賞金首と変わり始めた肉体
野盗討伐から一夜が明けた。
身体の痛みは一切ない。むしろ昨日より軽い。
俺は寝床から起き上がり、自分の腕をまじまじと見つめた。
「……太くなってるな」
元々、こっちに来てから多少鍛えていたとはいえ、俺は80キロ前後の体格だった。
しかし今は、肩周りも胸板も厚みが増し、二回りはデカく見える。
脂肪ではない。完全に“肉”だ。
重さを計る道具は無いが、鏡代わりの磨かれた鍋に映る輪郭は、どう見ても十キロ以上増していた。
腕の体毛は濃くなり、脚も同様。
肌には異様なハリがあり、触れば弾力が返ってくる。
昨日自分に何十発も叩き込んだヒール――いや、あれはもう治癒ではなく、肉体の構造そのものを“作り替えた”のだろう。
そこへ、扉が勢いよく開いた。
「おはよう! 生きてて良かったよ!」
シーラが駆け込んできて、胸に飛びついてきた。
俺の身体の変化にも気づいたらしい。少しだけ目を丸くしたが、それよりも生存の方が重要だったようだ。
「みんな、あなたを英雄だと思ってる。村を救ったんだよ」
「英雄……ね。やりすぎただけだ」
「やりすぎでも、結果が出てるならいいじゃないか」
その日の夕方には、村人総出の宴が開かれた。
どの家からも酒と料理が持ち寄られ、俺のテーブルには皿が積み上がった。
「旦那! あんたがいなきゃこの村は終わってた!」
「どんな鍛冶屋でもあんな戦い方は無理だ。治癒術師なのに、どういう身体してんだよ!」
「村の守り神だな!」
歓声に、俺はただ曖昧に笑うしかなかった。
村の未来が守れたことは良かった。
だが、心のどこかで“俺自身の変化”だけが引っかかっていた。
肌の感覚が異常に鋭い。
音がよく聞こえる。
匂いの濃淡が分かる。
そして――空腹が底なしになっていた。
宴の間、俺は村人の二倍、三倍の量を食い続けたが、それでも腹は軽く満たされる程度だった。
まるで、体内のどこかが新しい身体を作るために燃料を求めているようだった。
宴が終わる頃、シーラが俺の隣に座った。
「あなた、明日……野盗の首を都市へ持っていくんだろ?」
「ああ。懸賞金が出てるらしい。村に金が落ちるし、俺も多少はもらえるだろ」
「気をつけて。奴らの中には、別の集団に属してた者もいるかもしれない。危ない橋を渡るんだから」
「心配すんな。昨日16人倒したんだ。しばらくは俺に手を出す馬鹿はいないだろ」
……そんな自信とは裏腹に、自分が“人間のままでいられるのかどうか”の方がよほど心配だった。
翌朝、俺は野盗の首を袋に詰め、街道を歩き始めた。
首の数は正確に16。腐臭が出る前に処理し、塩を馴染ませておいた。
街道沿いの都市ブライヒは村から半日の距離にある。
歩くたびに筋肉が重量を主張する。
脚が勝手に前へ進む。
地面を蹴ると、以前よりも簡単に身体が浮く。
――この身体、本当に俺のものか?
思考を巡らせているうちに、いつの間にか都市の門前に到着していた。
門番が俺の荷物を見て息を呑んだ。
「そ、それは……まさか懸賞首の……?」
「ああ。昨日まとめて狩った」
袋を開くと、門番は顔色を変えた。
「十六人!? 一人でか!? 治癒術師だろ、お前!」
「治癒術師でも殺すときは殺す。通してくれ」
門番は震える手で通行証を切り、俺は都市の奥へと進んだ。
そのまま衛兵隊詰所に首を引き渡し、対価として銀貨の袋を二つ受け取った。
俺の稼ぎとしては破格だ。村にも半分持ち帰るつもりだ。
「すげぇ……あんた、どこの傭兵団だ?」
「治癒院の支店長だ」
「いや絶対嘘だろ……」
衛兵たちは怪訝な顔をしたが、それ以上踏み込んではこなかった。
詰所を出た俺は、身体の奥底を蠢く“何か”をまた一つ感じた。
昨日よりもまた一段、筋肉が締まっている気がする。
腕の毛も濃さを増している。
喉の奥から、野生のような呼気が漏れた。
――ヒールの副作用。
それとも、進化。
この先、俺はどこまで変わるのか。
自分でも予想がつかない。




