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ゆきだるま、ころんだ

作者: 時廼あかり

都内には珍しい大雪で、人影がない公園にやってきた彼女に起こる不思議な話

 今日は、都内ではありえない程の大雪でこんな時間、こんな日にも関わらず、人影が全く見えない。


「やってらんないわー」


 公園でブランコにでも乗ろうと、立ち寄ればこんもりと雪が積もっている。


「くぅ、手が痺れる!」


 雪を素手で払うとたまたま持っていたコンビニの袋をお尻の下に敷く。少し低めのブランコ漕ぐと久しぶりに聞けた錆びかけの鎖の音。


 隣のブランコは乗り手がいないのを不満に思うかのように小さく揺れている。


 まだ誰にも踏まれていない雪を蹴りつけながら段々と勢いをつけていく。靴が冷たくなったって構わない。

 漕ぎ疲れ、ゆっくりとブランコが止まる。


「あー、寒い」


 ブランコを降りて、ふと砂場を見たら大きな雪だるまが目に入ったので近寄ってみる。今日は朝から雪だったから、きっと子ども達が作ったのだろう。


「なかなか本格的な雪だるまねー」


 目には黒い石、鼻にはオレンジ色のストローが三本、口には赤い毛糸。仕上げに砂場遊びに使うバケツを被っている。

これを作った子はいいセンスをしてると思う。


 コートのフードの上に積もった雪を払い、冷えきった手に息を吹きかける。まだまだ今夜は冷えそうだ。


「あんたもこれなら明日まで大丈夫ね」


 さて、雪だるまに話しかける危ない女と思われないうちに帰るか。


 雪だるまに背を向けて歩き出すと背後でズリっという音が聞こえた。

 思わず振り向くと、そこには雪だるましかいない。


「気のせいか……」


 今度は少しだけ早足で歩くと、ズリズリっと言う音がする。


「ちょっ……  どんなホラーよ」


 ゆっくりと振り向けば先ほどよりも近くに雪だるまがいる。今度こそ走って逃げようと決めたその時、雪だるまのバケツの中に光る物が入っているのに気づいた。


 恐る恐るバケツを取れば、そこには小さな石が嵌め込まれた結構高そうな指輪があった。そっと手に持ち、指輪の内側を覗いて見る。落とし主の手掛かりがあるかもしれないし。


 その途端に手が震え、指輪に刻まれた文字が涙で徐々に見えなくなる。


 指輪には、Yuki to Sae と刻まれていた。

 有希ゆきから早絵さえへ、それはシンプルな愛の言葉。


 二年前、恋人の有希ゆきにプレゼントがあると呼び出されたこの公園。でも彼は来なかった。すぐ目の前の横断歩道を渡ろうとしたところを忘年会帰りの飲酒運転の車に跳ねられたから。即死、だった。


 プレゼントらしいものは遺品にはなく、事故の衝撃で何処かへ行ってしまったのだろうと思うしかなかった。


 有希ゆきと私は、幼馴染みでこの公園にもよく一緒に来ては、ブランコやかくれんぼ、そしてだるまさんころんだ、で遊んだものだ。

 有希ゆきは、止まるのが苦手ですぐ転んでばかりだった。


 そして今日は有希ゆきの二回目の命日の大晦日。きっと私が泣かないように約束の、そして最後のプレゼントを届けてくれたのだ。


 雪だるまは、私が有希ゆきと呟いた瞬間にべシャリと転んで崩れた。


 最後までだるまさんころんだ、苦手だったんだね。



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