理系作家(♀)、科学知識で異世界を快適リフォーム!~もふもふ神獣を餌付けしたら、いつの間にか大賢者として崇められていました~【先行クリスマスSS編】
聖夜? いいえ、女神降臨祭です ~各国の王子がプレゼントを持って押し寄せてきたのですが~
【第1章:聖夜? いいえ、渇望です】
大陸南部の交易都市アステルにも、本格的な冬が到来していた。
外は一面の銀世界。吐く息も凍る氷点下の気温だが、郊外にそびえる異様な巨城――『石鹸工場』の内部は、春のように暖かかった。
以前、極寒の獣人国を攻略した際に確立した『床暖房システム』がフル稼働しているからだ。
「……ふむ」
工場最上階の執務室。
この城の主であり、白衣を纏った工場長兼作家の結城 晶は、自作のカレンダーを見つめ、万年筆を回していた。
日付は、12月24日、クリスマスイブ。
この世界には存在しない概念だが、晶の前世――日本での記憶において、その日は特別な意味を持っていた。
「……腹が減ったな」
晶の脳裏に、強烈なフラッシュバックが起きる。
コンビニの店頭に並ぶ、脂ぎったフライドチキン。
真っ白なクリームと真っ赤なイチゴが鎮座する、ホールケーキ。
そして、街を彩る無駄に煌びやかなイルミネーション。
これまでの旅で、アキラは数々の「食」を科学の力で再現してきた。
ドワーフの国では「ステンレス鍋」と「製麺機」を。
エルフの森では「醤油」を。
港町では「カツオ出汁」を。
そして獣人の国では「白湯スープのもと」を。
だが、まだ足りない。冬には冬の、カロリーの暴力が必要だ。
「……チキンが食いたい。それも、ただの唐揚げじゃない。衣に11種類のスパイスが効いていて、噛むと圧力で閉じ込められた肉汁が爆発するような、『あの』おじさんの味だ」
一度思い出すと、渇望は止められなかった。
晶はガタッと椅子を蹴って立ち上がった。
「ポチ、起きろ。今日は祭りだ」
「むにゃ……? お祭り? お肉ある?」
執務室の隅に設置された『魔導コタツ』の中で丸くなっていた銀色の毛玉――神獣ポチが、顔だけ出して耳をピクリと動かす。
かつて森で出会ったこの駄犬も、今ではすっかりコタツの守護神だ。
「ああ。肉もケーキも、死ぬほど食わせてやる」
「わふーっ! アキラ大好きーっ!」
ポチが弾丸のように飛び出してくるのをかわしつつ、晶は白衣を翻して厨房へと向かった。
ないなら作る。それが理系作家の流儀だ。
◇
工場の厨房は、直ちに実験室へと変貌した。
「社長! 本気ですか!? 沸騰した油を密閉するなんて、爆弾を作る気ですか!?」
幹部のテオが、設計図を見て悲鳴を上げる。
彼は元・王宮魔導師だが、今ではすっかり晶の「科学実験」の助手だ。
「爆弾じゃない。『超高圧フライヤー』だ」
晶は、以前コンクリート圧送に使った『ミスリル銀のタンク』を指差した。
魔法金属ミスリルは、物理的な衝撃にも熱にも強い。
「いいかテオ。通常の揚げ物では、肉の水分が蒸発してパサつく。だが、密閉して加圧すれば、水の沸点が上がる。油温185度、圧力2気圧。この環境下なら、水分を肉の中に閉じ込めたまま、短時間で骨の髄まで熱を通せる」
結果、肉はホロホロに柔らかく、衣はカリッと仕上がる。
これぞ、フライドチキンの極意だ。
「理屈はわかりますが……! 失敗したら厨房ごと吹き飛びますよ!?」
「計算は完璧だ。それより、イチゴはどうなった?」
晶は魔導通信機を掴んだ。
相手は、北の樹海にいるエルフの第二王子、エルウィンだ。
『……こちらエルウィン。アキラ様、無茶を言わないでください。真冬にイチゴを実らせろなど、自然の摂理に反します』
「できるはずだ。あの時作った『LED農場』があるだろう。あそこの光源を赤色波長660nmに固定し、世界樹の魔力をフルチャージして照射しろ。光合成速度を限界突破させるんだ」
『植物にも休息が必要です! 過労死させるおつもりですか!』
「成功したら、純白の生クリームをたっぷり塗った『特大ケーキ』をホールでやる」
『…………やります。全精霊に号令をかけましょう!』
即答だった。
甘味の前には、種族の誇りなど無力だ。
「よし。これでメインディッシュは確保した」
晶が満足げに頷いていると、ドアの陰で会話を聞いていた受付嬢のフローラが、口元を押さえて震えていた。
彼女は晶を「神」として崇拝する、重度の妄想癖を持つ信者である。
(……アキラ様が、『12月25日』にこだわっておられる……)
フローラは、先ほど晶がカレンダーを見て呟いた独り言を聞き逃していなかった。
――『12月25日か……。私がこの何もない世界に放り出されて、初めてポチと出会った日だな。あれがなければ、今の私はない』
(なんてこと……! アキラ様が天界からこの地上に『受肉』され、最初の使徒と契約を交わした運命の日……!)
