々しい。


「あんたでいいのか? あんた後衛能力者だろ? 正直やりづらいんだが」


このレベルになると先天的なチャクラ開放者が多い。


目の前の王宮近衛騎士団の半数は開放者だ。


しかし、目の前のアルシェリットは開放者では無い。


それも鎌と言う武器は実際、凪ぐしか機能しない広域中距離武器だ。


正直、今のガルンには、この間合いで戦うのは自殺行為にしか見えない。


「そう言うでかい口は、勝ってからいいな!」


振りかぶって大鎌が振られる。


分かりやすいモーションにガルンは呆れていたが――妙な回転音が危険信号を告げていた。


(なんだ?!)


反射的にバックステップして、距離をとろうとした体が宙に舞う。


ガルンは空に浮かんだ、自らの身体を見て目を剥いた。


ジャンプなどした覚えは無い。


鎌の射程から逃げるために下がっただけの筈だ。


それが、真下から感じた突風に煽られて浮いている。


「はい、さようなら!!」




空中に浮いたガルンに、踏み込んだ二戟目の鎌が振るわれる。


落下中では避けようがない。


ガルンは素早く蝶白夢を抜き放つと、鎌を受け止めた。


例の回転音が耳障りに響く。


身体の芯に響く、見えない衝撃波を受けたようにガルンは弾き飛ばされた。


咄嗟にチャクラを回して衝撃を和らげる。


(相手は王宮近衛騎士団。舐めて戦う相手じゃないか!)


ガルンは歯を食いしばって着地すると、妖刀に精神を集中させる。


溢れる水泡を見て、アルシェリットは鼻で笑った。


「無駄無駄! あたいは広域攻撃タイプ。小手先の技は効かないよ!」


高音の回転音が響き渡る。


三度振るわれた鎌によって、水泡ごとガルンは空中に吹き飛ばされた。


(この、浮かして斬る攻撃……意外とまずい! 風使いか?!)


アルシェリットは鎌を頭上で高速回転させ始めた。


遠心力を効かせた一撃が放たれるのは確実だ。


ガルンは即座に刀を振り降ろす。


勢いよく刀から伸びた水刃は、翳された鎌に、触れる前に回転しながら弾け飛んだ。


唖然とそれを見送る眼前に、アルシェリットが迫る姿が映る。


「甘ぁぁぁい!」


アルシェリットは鎌を大きく振りかぶった。


必殺の鉄槌のような一撃が迫る。



(欝陶しい!!)


ガルンの目が座る。

両手にチャクラを二つ回すと、振り下ろしていた妖刀に力を込める。


「滅陽神流剣法、無式二十八型・羽飛沫はねしぶき!!」


下段から目にも留まらぬ剣撃が放たれた。


甲高い金属音と共に、暴風が荒れ狂うように練習場に吹き乱れる。


「うわたあ!」


鎌を盛大に弾かれたアルシェリットは、それでも手を離さなかったので一緒に壁際まで吹き飛ばされた。


壁にぶつかり、不様に尻餅をつく。


「いった~、なんて馬鹿力だい」


アルシェリットはその一撃に顔をしかめていたが、地面に着地したガルンの方が驚いた顔をしていた。


「滅陽神流剣法で砕けない? その鎌、ただの武器じゃないな?」


ガルンの疑問に、アルシェリットは意気揚々と答える。


「何処の流派か知らないけどね、そんなもんでは

この成聖天鎌クロイツェーラは砕けないよ!」


立ち上がると鎌を構える。例の回転音が響き始めた。


「確かに……武器は伝説級か名器クラスそうだが……ネタは読めた」


ガルンは刀を下段に構える。


「クロイツェーラの特性に気付いたからって、どうするのさ!」


アルシェリットは楽しそうに、お構いなしに鎌を振るった。


ガルンの目が見開かれる。




「滅陽神流剣法、無式六十三型・鬼走り」


右斜め下から、大地を切り裂きながら刀が跳ね上がった。


大気を震わす振動が空間に響く。


見ている全員の鼓膜に嫌な振動が走った。


「な?!」


アルシェリットは心底驚いたのか、口をぽかんと空けた。


空中に浮くはずのガルンが、一瞬でクロスレンジに現れたのだから仕方が無い。


脚力強化に回したチャクラは二つ。他の王宮近衛騎士でも驚きの速さだろう。


片手面打ちの要領で迫るガルンの斬撃を、アルシェリットは慌てて鎌で受け止める。


刀身が鎌に触れる前に感じる反発力を、ガルンは予測していたように圧しきる。


腕力には既に、チャクラを三つ投入している。


オーガ並の一撃を常人では防ぎきれない。


アルシェリットは威力に気付いて、なんとアッサリ鎌を離した。


「何?!」


驚くガルンを嘲笑うように、アルシェリットは左腕の袖をめくった。


腕にはぎっしりと魔法円が描かれている。


素早く右親指の先を噛み切ると、魔法円の中心に八忙星を刻んだ。


(速い!!)


