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悪役令嬢の親友は、ヒロインのお助けキャラです

僕は光の王子様〜悪役令嬢の親友は、ヒロインのお助けキャラです〜

作者: 猫野沙子
掲載日:2026/07/14

第二王子のフェリクスは、光の中でだけで生きていた――――理想の王子様の残念な裏側のお話。

『悪役令嬢の親友は、ヒロインのお助けキャラです』のフェリクス視点です。どちらからでもお読みいただけます。


『悪役令嬢の親友は、ヒロインのお助けキャラです』

https://ncode.syosetu.com/n9650mk/

 フェリクスは地味な平民の服に着替えると、侍従を連れて城下へ出た。婚約者であるリリス・フリティラリア侯爵令嬢が何やらまた陰謀を巡らせていると察した彼は、学園の休日に、その舞台である孤児院へと向かった。


 フェリクスはカンディダム王家の第二王子として生まれた。母は側妃で王の寵愛を受けている。フェリクスは母である側妃が教育を行った、王家では稀有な例である。王子である己の教育を任された、側妃である母をフェリクスはひどく尊敬していた。

 常々、下々の者には優しくするよう言われており、フェリクスはそれを実行していた。高位貴族が下位貴族に無理を言っていると()()()それを糾し、貴族が平民に不当な要求をしていると()()()、それを正した。


「リリスは、あるいはフリティラリア家は孤児院にいったいどんな不当な圧をかけているのか調べなくては」

 先ほどリリスが広げていた数か所の孤児院の資料を見たフェリクスの言葉に、侍従は機械のようにコックリと頷いて、

「はい、そうですね」

と返事をした。側妃の実家の末端の方にあたる子爵家出身の侍従は、うすら笑いを張り付けた顔で、愛想よく答えた。側妃の実家に逆らうすべがなかった子爵家からいけにえに選ばれた、少しばかり能力に欠けていた次男である。


 賑わう城下を目立たない馬車で抜け、下町へと向かう。整然とした城下を通り過ぎ、ひしめきあうように建つ小さな家々が並ぶ通りの外れ、家がまばらになったあたりの、日当たりのいい場所に孤児院はあった。

 フェリクスは下調べもせずやって来たが、この孤児院は数十年前、貴族たちに孤児院の支援が割り当てられた際に、ムルティフローラ子爵家が元々あった孤児院に土地を提供して移転させた経緯がある。

 馬車を降り、孤児院の敷地に入った。入ってすぐに古びた建物があった。孤児院を囲む柵はところどころ壊れており、建物もひびが入ったり、外壁が剥がれ落ちているところもあった。リリスの資料では、他の孤児院は立派なのに、ここだけ建物が極端に古びて手が入れられていないのだ。右手に子供たちが遊ぶ広場があった。広場の真ん中に、ミルクティー色の髪がなびいていて、少し困った顔のエルザが立っていた。エルザにまとわりついていたであろう子供たちが離れていくところだった。ふとこちらに顔を向けたエルザの新緑色の瞳と目が合った。その瞬間、フェリクスの胸は高鳴り、エルザとの出会った時の事を想い出した。


 エルザは学園に通っている平民である。貴族も通うこの学園に平民であるエルザが通っているのは、聖属性の魔力があるためだ。いわゆる、聖女候補である。

 貴族とも関わるため、主に礼儀作法と貴族との顔つなぎのために通うのである。聖女になれなくても、聖女の補助役や下級貴族の侍女など将来的によい職につくことができるので、平民の間では憧れである。


 フェリクスがエルザと出会ったのは、廊下の角でぶつかったのがきっかけだった。生徒会室へ行こうとしていたフェリクスと、少し急いでいたエルザは出会い頭にぶつかってしまった。転んだエルザを助けた時、新緑色の瞳に吸い込まれてしまいそうで、思わず声を失った。彼女が持っていたクッキーが入った籠が、ぶつかった拍子に床に落ちてしまっており、クッキーは割れていた。フェリクスは我に返ると、急いで言った。

「すまない、大丈夫か?」

 フェリクスがそう言うと、エルザは驚いた顔でフェリクスを見て慌てて言った。

「大丈夫です!第二王子殿下、お怪我はありませんか?」

「ああ、大丈夫だ。それより、せっかくのクッキーをダメにしてしまったようだ」

フェリクスは心配そうに言うと、エルザは優しく気遣うような笑顔をフェリクスに向けた。

「気になさらないでください。クッキーなら、また作ればよいので」

(なんて優しい子だ)