フローラの脳内で、都合の良い変換が加速する。
つまり、明日は単なる食事会ではない。
世界にとっての『女神降臨祭』なのだ。
「伝えないと……! 世界中の信徒に、この聖なる日を! でも、普通の手紙では間に合いませんわ……!」
アステルから各国の王都までは、早馬でも数日はかかる。明日の降臨祭に間に合わせるには、物理的な距離の壁が立ちはだかっていた。
だが、ここには「科学と魔法の融合」がある。
フローラは使命感に燃え、工場の裏手にある『物流管理室』へと走った。
そこには、黒い塗装が施された金属製の箱が、壁一面にずらりと並んでいた。
箱にはそれぞれ、『ドワーフ王国・直通』『エルフの森・直通』『港町・直通』『獣人国・直通』といったラベルが貼られている。
これぞ、アキラが新鮮な食材を調達するために開発・設置した『亜空間物流ポスト』だ。
空間魔法を付与したミスリルボックス同士を亜空間で直結し、距離ゼロで物品を転送するシステム。
本来は「朝獲れの魚」や「摘みたてのイチゴ」を送るためのものだが――。
「緊急事態です! 皆様、直ちに参集されたし!」
フローラは震える手で羊皮紙に『召集令状』を書き殴ると、それを各国のポストへ次々と放り込んだ。
シュン。シュン。
手紙は亜空間へと吸い込まれ、一瞬にして各国の王子の手元にある「受信ボックス」へと転送されていく。
それは本来、「納品書」や「請求書」が届くはずのルートだった。
しかし今日、そこから届いたのは、女神の生誕を祝うための「神の啓示」だったのだ。
「ふふふ……。これで準備は整いましたわ。明日は世界が揺れる日になります……!」
フローラはうっとりと胸の前で手を組んだ。
彼女が送った手紙が、翌日、文字通り世界中を大混乱に陥れることになるとは、アキラはまだ知る由もなかった。
【第2章:サンタクロース? いいえ、輸送部隊です】
クリスマスイブの夕暮れ。
アステル郊外の森が、突如として閃光に包まれた。
「うおっ!? なんだあれは!?」
「魔王城から怪光線が出ているぞ!?」
街の人々が空を見上げる。
光の発生源は、工場の前庭にある高さ30メートルの巨大な針葉樹だ。
「……明るすぎるな」
晶は、サングラスをかけないと直視できないほど輝くツリーを見上げて呟いた。
枝という枝に、以前開発した「蓄光塗料」が塗られ、さらにドワーフの国から取り寄せた『魔石式発光ダイオード』が無数に巻き付けられている。
「すみません師匠! 出力調整をミスりました! ドワーフの技術力をアピールしたくて、つい!」
通信機から、ドワーフの第一王子ガンドの謝罪が聞こえる。かつて「プレス機」と「製麺機」で技術革新を起こした機械オタクだ。
優しく瞬くイルミネーションのつもりが、森全体を焼き尽くすような「光の結界」になっていた。
「まあいい。防犯にはなるだろう」
晶は気を取り直し、整列した『黒薔薇騎士団』の精鋭たちに向き直った。
元・重戦士のボルスと、元・暗殺者のクロウ。
かつては荒くれ者だった彼らも、今では晶の忠実な従業員だ。
彼らの目の前には、晶が急いで縫い上げた「真っ赤な衣装」が置かれていた。
「今夜、お前たちには『サンタクロース』になってもらう」
「サンタ……? 新手の暗殺者のコードネームですか?」
クロウが怪訝な顔をする。
「似たようなものだ。……いいか、赤い服を着て、子供に気づかれないように寝室へ侵入し、枕元にブツを置いて離脱する。決して姿を見られてはならない」
晶の説明を聞いた瞬間、二人の目の色が変わった。
「なるほど……。赤い服は、返り血を目立たせないための隠密服……」
「気づかれずに侵入し、痕跡を残さず去る……。完全に『潜入工作任務』ですね」
(……まあ、当たらずとも遠からずか)
晶は訂正するのを諦めた。