ガルンは地面に鎌をたたき付けてから、下段斬りを放つのと、魔法円が光り輝くのは同時に見えた。


しかし、数瞬アルシェリットの方が速い。


腕から現れた凶悪な顎がガルンに迫る。




現れたのは黒い龍だ。鋭利なフォルムは甲殻類を連想する。


ガルンは振り上げた刀から、咄嗟に水流を撃ち放った。


下から顎を跳ね上げる。


首を食いちぎられる所を、ギリギリで牙先が頭を掠める程度で済ませた。


だが、額から鮮血が飛び散る。


ガルンは一瞬よろめいた。

傷は深くはないが、出血量が多い。


「クロイツェーラの気流を操る力には気付いたようだけどね。こいつは、騎士入団時に貰った追加装備でしか無いのさ。本命はこっち。あたいの生み出した能力はドラゴンアート(創成偽龍)。自分の血と寿命を媒介に龍を生み出すアルケミー(錬金魔術)とクリエイト・アート(創成魔術)の混成魔法さ!」


アルシェリットの両目が金色に輝く。瞳に龍眼と呼ばれる紋様が浮かび上がる。


血に、龍の血を宿す者の特色だ。


創成偽龍はその血を使った、固有魔術と取れる。


「チッ……」


ガルンは額を押さえながら、龍から距離をとるために後方に跳躍する。


成聖天鎌クロイツェーラは、刃の両面で気流を操るダークブレイズや蝶白夢と同じ属性を宿す伝説級武器だ。


気流の断層で、ガルン自体を揚力の発生点にして浮かせていた訳だが、それを何となく理解したガルンは、相手の能力がそれだけだと甘く見た結果と言えよう。






ガルンの実働戦闘年数は四年余り。


戦った相手は凶悪な面子だが、戦闘経験は少ない部類と言えよう。


強くなったと自覚し始めた時が、1番危なっかしいと言う事を地で行ってしまっている。


鎌首を上げる黒い龍を、ガルンは静かに見上げた。


龍を見るのはこれで二回目だが、凶悪な戦闘能力がある事だけは骨身に染みている。


ガルンは蝶白夢をしまうと、素早くダークブレイズを抜き放った。


対ドラゴン戦闘ならば、ダークブレイズの攻撃力は必要不可欠だろう。


流れ出る血で、左眼は完全に塞がってしまっていた。


しかし、その状況下をガルンは鼻で笑う。


「頭をやられて、おかしくなったかい?」


普通に考えれば、一人で龍種と戦うのはクレイジーに近い。


しかし……。


「いや……以前もっと欝陶しい状況になった事を思い出してね」


黒鍵騎士団の頃の一任務を思い出す。


その時は、龍以外に幻想種が三体と、ひたすら分が悪い戦いを強いられたものだ。


それを考えればドラゴン一体とテイマー(操手)一人は、まだ組しやすい敵と言えよう。


(普通に考えればドラゴンは無視して、テイマーを倒すのが常道だが……殺さないで倒すのはきついな)


アルシェリットの魔術は召喚魔法ではなく、錬金魔術である。




龍の尻尾の先は魔法円に繋がったままだ。


召喚維持の魔力消費と、錬金魔術の形成維持の魔力消費の違いは分からないが、これだけの存在を維持し続けるには、かなりの魔力が必要になる筈である。


しかし、持久戦で龍が消えるのを待つと言うのは、試験的には余りに消極的な選択と言えよう。


(これだけ巨大な魔術だ。そう何度も使えるはずもない)