フェリクスはそう思って感動した。フェリクスはエルザしか見えていないようだったが、エルザと一緒にいた女子学生が黙ったまま散らばったクッキーを拾っていた。

「私の事は、フェリクスと呼ぶといい。君の名前は?」

「え、はい!フェリクス様。私はエルザと申します」

 少し顔を赤らめたエルザは愛らしく、フェリクスはどきりとした。二人の甘い空気の横で、茶色の髪をおさげにして眼鏡をかけた女の子は、冷ややかに二人を見ていた。

 それから、エルザと偶然会うことが増えて話すようになり、仲良くなっていった。 

 フェリクスにはリリスと言う婚約者がいるが、母から「フリティラリア家は悪い家です。フリティラリア家から、リリスがあなたが好きだからどうしても婚約を結びたいと強引に結ばされたのです。ですから、信用してはいけません」と言われて育った。そのため、リリスの事は嫌いだった。いつも何を考えているか分からず、陰でこそこそ陰謀を巡らそうと狙っているらしいのも、気に入らなかった。

 しかし、エルザは聖女候補であり、清らかな存在だ。フェリクスはエルザの側にいると、フリティラリア家に囚われている薄汚れた自分が浄化されるようだった。それに、リリスと違っていつもニコニコと笑っているのも、フェリクスは好ましく思っていた。


 エルザが驚いた顔をしているのを見て、フェリクスは胸の高鳴りを悟られないように声を掛けた。

「エルザじゃないか?」

「フェリクス様!」

エルザがぱっと嬉しそうな笑顔を向けてくれた。フェリクスの胸は高鳴るばかりで、エルザに聞こえるのではと変な心配をしてしまうほどだった。

「服が汚れるのも構わずに子供達と遊んでいたのだな。エルザ、今日はお忍びなのだ。フェルと呼んでくれ」

 エルザが着ている可愛らしいピンクの服は子供と遊んだせいか、ところどころ泥汚れがついていた。きっと、子供たちは遊び疲れてエルザから離れたのだとフェリクスは思った。フェリクスは分からなかったが、エルザが着ている服は平民からすれば特別な時に着る上等な服である。フェリクスはエルザが汚れるのも構わず、子供たちと遊んだのだと思った。一方、エルザは、照れたようにうつむいていた。

「はい、フェル様」

 そう言ったエルザに、フェリクスはドキドキしながら踏み込んだ。

「どうか、”フェル”と呼んでくれ。”様”はいらないよ」

「はい……フェル」

赤くなったエルザの顔を、フェリクスはいとおし気に見つめた。好ましい相手から、愛称を呼ばれるのがこれほどうれしいものなのかと、フェリクスは感動した。


 エルザから離れて行った子供たちはどこか不満げで、つまらなそうな顔をしていた。フェリクスの侍従は、フェリクスとエルザが二人の世界に入ったのを見て、張り付けたような笑いを引っ込めた。その代わり満面の笑みを浮かべて、

「さあ、みんなこっちへおいで!遊ぼう!」

と張り切って声を掛けて、カバンから自作のおもちゃを取り出して見せた。木製の梯子から男の子型の人形がカタカタと軽快な音を立てて宙返りしながら落ちていくおもちゃに、子供たちの目は輝いた。

「走り回りたい子は鬼ごっこだ!おもちゃはケンカしないで順番に遊ぶんだぞ!」

侍従は晴れやかな笑顔で子供たちと遊び始めた。


 孤児院の院長がフェリクスを応接室に案内すると、何故かエルザもついてきた。エルザの顔は院長も知っている。この近所で聖魔力がある少女として有名だからだ。そんな彼女が急にやってきて「子供たちと遊んであげます」と言ってきた。どう見ても高価な服を着ており、とても子供たちと遊ぶような恰好ではない。しかも、「高貴な方が来る」と言う先ぶれを受けていたから遠慮したのだが、強引に入り込んで子供たちと遊ぼうとしたが、結局汚れるのを嫌がったため、子供たちが離れて行った。

