1-3.肝胆相照らす 〜回想〜
競技大会の決勝後、学院内の医務室に運ばれたルークとセリーナだが、重症のあまりすぐに王立病院に搬送されることとなった。ガルクス公爵家からの口添えもあり、二人とも特別室で最高峰の治療を受けたことで後遺症や傷跡も残らずに完治できるだろうと見込まれ、付き添った教員たちにも安堵が広がった。
ルークは翌日には目を覚まし、一週間程度で退院が可能であったが、セリーナは魔力量が枯渇しかけたことによりなかなか目を覚まさなかった。ルークをはじめ、ルイーザやガルクス公爵令嬢たちが常に彼女を見守る中、セリーナが目を覚ましたのは大会から三日後のことだった。
陽の暖かさを感じながら目を開けたセリーナは、自分の部屋とも違う真っ白なこの部屋が病院であることを理解するまでしばらくかかった。ボーッと天井を見つめていると、猫の姿をした精霊が視界にニョロっと入り込んできた。
『ようやく起きたか。』
「…………レン。」
『……客人だ。』
レンの視線を追った先には、車椅子に乗ったルークがセリーナを泣きそうな顔で見つめていた。セリーナと目が合うとそのまま立ち上がりセリーナの元に近づいてきた。
「セリーナ! よかった、やっと目が覚めた! 僕のせいで……ごめん、本当にごめん!」
「……ルーク兄様、……怪我は?大丈夫?」
「……君が治癒魔法をかけてくれたのが大きかったらしい。僕は何ともないし一昨日には目が覚めていたんだ。問題は君だよ、重症で大変だったんだ。」
「もう大会からそんなに経ったの?」
「三日だよ。さっきまでルイーザもいたんだけど、学院があるからって登校していった。」
セリーナは起き上がろうとしたが、力を入れようとした右手に激痛が走った。
「……っ…!」
「動いちゃ駄目だ、君の右手は治癒魔法だけではどうにもならないくらい重症らしい。」
「……そういえばミファ様の魔法が直撃したのだったわ。ルーク兄様、さっき車椅子に乗ってたわよね? 立ち上がって平気なの?」
「ああ、外傷は酷くないんだが、内臓の損傷があって絶対安静だと言われたんだ。それでも君が治癒魔法をかけていてくれたおかげで大したことなかったし、君を見守らせてほしいとお願いしたら渋々了承されてね。その代わり車椅子使えって。」
「ルーク兄様が大したことなくてよかったわ……あの後、大丈夫だった?」
「……何とかね、君の精霊のおかげだ。」
「……ん?」
「ごめん、気付いたんだ。君がどれだけ苦労してきたかも、わかっていたようで全くわかっていなかった。幼馴染として不甲斐ない限りだよ……僕が精霊と契約していたこともずっと気付いていたんだろ?」
「ちょ、ちょっと待ってルーク兄様、私は……」
『セリーナ、大丈夫だ。』
「レン……」
「隠していたことはわかってる、だから誰にも言わないと誓うから安心してくれ。目覚めたばかりで悪いけど、大事なことだからこれまでのことについて今から話すよ。」
そうしてルークは少し体を起こしたセリーナにこれまでの経緯を話した。クーデン先生から助言を受けていたこと、競技場でセリーナが意識を失った後、少し目が覚めた時にクーデン先生と話したことで全てを悟ったこと。そして、セリーナが目覚めなかったこの三日間でレンと仲を深めたことまでかいつまんで説明した。
「……クーデン先生がそんなことを……。」
「もっとあの言葉を深く考えるべきだった。特訓をしていた時だって、気付けたかもしれない。そうしたら、あの時君を信じて僕が君に防御結界を張っていれば、こんなことにならなかったかもしれな……」
「ルーク兄様。起きてしまったことを考えても仕方ないわ。秘密にしていたのは私の選択だし、あの状況下ならガルクス公爵令嬢を助けようとするのが当たり前よ。兄様は間違っていない。」
「……いや、僕が君の話をもっとちゃんと……」
「はあ、兄様。昔の悪い癖が出ているわ。ルイーザやユグネル子爵家の叔父様たちにも話していないのよ?
わかりっこないわよ。私がそうするって決めて動いていたんだもの。
寧ろ、この状況で私の意向を汲んでくれてありがとう、他の人に言わないでくれたのね。」
「……君はとにかく、平穏に、無事に学院生活を送りたいんだろ? それくらいは守ってやりたいよ。」
ルークはセリーナの頭にポンと手を乗せた。セリーナは静かに微笑んだが、レンはルークの手をバシッと叩いた。
『私の契約者がこんなことになったんだ、精霊は人間界には干渉しすぎないことになっているから我慢しているが、あり得ないことだぞ。さっさと落とし前つけるようにせっついてこい。』
「僕だってそうしたいのは山々だけど、証拠がないって……」
『人間の王は何やってるんだ!!』
「レン、落ち着いて……」
『落ち着いてだ? セリーナ、お前自分がどれだけ重症だったかわかってないな?
私がかけていた守護があってそれだ、あの場で荒れ狂わなかっただけマシだ。』
「ディカエを助けてくれたのはレンでしょう? ありがとう。貴方が来てくれた気配がしたから、私はルーク兄様の所に行けたのよ。」
『……私は、そなたが一番大事だ。』
「……そうね、私も貴方が大事だわ。心配かけてごめんね。」
そうしてセリーナはレンを左手で静かに抱き締めた。久しぶりに感じる契約者の温もりに、レンも静かに目を閉じて受け入れた。
その様子を黙って見守っていたルークの元に、契約精霊であるジークが現れた。