ガルンは龍を倒す選択を選ぶ。


ドラゴンを倒せば、フィードバックで術者にダメージを与えられる可能性も高い。


「さてと……やる事は決まっているんだよな」


ガルンは素早くチャクラの全てを全力回転させ始めた。


ドラゴンについての知識は都合の良いことに、白き銀嶺のおかげで豊富だ。


ドラゴン。


巨人族と並ぶ最強生命体の一角。


この世界に置いて、魔神鬼や無慧ナエと呼ばれる凶悪な生命に比べれば希少価値は低いが、人間とは比べようのない戦闘能力を誇る。


竜にも亜竜から伝説級までと、ピンからキリまで存在するが、その全てに共通するのが圧倒的な身体能力と強力なブレスを持つことである。


強固な鱗と外骨格を持つ竜の体は、その怪力かいりょくだけで人間など紙屑同然に砕き壊し、独自の属性攻撃を持つブレスは、それだけで高位の大魔術に匹敵する。




そして、知識の低い竜族以外が使用する特有魔法、ドラゴンロアー(竜語魔術)。


それは天使などと同じ咆哮魔術と呼ばれ、一声で大魔術を起こす高位魔術大系である。


全てにおいて、人間とはアドバンテージが違い過ぎるのだ。


そんな人間達が竜と戦うオーソドックスな戦闘方法は一つしかない。


威力牽制と遠距離攻撃を援護に、支援魔法を受けつつ一撃離脱で近接攻撃を繰り返す戦法だ。


全ての攻撃が即死レベルに近いドラゴン相手に、防ぐと言う概念は無いに等しい。


しかし、それもある程度の組織だったパーティーがいる事が前提の戦闘手段であり、単身で戦うものではない。


本来、こんな高位存在相手に真価を発揮するのが、真の滅陽神流剣法なのだが、いかんせんガルンには霊妙法を自在に操る事が出来ない。


(まあ、やれる事はやってみるさ!)


ガルンは不敵に笑うと、ダークブレイズに火が燈る。


「へぇー、こいつ見てまだやる気があるのは評価するよ。 中々根性あるね? 名前は?」


「試験官なら受講者の名前ぐらい見ておけよ」


「ははは、悪い。細かい事は気にしないタチでね」


アルシェリットは鎌を拾い上げると、屈託なく笑う。


「ガルン・ヴァーミリオン。仲間になる名前だ、覚えておけよ」


「言うね~」


アルシェリットがゆっくり腕を上げる。すると黒龍も連動するかのように動き出した。




黒龍の口腔が“黒く”輝く。


ガルンが瞬間的に脚力のエーテル強化をしたのは、当然の反応だ。


放たれたブレスは黒い液弾。


(何だこれは?!)


ガルンが跳躍した後の床に黒い液体がかかると、異様な音を立てながら床から黒煙があがる。


床はゆっくりと熔解し始めた。


「腐食のブレス?!」


当惑するガルンを見ながら、王宮近衛騎士達から安堵の溜息が漏れた。


「ちょっとダークメルトドラゴンはまずくないか?」


「あれ頭に当たったら即死だぞ」


「テストだって理解してるのか、あの馬鹿女?」


「うるせぇ! 外野はだまってな!」


アルシェリットの怒号が響く。


王宮近衛騎士のメンバーの大半が呆れ返った。


「これぐらいでビビる玉じゃないよねぇ?」


「当然だ!」


ガルンはダークブレイズを振り降ろす。


猛々しい炎弾が黒龍に撃ち込まれた。


表皮に当たって軽く消え去る。


「息巻いてこの程度?」


アルシェリットが不満の声を上げる。


「まあ、序の口と言う事で」


ガルンはアルシェリットが黒龍の死角になるように左に移動する。


(やはり魔法障壁は張られていない。強靭な鱗をもつ龍は、防御が疎かになるって白き銀嶺の話は

当たりだな)




ガルンは腰を据えるとチャクラ七つをダークブレイズに集約する。


(出し惜しみは無しだ! 最大攻撃で打ち砕く!)