 高貴な方の侍従は、子供たちと遊んでくれるのはよいのだが、こちらのフォローには回ってくれなかった。視線を向けたものの、いっさい院長とは目を合わせてくれなかった。

 エルザと高貴な方は、まるで逢引のために孤児院を使っているように見えて不愉快だった。院長は出そうになるため息を飲み込んで、応接室の扉を開けた。


 フェリクスは、孤児院の建物の内部もだいぶ痛んでいるのを確かめて、確信した。

(資料通りだ!ここはずいぶんと古びて壊れている。きっと支援している貴族が支援をきちんとしていないせいだな)

応接室でエルザと並んで座ったフェリクスは、開口一番こういった。

「支援が薄いようだが?」

 フェリクスの期待とは裏腹に、院長は厳しい顔をこちらに向けて言った。

「当院を支援してくださっているのはムルティフローラ子爵家でございます。確かに施設は古いですが、子供達が健やかに育つようにと食料や衣料など、気を配ってくださるのです」

「他はもっと施設が――――」

フェリクスが言いつのろうとしたが、院長はそれを遮って、

「よそはよそですわ。当院はムルティフローラ家に不満はありません」

と断言した。ムルティフローラ子爵家は古い家柄の王家派である。長年にわたり堅実に領地を経営しており、この孤児院にも何くれと気を使って子爵家として妥当な支援してくれているのだ。フェリクスは院長の言動に、ムルティフローラ家何か不正を働いているのかと言う疑問が湧きそうになったタイミングで、エルザが、

「フェル、この孤児院に支援をしては?」

と提案してきた。フェリクスは、

「そうだな。私からも支援をしよう!」

と、言った。この際、ムルティフローラ家も院長の事もどうでもいい。子供たちの事が大事だとフェリクスは考えたのだ。

「ご支援はありがたいのですが……」

 院長は貴族の派閥争いかと、歯切れ悪く言ったのを、フェリクスはやはり院長がムルティフローラ家に何らかの圧力を受けているのかと思った瞬間、エルザが、

「もしかして、リリス様に脅されているのですか?!」

と言った。院長は「はあ?」と困惑したが、フェリクスには聞こえていなかった。

「そうか!そうなのだな?!」

 院長の困惑をよそに、フェリクスはリリスのせいだと確信した。そもそも、あの資料も己の陰謀が成功したのを確かめていたに違いない。フェリクスの言動に焦った院長が、「え、いえ、誰にも――――」と言ったが、フェリクスには側妃の教育のたまものである”悪=リリス・フリティラリア”の図式が刻み込まれており、スイッチが入ったフェリクスは暴走した。

「王家から支援する!私はフェリクス・カンディダム、第二王子だ!」

 お忍びだったはずのフェリクスはあっさり院長に身分を明かすと、頼りになるエルザと支援内容を話すのに夢中になり、院長が驚いて「ええ?!」と言った事も耳を素通りし、院長の意見も聞かずに支援の内容をエルザと決めてしまった。


 フェリクスは支援を決めると孤児院を後にした。エルザのかわいい服が汚れていて可哀そうだったので、エルザに代わりの服をプレゼントしてやると、意気揚々と城へ帰って側妃へ孤児院の事を報告した。

「それは良いことをしましたね」

 母である側妃に褒められて、フェリクスは満ち足りた気分で、どこか満足げに薄ら笑いを浮かべている侍従を従えて自分の離宮へ帰り、日記に自画自賛を書き記すと誇らしげに読み返して笑みを浮かべた。


 学園に行くと、リリスがどこか疲れた顔をしているのを見て、

(やはり、リリスの陰謀だったな。うまくいかなくてあんな顔をしているに違いない)

と一人納得した。

 フェリクスの”善意”のやらかしの裏でリリスがその尻ぬぐいに奔走しているなど、思いもよらないフェリクスだった。


 王宮を歩いていると、遠くにリリスの姿が見えた。

(そういえば、母上が今日はリリスとお茶会だとか。母上があの者と話すなんて……何もないと良いが)

側妃を心配しつつ、薄ら笑いの侍従を従えたフェリクスはまたも城下へ向かった。今日はエルザとお忍びデートなのだ。侍従は置いていきたいが、仕方ない。フェリクスは王子なのだ。

