野盗襲来と代償
村に滞在して二ヶ月が経った頃だった。
昼下がりの穏やかな空気を切り裂くように、突如として村中に鐘の音が鳴り響いた。
一度ではない。二度でもない。
途切れることなく、狂ったように――まるで誰かが絶望を叩きつけるように、何度も、何度も。
「……野盗だ!」
外に飛び出すと、村の中心へ向かう村人たちの慌てた声が耳に入った。
俺は反射的に片手剣を掴むと、走り出していた。
中心の広場には、粗末な革鎧をまとった十数名の男たちが集まっており、それぞれが鎌や斧、刃渡りの短い剣を構え、村人たちを威圧していた。
この村にはまともな兵士も騎士もいない。自警団の農民たちが農具を武器にして応戦していたが、明らかに分が悪い。
「どけ! お前らは後ろに下がれ!」
俺は自警団の前に躍り出て、剣を抜いた。
相手は俺を見てニヤついた。目が死んでいる。金と暴力に飢えた典型的な野盗だ。
「面白ぇ。ヒヨッ子の治癒術師が何する気だ?」
「死ぬ気で来いよ。手加減はしてやらん」
言い終えるより早く、俺は地面を蹴った。
かつての剣術を習っていた時のクセが染みついている。相手の間合いに一気に踏み込み、顎を跳ね上げてから剣を横薙ぎに――一人、二人と倒れていく。
俺の身体能力は、この世界に来てから明らかに底上げされていた。
しかし、数の暴力は容赦がない。
背後から槍の石突きが脇腹に叩き込まれ、続けざまに刃物が肩口から入り込んだ。
「……ッ!」
肺に冷たい空気が流れ込む。血の匂い。
だがここからが俺の“本領”だった。
「ヒール!」
自分の身体に白い光を叩き込む。
肉が繋がる感覚が一瞬で脳を駆け抜ける。痛みは消え、呼吸が戻る。
「はぁ? こいつ、化け物かよ!」
「死ねよ、クソ共」
ヒールで傷を治し、前に出る。
刺されても斬られても、すぐに回復。
すり減る痛覚と、逆に増していく獣じみた闘志。
俺は何度倒されても立ち上がり、血塗れのまま野盗の隊列に突っ込んでいく。
その異様な光景に、逆に野盗の方が怯え始めた。
「やべぇ、逃げ……」
「誰も逃がさん」
急所を狙い、ひたすらに切り伏せる。
村人たちは一歩も近づけずただ見ていた。
俺は倒れた野盗の胸倉を掴み、自分の肩の傷に触れ、またヒールを掛けて立ち上がる。
――気付けば、地面には十六人の死体が転がっていた。
剣を手放し、浅い呼吸を何度か繰り返す。
そして、俺はふと自分の身体の“違和感”に気付いた。
肌が妙に潤っている。
筋肉の張りが異常なほど増している。
そして――腕や脚の体毛が、明らかに濃く、太くなっていた。
「……なんだ、これ」
さっき何度も自分にヒールを注ぎ込んだ。
限界を越えて、魔力を身体の奥底にまで流し込み続けた。
その結果、俺の身体は再生ではなく強化の方向に傾いたのではないか。
俺は村人たちの視線を背に受けながら、自分の腕を見つめた。
――これは治癒の反動なのか、それとも進化なのか。
村を救ったという安堵よりも、得体の知れない変化への興奮と不安が、俺の胸の中で絡み合っていた。