「ボルス、お前は輸送車両だ。その怪力でソリを引き、屋根から屋根へと音速で駆け抜けろ」
「御意! この筋肉、空さえも翔けてみせましょう!」
「クロウ、お前は実行犯だ。煙突からの侵入ルートを確保しろ」
「フッ……。煤一つ落とさずに遂行してみせます」
◇
その夜、アステルの街では奇妙な目撃情報が相次いだ。
「ママ! 屋根の上を赤い巨人が飛んでたよ!」
「煙突から黒い影が入ってきて……枕元にお菓子を置いていったの!」
アキラ特製の「マヨネーズせんべい詰め合わせ」が、街中の子供たちに配られたのだ。
そして翌朝、アステルの街は『謎の赤き暗殺教団』と『配られたマヨネーズせんべい』の話題でもちきりになる。
一方、魔王城のポチの寝室。
スヤスヤと眠るポチの枕元に、巨大なネコのぬいぐるみが、音もなく置かれた。
任務完了。
サンタ部隊は、朝日に向かってサムズアップしながら撤収していった。
【第3章:サミット? いいえ、下僕です】
12月25日、当日。
『魔王城』の正門前は、かつてないカオスに包まれていた。
「開門! ドワーフ国第一王子、ガンド様のご到着だ!」
「エルフの国よりエルウィン王子、入られます!」
「マカバリ帝国皇子、カイザル様のお通りだ!」
亜空間ポスト経由の召集に応じ、各国の次期国王たちが、国旗を掲げた豪華な馬車で次々と乗り付けてきたのだ。
本編でアキラに胃袋とハートを掴まれた五人の王子たち。
狭い林道は馬車で埋まり、さながら「五大国首脳会談」の様相を呈している。
中庭に降り立った王子たちは、互いに牽制し合うように火花を散らしていた。
彼らの手には、女神への「供物」が握られている。
「フン、遅いな貴様ら。……師匠へのプレゼントなら、俺が一番だ」
ドワーフのガンドが、背負っていた包みを開いた。
中から現れたのは、銀色に輝く無骨な調理器具。
「見ろ! 『オリハルコン製・自動回転泡立て器』だ! 魔力を込めれば岩でも砕ける! 師匠の腱鞘炎を気遣った、至高の逸品よ!」
「野暮だな、ガンド」
エルフのエルウィンが、優雅に小瓶を取り出す。
「アキラ様に必要なのは癒やしだ。これは『世界樹の雫』。一滴で寿命が十年延びる美容液だ。これでアキラ様の美貌は永遠となる」
「軟弱な!」
獣人のヴォルフが吠えた。彼はなぜか雪山でも上半身裸で、巨大な白い毛皮を引きずっている。
かつてアキラとの決闘で物理法則(摩擦ゼロ)に敗北し、弟子入りした脳筋王子だ。
「姉御にはこれだ! 俺が北の雪山で、伝説の『冬将軍』を素手で絞め殺して剥いできた毛皮だ! 」
「ノンノン。君たちは美しくないね」
ルミナ公国のルシアン王子が、薔薇の花束と共にキザに登場する。
「僕は宮廷画家を連れてきたよ。この聖なる夜のアキラを、キャンバスに永遠に閉じ込めるのさ。タイトルは『聖夜の女神』……完璧だ」
「おいおい、ケチくせぇな」
最後に現れたのは、マカバリ帝国のカイザル皇子だ。
彼は懐から一枚の羊皮紙を取り出し、ヒラヒラと振った。
「姐さんへのプレゼントなら、これくらい用意しろよ。……さっき、『隣の小国』を一つ制圧してきた。領土の権利書だ。」
場が凍りついた。
プレゼントのスケールがインフレしすぎている。国家間のバランスが崩壊しかけた、その時。
「……うるさい」
工場の扉が開き、主役のアキラが現れた。
だが、その姿は女神のドレスではない。
小麦粉と油にまみれ、鬼の形相をしたエプロン姿だった。
「お前ら、暇なのか? 暇なら手伝え」
「えっ? 師匠、プレゼントは……」
「領土とか毛皮とか、置き場所がないから持って帰れ。……それより手が足りない。全員、厨房へ来い」
アキラは無慈悲に指差した。
「ガンド、お前はそのオリハルコンの泡立て器で生クリームを泡立てろ。エルウィン、イチゴのヘタを取れ。ヴォルフ、鶏肉に粉をまぶせ。カイザル、皿洗いだ」
