7-4.終幕
「只今より、魔法競技大会の表彰式を行う。」
決勝戦の激闘からしばらくして、学院の大ホールで競技大会の表彰式が行われた。
従来であればそのまま競技場での表彰が行われるが、決勝戦にてディカエの襲撃という前代未聞の事件が起きたため、その円滑な調査と安全確保のために急遽大ホールへの移動が決定した。
ウィリアムやガルクス公爵令嬢は表彰式の延期を提案したが、それは叶わなかった。エオルや騎士団長、学院長が「現時点でディカエについて公表ができないのだから、疑念を残さないためにも従来通り行う方がいい」と判断したからである。
「優勝者、前へ。」
学院長の呼びかけで、ウィリアムとガルクス公爵令嬢が前に進み出た。表情を取り繕ってはいるが、事情を知っている人間からすれば三年連続優勝したペアとは思えないほどに暗い表情をしていた。
そんな二人の表情に気付きながらも学院長は平然と式を進めるしかなかった。
「三年連続優勝という学院史上初の偉業達成おめでとう。今後の益々の成長を期待しています。」
「「……ありがとうございます。」」
大ホールは温かい拍手で包まれた。そんな状況にも二人は罪悪感に押し潰されそうになる。
「……本来であれば、ここで準優勝者の表彰となりますが、その二人は決勝戦での怪我の影響で出席が難しいと判断されました。」
観客席で見ていた保護者や生徒など、試合後の二人の様子を見て心配そうにしていた者たちの表情が曇る。今までもあそこまでの重症者は出ていなかったため、尚更である。
「二人とも命に別状はありません。しばらく安静が必要とのことなので、二人の表彰は別日に設けることといたします。
正々堂々と戦った生徒たちに、今一度拍手をお送りください。」
再度拍手を送られ、ウィリアムとガルクス公爵令嬢は一礼をする。発言が終わって壇上から降りてきた学院長が二人の前に立つと、周りに聞こえないよう静かな声で話しかける。
「……複雑な気持ちはあるだろう。だが、君たちの勝ちは紛れもない事実だ。君たちも、怪我をした彼らも正々堂々と戦った。結果に罪悪感を抱く必要はない。きちんと誇りなさい。」
「……でも先生、彼らは……」
「君を守ろうとした彼らを侮辱しかねん態度だぞ。一度目を覚ましたファベルク伯爵令息の第一声は、決勝戦の結果すら聞かずに君とペア相手の安否だったそうだ。」
「……。」
「気持ちはわかる。しかし命に別状はないんだ、きちんとこの結果を誇りなさい、君たちが成したことはすごいことなんだ。誰でも経験できることじゃないぞ。」
ガルクス公爵令嬢は目に涙を浮かべて頷いた。その横でウィリアムも令嬢の肩に手を置いて慰めながら、自分にも言い聞かせるかのように静かに頷いていた。
「……ゴルドー伯爵令嬢だが、彼女も決勝戦の結果など全く気にしていなかったそうだ。試合が終わった直後は彼女も意識があったから、ひたすらファベルク伯爵令息のために治癒魔法をかけ続けていたそうだ。おかげで魔力が枯渇しかけて危なかったそうだが……。」
「「……。」」
「……あの二人は幼馴染なんだってな。君たちのように、今後もきっと支え合っていくんだろう。元々優勝への思い入れはなかったそうじゃないか。君たちが優勝できたことで尚更安堵したことだろう。
落ち着いたら、見舞いに行って元気な姿を見せてあげなさい。きっとそれが彼らの一番の薬だ。」
「……はい。」
学院長は微笑むと静かに二人から離れていった。
大ホールは各々談笑をはじめているが、優勝者の二人に話しかけようと多くの者が今か今かとタイミングを見計らっていた。
そんな様子に気付きながらもエオルとクーデンが近付いて彼らを群衆から少し離れたところに誘った。
「悪いな、心配だろうから報告だけ伝えにきた。」
疲れ切った様子でクーデンが話し出した。
「まずアレについてだが、競技場の安全が確認された。何らかの理由で消滅したか元に戻ったようだ。なぜ出現したかについても含めて、現在調査中だ。」
「消滅……? でもあの時は……」
「すまん、気になるところはあるだろうが急いで戻らなきゃならないんだ。後々報告が上がるだろうから。」
「……そうですね、すみません。」
「……怪我をした二人だが、学院長も言っていた通り命に別状はない。令息の方は競技場から運び出される前に目を覚ましてね。咄嗟に防御を張ったようだが攻撃魔法をもろに受けたせいで内臓が損傷している。ただ俺が駆けつけるまで令嬢がずっと治癒魔法をかけていたおかげで酷い状態からはすでに脱している。当分は絶対安静だが、まあ問題ないだろう。」
「……よかった。」
「先生、セリーナ、……ゴルドー伯爵令嬢は……! 私の魔法が……!」
「落ち着け、わかってるよ。……君には酷なことかもしれないが、いずれ知ることになるだろうからあえて伝えておこう。彼女の状態は正直酷かった。右腕全体が火傷と裂傷、電流の魔法も使っていたおかげで麻痺していて動かないようだった。それから防御魔法は張っていたようだが令息を庇って壁に激突した衝撃で至る所から出血したり打撲したりでね。極め付けに令息に治癒魔法をかけ続けたせいで魔力が枯渇して、俺が彼女に治癒魔法をかけているときに意識を失ってね。」
「……ううっ……セリーナ……」
「結果して命に別状はないし、医療官の見立てでは外傷は問題なく跡が残らないように治療できるそうだ。ただ、右腕はそういった外傷の他に攻撃魔法を防御なしに食らったせいでだいぶ酷いようでな、右腕だけは使えるようになるまでだいぶ時間がかかるみたいだ。意識もまだ戻っていない。」
「……。」
「まあ自分を責めたくなる気持ちはわかるが、彼女全く気にしてなかったぞ。君に謝られたりする方が恐縮するだろう、落ち着いたら普通に見舞ってやるといい。
それに今回は不測の事態だ。おかげで俺が契約者だと必要以上にバレたしね。」
「僕は薄々気付いていましたよ。」
「……殿下は規格外ですからね。気付かれていることに薄々気付いていましたよ。」
その言葉にエオルは可笑しそうに笑うが、ガルクス公爵令嬢の顔は晴れない。
そんな様子をジッと見つめたクーデンは少し眉間に皺を寄せると先程より低い声で話しかける。
「……そんなに心配なら今から見舞いに行きますか?」
「……え?」
「心配なんでしょう? ゴルドー伯爵令嬢のことが。貴女なら見舞いも許可されるでしょう、ファベルク伯爵令息の婚約者で彼女の従姉妹であるユグネル子爵令嬢や二人の家族ですら医務室への入室を断られていますが、貴女は頼めば入れるでしょう。そして二人の痛々しい姿を見て心を痛ませればいい。」
「そ、んな、私……そんなつもりは……」
「ちょ、先生……いくならんでも令嬢に……」
「誰も自分を責めないから苦しいんでしょう、ただ実際貴女は何も悪いことはしていないからね、気持ちは分からんでもないが、貴女を責める人は誰もいないでしょう。この事態が公表されたとしてもね。」