炎が青を経て黒く染まり始めた。


不意に黒龍はガルンに視線合わせる。


まじまじと見れば、鋭利な甲冑をつけたイメージの、赤い四つ目を持つ龍であった。


その朱眼が輝く。


「なっ?!」


四つの視線が合わさった空間に朱い光源が生まれた。


それが軽く瞬く。


ガルンが避けれたのは、ただ寒気を感じて先に動いていたからだ。


伸びた朱い閃光はガルンの横を摺り抜け、大地を綺麗に切り裂く理不尽な破壊力を発揮した。


床を熔解させながら伸びきった朱い閃光は、後方の閲覧席の結界に当たって異様な光を生む。


「魔眼待ちかよ!!」


ガルンは吐き捨てるように叫ぶ。


龍眼の中には魔眼、邪眼と並ぶ特殊能力を持つものが存在するが、この威力は破格と言えよう。


強大な攻撃を、ワンアクションで行う凶悪さ。これが龍種と呼ばれる存在が、最強クラスの生命体と言われる由縁だ。


ガルンが体勢を立て直している時には、聞きたくもない悍ましい咆哮がなり響いている。


黒龍の顔周辺の空間に、幾重もの魔法陣が浮かび上がっていた。

ハウリング・マジックでワンフレーズに集約された、ドラゴン・ロアーだ。


(早過ぎるんだよ!!)


ガルンが愚痴りたくなるのは当然のハイスピードで、次の攻撃準備は終了している。




魔法陣から黒い針が撃ち出される。


針と言っても、人間にして見れば投擲用ジャベリンに近い。


仕方なく、チャクラの一つを脚力に回して回避運動に入る。


撃ち出された針は八つ。


七ツまでは避けたが最後の一つが体に迫る。


攻撃力に捕われ過ぎて、回避にチャクラを一つしか回さなかったツケだ。


舌打ちして、ダークブレイズで針を打ち払う――事は出来なかった。


「!?」


魔剣を摺り抜けた針は右脇腹を貫通した。抜けた針先は地面に突き刺さる。


ガルンは激痛に顔を歪めながら、刺さった針に眼を移した。


薄平面の黒い針には見覚えがある。


どこぞの任務で見た平面猫だ。


(こいつ! もしかして) 

ダークブレイズを赤い炎まで落として、針に翳すと針は見えなくなった。


身体をずらして片膝をつく。


ずらした地面の先には、黒い針が刺さったままだ。


「影で出来た槍かよ?」


「違う違う“闇の針”さ。このダークメルトドラゴンは闇属性の魔龍さ! 攻撃の大半は闇属性。闇は空間を凍結させる。ちなみに物理防御は効かないよ?」


「空間干渉?!」


停止した空間は光が反射しないため闇となる。


逆に言えば闇とは空間を限りなく静止する力を持つ属性なのだ。



ガルンは動こうとして、立ち止まった。


右脇腹の傷は深い。


人間の身体は、構造的に骨の無い箇所の筋肉を断絶されると、力が全く入らなくなる。


チャクラの一つを回さなければ身動きがとれない。


(まずい! チャクラ六つでは、黒色の炎は可能でも純黒までは届かない)


ダークブレイズを握りしめて舌打ちする。


純黒のダークブレイズの滅びの力ならば、触れさえすればドラゴンの身体すら易々焼き尽くすだろう。


しかし、黒色では一撃で倒すのは不可能だ。


仕方なく、煙幕がわりに蒼炎を黒龍の頭目掛けて撃ち放った。




ガルンの戦いを見ていたパリキスが、そわそわしているのに真横の騎士甲冑の老人は気がついていた。


「フム。姫が珍しく選別試験を観覧したいと御所望だったのは、あの少年目当てですかな?」


パリキスはこくりと頷く。


戦いに目がいってるためか返事は無い。


老人は顎の髭を摩りながら、フムと頷く。


「あの少年が例の救出作戦の立役者ですか。良い眼と体捌きをしている。しかし……判断は悪い」


その呟きにパリキスは老人に目を移した。

何か落ち着きが無い。


「それはどう言う意味かや?」


「ドラゴンと戦うには火力が足りませんな。あのような戦い方は天翼騎士団のような破壊力が必須。対人戦闘向けの人間は、的を人間に絞って戦うのが常道。それを履き違えている」




「あの者の……ガルンの戦略は間違っていると?」


「そうなりますな。アルシェリットは王宮近衛騎士団の中でも破壊力はトップクラスですが、対人戦闘能力はそれ程高くは無い。龍に捕われずに術者を倒すのが得策。対魔術師戦闘においてもそれが常道。それを彼は行っていない」