 今日のフェリクスはこの前よりも少しだけ良い服を着ている。この前、エルザにプレゼントした服に似合うような格好である。馬車は目立たないものではあったが、小さいためエルザと距離が近くなって、逆にフェリクスは浮きたつような気持になった。

 裕福な平民たちが来る城下の中心地の一つで馬車を降りると、フェリクスとエルザは初々しいカップルと言った感じで、手をつなぎ、まずは食事を楽しんだ。エルザの家では縁のないような高級店だったが、フェリクスからすれば砕けた店である。

 その後、フェリクスはエルザのために金地に小さな緑と青の宝石があしらわれた髪飾りをプレゼントし、エルザを送ってデートを終えた。

 フェリクスが離宮へ戻ろうとしていると、珍しく第一王子が声を掛けてきた。

「フェリクス。孤児院に支援したそうだな?」

「はい、兄上」

 フェリクスと第一王子は仲が良くない。第一王子は正妃の子で、近々立太子する予定だ。フェリクスは腹黒い兄が王になることを懸念していたが、父である王の決定にケチをつけるわけにはいかない。

「そうか。リリスが動いたか」

第一王子は一人納得すると、フェリクスを置いてきぼりにしたまま離れて行った。

(む?兄上もリリスの陰謀に加わっていたのか?)

不穏なものを感じたフェリクスは、側妃に相談しようと決めた。


 フェリクスの母である側妃は、フェリクスを自ら育てることを王にねだった。側妃は、自分の子は光の中でだけで生きてほしいと思ったのだ。ゆえに、教育も思想も偏り、フェリクスは自ら考えることのない暴走王子として育ってしまったが、側妃は満足していた。自分を慕い、自分を尊敬する息子を溺愛するばかりだ。

 尻ぬぐいも汚い仕事もすべてフリティラリア家のリリスにやらせればいい。これも自ら王に頼んで、王家の暗部をつかさどる家の娘を婚約者とした。とはいえ、かわいい息子の嫁と思うと、リリスの事は好きになれなかったし、何よりフリティラリア家の当主も嫌いだった。側妃の美貌を認めず、そっけない態度を取った男が、側妃は大嫌いだった。


 フェリクスは、側妃に第一王子とリリスが陰謀を企んでいたかもしれない事実を報告し、ついで、エルザを学園の舞踏会に誘うつもりであることを告げた。少し緊張したが、側妃は「聖女になれれば一番よいのだけれど、いいわ。まだ学生だもの。楽しみなさい」と許してくれた。

 フェリクスは、エルザに悪いとは思ったものの予算の関係上、ドレスはセミオーダーにして費用を抑えた。その代わり、ドレスの色は自分の容姿に合わせた、青を基調として差し色に金色を使った。側妃のアドバイスで、エルザの家に侍女の派遣も手配した。

(母上は本当に気が利くお方だ。私だけなら、ドレスだけ送ってしまうところだった)

と、思いながらエルザに手紙をしたためた。

 

 学園の舞踏会は、まだ舞踏会に正式に参加できない学生たちへの予行演習も兼ねているため、身分の低い者から先に入り、身分の高い者を待つ。婚約者が居れば、結婚後の身分を想定した順番で連れ立って紹介される。

 フェリクスは、当然のごとくエルザを伴って入場する気満々でリリスのことなど頭から抜け落ちていた。視界の端に深紅のドレスが入り、ふと見るとリリスだった。リリスは侯爵令嬢だ。フェリクスとリリスの間に公爵令息が挟まれているが、こちらは何も見ていないと言わんばかりに、自身の婚約者と和やかに話していた。公爵令息の婚約者に至っては、リリスに話しかけてにこやかに談笑していた。

(あの者もリリスに誑かされているのか?ふむ、まあ、すぐに目を覚ますだろう)

 やがて、リリスが入場していった。会場のどよめきがフェリクスの耳を心地よく刺激した。公爵令息と婚約者が入場し、ついにフェリクスがエルザを伴って入場する。

 学生たちのどよめきはリリスの時より大きく、皆口々に隣の者たちとささやきあっている。

(ふっ。エルザの美しさに動揺したか?)

