2-5.手紙の想い人 〜回想〜
ディカエの数に関係なく、彼らと対峙するということはかなりの危険が伴う。それをいくら慣れてるからとルタにだけやらせたことにセリーナは憤慨した。
『い、いえ、あの、これは想定外でして。ここまでのことは初めてなんです、我が契約者もそんなことになるとは……』
「いいえ! 想定外だとしてもそれは甘く考えていたからだわ!
そんな危険なことを一人でさせようとすることがまず間違ってるのよ。ボランティアでやってるのかお偉いさんの命令なのか知らないけど、精霊にだけやらせて自分は安全なところで待ってるだけだなんて、責任感ってものがないのかしら?!
どんなにいいご身分なのかしらね!!」
『(いや、あいつはもうそれなりのご身分です…)』
『まあまあ、落ち着け。結果こやつも無事だったんだ。よその事に無闇に首を突っ込むもんじゃないぞ。』
「それでも、私たちが来なきゃルタは死んでたかもしれないのよ?!
私ならそんな事で親友を失うなんて耐えられないわ!」
『『……。』』
レンもルタも、綺麗な顔の眉間に皺がよるほど自分ら精霊のために怒ってくれるセリーナに温かい気持ちになった。
ルタも、自分の契約者は悪者ではないし、セリーナのように優しい奴だと思っているが、何でもない人間にここまで言ってもらえるのはなかなかない事だった。
『……わざわざ私のためにそんなに怒ってくださってありがとうございます。
でも、私の契約者も良い奴なんですよ。私がこうなったと知ったら心から心配してくれるでしょう。このような危険なところに逆にあいつが一緒じゃなくてよかったと思うくらいです。』
『我ら精霊はな、自分が守護する人間に危険が及ぶのを一番よしとしないんだ。
私がこやつの立場でも、同じことを思うだろう。』
「だとしても、それは私たち人間にとっても同じことだわ。
…………そうだ、ルタ、手紙を書くからあなたの契約者に届けてもらえる?」
『………はい?』
「大丈夫、時間はかからないわ、すぐ書くから!」
セリーナは魔法で必要なのを出現させると、スラスラと空中で手紙を書いていく。
ルタはというと、状況に全くついていけなかった。
『…諦めろ、こうなったらあいつはもう折れんぞ。』
『……精霊お、』
『レンだ。』
『…レン様、どうして隠してらっしゃるのです?』
『聞かれてないからな。』
『普通そんなこと聞きませんよ……』
『……あやつは、穏やかな生活を望んでいるんだ。それを叶えてやりたいだけだ。
その希望に私のことは関係ないだろ?』
『まあ……そうですね。』
『精霊にも、勿論人間に対しても情にあついんだ。まあ、あの手紙をそなたの契約者に渡すかは好きにするといい。
ただ、何があっても、あやつが精霊と契約しているという事実は言うなよ。』
『わかりました。命の御恩もありますし、そうでなくとも、そういった意向の方は時々いらっしゃいますしね。
たしか、前精霊王様のご契約者の方もそうでしたね。』
『ああ……そうだったな。』
レンはある人間を思い返していた。セリーナとも馴染みのあるあの人間は、セリーナを除いてレンが心から信頼できる数少ない人間のうちの一人であった。
「書けたわ! ルタ、これをあなたの契約者さんに渡して。
私が誰かは書いてないから、聞かれても秘密にしてね!」
『勿論です。せいれっ……レン様のご要望でもありますからね。約束は必ず守ります!
……因みに、お手紙には何と書かれたのか聞いても?』
「ん? えっとね、……………………あなたの精霊さんは怪我をしてるから養生させるようにって!」
『すごい間があったんですけど大丈夫なんですかね……』
「平気平気! ルタも無理しちゃ駄目よ。きちんと体を治してね。」
『本当にありがとうございました。このご恩は忘れません。』
『貸しだな。』
『怖いこと言わないでくださいよ!!!!!』
ルタはセリーナから手紙を受け取ると、恭しく頭を下げ、そのままパっと姿を消した。
『……で、本当は何て書いたんだ?』
「ん? あんた自分の精霊をどれだけ酷使してるのこの恥知らず! みたいなことをオブラートに包んで書いたわよ。」
『そんなことだろうと思った……』
「一体どこのどいつかしら。きっと高位貴族の方なんでしょうけど許せないわね!!」
フン!と鼻息が聞こえてきそうなほどに怒りつつも、セリーナとレンは再び元の道に戻っていった。