「彼は勝てないと?」


「勝てませんな。何か隠し玉でもなければ」


きっぱり老騎士は言い切る。


パリキスは両手を握って、少し俯いたようだった。


その様子を老騎士は、目を細めて顎髭を摩りながら見ていたが、


「まあ、試験結果は勝敗とは関係はないですからの~。それに普通ドラゴンと戦う方を選ぶ勇気がある奴も少ない。その点は好評価でしょうな」


と、温和に告げる。


それを聞いてパリキスは微笑した。


「ガルンは勇気だけは、特大のを持っているからの。その点はわらはも知っておる」


そっと呪われた半身に触れる。


ガルンは何の躊躇もなく手を取った。


神の呪いすら畏れないのだ。龍ごときに恐れを抱くわけが無い。


パリキスはその手の温かさを生涯忘れないであろうと、しみじみ思う。


「ガルンは勝つぞ将軍? 我はそう思う。我がそう願うならば、彼はきっとそれに答えるであろう」パリキスの強気な物言いは珍しい。

老騎士は何やら楽しそうに笑みを浮かべた。




訓練場は砂塵と黒煙が舞っていた。


ガルンが弾幕変わりにダークブレイズを振りまくった結果だ。


「どうした! どうした! そんな逃げ腰の攻撃なんて効かないよ! それとも持久戦狙いかい?!」


楽しそうにアルシェリットは笑っているが、声と顔に疲れが見える。


“創成偽龍”を使い続けるリスクはかなり高いようだ。


ガルンは動きながら思考を巡らせる。


ドラゴンのような凶悪な攻撃力を持つ相手に、エーテル強化無しで渡り合うのは不可能に近い。


そして、どのみち怪我の状態維持にチャクラを一つ使用しなければならない。


幽体喰いが出来れば話しは早いが、こんな清浄な城に幽体など転がっている筈も無く、自ずと攻撃に回せるチャクラ数も限られてくる。


(……そう言えばカナンにレクチャーされたばかりだったな。賢い戦い方をしろって)


朝靄の中でのカナンの動きを思い出す。


卓越したチャクラコントロールは神業に近い。


ガルンは、グラハトに才能があると言われていたが、どう考えてもカナンの方が天賦の才があるとしみじみに思う。


(カナンのようにチャクラを同時平走、瞬間切り替えを可能に出来れば……)


ガルンはその場で脚を止めると、ダークブレイズを正眼に構える。


動きの止まった姿を黒龍は捉えた。




ダークブレイズの炎が黒く染まっていく。


赤眼が光り輝くと同時に、魔剣は振り下ろされていた。


撃ち出された赤光は、放たれた黒炎の手前で大きく軌道を変えていた。


ガルンの遥か後方に着弾して、床を熔解する。


黒炎の超高熱が大気を歪ませて、魔眼の軌道をずらしたのだ。


逆に黒炎弾は、赤光など毛ほども妨げにならずに黒龍の顔にヒットした。


龍が苦鳴の声を上げる。


大気の温度がいきなり上昇した為、アルシェリットも苦悶の表情を浮かべた。


「何だ、この黒い炎は?!」


「くそっ!」


ガルンは歯ぎしりしながら、チャクラを脚力に回す。


瞬間的に、状態維持に使用しているチャクラをダークブレイズに回したのだが、純黒の域までには及ばなかったようだ。


だが、黒き炎でも威力は十分高い。


黒龍の頭部の鱗が溶けて割れている。高位の大呪文に匹敵する火力だ。


なにより熱波の影響か、龍の目が閉じられている。


(チャンス!)


ガルンは一気に間合いを詰める。


目の端に、鎌を振りかぶるアルシェリットが見えた。


「滅陽神流剣法、無式五十型・紫電」


真横一文字斬り。


迫り来る気流の波を一刀両断にする。


「なっ?! 風を切り裂いた!」




驚嘆して目を見開くアルシェリットを無視して、ガルンは疾風となって黒龍に迫る。


疾走しながらスラリと妖刀を抜き放つと、大地に赴ろに突き刺した。


「吹きすさべ!蝶白夢ちょうのしらゆめ!」


妖刀から放たれた水流によって、ガルンは水柱に乗る様に空中に舞い上がった。


天を突くような竜頭の、さらに上をとる。


そこで妖刀を真横に切り払うと、水柱がまるで花火のように空中で霧散した。


放射された水しぶきが、水泡になり、そこから蝶に変わる姿は圧巻だ。


全員が空中に描かれた、幻想世界に息を呑む。


その中心で黒い華が咲いた。


片手持ちしたダークブレイズから、黒い焔が吹き荒れる。


(純黒には届かない! それでも攻撃力を上げるならば……!!)