「イ、イチゴのヘタ取りだと……?」
「俺の筋肉を……粉付けに……?」
王子たちは呆然としたが、アキラの「やらないなら帰れ」という視線に屈し、全員が大人しくエプロンを装着した。
「……ククッ。悪くねぇ。姐さんの命令なら従うまでだ」
カイザルが意外にもノリノリでスポンジを洗い始めたことで、史上最も豪華な厨房スタッフが結成された。
【第4章:聖なる夜? いいえ、暴力です】
数時間後。
工場の食堂は、祝祭の会場へと変貌していた。
中央のテーブルには、『超高圧フライヤー製・黄金フライドチキン』の山がいくつも並んでいる。
そして、その横には、直径1メートルはあるであろう『特大ケーキ』が鎮座している。
「……まあ、色々あったが」
アキラが、港町から取り寄せた、シャンパン風の炭酸ブドウジュースのグラスを掲げた。
「今日はカロリーを気にせず、死ぬほど食っていい日だ。……乾杯」
「「「女神降臨に、乾杯!!」」」
王子たち、黒薔薇騎士団、そしてシャルロットやフローラが一斉にグラスを合わせる。
宴が始まった。
ガリッ! ……ジュワァァァ……!
ヴォルフがチキンにかぶりつき、咆哮した。
「なんだこの肉汁は!? 旨味が骨の髄まで染み込んでやがる! しかもこのスパイス……中毒性があるぞ!」
「あぁ……! 衣はサクサクなのに、身はとろけるようだ……!」
ガンドも唸る。
圧力揚げの魔術。あのおじさんの偉大さが、異世界の王子たちを陥落させていく。
続いて、ケーキ。
「んッ……! 口に入れた瞬間、雪のように溶けた!?」
ルシアンが目を白黒させる。
ガンド作の泡立て器で極限まで乳化された生クリームは、空気のように軽い。
そこに、エルウィンの魔力で完熟した真っ赤なイチゴの酸味が加わる。
「甘い! 溶ける! これは雪だ! 甘い雪が口の中で降っている!」
全員が理性を失い、カロリーの海に溺れていく。
その時。
「メリー・クリスマスなのだー!!」
食堂の扉が開き、「もうひとりの」主役が登場した。
アキラが作ったミニスカサンタ服(猫耳フード付き)を着たポチだ。
紅白のコントラスト。揺れる尻尾。絶対領域。
「ぐふっ……!?」
そのあまりの破壊力に、会場の男性陣が全員鼻血を出してのけぞった。
強面のカイザルでさえ、「……反則だろ」と顔を覆っている。
「わーい! チキンなのだ! ケーキなのだ! 今日はボクが主役なのだー!」
ポチは、テーブルに山のように積まれたフライドチキンを両手に持ち、満面の笑みでかぶりついた。
その口元が油で汚れるのを、アキラがナプキンで優しく拭ってやる。
「……たくさん食えよ。今日はお前のための日でもあるんだからな」
「うん! アキラも食べるのだ! あーん!」
ポチが差し出した肉を、アキラが照れくさそうに齧る。
その光景は、誰がどう見ても幸せな家族のそれだった。
【第5章:奇跡? いいえ、ただの雪です】
宴もたけなわとなった頃。
アキラは喧騒を離れ、一人、工場の屋上で雪空を見上げていた。
冷たい風が、酔った頭を冷やしてくれる。
「アキラ様、こちらにおられましたか」
振り返ると、フローラとシャルロットが立っていた。
フローラが、真剣な瞳で問いかける。
「アキラ様……。本当に、今日はアキラ様が天から降りてこられた日なのですか?」
アキラは少し遠い目をした。
嘘をつくのは簡単だ。だが、今のこの空気の中で、嘘をつくのは無粋な気がした。
「……ああ。あれは、異世界に放り出されて三日目のことだ」
アキラはポツリと、独り言のように語り始めた。
初日から、水一滴すら飲めていなかった。
右も左もわからない深い森。聞こえるのは獣の遠吠えと、風の音だけ。
いつどこから襲われるか分からない恐怖で、眠ることさえ許されず、精神はやすりのように摩耗しきっていた。
