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仮面夫婦はじめました

 ちょっと意味が違います?




「……夫婦のふり?」

 また突然何を言うかと思えば。

「なんで夫婦じゃないといけないの?」

 目の前に差し出された依頼書には、‘男女二人組’とある。

「護衛対象が結婚を控えたご令嬢だから」

「間違いが起こらないように?」

「というか、間違いが起こり得ないという心証を与える為に、だね」

「花嫁の父が依頼人か……徹底してるわね。しかも名指し?」

「以前お世話になった人なんだ。僕達は組んで戦いながら護るのに慣れてるからね」


 仕事の打ち合わせの為に宿の食堂兼酒場で待ち合わせた私達は、他人に聞かれないよう声を潜めて話していた。

 実の所このような依頼は多い。

護衛対象が女性の場合、こちらも女の方が対応しやすいが、女だけでは嘗められやすく危険が増すので男女二人組が重宝される。

 そしてご令嬢やご婦人を豪華な馬車に乗せて護衛をつけるのは狙ってくださいと言うようなもの。凄腕の冒険者と共に旅人に紛れさせた方が安全だ。

 今回同行する侍女は武術も身に付けているとあるが、どれ程のものかは見てみないと分からない。

「でもなんで私?ふりでも夫婦になりたがる女は一杯いるでしょ?」

「君以外に頼むと仕事の他に苦労が増えそうだから」

 そう言って困った顔をした彼は、顔も頭も羽振りもよく、なんで王立研究所や軍に行かずに冒険者なんかしてるのか不思議に思うほど優秀な魔術士だ。 美形の割に気さくで誰にでも優しいので、見る度に違う女に言い寄られている。

 今も酒場の給仕や客など方々から熱い視線を投げ掛けられているが、仕事の話をしているためか見向きもしない。

 そして私には嫉妬に満ちた視線が突き刺さりまくっている。

「なるほどね。‘ふり’を事実にしようと頑張っちゃうわけだ」

「新婚旅行のついでに、妹とその友人を送って行くってことでいいかな?」

「了解」

 じゃあこれ着けようか、と出された綺麗な箱に並んでいるのは──「何よこれ!?」大声を出した私を誰が責められよう?──それは銀色に輝く、夫婦の証の腕輪だった。

「やるからには徹底しないとね?」 楽しげにウィンクされて一瞬息が詰まり、次いで脱力感に襲われた。

 気にしちゃダメだ。こいつの無駄に色気のある麗しい顔も、ビシバシと突き刺さる視線も、旅の間にあちこちで嫉妬の嵐に曝されるだろうことも。

「……ちゃんと外せるんでしょうね?」

 再び声を潜めて話を続けた。夫婦になった証に着ける腕輪は、本物なら神殿に行かないと外せない。ふりで離婚歴がつくのは困る。

「大丈夫。神殿じゃなくて僕が作った物だし」

「器用ね、凄く綺麗だし本物にしか見えないじゃない」

 箱に落としていた視線を戻すと、ちょっと得意気な顔で微笑んでいた。

 彼は魔具を造るのにも長けていて、何か新作を持ってくる度にこんな表情を見せる。

「護りの術も編み込んであるんだよ」

「へぇ、気がきくじゃない。でも今回はお金は出さないわよ」

 一度だけどんな魔法や物理的攻撃からも護ってくれるという護りの術付きの魔具は、私のように魔術が使えない者にとっては魅力的だ。たとえ見た目が夫婦の腕輪そっくりでも。

「勿論。これは贈らせてもらうよ」

 じゃあ遠慮無く、と腕輪に手を伸ばしたら、寸前で箱ごと遠ざけられた。

 む、と睨めば左手を捕らえられ。

「こういうのはお互いに着け合うものだよ」

 瞬く間に手首に通された腕輪はその細さに合わせて縮み、吸い付く様にぴたりとはまった。

 促されるままに彼の左手首に着けてやれば。

「受け取って貰えて嬉しいよ!」

「ばっ声が大きい!」

 テーブル越しに手を握られ、腕輪に口づけられた。

 それまでもチラチラと寄せられていた視線が一気に集中する。

「おめでとうお二人さん!」

「よっ新婚さん!」

「なんであんな地味な女が!?」

「熱いね〜!」

「いやぁお似合いだ!」

「きぃぃくやしいぃぃ!」

 腕輪の交換と思わせ振りな台詞で完全に誤解された。

 酒場中から祝福と賛辞と罵りの言葉が浴びせられる。

 一気に顔が熱くなって、下を向いたまま上げられない。

「女剣士さん耳まで真っ赤になって、かわいいね〜!」

 彼が回り込んで隣に座り、視線を遮ってくれたので少し落ち着いた。

 一緒にいると色々と困った事態に陥るが、何だかんだ言ってやっぱり旅でも戦いでもお互いを補い合えるし、私達の相性はいいと思う。

 女一人で冒険者やってると仕事以外でも危険が付き物だけど、臨時で組んだことのある相手の中ではダントツの優良物件だから女には不自由してないようで、私なんかに迫ってきたり不埒なことをしようとはしない。

 そういった面でも安心できる相手だし、剣士と魔術士はいい組み合わせだ。

 彼は一人でもやっていけるほど万能で強力だけど、この旅が終わったら正式に相棒として組まないか聞いてみようかな。


 つらつらと考えている間にテーブルには料理や酒がずらりと並んでいた。

 いつの間にか肩まで抱いている相手を見上げれば。

「お祝いに奢ってくれるってさ」

 珍しく微笑みではなく満面の笑みで此方を見ている。

 顔が近い。また瞬時に熱が集まる。うぅ、美形め。

 いかん、こんなことでぐらついていては相棒として認めてもらえないぞ。

 自然と眉を寄せて睨んでしまった。

「見つめ合っちゃって、お熱いね!」

「幸せなお二人さんに乾杯!」

「「「かんぱーい!!」」」

「ありがとうございます。では次の一杯は僕からの奢りで!」

 相棒(仮)よ、何やら調子に乗っちゃってないかい。

「「「かんぱーい!!」」」

 酒場中が結婚祝いの宴と化し、明け方まで飲み続ける羽目になってしまった。

 見切り発車気味ですが、長編がなかなか纏まらないのに焦れて初投稿してしまいました。

 一応頭の中に結末まで画かれてはおりますが、不定期投稿になると思われます。

 読んでくださる方がいらっしゃいましたら、長い目と広い心でお付き合いくださると嬉しいです。

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