瞬間的なチャクラ切り替え。


焔の維持に半分、残りは全て腕力に回す。


「滅陽神流剣法、無式十七型・裂穿!!」


黒炎が大気を歪ませ、神屠りの剣がそれに特異な可能性を吹き込む。


初撃を入れた龍の眉間に、裂帛の気合いと共に魔剣が叩き込まれた。


妙な耳鳴りが響き渡る。


黒龍の頭部に瞬間的に炎の亀裂が入ると、朽ちた花弁が散るようにあっさり分解した。


砕けた肉片が黒炎で燃え上がる。


血と炎塊が、汚らしくも鮮烈な花火を構築した。




「単身で龍を砕いただって?!」


アルシェリットは胸を抑えて呻く。


観客席に陣取る、王宮近衛騎士達もざわめきの声を上げた。


「何だそりゃ?!」


「サクラメント(成聖武装)でも、あれだけの攻砕力はないぞ」


「空間歪曲……いや、空間破砕に近い」


「物理攻撃じゃない? 新手のミスティリオン(神秘能力)?」


騎士達が騒ぐ中、首を失った龍はまるで石になったかのように急速に固まり、石像のように砕け始めた。


(咄嗟の事だが何とかなった。黒炎を剣に留めたままでの無式)


龍の残骸と共に落下しながらも、ガルンは魔剣の放つ黒い炎を胸を撫で下ろすように眺めた。


現段階で1番現実的な最大攻撃手段。


チャクラコントロールが疎かだった今までは、黒い炎を精製して撃ち出すしか出来なかった。炎を剣に留めて置く方が難易度は高かったのである。


微細なチャクラコントロール。それを練り上げた今のガルンならではの闘法であった。


安堵しているガルンを、いきなり下から竜巻が吹き飛ばした。


「……!!!」


アルシェリットが、鎌を振り払っているのが目に入る。


空中では気流の攻撃を防ぐ手段など無い。


「やってくれたじゃないか、こんチクショウ! 龍を倒されたら偶像創製に費やした、あたいの寿命と血は戻って来ない。寿命は三年は縮まっちまったよ!」




アルシェリットの顔に憤怒の色が見える。


今度は右腕の袖を捲くり上げた。


腕にはビッシリと魔法円が描かれている。


ガルンは空中で体勢を直しながら、それを見て頬を引き攣らせた。


あんな龍をもう一体出されては、たまったモノではない。


しかし、遥か上空に飛ばされた現状では手の出しようもない。


どちらかと言うと、着地をどうするかの方が問題である。


高さは有に三十メートルはあるだろう。普通に落下したら即死か重体だ。


落下するガルンを見据えながら、アルシェリットは胸元を素手で引き裂いた。そこにも魔法円が描かれている。


(おいおい、二体も作り上げる気かよ?!)


絶句するガルン。


アルシェリットは病んだ笑みを浮かべながら、指の血を魔法円に着けようとして立ち止まった。


両腕が布に絡め捕られている。


布先は影から生えていた。


「?!」


「そこまでだ」


声は影から聞こえて来た。ゆっくりと銀髪の少女がせり上がって来る。


少女は目の端で地面に炎弾を撃ち込み、爆風で落下速度を減衰させているガルンを見てからアルシェリットに向き直った。


「これ以上は試験では済まなくなる。終了だ」


「……何時から居たんですか副団長?」アルシェリットが不機嫌そうに呟く。


「始めからだ。あいつは実力だけなら初めから王宮近衛騎士クラスだからな。間違いが起こらないように見張っていたのだよ」




しれっと銀髪の少女――アズマリアは答えた。


「決着がまだついていない……」


「決着? これは試験だ。実力を見るには十分過ぎる程だな。それに勝負ならとうについている」


「……?」


アズマリアは怪訝な表情のアルシェリットを見ずに、ガルンの着地を見守る。


いざとなれば影から救いの手を出すつもりだったが、それは杞憂に終わった。



ガルンが綺麗に着地をするのを確認してから、アズマリアは冷ややかに告げる。


「生命創製の魔術は術者への負荷が高い。特に生命共有した魔術は破られれば命が削られる。今の状態で勢いに任せて、二体も新たな龍を創製したら直ぐにガス欠だ。戦闘では負けなくとも、自滅して勝敗はつく」


