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初恋相手との文通は清らかに紡がれる  作者: 香雪 莉子
仮面舞踏会編

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2-3.手紙の想い人 ~回想~



仮面舞踏会当日。

ほとんどの生徒が屋敷で舞踏会に向けて準備をしているであろう時間に、セリーナは学院の裏側にある森へやってきていた。

敷地外だが学院が管理しており、授業でも度々使われる場所である。ほぼ安全だといえるが、時々野生動物が現れるため、暗黙の了解で教師が帯同しなければならないことになっている。

つまり、立ち入り禁止である。


乗馬ができないことに我慢の限界を迎えたセリーナは、自分で薬を作るためにこの森へ材料を採取しに訪れた。

既に授業でも何度か来たことがあるため、目的の材料がどの辺りに派生しているかも把握済みであった。

レンも本来の大きさでセリーナの横を歩き、セリーナも怪我を悪化させないように注意しながら歩を進めた。目的地に着く直前、急にレンが殺気立った。



『……セリーナ、待て。』


「どうしたの、レン? そんな怖い顔して」


『……ディカエの気配だ。近いし、数も多い。ここから離れたほうがいい。』


「!!!」



ディカエ、堕落した精霊の呼び名である。人間界ではあまり知られておらず、おとぎ話のような感覚で語り継がれてきたが確かに存在するものだ。

守護している人間が、悪に手を染めると守護精霊も同じく清い精霊としての力を失う。人間への守護もできず、自我をなくし、あてもなく彷徨う存在になる。

本来、精霊は守護している人間が天に召されると、精霊界に戻りその死を悼むという。ただ堕落した精霊は、守護していた人間の生死に関わらず、自分の意思で精霊界に戻ることもかなわなくなってしまう。

そして人間界にいる精霊や人間を含めた生物に対して危害を加えるようになってしまう。厄介なことに、堕落した精霊も守護精霊を契約をした者にしか姿が見えない。契約していない人間が彼らを避けることは困難に等しいが、おとぎ話ではその方法まできちんと伝えられている。


” 守護精霊が何らかの形で危険を教えてくれる。いつもと違うこと、例えば「いつもの道が水浸しで、通れないこともないけど歩きにくい」、こういう場合は回り道をするべきだ。

あるいは、「少しでも早く帰りたくて、宿に泊まらず夜通し移動しようとしたが、馬が頑なにその場から動こうとしない」、こういう場合も、慌てずにその場に留まり宿で一休みしてから向かうべきだ。

こういった、気にしなければ何とも思わないような些細な出来事で、守護精霊たちは私たちを守ろうとしてくれている。我々はそのサインに気付かなければならない。 ”


子供も読むとあって、おとぎ話の中では、危険とは思えない例えで書かれていることもあって、これが堕落した精霊を含めた危険な出来事全般を回避するためのことだと思われていない節がある。それは、精霊と契約している人間が少ないことにも起因しているが、精霊を視認できずとも、守護精霊は自分の守護している人間の危険を回避しようと動くのである。

つまり、精霊であれば堕落した精霊を見ることができるし、感知することもできるので、契約していない人間に対しては、守護精霊はこういった形で危険を伝えようとするのである。



「レン、材料を取るのも難しい?」


『……まあ、私がいるから問題ない。ただ危険だとわかっていてここに留めておくのは守護者として容認できない。今はすぐそこで取れる必要な分だけにしておけ。』


「わかった、急ぐね。」



ディカエについて正しく理解しているセリーナは、反論することもなく急いでもう少し先の材料の元へ向かった。周りを警戒し続けていたレンはあることに気付きため息をついた。



「レン、どうかした?」


『…いや、なんでもない。もう終わったか?』


「隠しても無駄よ。何かあるんでしょう?」


『……はあ、我ら精霊であればディカエたちを元に戻す力があることは知っているな?』


「ええ、先生からもレンからもそう教えてもらったわ。でも限界があるのよね?」


『そうだ。精霊自身の能力などだな。』


「……それが、どうかしたの?」


『まあ、つまり……その、あれだ。大勢のディカエを前にそれを一人でやっている同族がいるんだ。すぐそこに。』


「え!? 複数相手にってこと?

どう考えても危険だわ、助けにいかないと!」


『馬鹿言うな、そなたまで危険じゃないか。そんな所に私は連れて行かないぞ。』


「レンが行かないなら私単身でも行くわよ。精霊もディカエも私は見えるし、戻してあげることはできなくても攻撃を防ぐ方法は先生から教わっているもの。

心配なら、レンが一緒についてきて守ってくれればいいのよ。」


『…はあ、言わなければよかった。離れるなよ。』



二人は静かに気配のする場所へ向かった。

少し歩くと、明らかに空気が違う場所にたどり着いた。そこには、ざっと二十体以上の黒い靄ようなもので包まれた様々なディカエがおり、その中心に今にも倒れそうな傷だらけの犬の精霊がいた。



「……! レン!」


『はあ、仕方ないな。』



セリーナは自分の周りに魔法で結界を展開し、自分の足の痛みなど忘れてそのまま中心にいる犬の元へ走り出した。

今にも犬に向かって攻撃を加えようとしているディカエに向かってレンは咆哮した。次の瞬間、ディカエの動きが一斉にピタリと止まった。その間にセリーナは意識が朦朧としている犬の精霊を抱きしめた。



『我が名はレン。汝らに許しを与える。』



レンが呟いた瞬間、ディカエたちは一斉に光に包まれた。

犬の精霊を抱きかかえながらも、セリーナは眩しさのあまり目をつぶった。


しばらくして、先ほどとは違う気配を感じたセリーナは目を開けた。

そこには、淡い光に包まれた多くの精霊たちがレンとセリーナの周りを囲んで頭をたれていた。



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