今日のエルザは王宮の侍女たちの手によって、いつも以上に可憐で美しかった。高く結い上げた髪を飾っているうちの一つは、この前プレゼントした髪飾りだ。エルザがどうしてもと言ってつけてもらったらしい。そのことがまたフェリクスの気持ちを高揚させた。

 

 学園長の舞踏会開催の宣言と共に、フェリクスは勝手に登壇した。学園長は戸惑ったが相手は王族である。エルザと言う平民を婚約者のように扱っている時点で、学園長の胃は急速に痛みを訴えたが、壇上から下がると密かに王宮へ至急の使いを出し、ついでに医務室から胃薬を持ってくるようもう一人に頼んだ。


 フェリクスは、すっと威厳をただすと深紅のドレスに鋭い視線を向けて、 

「リリス・フリティラリア侯爵令嬢、前に出ろ」

と言った。リリスは表情一つ変えずに、フェリクスの前に進み出た。そして、リリスは扇子を取り出すとそれを顔の前で広げた。扇子には2種類の花が描かれていた。フェリクスはフリティラリア家の家紋であるクロユリは分かったが、勿忘草は分からなかった。

「フリティラリア侯爵令嬢は私の婚約者としての立場を利用し、数々の陰謀を巡らせて王国と国民に不当な負担をかけた。よって、私との婚約は破棄をし、国外追放を命ずる!私の新たな婚約者は、このエルザだ!」

 フェリクスの宣言に、会場からはどよめきが起きた。フェリクスの正義にみな感動したのだろうと自画自賛しつつリリスを見ると、

「まあ。フフフ。それでは、謹んでお受け致しますわ」

リリスはおかしそうに笑って、あっさり受け入れた。さらに、隣のエルザを見て鼻で笑うと、会場に向き直ってカーテシーをしてから言った。

「お集まりの皆様。この様な楽しむべき舞踏会で、不愉快な宣誓をさせてしまった事、誠に申し訳ないと思います。わたくしは退場致しますので、どうかな皆様はめいいっぱい楽しんでくださいませ」

 そう言って、リリスは振り返りもせず堂々と会場を出て行った。フェリクスはリリスの態度が不快だったが、リリスが出て行ったあと、舞踏会の再開を宣言してエルザの手を取って広間に降りた。

「エルザ、踊ろう」

 そう言って、フェリクスは勝手に踊り出したのだが、エルザは踊れない。彼女は平民であり、聖女候補にダンスの授業はない。聖女にダンスは不要だからだ。結果、エルザは足をドレスに取られて無様に転び、会場の失笑をかったのだった。

(みなに平等にダンスを教えないなど、なんて酷いんだ!学園長に後で抗議しよう)

と、転んで少し涙目のエルザがちょっとかわいいと思いつつ、フェリクスは心に誓った。


 学生たちにとっては地獄のような舞踏会だったが、今日起こったことをそれぞれ家に手紙を書いて知らせようとした。しかし、多くの地方の下級貴族の者たちは身一つで学園に来ていて、城下にいる手紙を届けさせる者の熾烈な奪い合いが起きたという。比較的近くの領地の者の中には、自ら馬を駆って知らせに行った猛者もいた。


 学園を大混乱の渦に巻き込んだフェリクスとエルザは、王の前で跪いていた。それぞれの話を聞くと、王は一人の人物を招き入れた。

「フリティラリア……」

「は、陛下」

「フェリクスはうぬが娘との婚約を破棄し、国外に追放したそうだぞ」

「承知しております」

「追わぬのか?」

「アレは不出来ゆえ、影には向きませぬ。ただ、こちらの手のものを同行させておりますれば、ご安心を」

「そうか。下がれ」

「はっ」

「フェリクスよ、そのエルザなる娘との婚約と結婚を認めよう」

「ありがたき幸せ」

 フェリクスは王とフリティラリアの会話の意味を考えもせず、エルザと共に能天気に喜んだ。


 フェリクスとエルザ、そして何故か側妃は、フェリクスの離宮に押し込められていた。フェリクスは首を傾げるばかりで、エルザは想像していたきらびやかな生活ではなく、不満を募らせていた。側妃も、王から初めて蔑ろにされて苛立ったが、どうしようもなかった。

 フェリクスも側妃も知りようがなかったが、第一王子の立太子に合わせて、フェリクスと側妃の病気療養が発表された。エルザの事は生涯その影も形も国民には知らされなかった。

 


最後まで読んで頂き、ありがとうございます。

『悪役令嬢の親友は、ヒロインのお助けキャラです』

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