アズマリアの推論は的を射ていたらしく、アルシェリットは無言で舌打ちした。


それはガルンの勝利を物語っている。


(それに……始めからアルシェリットを殺す気ならば……意外と勝負は早かったかもしれんしな)


アズマリアは観客席の中央、主賓席に目を移してから、


「第一試験はこれにて終了。試験結果は後で伝える、受験者は出口にいるハイプリーストに怪我の治療を受けたら、待合室で待機していろ」


と高らかに宣言した。


それを遥か遠くで聞いていたガルンは、肩を竦めるとすごすごと退場する。

これ以上ドラゴンテイマーと戦わないでいいならば、それに越したことは無い。




どの道、試験結果は勝敗で決めるのでは無く、試験官である王宮近衛騎士のさじ加減次第である。


十分実力をアピールはしたが、受かるとは限らない。


ガルンはさっさと練習場所を後にした。



アズマリアはガルンが立ち去るのを確認してから、観客席の騎士達を見上げた。


「それで皆の判定は?」


ぱらぱらと手が七ツ挙がる。


練習場のアルシェリットも仕方なさそうに挙げた。


「八か。合格ラインだな」


ちらりと挙げていない騎士を見る。


「合格ラインは越えているが、参考までに不可理由を述べろ。 マグリネス、ベウィク」


その言葉に、銀の短髪で鋭い眼光の男が前に出た。

「あいつからは禍々しい力を感じた。あれはどちらかと言うと闇側に近い。そんな奴を王族の近くに置くのは承服しかねる」


「同じく。俺もあの剣には邪気を感じる。剣に誠意が無い。ただ殺す事に特化した剣。あれは護るべき者の為に振るわれるモノではなく、ただ殺戮の為に存在するモノだ。それにあの常軌を逸っした威力――あれが魔性の剣なのは間違い無い」


反対したもう一人、青い短髪を逆立てた男が相槌を打つ。


「……それはそうだな。あいつはどちらかと言うと我に近い存在だ。初めからナイトウォーカーと思え。不審な動きをしたら迷わず討つ心構えでいろ。お前達はそれで良い」


アズマリアの回答に二人はコクリと頷いた。




試験結果をガルンが待つ事は無かった。


何故ならば怪我の治療を受けてから、待合室に戻ったガルンを出迎えたのは何とアズマリアだったのである。


「……!? あんた試験場にいたんじゃないのか?」


信じられない早業に目を皿にするが、影を移動出来るアズマリアならば不可思議な事でも無い。


「実技試験はパスした。これから二次試験を始める」


「二次?」


きょとんとするガルンをアズマリアは不思議そうに眺めた。


「……? 貴様にはきちんと案内人を付けた筈だが?」


「案内人ねぇ……」


ニヒルな騎士を思い出す。


どうやら彼は二次試験の説明をし忘れたらしい。


もしくは受かるとは思っていなかったかの、どちらかか。


「まあ、いい。二次試験は単純だ。貴様の適性検査だ。精神防壁を張っているなら取れ」


「……?」


「我が魔眼“深淵眼”で貴様の中身を見せて貰う」


手近な椅子を出されて、ガルンは仕方なく座った。


胡散臭そうにアズマリアに向き直る。


「深淵眼って?」


「相手の心の底に刷り込まれた恐怖を蘇らせて、精神を錯乱させる瞳術だ。貴様の刀の効力に近い。まあ、それの応用で貴様の心に巣くう、負の記憶と感情を引き出して観測するのが目的だがな」




「悪趣味なことで……」


ガルンの不平を訴える口調に、アズマリアは目を細めた。


「姫様たちの御身の為だ。裏切る要素や、術や催眠で操られている奴もあぶり出せる。今いる王宮近衛騎士は全員通った道だ、諦めろ。まあ、余りに酷いトラウマを持っていれば、軽い悪夢を見る事になるがな」


アズマリアの唇が釣り上がる。


(こいつ……多分、性格悪いな)


ガルンは引き攣った笑みを浮かべて、ぼんやりそう思った。


その矢先、アズマリアに顔の両端を掴まれる。


「一つ良い事を教えてやろう」


ゆっくりと瞳が朱く輝き出す。


まるで果ての無い、赤い空洞の様に見え始めた。


「貴様がどれだけ、恥知らずで、邪で、淫逸な欲望を持っていても我は気にしないぞ?」


「……なんだ。そのフォローは」


「こう言うと、表層に性癖とか出てくるアホが多いのでな」


アズマリアの口元が微妙に綻んでいる。


(……こいつ、本当に性格悪いぞ)