極限の空腹と疲労。そして、容赦なく体温を奪う猛吹雪。
「寒くて、ひもじくて……。感覚のなくなった足がもつれて、私は雪の中に突っ伏した」
起き上がろうとしても、指一本動かない。
視界が白く濁り、意識が遠のいていく。
――ああ、ここで死ぬのか。
そう観念し、瞼を閉じかけた、その時だ。
「……雪を踏む音が聞こえた。見上げると、一匹の狼が私を見下ろしていた」
それが、ポチだった。
薄汚れた、銀色の毛玉。
あいつもまた、あばらが浮くほど痩せこけて、厳しい冬を独りで生き延びていたのだろう。
警戒して震える身体で、それでもポチは、私の鼻先に〝なにか〟を転がして寄越した。
コロン、と。
雪の上に転がったのは、茶色く変色し、半分腐りかけた凍ったリンゴだった。
「自分も飢えているはずなのに、あいつは……『食うか?』と言わんばかりに、それを私に譲ってくれたんだ」
「それが、私がこの世界で最初に食った飯だ。……涙が出るほど美味かった」
アキラはふっと笑った。
「だから、今日は私がポチに、死ぬほど美味いものを腹一杯食わせてやる日なんだよ。……女神降臨とか、そんな大層なもんじゃない」
恩返し。ただそれだけの、個人的な記念日。
それを聞いたフローラとシャルロットの目に、涙が浮かぶ。
「……なんて、なんてお優しい……」
そして、その話を盗み聞きしていた者たちがいた。
屋上の陰に隠れていた、テオ、ガンド、エルウィンたちだ。
「社長……! なんてイイ話なんだ!」
「泣けるぜ……。師匠の原点はそこにあったのか……」
彼らが男泣きする。
そして、誰からともなく言った。
「最高の演出をしましょう! この夜を、二人のための奇跡に変えるんです!」
◇
突然、夜空が輝いた。
「……ん?」
アキラが見上げると、暗い雪雲が裂け、オーロラのような光のカーテンが現れた。
ガンドの光魔法装置と、テオの風魔法による大気の屈折操作だ。
さらに、エルウィンが精霊魔法で大気中の水分を凍らせる。
キラキラキラ……。
降り注いできたのは、ただの雪ではない。
六角形の結晶が光を反射して七色に輝く、「ダイヤモンドダスト」だった。
「わぁ……! キラキラなのだ!」
下からポチが駆け上がってきた。
光の雪の中、ポチがアキラに抱きつく。
「アキラ! 雪が光ってるのだ! 魔法なのだ!」
「……まったく。やりすぎだ、あいつら」
アキラは苦笑したが、その表情は柔らかかった。
光の中で微笑むアキラの姿は、フローラたちの目には、まさしく「慈愛に満ちた女神」に映っていた。
◇
翌朝。
アキラが目を覚ますと、ベッドの周りは王子たちからの権利書やら巨大なキャンバスやらのプレゼントで埋め尽くされていた。
いろんな意味で、重い。
「……邪魔だな、これ」
アキラはため息をついて、その山を崩した。
すると、その中から一枚の、汚い字で書かれた紙が出てきた。
クレヨンみたいなもので描かれた、アキラとポチの似顔絵。そして。
『アキラ、いつもおいしいごはんありがとう。だいすき。ポチより』
アキラは、しばらくその紙を見つめていた。
やがて、少し顔を赤くして、その手紙を懐の奥――「名誉公爵の印籠」が入っている一番大事なポケットに、そっとしまった。
窓の外は快晴。
雪が朝日に輝いている。
「……まあ、悪くないクリスマスだったな」
アキラは白衣を羽織り、厨房へと向かった。
余ったチキンで、最高のサンドイッチを作るために。
理系作家と神獣の、騒がしくも温かいリフォーム生活は、これからもつづく。
その全貌は――本編にて。
(クリスマスSS・完)
今回のお話は、第二章終了時点(大体60〜70話終了時点)の舞台設定で書いています。
来年公開予定の本編、もし気になった方は⭐︎2とかでもいいのでリアクションください。
あなたの応援が、続きを書き続けるエネルギーになります。




