【短編小説】Ice カタログギフト Age
総理大臣からカタログギフトが届いた。
友人の結婚式はめっきり少なくなり、職場の同僚や後輩も式を挙げる事も減ってきたので、久しぶりに目にしたカタログギフトはなかなか面白そうであった。
分厚いそれは豪奢なフルカラー印刷で、昔懐かしいエロ本みたいな匂いがする。当時を思い出して軽く興奮した。
酒を飲みながらパラパラとめくってみると真新しいビニールの匂いと共に肉やら海鮮やらの食べ物、有名なティーセットだとか漆塗りなんかの食器、他には動物のページもあったし、格闘技ジム(これはプロ並の演出で闘えるセットもあった)なんかがずらりと紹介されている。
魅力的な文言の上を目が滑っていく。
虚だ。
ブランド衣類や高級寝具などにもあまり興味を持てず、パラパラと捲っているうちに手が止まった。
武器のページがある。
各種ナイフや刀、薙刀、槍などの東洋武器があり、その次はダガーやクロスボウ、モーニングスターなどの漫画で見た西洋武器がある。
銃器類は親切にもガンヤードでの射撃訓練までセットになっているらしい。
『これであなたも暗殺者!!』
『さぁ、あなたも青春の殺人者になろう!』
手のひらサイズのものから大型まで選り取りである。
同僚も上司もぶっ殺してぇと思った事は無いが、よく考えて見れば『殺したかった』やつはそれなりにいる。
中高時代の同級生とか、おれを手酷くフッた女とか、ナメた評価をしてきた先生とか。
数える程度とは言え、あの頃は間違いなくぶっ殺してやりてぇと思っていたが、いまになってぶっ殺した所で何にもならないから、殺すなら彼らの子どもとか孫だろう。
いや、殺すよりは片輪にした方が……などと考えながらページを捲る指が止まった。
女だ。女たちが並べられている。
そこらの風俗情報誌より詳細に書き連ねられたそれらは、例によってビニール印刷の匂いがかつての春情を呼び起こす。
女が微笑んでいる。
貧乳から巨乳までは勿論、デブもブスもMもSも全て揃っている。
その先のページには同じように男たちが並べられていた。
それは女たちが注文するのだろう。
おれたちが得られなかったものだ。そして今後も得ることの出来ないであろうものだ。それがこのカタログに載っている。
上司たちの世代はこんな即物的なカタログじゃなかったらしい。下の世代ではどんなカタログになるんだろう。
おれは武器のページに戻り、リボルバー式の拳銃を注文票に書き込んでカタログを閉じた。
氷河期世代向けとは思えぬほどの、暖かく優しげなフォントが冷たく光った。