ガルンは呆れるように、その赤い双眸に意識を持って行かれた。


深淵眼。


対象に鮮烈に刻まれた、恐怖や嫌悪の記憶を引きずり出し、その記憶から相手を幻惑する邪眼の一つ。


相手の深層心理下からも記憶を抽出する程の妖力があり、その記憶を共感する事で内容を読み取る事が可能である。



対人戦闘には役立つものの、邪眼のランク自体はそれ程高いものでは無い。


精神抵抗の高い者には効きにくく、破られる割合も高いのだ。


触れた者の精神を、有無も言わさず浸蝕汚染する、妖刀“蝶白夢”や、千眼の魔神の魔眼に比べるとワンランク落ちると言えよう。


しかし、このような尋問等に使うには覿面な能力と言える。


アズマリアは深淵眼を使って、ガルンの記憶をゆっくりと読み解いて行く。


次第に美しい柳眉が歪み始めた。


(なんだコイツは……。 この極端な聖性側と邪性側との接触率は? それに聖性の属性を持ちながら闇の力を振るっている?)


ガルンの過去は凄惨な部類には入る。だが、アズマリアが見て来た人間達には、もっと悲惨で鮮烈な人生を送って来たものも少なくない。


しかし、クフル、グラハト、天翼騎士団、千眼の魔神と、これだけ神性側と魔性側に接触した人間は少ない。


魔性に侵されながら、完全無欠の聖性側のパリキスも接触を持った一人と言える。


「考え過ぎか……」


アズマリアは静かに呟く。


アズマリアのガルンの見解は、性格はいびつだが人格には問題無いと言う結論であった。特に術に掛かった様子も無い。


引っ掛かるとすればグラハトの存在である。


闇の担い手が与えた、魔性の技。


滅陽神流剣法。


これは明らかに異常で特異で異質なモノだ。




「滅陽神流剣法。聖魔大戦の負の遺産か……」


アズマリアは腕を組んでから、顎に手を当てた。


十年前に起こった聖魔大戦。


真逆の東方大陸が舞台であり、事の概要は分かっていない。


この西方大陸にも魔族の侵攻はあったが、それはたいした規模では無かったとしか、アズマリアは記憶していない。


ガルンの気掛かりな点と言えば、この聖魔入り交じった不安定な状態にある。


人の身で、自然の守護者たる星狼の血を受けながらも、闇の魔剣を身につけて存在が逆方向に変質している。


聖性を持ちながら闇属性に染まった人間。


塔の戦いでの“幽体喰い”で、浚にその存在は変質している。


精霊と魔と幽境と人の狭間で漂う存在。


「苛酷な生い立ちのせいか、精神年齢も不安定だ。何かの拍子で発狂でもすれば……最悪の敵にも成り兼ねないか」


ガルンの評価を修正する。


(探って見るか?)


アズマリアは滅陽神流剣法の記憶を引き出す事にした。


ガルンの存在の歪みの根源は復讐心にある。しかし、それに拍車をかけているのは明らかに滅陽神の剣のせいだ。


深淵眼で記憶を引き出すには、その特性からグラハトの死から辿るのが早い。


アズマリアはグラハトとの最後の記憶をリフレインさせる。




ガルンの表情が歪む。


グラハトを巡る、どのような悪夢が展開されているかはアズマリアにしか分からない。


その時だった。


ガルンの身体から黒い陽炎の様なモノが立ち上ったのは。


「?!」


アズマリアが瞬間的に飛びのく。


吸血鬼はその不死性からか、恐怖心と言うものが酷く軽薄だ。


それが本能で動いてしまう異常事態。


アズマリアはその美貌を歪ませた。


「っう……!?」


両腕がぶらりと下がる。


アズマリアは青ざめた顔でガルンを睨み付けた。


先程の黒い陽炎はもう無い。


まるで彼の持つ魔剣の炎に酷似していたようにも思える。


「やってくれたな……少年」


吸血鬼には有り得ない現象が起こった。


冷や汗である。


常に低温である肉体は本来汗をかかない。


「……やはり危険度は飛び級のようだな」


アズマリアはそう言うと、渇いた苦笑いを浮かべた。



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